不倫 浮気の離婚慰謝料│相場は200万?不貞慰謝料とは違う?実例、条件は?
夫の不倫により離婚する場合は、離婚慰謝料の請求が可能です。
不倫・浮気で離婚する時に、夫に請求できる離婚慰謝料の相場は150〜200万円程度といわれています。
また、浮気相手にも、不貞慰謝料の請求が可能です。
配偶者の不倫によって負った心の傷はお金では癒せないかもしれません。ですが、気持ちに区切りをつけるためにも、離婚後の生活を支えるためにも、慰謝料請求は非常に重要です。
この記事では、以下のような内容について解説します。
- 不倫・浮気で慰謝料請求できるケースとできないケース
- 不倫・浮気の慰謝料の相場
- 離婚慰謝料の請求に必要な準備
現在、パートナーの不倫・浮気でお悩みの方、離婚を視野に入れて慰謝料請求をご検討中の方など、ぜひ最後までご覧ください。
目次
不倫・浮気の離婚慰謝料とは?
離婚慰謝料とは?請求できる離婚原因は?
離婚慰謝料とは、離婚自体や離婚の原因となった行為によって被った精神的苦痛を補うためのお金のことをいい、有責配偶者(離婚の原因を作った方)から、もう一方の配偶者に対して支払われます。
ただし、離婚をしただけで慰謝料をもらえるわけではなく、慰謝料請求の対象となるような離婚原因があることが必要です。
たとえば、不倫(不貞行為)やDV、悪意の遺棄と呼ばれるような行為(離婚原因)によって、婚姻関係(夫婦関係)を破綻させた場合は、慰謝料請求の対象となります。
配偶者の不倫が原因で離婚することになった場合は、配偶者が不倫をした事実とそれによって婚姻関係が破綻した事実が立証できれば、離婚慰謝料を請求することができます。
関連記事
離婚慰謝料を請求できる「不貞行為」とは?性交類似行為は?
一般的に不倫や浮気というと、このような行為が思い浮かぶのではないでしょうか。
- 配偶者以外の異性と交際する
- 2人きりで食事をする
- 親密なメッセージをやりとりする
- 手をつないだり、腕を組んで歩く
- ホテルや自宅に宿泊する
- キスやハグをする
- 性交渉をする
しかし、これらの行為すべてで慰謝料を請求できるわけではありません。
基本的に、慰謝料を請求できるのは不貞行為におよんだ場合のみです。
不貞行為は、不倫や浮気とイコールではありません。
不貞行為の具体例としては、たとえば、性交渉をしていた場合があげられます。
また、性交渉に準ずる「性交類似行為」と呼ばれる行為に関しても、慰謝料が認められることが多いです。性交類似行為とは、たとえば手淫、口淫、前戯、裸で抱き合うなどといった行為です。
慰謝料請求の対象となる浮気
- 性交渉
- 性交類似行為
例外的に慰謝料を請求できるケースは?
ただし、慰謝料請求できる不倫・浮気は、性交渉・性的類似行為(不貞行為)があるが原則とはいえ、例外もありえます。
性交渉や性交類似行為以外の行為でも、あまりに親密であったり、離婚を意図して婚姻関係に不当な干渉をするなどして離婚させたりするならば(最三小判決平31・2・19参照)、不倫・浮気の慰謝料請求が認められる可能性はゼロではありません。
実際に、裁判例では、肉体関係を結んだとは認められないものの、既婚者であると知りながら交際、結婚を懇願し、その結果、夫婦が別居し離婚に至った事案において、浮気相手に対する70万円の慰謝料請求が認められました(東京地判H17.11.15 東京地方裁判所平成16年(ワ)第26722号)。
不貞行為以外で慰謝料請求できることも?
不貞行為を証明できなかったとしても、不倫相手にお金をつぎこんで家族を困窮させたり、不倫相手の家に入り浸って帰ってこなくなったりする実態を証明できれば、悪意の遺棄(民法770条1項2号の離婚原因)が認定される可能性があります。
その場合、不貞行為ではなく、悪意の遺棄を理由として離婚慰謝料を請求できる可能性があります。
関連記事
離婚慰謝料と不貞慰謝料の違いは?
離婚せずに不倫・浮気の慰謝料を請求できる?
