別居中に不貞行為!離婚前提の別居でも不貞慰謝料を請求できる?

「離婚を前提とした別居中に夫が不倫した。慰謝料請求は認められる?」
別居中とはいえ、夫が浮気や不倫をした場合は、「許せない」と感じる方が多いと思います。不貞慰謝料を請求したいと考えている方もいるでしょう。
しかし、別居中の不貞行為では、慰謝料の請求が認められない可能性があります。
この記事では、別居中の不貞で慰謝料請求ができるケースとできないケース、別居中の不貞で慰謝料を請求するときの注意点などについて、実際の裁判例も交えて解説します。
目次
不貞慰謝料とは?請求できる条件は?
不貞慰謝料とは?
不貞慰謝料とは、配偶者の不貞行為によって受けた精神的苦痛に対して請求できるお金のことです。
不貞行為は夫婦の信頼を裏切る行為とされ、離婚に至らなくても慰謝料を請求できます。また、不貞相手が配偶者のいることを知った上で不貞行為をしていた場合には、その相手にも不貞慰謝料を請求できます。
肉体関係がないと不貞慰謝料は認められない
法律上、不貞慰謝料の対象となる不貞行為とは、配偶者以外と肉体関係を持つことをいいます。
そのため、2人で食事に行ったり、キスや手をつないだだけの関係では基本的に不貞慰謝料が認められません。ただし、以前の不倫相手と密会していたといったケースでは、慰謝料請求が認められることもあります。
なお、性交渉に準ずる「性交類似行為」と呼ばれる行為に関しても、慰謝料が認められることが多いです。性交類似行為とは、たとえば手淫、口淫、前戯、裸で抱き合うなどといった行為を指します。
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不倫時点で婚姻関係が破綻していた場合は慰謝料請求できない
不貞慰謝料は、不貞行為によって夫婦関係の平穏が壊されたことの精神的苦痛に対して支払われるものです。そのため、不倫が行われた時点で既に婚姻関係が破綻していた場合は償うべき損害がなく、特段の事情のない限り慰謝料の請求が認められません。
不貞慰謝料・離婚慰謝料の請求をするには、法的利益の侵害(不貞行為によって、夫婦共同生活の平和の維持という法的利益を侵害したこと)という要件を満たす必要があります。
不貞行為の時点で平穏な夫婦生活をおくることができておらず、すでに夫婦関係が破綻していた場合は、慰謝料請求の「法的利益の侵害」という要件が満たされず、慰謝料請求が認められません。
ここで問題となるのが、「夫婦が別居している場合、婚姻関係が破綻しているといえるのか」という点です。次章では、別居中の不貞行為で慰謝料請求が認められにくいケースと認められやすいケースについて解説します。
別居中の不貞で慰謝料請求が認められにくいケース
以下のようなケースでは、「すでに婚姻関係が破綻していた」と判断されやすく、別居中の不貞で慰謝料請求は難しいといえます。
別居中の不貞で慰謝料請求が認められにくいケース
- 離婚を前提とした別居中の不貞
- およそ3〜5年と長期間にわたる別居中の不貞
- 離婚協議や離婚調停、離婚裁判中で別居中の不貞
離婚を前提とした別居中の不貞
お互いが離婚をすることに合意したうえで別居しているという場合は、慰謝料請求が認められにくいです。
離婚に向けた具体的な活動として別居を選択しており、婚姻を継続する意思がないとみなされるでしょう。
なかには、自分としては別居について「単なる冷却期間」という認識を持っていたとしても、相手から「離婚を前提としていた別居だったため、夫婦関係はすでに破綻していた」と主張され、慰謝料請求を拒否されるケースがあります。
別居中の不貞で慰謝料請求をしたい場合は、別居するときに誓約書を書いておくか、別居したときの状況がわかるLINEのやり取りや日記などの証拠を残しておきましょう。別居の合意書については『別居合意書・婚姻費用の合意書テンプレート│解説付』をご覧ください。
およそ3〜5年と長期間にわたる別居中の不貞
当初は離婚を前提とした別居ではなかったとしても、別居期間が長期間にわたる場合があります。このとき配偶者が不貞行為をおこなった場合も、慰謝料請求が認められる可能性は低いです。
「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる別居期間は、夫婦の有責性(婚姻関係を破綻させた責任)が同程度の場合、一般的に3〜5年といわれています。
