事実婚で離婚(解消)するとき、財産分与や養育費はどうなる?

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「事実婚を解消したい。財産分与はできるのか」
「事実婚を解消するとき、養育費や慰謝料はもらえるのか」

夫婦のあり方が多様になった現在では、事実婚という選択肢をとる夫婦もいらっしゃると思います。

事実婚とは、当事者がみずからの意思で婚姻届を提出せず、社会生活上夫婦として共同生活をおくる関係を意味します。

事実婚を解消することになったとき、通常の離婚とどう違うのか、財産分与や養育費などは請求できるのか気になるという方はいらっしゃいませんか。

事実婚を解消したいと思った場合、通常の離婚のような法的な手続きは必要ありません。財産分与なども請求できるうえ、子どもが認知されている場合は養育費を請求することも可能です。

この記事では、事実婚の特徴・注意点や、事実婚を解消する場合に、財産分与や慰謝料、養育費の扱いはどうなるかといった点について解説します。

事実婚の特徴と注意点

事実婚といえるケース

事実婚と認められるためには、①婚姻の意思と、②夫婦としての共同生活の実体が必要です。

①婚姻の意思

婚姻の意思とは、社会通念に従って婚姻とみられる関係を形成する意思を意味します。

具体的には、夫婦としての共同生活が一定期間続いたり、結婚式を挙げていたりしていれば「婚姻の意思」が認められやすくなります。

また、住民票の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」に変更した場合や、勤務先に相手のことを「第3号被保険者」として届け出ている場合も、「婚姻の意思」が肯定されやすいです。

②夫婦としての共同生活

通常、同居が一定期間継続していると「夫婦としての共同生活」があると認められやすいです。

なお、事実婚に該当するかどうかは、様々な事情を総合考慮して判断されます。

「〇年同居していたから事実婚といえる」というように、画一的に決まるものではないのです。

ご自分が、事実婚(内縁)に該当するかどうか少しでも判断に迷う場合は、弁護士に相談してみましょう。

法律婚との大きな違いは相続権の有無

事実婚(内縁)と法律婚の大きな違いは、相続権の有無です。

事実婚の場合、配偶者が死亡した場合であっても、相続権は認められません。

一方、法律婚の場合、配偶者には法律上相続権が認められています。

事実婚の場合、配偶者の死亡時に遺産を取得できるようにしておくには、生前に公正証書遺言を作成しておくと安心です。

ただし、相続人の遺留分を侵害しないよう注意が必要です。

遺留分への配慮を欠くと、相続人から遺留分に相当する金銭の支払を求められるおそれがあります。

事実婚の夫婦に子どもがいる場合は?

事実婚の夫婦に子どもがいる場合、子どもは母の氏を名乗ることになり、母の戸籍に入ることになります。

また、父親が認知していない場合は、母親の単独親権となります。

なお、父親が子供を認知した場合も、原則として母親の単独親権のままですが、父母で協議を行うことで父親を親権者とすることが可能になります。これに加え、母親は子どもの養育費を父親に請求できるようになります。

事実婚を解消した場合、認知されていないと子の養育費を請求できない点に留意してください。

認知された子は、相続権を有するようになり、内縁の夫と離婚した妻との間に実子がいる場合も、実子と認知された子の相続分は同じです。

相手が認知に応じない場合は、家庭裁判所に認知調停を申し立てましょう。なお、調停が成立しない場合は、認知訴訟を提起することができます。

親権養育費の請求相続権の有無
父親が認知している原則母親だが、父親に変更可能
父親が認知していない母親××

事実婚の離婚率はどれくらい?

「事実婚の離婚(解消)率はどれくらいなのか」と考える方も多いと思います。

事実婚は法律婚とは違い、正確な届け出がないため正確な統計が得られているわけではありません。ただし、離婚(解消)するのに法的な手続きが必要ないという特性上、法律婚よりも離婚へのハードルは低いといえるでしょう。

なお、法律婚をしている夫婦においては、3組に1組が離婚をするといわれています。くわしくは『離婚率は3組に1組?離婚原因や年齢別の離婚割合について解説』をご覧ください。

事実婚の夫婦が離婚(解消)する流れと離婚条件

事実婚の離婚(解消)に法的な手続きは必要ない

事実婚の場合、もともと法律上の婚姻が成立していないため「離婚」とは言わず、「解消」と言います。

事実婚の解消は、一方が関係解消の意思表示をし、別居などによって事実婚関係が終了することによって成立します。

事実婚の場合、法律婚とは異なり、離婚届の提出は不要です。事実婚の解消に、法的な手続きは必要ないということをおさえておきましょう。

話し合いがまとまらない場合は内縁関係調整調停を利用

事実婚を解消したいと相手に切り出したものの、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に内縁関係調整(解消)調停を申し立てると良いでしょう。

相手方と長時間にわたって直接話し合う必要がないため、当事者同士の話し合いよりも精神的な負担は軽減されます。

また、第三者が間に入ることで、冷静に話し合えるメリットもあります。

内縁関係調整(解消)調停では、内縁関係の解消だけでなく、財産分与、年金分割の分割割合、慰謝料などについて話し合うことが可能です。

調停で合意できた場合は、合意内容が調停調書にまとめられます。調停調書があれば、相手方が約束したお金を支払わなかった場合に強制執行手続きを利用できます。

参考:裁判所|内縁関係調整調停

事実婚でも財産分与できる

事実婚を解消する場合も、財産分与の請求が可能です。

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を離婚時に公平に分配することをいいます。

財産分与の割合は原則として2分の1です。

財産分与についてくわしく知りたいという方は、『離婚時の財産分与がわかる!対象・手続き・割合を徹底解説』をご覧ください。

なお、財産分与の請求は、事実婚が相手方によって不当に解消されたといえない場合でも可能です。

事実婚が不当に解消されたとはいえない場合でも財産分与が認められた例

内縁の夫の事業を手伝っていた妻が、夫の女性関係に悩み、相談にのってくれていた他の男性と駆け落ちした事案で、内縁の妻から内縁の夫に対する財産分与請求を認めた例があります(岐阜家審昭57.9.14)。