不倫に対する慰謝料は、離婚に至らなかったとしても請求することができます。
離婚しないで請求する場合は、離婚慰謝料とは呼ばずに、不貞慰謝料と呼びます。
ただし、離婚なしの不貞慰謝料と、離婚慰謝料の相場は違います。離婚しなかった場合の慰謝料の金額は、離婚した場合の慰謝料に比べて、少なくなることがほとんどです。
請求 | 金額の傾向 | |
---|---|---|
不貞慰謝料 | 離婚しなくても請求できる 不貞行為に対する慰謝料 | 少ない |
離婚慰謝料 | 離婚した場合に請求する 離婚による苦痛に対する慰謝料 | 多い |
離婚慰謝料と不貞慰謝料は両方請求できる?
配偶者の不倫・浮気によって離婚した場合、要件を満たせば、配偶者に対して不貞慰謝料と離婚慰謝料のいずれも請求できますが、通常は、離婚慰謝料を請求することになるでしょうか。
離婚慰謝料は、離婚自体慰謝料と離婚原因慰謝料の2種類の内容を含みます。
離婚慰謝料の内容
- 離婚自体慰謝料
配偶者の地位を失ったことによる精神的苦痛に対する損害賠償金 - 離婚原因慰謝料
離婚の原因となった行為による精神的苦痛に対する損害賠償金
離婚原因が不貞行為の場合、不貞慰謝料と同義になる
離婚自体慰謝料とは、配偶者の地位の喪失による精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。
離婚原因慰謝料とは、離婚の原因となった行為による精神的苦痛(不貞行為、悪意の遺棄、DV、モラハラなど)に対する損害賠償金のことです。
不倫・浮気による離婚の場合、離婚慰謝料を請求すれば、必然的に不貞慰謝料も請求していることになります。
離婚慰謝料と不貞慰謝料のどちらを請求?
慰謝料請求において重要なことは、どのような法律上の権利・利益が、いかなる態様で侵害されたかということです。
離婚の原因が不貞行為のみの場合と、不貞行為のほかにもある場合(DV、モラハラ、借金など)とを比べれば、後者のほうが法益侵害の態様が悪質といえ、慰謝料金額が高額になる傾向があるでしょう。
そのため、離婚するカップルについては、不貞行為以外の離婚に関する事情も考慮してもらえる「離婚慰謝料」を請求するほうが適しているといえます。
一方、離婚せずに慰謝料請求したい場合は、不貞慰謝料を請求することになるでしょう。
また、離婚後に婚姻期間中の不倫・浮気が発覚して慰謝料請求したい場合なども、時効の問題などはありますが、「不貞慰謝料」を請求することになります。
浮気の離婚慰謝料・不貞慰謝料の相場は?金額の決め方は?
不倫・不貞慰謝料の相場は150~200万円
配偶者の不倫が原因で離婚をすることになった場合の慰謝料の相場(離婚慰謝料の相場)は150〜200万円程度といわれています。
離婚の際に請求する婚姻費用や養育費は、算定表を用いて計算するのが一般的ですが、不倫の慰謝料には、明確な計算基準がありません。
ですので、それぞれの夫婦の状況にあわせて個別に判断していくことになります。
なお、離婚しないで不倫の慰謝料のみを請求した場合、その慰謝料相場は50~100万円程度といわれています。
離婚 | 相場 | |
---|---|---|
離婚慰謝料 | あり | 150~200万円 |
不貞慰謝料 | なし | 50~100万円 |
不倫・不貞慰謝料の決め方は?
不倫・不貞の慰謝料の決め方として、まず最初におこなう手段としては、当事者間での話し合いになります。
離婚をする場合には、慰謝料のほかにも、財産分与など離婚に関するあらゆる事項について、まずは夫婦で話し合って決めることを目指します。
なお、直接話し合いができない場合は、内容証明郵便を利用して、離婚の申し入れや慰謝料請求をおこなう方法も考えられます。
また、話し合いがまとまらなかった場合は離婚調停や離婚裁判へ進み、裁判所の調停委員や裁判官の介入を受けることになります。
離婚の方法については、『あなたに最適な離婚の仕方は?|スムーズな離婚を実現するために』で詳しく説明しているので、あわせてご覧ください。
不倫・不貞慰謝料金額を決める要素は?高額になるケースは?
不倫の慰謝料に明確な計算基準はありませんが、金額を決定する際に考慮すべき主な事項は、判例で示されています。
不倫・不貞慰謝料金額の要素については、大きく分けて以下の3つに分類できます。
不倫・不貞慰謝料金額の要素
- 慰謝料を請求する側の事情
- 慰謝料を払う側の事情
- その他の事情・慰謝料金額が高くなる事情
etc.