もちろん3年以上経てば婚姻関係の破綻がすぐ認められるということではありません。同居期間と対比した場合の別居期間の長さ、別居後の婚姻費用の分担状況などを総合的に考慮して、婚姻関係が破綻しているかどうかが判断されます。
4年間の別居で不貞慰謝料が否定された事例
4年間にわたり完全な別居状態が継続していたことから、不倫相手と肉体関係を持った時点で婚姻関係が破綻していたと認め、慰謝料請求を否定した。
(東京地裁平成28年10月28日判決)
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離婚協議や離婚調停、離婚裁判中で別居中の不貞
別居中、夫婦双方が離婚に合意しており、離婚協議や離婚調停、離婚裁判を進めているときは、婚姻関係が破綻しているとみなされる可能性が高いです。このとき不貞行為をおこなった場合は、慰謝料請求が認められる可能性は低いでしょう。
ただし、夫婦の一方が離婚に合意しておらず、婚姻関係の継続を求めているという場合は、協議や調停中の別居であったとしても、婚姻関係が破綻しているとはみなされないことがあります。このとき配偶者が不貞行為に及んだ場合は、慰謝料請求が認められる可能性があります。
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別居中の不貞で慰謝料請求が認められやすいケース
別居中の不貞で慰謝料請求が認められやすいのは、婚姻関係が破綻していたとはみなされにくい、以下のようなケースになります。
別居中の不貞で慰謝料請求が認められやすいケース
- 単身赴任や出張など離婚を前提としない別居中の不貞
- 夫婦関係を修復するための別居中の不貞
- 夫婦どちらかが一方的に出ていった場合の不貞
- 不貞行為が別居後まもないときにおこなわれた不貞
- 離婚前提の別居でも、家族同然の交流があったときの不貞
単身赴任や出張など離婚を前提としない別居中の不貞
単身赴任や出張、里帰り出産、別居婚など、離婚を前提としない別居の最中に配偶者が不貞行為をおこなった場合は、慰謝料請求が認められやすいでしょう。
別居について、合理的な理由があったり、一時的なものであったりする場合は、婚姻関係が破綻しているとまではいえません。
ただし、別居している途中に夫婦仲が悪くなってしまい、結果として離婚を前提とした別居となった場合は、単身赴任の期間を別居の期間として含めるかが重要になってきます。というのも、先述の通り、「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められる別居期間が3~5年となっているためです。
そのため、離婚を前提とした別居がいつから始まったかわかるような、メールやLINEのやりとりといった証拠が重要になるでしょう。
夫婦関係を修復するための別居中の不貞
お互いが夫婦関係を修復するための冷却期間という認識で別居していた時に配偶者が不貞行為をおこなった場合も、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
一時的に別居するという場合は、婚姻関係が破綻しているとはみなされにくいです。
夫婦どちらかが一方的に出ていった場合の不貞
民法において、夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならないと定められています(民法752条)。そして、正当な理由がないのに一方的に別居することは、同居義務違反にあたるおそれがあります。
夫か妻、どちらかが合意を得ることなく一方的に別居を始める場合があります。このときに配偶者が不貞行為をおこなった場合も、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
一方が離婚を考えて強引に別居を始めたとしても、もう一方は離婚を考えていないというケースがあります。この場合は、一方が離婚に合意していないため、婚姻関係が破綻しているとはみなされない可能性が高いです。
また、「夫からのDVやモラハラから逃れるため」「親の介護のため」といった正当な理由があれば、同居義務違反とはみなされません。
不貞行為が別居後まもないときにおこなわれた不貞
別居後すぐに配偶者が不貞行為をおこなったという場合も、慰謝料を請求できる可能性があります。
別居期間の長さは、婚姻関係が破綻しているかどうかを判断する重要な基準となっています。別居してから何年も経っていないうちに不貞をおこなった場合は、まだ婚姻関係が継続しているうちの不貞行為となるため、慰謝料を請求できる場合があります。