ただし、この事案では、妻への財産分与の割合は4分の1とされました。

相手に原因があれば慰謝料を請求できる

相手が婚姻を破綻させるような原因を作り、それが理由で事実婚を解消することになった場合は、相手に離婚慰謝料を請求できます。

離婚慰謝料とは、離婚の原因を作った方が、もう一方の精神的苦痛を補償するために支払うお金です。

離婚の慰謝料は、全ての場合で支払われるものではありません。請求できるのは、以下のようなケースです。

離婚慰謝料を請求できるケース

  • 不貞行為(不倫・浮気)
  • 悪意の遺棄
  • DV(暴力、経済的DV)
  • モラハラ
  • 性の不一致

よりくわしく慰謝料請求について知りたい方は、『離婚の慰謝料がもらえるのはどんな時?相場はいくら?』をご覧ください。

子どもが認知されていれば養育費を請求できる

事実婚を解消するときでも、子どもが父親に認知されており、こちらが子どもを引き取るという場合には、父親である相手方に養育費を請求できます。

養育費とは、子どもの生活や教育などに必要な一切の費用のことをいいます。

また、子どもの健やかな成長のために、面会交流についても話し合いで取り決めておきましょう。

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離婚の養育費とは?人数別の相場や決め方を解説

離婚後の面会交流は拒否できる?決め方や制度を解説

年金分割も請求できる

事実婚を解消する場合も、一方の配偶者が他方の扶養に入っていたという届け出があった期間のみの分割であれば、年金分割が認められています。

年金分割は、離婚に際し、婚姻期間中に納付した厚生年金の保険料の納付記録を分割する制度です。

法律婚の夫婦では、配偶者が厚生年金や共済年金に加入していた場合、婚姻期間に応じて年金分割を請求することが可能です。

ただし、事実婚の場合は、いつから事実婚の関係にあったのか、婚姻期間を特定することが難しいです。そのため、一方の配偶者が第3号被保険者(主に専業主婦)であると届けられた期間についてのみ分割請求することができます。

よりくわしく年金分割について知りたいという方は、『離婚時の年金分割手続きとは?必要書類は?共働き・拒否した場合も解説』をご覧ください。

婚姻費用も請求できる

事実婚の場合も、相手に対して婚姻費用を請求できます。

婚姻費用とは、夫婦が、その資産、収入、社会的地位などに応じた生活をおくるために必要な費用のことです。

判例は、以下のケースで婚姻費用の請求を認めています(最二小判昭33.4.11)。

事実婚の関係で婚姻費用の請求を認めた判例

Aは、事実婚を選択してBと挙式し、B方でBの家族と同居していたものの、Bの母と折り合いが悪くなり体調を崩したため、実家に戻り医療機関を受診して静養していた。

その後、Bから事実婚を解消する旨の連絡があった。

この場合、Aは、Bに対し、別居中に支払った医療費を婚姻費用として請求できます。

ただし、事実婚の場合、基本的には同居を解消することは、事実婚の関係を解消することだと考えられます。そのため、法律婚の離婚のように、「別居してから離婚届を提出するまでの期間についての婚姻費用を請求する」といったことは、原則として難しいということに留意してください。

よりくわしく婚姻費用について知りたいという方は、『婚姻費用│別居中の生活費・相場は?離婚するまで分担請求できる?』をご覧ください。

事実婚の夫婦が離婚(解消)する時のポイント

事実婚解消に伴う取り決めは公正証書に残しておく

事実婚の解消に伴い、財産分与、慰謝料、養育費などお金に関する取り決めをした場合は、公正証書に残しておくことを強くおすすめします。

公正証書とは、公証役場にて公証人に依頼して作成してもらう公文書のことをいいます。

強制執行認諾文言付き公正証書を作成しておけば、将来不払いがあった場合に、ただちに強制執行(給与の差し押さえ)をすることができます。

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離婚の公正証書を徹底解説!作り方や内容、効力は?

一方的に事実婚を解消すると慰謝料を請求されるおそれも

正当な理由なく事実婚を一方的に解消した場合、相手方から慰謝料請求されるおそれがあります。

「正当な理由」について、判例は、法律婚の場合の法定離婚事由とほぼ同様に判断しています。法定離婚事由については、以下の5つが該当します。

法定離婚事由

  • 不貞行為
  • 悪意の遺棄
  • 3年以上の生死不明
  • 回復の見込みのない強度の精神病
  • その他婚姻を継続しがたい重大な事由

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たとえば、性格の不一致を理由に事実婚を解消すると、相手方から慰謝料請求されるおそれがあります。相手の合意を得ないまま事実婚を解消することにはリスクがありますので、弁護士に相談することをおすすめします。

事実婚の解消を検討している方は弁護士へ

事実婚を解消する場合、とくに法的な手続きは必要ありません。ただし、財産分与や養育費、慰謝料などについてはきちんと取り決めておくことが重要になります。

「事実婚を解消したい」と考えている方は、弁護士への相談をおすすめします。

弁護士であれば、財産分与や養育費などについて、法的な観点から的確なアドバイスをしてくれます。

また、弁護士は、内縁関係調整(解消)調停にも同席することが可能です。そのため、ご相談者様を法的にも精神的にもしっかりサポートしてくれます。

無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了