1.慰謝料を請求する側の事情
慰謝料を請求する側、つまり不倫をされた側の事情で慰謝料の額に関わってくるのは以下のような事項です。
- どの程度の精神的苦痛を受けたか
- 離婚後どのような経済状態になるか
2.慰謝料を払う側の事情
慰謝料を払う側の事情で慰謝料の額に影響するのは以下のような事項です。
- どのくらいの支払い能力を持っているか
- どのような方法で不倫をしたか
- 不倫にどの程度責任があるか(有責性)
- 不倫がどの程度の期間・回数行われていたか
- 反省や謝罪があるか
- 社会的制裁を受けているか
- 求償権の放棄の有無
3.その他の事情・慰謝料金額が高額になる事情
夫婦それぞれの事情のほかにも、以下のような要素が慰謝料の額に影響を与えます。
- どの程度の期間婚姻しているか
- どの程度の期間別居しているか
- 夫婦に子どもがいるか
- 不倫相手との間に子どもがいるか
これらの中で、特に慰謝料の金額が高くなるのは以下のような場合です。
慰謝料が高額になる事由(一例)
- 婚姻期間が長い場合
- 夫婦に未成年の子どもがいる場合
- 不倫の方法が悪質な場合
- 不倫の期間が長く、回数が多い場合
- 不倫が発覚するまでは円満だった婚姻関係が、不倫が原因で破綻してしまった場合
- 不倫相手が妊娠・出産していた場合
- 配偶者に反省や謝罪がない場合
これらの事情が存在することをうまく証明できれば、慰謝料の増額が見込めます。
しかし、たとえ強い精神的苦痛を受けていたとしても、配偶者に支払い能力がなければ、適正な額の慰謝料が認められなかったり、分割払いにされてしまうことも多いのです。
不貞慰謝料300万円の裁判例を紹介!
慰謝料金額については、個別の事案の事情に左右されます。
相場どおりの慰謝料金額になることもあれば、なかには、不倫相手に慰謝料300万円の支払いが認められた事例もあります(東京地判R2.11.25 東京地方裁判所令和2年(ワ)第1232号)。
この裁判では、夫の不貞行為の発覚まで約11年間平穏な家庭生活が営まれていたこと、夫の不貞行為がきっかけで、妻が食欲不振や睡眠障害など心身の不調により通院をするようなったこと、夫婦の間には未成熟な小学生の娘が2人いること、不倫相手が夫の子を妊娠し、離婚を前提に夫と不倫相手が同居し始めたこと等の事情が考慮され、高額の慰謝料金額となりました。
不貞慰謝料・離婚慰謝料の裁判例(66万~200万円)の裁判例を紹介!
実際の裁判において、慰謝料請求が認められた金額について、一覧表にしました。
これに尽きるわけではありませんが、一例としてご確認ください。
事案 | 離婚 | 金額 | |
---|---|---|---|
① | ・JKリフレの店員と複数回性交渉を持った | ✕ | 66万円 |
② | ・浮気した配偶者は精神不安定 ・不貞関係は約1年。その後関係解消 | ✕ | 110万円 |
③ | ・不貞関係は約3か月 ・不貞発覚後に別居 ・未成年の子供がいる | ✕ | 100万円 |
④ | ・不貞行為の発覚後も関係を継続 ・浮気相手と同棲するに至る ・不貞前から婚姻関係は悪化 | ✕ | 200万円 |
⑤ | ・婚姻期間は19年 ・同じ相手と再度不倫 ・浮気相手が離婚を促すメッセージを送信 | ✕ | 200万円 |
⑥ | ・不倫が原因で離婚 | 〇 | 200万円 |
①東京地判令5・7・12/②東京地判令5・6・28/
③東京地判令5・6・13/④東京地判令5・5・25/
⑤東京地判令5・3・30/⑥東京地判令4・3・17
性的サービスをおこなう店舗の店員が不貞行為の相手である場合は、慰謝料金額が低い傾向があります。
不貞行為によって、夫婦関係が完全に破綻した、離婚に至ったという事案は、200万円という比較的高額の慰謝料が認められています。
個別の事案に応じて、慰謝料金額が違います。
ご自身のケースでは、慰謝料の相場感も参考にしつつ、希望の慰謝料金額で請求をだすことになります。
不倫・浮気で慰謝料請求ができないケースは?