別居開始から3か月の不貞行為で慰謝料請求が認められた事例
夫が不貞行為をおこなった当時、夫婦は約3か月間の別居状態にあったが、別居後も夫婦は毎日のように連絡を取り合い、子らを交えた外食や誕生日の祝いなどの交流を継続していた。また、妻は一貫して関係修復を求めていたため、婚姻関係の破綻が認められないとして、慰謝料請求が認められた。
(東京地裁平成28年1月19日判決)
離婚前提の別居でも、家族同然の交流があったときの不貞
離婚を前提とした別居であっても、一緒に食事をする機会が多かったり、相手の家で家事をする機会があったりするなど、家族同然の交流がある場合があります。このとき、配偶者が不貞行為をおこなった場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
相手が「離婚を前提にした別居だ」と主張したとしても、家族としての交流を示すようなメールやLINEのやりとり、写真などの証拠があれば、不貞行為として慰謝料を請求できる場合があります。
別居中も生活費の支払いがあったことから慰謝料請求が認められた事例
不貞行為の当時、夫婦は2年半以上にわたり別居状態にあったものの、夫から妻に対して生活費の給付は継続して行われており、いずれの当事者も離婚手続きを取っていなかったため、婚姻関係の破綻が認められないとして、慰謝料請求が認められた。
(東京地裁平成27年2月3日判決)
別居中の不貞の証拠集めは難しい
別居中の不貞で慰謝料を請求するときは証拠が重要になってきます。
しかし、同居していれば簡単に集められるような証拠であっても、別居中の場合は相手のスケジュール把握などが難しくなることから、証拠を集めることが困難になるケースもあります。
別居中の不貞で有効な証拠
別居中の不貞で慰謝料を請求するのに有効な証拠には、以下のようなものがあります。
不貞行為に関する証拠
- メールやLINE、SNSでのやり取り
- 配偶者と不倫相手が一緒に写っている写真・動画
- 2人でホテルに宿泊したことがわかる領収書
- クレジットカード・ETC・電子マネー履歴
- 不貞行為を認める内容の誓約書や念書、録音
不貞行為で慰謝料を請求するときは、「配偶者と不倫相手が肉体関係を持ったこと」が推認できる証拠を集めるようにしましょう。
メールやLINEでのやり取りは、不貞行為を疑わせる証拠といえる場合が多いでしょう。しかし、これらの証拠だけで不貞行為が認定されるのは困難なため、ほかの有効な証拠と組み合わせることが重要です。

たとえば、配偶者と不倫相手がラブホテルに長時間滞在したことがわかる写真、不貞行為を認める発言等の証拠と組み合わせれば、配偶者と不倫相手が肉体関係を持ったと推認できるでしょう。
また、不貞行為が争いになるケースでは、配偶者や不倫相手が一度は不貞行為を認めたものの、その後否定する場合が少なくありません。そのため、不貞行為を認める発言については、録音データがあると有益です。
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別居中の不貞で有効な証拠の集め方
別居中であっても不貞の証拠を集めることはできます。しかし、同居しているときに比べると、集めるのは困難といえるでしょう。
自力で集めるのが難しい場合は、探偵や弁護士といった外部の窓口を頼ってみることをおすすめします。
探偵事務所を利用する
自力で証拠を集めるのが難しいという場合は。探偵事務所を利用してみるのもよいかもしれません。
探偵事務所が収集した写真などが、離婚や慰謝料請求において重要な証拠とされるケースは多いです。
ただし、探偵事務所に依頼する際は、「信頼できる探偵事務所か確認する」「費用倒れにならないか検討する」「配偶者のスケジュールをある程度絞り込んでから依頼する」といった点に注意が必要です。
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弁護士に相談する
証拠がなかなか集まらないという場合は、弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士に相談すれば、「いま持っている証拠だけで慰謝料請求ができるかどうか」「どういった証拠を組み合わせればよいか」といったアドバイスを受けられます。