不貞行為(性交渉・性交類似行為)のない交際関係は、慰謝料請求の対象ではありません。
また、配偶者が自分以外の第三者と性交渉をもっていても、慰謝料を請求できない可能性のあるケースもいくつかあります。
具体的には、以下のようなケースです。
慰謝料請求できない不倫(一例)
- 不倫の時点ですでに婚姻関係が破綻していた場合
- 強姦されて性交渉をもった場合
- 配偶者の不倫を宥恕していた場合
- 一度風俗店に行っただけの場合
そのほか、不倫の証拠が揃っていない場合や時効が過ぎている場合は、慰謝料請求が難しくなります。
不倫の時点ですでに婚姻関係が破綻していた場合
不倫が行われた時点で既に婚姻関係が破綻していた場合は、特段の事情のない限り慰謝料の請求が認められません。
不貞慰謝料・離婚慰謝料の請求するには、法的利益の侵害(不貞行為によって、夫婦共同生活の平和の維持という法的利益を侵害したこと)という要件を満たす必要があります。
不貞行為の時点で平穏な夫婦生活をおくることができておらず、すでに夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料請求の「法的利益の侵害」という要件が満たされず、慰謝料請求が認められません。
具体例
たとえば、婚姻関係が冷めきって別居を始めた後に、配偶者に交際相手ができ、肉体関係をもった場合があげられます。
この場合ですと、不倫によって婚姻関係を破綻させたわけではないため、慰謝料請求が難しいケースです。
強姦されて性交渉をもった場合
不倫を理由に慰謝料を請求できる条件として、配偶者に「故意・過失」があったことが必要とされています。
たとえば、不倫だと分かっていながら自分の意思で性交渉を行った場合には、「故意」が認められます。また、少し考えれば既婚者であることが分かるのにあえて性的関係をもったような場合には、「過失」が認められます。
強姦などによって性交渉を強いられた場合は、配偶者に故意・過失の要件が認められないため、不貞慰謝料・離婚慰謝料の請求ができません。
配偶者の不倫を宥恕していた場合
宥恕(ゆうじょ)とは、相手を許すことです。配偶者が不倫をしたという事実を知っていながら、それを許して婚姻生活を続けることを選んだ場合は、慰謝料の請求が難しくなる傾向があります。
もっとも、「もう不倫はしない」と約束した上で宥恕をしたのに、再度不倫をされた場合には、慰謝料を請求することは可能です。
一度風俗店に行っただけの場合
配偶者が風俗店にて性交渉をもったとしても、慰謝料を請求できる場合とできない場合があります。
一度しか風俗に行っていない場合など、慰謝料請求が難しいのは、以下のようなケースです。
慰謝料請求が難しいケース
- 一度しか風俗店に行っていない場合
- 性交渉のない風俗店(ピンサロなど)にしか行っていない場合
一方、継続的に風俗通いをしている場合など、以下のようなケースでは慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料請求の可能性があるケース
- 継続的に風俗通いをしている場合
- 風俗通いをやめるように何度も言われているのにやめない場合
- 店外で風俗嬢と性交渉をした場合
不倫・浮気の証拠がない場合
相手方配偶者の浮気が離婚の原因をつくったことが明らかでも、それを裏付ける証拠がなければ、慰謝料請求は難しくなります。
不倫・浮気の証拠(一例)
- 性交渉を直接的に示す写真や動画、音声など
- 2人がラブホテルに出入りしている写真
- ラブホテルの領収書、レシート
- クレジットカードの利用明細
- 本人や不倫相手が不倫を自白している書面や音声、動画
証拠集めの方法や有効な証拠については、『離婚で浮気を立証するのに有効な証拠とは?集め方と種類を解説』で詳しく解説しています。
時効が成立している場合
配偶者に対する慰謝料請求権は、離婚後3年経つと時効で消滅します(民法724条1号)。
3年が経過してしまった後では、不倫・浮気の慰謝料を請求することができません。
ただし、慰謝料請求の時効は、3年が経過する前に対処すれば延ばせる可能性があります。
不貞慰謝料請求の時効については、この記事の中でさらに詳しく解説します。
離婚協議書に清算条項が入っている場合
離婚協議書とは、夫婦が協議離婚をする際に任意で作成する、取り決めの内容を記した書面です。慰謝料や養育費をどうするか、親権をどちらが持つかなどを記載します。
離婚協議書に、清算条項を盛り込むことがよくあります。清算条項とは、「この協議書に書いてあること以外に金銭の請求はしません」といった旨の宣言です。
この清算条項があった場合は、後から不倫が発覚しても慰謝料を請求することが非常に難しくなります。
とはいえ、慰謝料請求の道を残したいからといってむやみに清算条項を省くと、かえって自分が金銭を請求されてしまう可能性もあります。そういったトラブルの蒸し返しを防ぐためにも、清算条項を設けておくのが一般的です。
清算条項付きの離婚協議書を作成する際は、不倫の事実がなかったかを慎重に確認しておきましょう。
関連記事
不倫相手にも慰謝料を請求できる?
不貞慰謝料を請求する相手は配偶者?不倫相手?
浮気・不貞の慰謝料請求ができる相手は、配偶者および不倫相手です。
不倫は、有責配偶者と不倫相手とが共同で行う行為であるため、それによって生じる損害は、配偶者と不倫相手が連帯して賠償する責任を負います。
したがって、不倫をされた側の配偶者は、配偶者と不倫相手どちらにも不貞慰謝料を請求できるのです。
離婚慰謝料を請求できる相手は配偶者だけ
離婚慰謝料を請求できる相手は、基本的には、配偶者のみです。
婚姻関係を破綻させて離婚に至らしめたことに対する賠償金なので、浮気相手には、基本的には離婚慰謝料は請求できません。
- 不貞慰謝料
不貞行為におよんだ配偶者、および浮気相手に請求できる。 - 離婚慰謝料
離婚の原因をつくった配偶者に請求する。
不貞行為による離婚の場合、基本的には、浮気をした配偶者に請求することになる。
不倫相手に慰謝料請求できないケースは?
不貞慰謝料が時効にかかっていない場合でも、以下の3つのケースでは、不倫相手への慰謝料請求が認められません。
不倫相手に請求できない場合
- 配偶者から慰謝料をすでに受け取っている場合(二重取り)
- 不倫の前から既に婚姻関係が破綻している場合
- 既婚者であることを知らなかった場合
1.二重取りになる場合
配偶者と不倫相手の両方に同時に慰謝料請求することは可能ですが、場合によっては二重取りとされ、認められないため注意が必要です。
例えば、不貞の慰謝料を100万円と算定した場合、配偶者と不倫相手どちらにも100万円ずつ請求することはできません。
100万円のうちのいくらか、または全てを不倫相手に請求し、配偶者と不倫相手とで合わせて100万円を賠償してもらうことができます。
慰謝料金額が100万円の場合
✕ 配偶者に100万円、不倫相手に100万円請求
〇 配偶者に50万円、不倫相手に50万円請求
〇 配偶者に100万円請求・不倫相手には請求なし
〇 不倫相手に100万円請求・配偶者には請求なし
2.既に婚姻関係が破綻していた場合
不倫に対する慰謝料は、不倫によって婚姻関係が壊れたことによる精神的な苦痛という損害を償うためのものです。
したがって、既に婚姻関係が破綻している状態で行われた不倫は、夫婦関係がこれ以上悪化することはないと考えられているため、精神的な苦痛という損害が認められず、配偶者にも不倫相手にも慰謝料を請求することができません。
婚姻関係の破綻
〇 浮気・不貞が原因で、夫婦関係が悪くなった
✕ 浮気・不貞の前から、婚姻関係が破綻していた
3.既婚者であることを不倫相手が知らなかった場合
既婚者であることを隠して行っていた不倫の場合は、不倫相手に落ち度がないため、不倫相手に対する慰謝料請求は認められません。
ただし例外として、相手が既婚者であることを知らなかったことにつき過失がある場合には、不倫相手への慰謝料請求が認められます。
知らなかったことにつき過失があるというのは、交際相手が既婚者かどうかを知ろうと思えば知ることができる状況だったのに、不注意により気づかなかったなどといった状況のことをいいます。
たとえば、夫が浮気相手に対して「独身である」と説明していた場合でも、夫婦が生活する家で不貞行為におよんだのであれば、妻の所持品が多数置いてあることから妻の存在に気づくはずなので、過失の要件が充足され、慰謝料請求できる可能性があります(東京地判R4.6.1 東京地方裁判所令和3年(ワ)第12946号)。
不倫相手の故意・過失
✕ 旦那が独身であると嘘をつき、不倫相手も気づいていなかった
〇 旦那が独身であると嘘をついたが、結婚指輪や言動から既婚者であると分かっていた
〇 既婚者であると知りながら不貞行為におよんだ