もし証拠が揃わなかったとしても、弁護士に示談交渉を依頼すれば、配偶者が不貞行為を認めた場合は、慰謝料を受け取ることができます。
少しでも気になる点があれば、まずは弁護士の無料相談を利用してみましょう。
別居中の不貞で慰謝料を請求するときの注意点
家庭内別居中の浮気や不倫の慰謝料請求は難しい
家庭内別居とは、婚姻関係の破綻した夫婦が、同じ家に住み続ける状態のことを指します。
家にいても顔を合わせない、会話がない、家事をそれぞれでおこなうなどが、家庭内別居の代表的な特徴です。同じ家にいても夫婦のコミュニケーションはほとんどなく、夫婦仲が冷めきった状態のことをいいます。
家庭内別居中に配偶者が不貞行為をおこなった場合は、「すでに婚姻関係が破綻していた状態」と考えられるため、慰謝料の請求が認められない可能性があります。
ただし、家庭内別居をする前から配偶者が不倫をしていたり、家庭内別居の期間が短いなど婚姻関係が破綻しているとはいえなかったりする場合は、慰謝料を請求できる可能性があります。
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離婚後に不貞行為が発覚した場合も慰謝料を請求できる
別居中に配偶者が不貞行為をしていたということに、離婚後になって気づくケースがあります。
離婚した後で配偶者の不倫が発覚したとしても、不倫から20年、または不倫の事実と不倫相手を知ったときから3年が経過していなければ、慰謝料を請求することができます。
時効が完成するより前に調停や裁判を申し立てると、一旦時効の進行がストップします。そして、調停成立または確定判決によって慰謝料が認められた場合は、時効がリセットされて、そのときから新たに10年間の時効の進行が始まります。
訴えを取り下げたり裁判所に却下されたりした場合でも、その日から6か月間は時効完成が猶予されます。配偶者が不倫していたと発覚したら、迅速に対応しましょう。
ただし、「不貞行為があった時点ですでに婚姻関係が破綻していた」という場合は、慰謝料の請求が認められる可能性は低いので注意が必要です。
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別居後に相手が浮気相手と同棲した場合は?
別居後に相手が浮気相手と同棲を始めるパターンがあります。この場合、慰謝料請求は可能です。ただし、いつごろから同棲を始めたかということが重要になります。
そのため、婚姻期間中に配偶者が浮気相手と同棲を始めたこと、そしてその同棲に付随する不貞行為によって婚姻生活が破綻したということを証明する証拠を集めておきましょう。
別居中の不貞で弁護士に相談するメリット
慰謝料請求ができるかどうか判断してもらえる
弁護士に相談すれば、婚姻関係が破綻しているかどうかを法的な観点から判断することができ、慰謝料が請求できそうかどうかについてアドバイスをもらうことができます。
もし慰謝料の請求が認められる可能性が高い場合は、請求金額の計算や、請求についての手続きを代理でおこなってもらうこともできます。
相手と代理で交渉できる
弁護士に依頼すれば、自分の代理人として相手と交渉をしてもらえます。
配偶者や浮気相手と直接連絡を取らなくて済むようになるため、精神的な負担を軽減することができます。
証拠を集めるときにアドバイスをもらえる
弁護士に相談すれば、どのような証拠を集めればいいのか、どうやって証拠を集めていくべきかといった、証拠に関するアドバイスをもらうことができます。
別居中の相手が不貞をおこなっているという証拠を得ることは、自分一人では難しい場合があります。弁護士に相談することで、慰謝料を請求するときに有利な証拠をどう集めていけばよいかをサポートしてもらえるでしょう。
別居中の不貞行為のお悩みは弁護士に相談!
離婚を前提とした別居中の不貞行為では、すでに婚姻関係が破綻していたとみなされ、慰謝料の請求が認められない可能性が高いです。
もしいま別居中で相手が不貞行為をおこなっているのではないかと疑いを持っている方は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、現在の状況で相手に慰謝料を請求できるかどうかを判断してくれるほか、請求できる可能性が高い場合は、証拠の集め方や交渉までサポートしてくれます。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了