不倫・浮気の慰謝料を確実に受け取るための交渉テクニック
不倫・浮気の慰謝料請求の証拠を用意する
不倫慰謝料を確実に受け取るための交渉テクニックとしては、まず第一に「不倫・浮気の証拠を用意する」というものです。
不倫・浮気の証拠を用意できれば、請求の相手方は不倫・浮気について、言い逃れができない状況になります。
証拠を用意しておけば、「裁判を起こせば、こちらが勝てる」状況であるということを相手に意識させることができ、相手が慰謝料請求に応じてくれる可能性が高められるものです。
たとえ当事者間の協議がうまくいかず、相手方から慰謝料請求を拒まれたとしても、証拠を用意した上で調停手続きをとれば、調停委員を味方につけることができるでしょう。
慰謝料金額や離婚について、当事者間の協議や調停で合意できない場合は、裁判も視野に入ります。不倫の慰謝料を争う裁判では、不倫の事実を証明する証拠は必須になります。
不倫の証拠集めのポイント
- 写真や映像は、2人の顔や場所、時刻がはっきり分かるように
- 別居を始める前に証拠を確保する
- 違法な手段を使わない
- 不安な時は弁護士や探偵に相談
早い段階から、不倫の事実を証明する証拠をそろえておくことは、慰謝料請求を有利にする可能性を高めるために、非常に重要です。
関連記事
・離婚で浮気を立証するのに有効な証拠とは?集め方と種類を解説
・浮気の証拠でLINE(ライン)のトーク履歴や画像は使える?証拠として使うときの注意点は?
慰謝料相場を参考にして請求する
不倫慰謝料の交渉テクニックのひとつとして、「慰謝料相場を参考にして請求する」ということもあげられます。
不倫の慰謝料を請求する際は、あまりに高い金額を提示すると、相手が慰謝料の支払いだけでなく、離婚自体に応じてくれない可能性が高まります。
たしかに、駆け引きのために初めに高い金額を提示するのは悪いことではありません。しかし、最終的に「ここまでなら妥協できる」という金額について、相場を意識して落としどころを決めておくことも、確実に慰謝料を受け取るためには大切です。
また、話し合いが決裂して裁判で決着をつけようとする場合にも、相場からかけ離れた額の慰謝料を請求しても裁判官が認めない可能性が高いものです。また、裁判官に与える印象の問題もあるため、訴訟戦略として、相場は常に意識すべきでしょう。
高額の慰謝料を認めさせようとして裁判に持ち込んでも、実際に認められた金額は、当事者の協議で合意できていたであろう額より少なかったということもあり得ます。
裁判所の判断の傾向や、弁護士の肌感覚から、事件の見通しをお伝えしていきます。
不倫以外の慰謝料も請求する
離婚にともない慰謝料請求をする場合、不倫のほかにも「離婚慰謝料を請求できる行為」があったときは、あわせて請求することで慰謝料を増額することができます。
離婚慰謝料を請求できる配偶者の行為には、不貞行為のほかに、DVやモラハラ、悪意の遺棄などが含まれます。
関連記事
・モラハラで離婚の慰謝料は請求できる?請求できる条件や相場の解説
相手の財産を把握しておく
相手に支払い能力がない場合、慰謝料は減額せざるを得ないことも多いです。
ですが、相手方が慰謝料の減額を狙って、本当は所有している財産について「持っていない」と答えるケースもあるものです。
ですので、あらかじめ慰謝料請求の相手方が、どこに、どのような財産を有しているか把握しておき、証拠を確保しておくことが望ましいでしょう。
財産を把握しておくことは、慰謝料請求の場面のみならず、財産分与で損をしないためにも非常に重要ですので、調べておいて損はありません。
不貞・浮気の慰謝料請求の時効は?離婚後でも間に合う?
不倫・不貞の慰謝料の請求期限(時効)
離婚や不倫に対する慰謝料請求には、時効があります。
離婚慰謝料の時効
- 離婚した日から3年
不貞慰謝料の時効
- 不倫の事実と不倫相手を知った時から3年
- 不倫したときから20年
まず、離婚慰謝料の時効は、「離婚した日から3年」です。
また、不倫・不貞の慰謝料については「不倫の事実と不倫相手を知った時から3年」が時効です。不倫・不貞の事実に気が付かなかったり、不倫相手を特定できなかったような場合であっても「不倫から20年」が経つと慰謝料は請求できなくなります。
ケース①
夫が、会社の同僚の甲野竹子と不倫。
不倫は2024年1月1日~同年5月1日まで続いた。
2024年6月1日、夫の上記不倫が発覚。
2024年8月1日、夫の不倫が原因で離婚。
ケース①の場合、不貞慰謝料よりも離婚慰謝料のほうが時効にかかる時期が遅いので、後者を請求します。
その場合、2027年8月1日を経過した時点で、夫に対する慰謝料請求権は時効にかかり、離婚慰謝料の請求ができなくなります。
ケース②
夫が、会社の同僚の甲野竹子と不倫。
不倫は2024年1月1日~同年5月1日まで続いた。
2024年8月1日、性格の不一致で離婚。
2024年9月1日、夫の婚姻期間中の上記不倫が発覚。
ケース②の場合、不倫は離婚の原因ではないので、離婚慰謝料は請求できません。しかし、離婚後でも不貞慰謝料の請求はできるので、その請求をします。
その場合、2027年9月1日を経過した時点で、慰謝料請求権は時効にかかり、不貞慰謝料の請求ができなくなります。
時効が来ても慰謝料を払ってもらえるケースとは?
なお、これらの期間が経過したとしても、相手が時効を援用しなければ時効は完成せず、慰謝料を請求することができます。
時効の援用とは、「時効が来たので支払いません」と宣言をすることです。
関連記事
・離婚慰謝料の時効は3年?更新できる?浮気の慰謝料の時効も解説!
離婚後に不倫発覚…慰謝料請求はできる?
離婚した後で不倫に気づいたとしても、不倫から20年、または不倫の事実と不倫相手を知った時から3年が経過していなければ、慰謝料を請求することができます。
しかし、この期間が経過する直前に不倫に気づき、慰謝料請求の準備をしている間に時効が完成したら、慰謝料を請求する権利は失われてしまうのでしょうか?
実は、そういったことを防ぐために、時効の更新という制度があります。
時効が完成するより前に調停や裁判を申し立てると、一旦時効の進行がストップします。そして、調停成立または確定判決によって慰謝料が認められた場合は、時効がリセットされて、その時から新たに10年間の時効の進行が始まります。
訴えを取り下げたり裁判所に却下された場合でも、その日から6か月間は時効完成が猶予されます。
まとめ
不倫・浮気による離婚、慰謝料のお悩みは弁護士に無料相談!
いかがでしたでしょうか。
今回は、不貞慰謝料、離婚慰謝料の相場、裁判例で認められた慰謝料金額、慰謝料請求の条件などについて、解説をしてきました。
不倫・浮気が原因で離婚する場合の離婚慰謝料の相場は、約150万円~200万円程度といわれています。
慰謝料相場が高額になるケースは、婚姻期間が長期、未成年の子供がいる、不倫の悪質性が高い、不倫相手の妊娠・出産、反省や謝罪がない、不倫によって婚姻関係が破綻したなどの事情がある場合です。
離婚をしなくても不貞慰謝料の請求はできますが、離婚をする場合は、不貞行為に加えて他の離婚原因も加味してもらい、最大限慰謝料を請求するために、離婚慰謝料として請求するほうがよいでしょう。
ただし、不貞慰謝料、離婚慰謝料ともに請求できる条件(請求相手、請求期限、慰謝料相場など)について、留意点があります。
また、不貞慰謝料・離婚慰謝料の請求のほかにも、財産分与などきちんと話し合うべきことが沢山あります。
ご自身で配偶者や不倫相手に慰謝料請求をおこなうのは大変おつらいことだと思います。そのような場合には、離婚をあつかう弁護士の無料相談などを利用なさってみてください。
弁護士はあなたの味方です。不貞慰謝料・離婚の問題解決に向けて、真摯に対応してくれる弁護士にまずは相談してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
こちらはあくまで相場になります。個別のケースでは異なる可能性がございます。
離婚をあつかう弁護士の無料相談などをご活用いただくなどして、慰謝料請求のイメージを掴んでみてください。