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性犯罪の裁判|5つの裁判例でわかる有罪・無罪と量刑の分かれ目を解説

性犯罪の裁判で有罪・無罪を分けるのは、「相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態だったか」と「被告人がその状態を実際に認識していたか」の2点です。
罪を認めて争わない場合は、示談の成否と再犯防止に向けた具体的な実績が、実刑と執行猶予を分ける大きな要素になります。
性犯罪(不同意性交等罪や不同意わいせつ罪など)の容疑で起訴され、裁判を迎える当事者やご家族は、強い不安と焦りの中にいることと思います。
2023年7月の法改正により性犯罪の処罰規定は大きく見直され、法制度が厳しさを増す中でも、被告人には裁判で正当な防御権を行使し、自らの言い分を証拠に基づいて主張する権利が保障されています。
この記事では、性犯罪裁判の基礎知識と実際の裁判例、そこから読み取れる判断基準、状況に応じた弁護戦略について解説します。
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性犯罪の裁判に関する基礎知識
裁判に向けた準備を始めるにあたり、まずは問われている罪名の性質と、性犯罪の裁判に特有の手続きを正確に把握しておく必要があります。
性犯罪に問われる主な罪名の全体像
2023年7月の法改正により、従来の「強制性交等罪」は「不同意性交等罪」に、「強制わいせつ罪」は「不同意わいせつ罪」へと変更され、処罰要件が具体化・明確化されました。
主な性犯罪の罪名と法定刑
| 罪名 | 主な概要 | 法定刑の目安 |
|---|---|---|
| 不同意性交等罪(刑法177条) | 同意のない性交等の行為 | 5年以上の有期拘禁刑 |
| 不同意わいせつ罪(刑法176条) | 同意のないわいせつな行為(身体接触など) | 6か月以上10年以下の拘禁刑 |
| 痴漢(迷惑防止条例違反など) | 公共の場所での不適切な身体接触 | 6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(東京都の場合) |
| 性的姿態等撮影罪 | 性的な姿態等を同意なく撮影する行為 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 |
| 児童ポルノ禁止法違反 | 児童(18歳未満の者)を被写体とする児童ポルノの所持・提供・製造など | 行為により異なる(単純所持は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金) |
※痴漢の法定刑は各都道府県の迷惑防止条例によって定められているため、事件が起きた地域により異なります。
※わいせつな行為や性交等の結果として相手に怪我を負わせた場合は、不同意わいせつ致傷罪・不同意性交等致傷罪として法定刑が重くなります。
上記はあくまで一例です。より詳しく知りたい方は、性犯罪の種類や各罪名の刑罰・罰則について解説した記事をご覧ください。
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪で問われる「8つの類型」
不同意性交等罪と不同意わいせつ罪では、相手が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にあったかどうかが問われます。
その状態をもたらす原因として、刑法176条1項と177条1項に8つの類型が列挙されており、裁判では当日の具体的な状況がこのいずれかに実際に当てはまるかが、まず検討されます。
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪における8つの類型
| 号 | 類型 |
|---|---|
| 1 | 暴行や脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと |
| 2 | 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること |
| 3 | アルコールや薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること |
| 4 | 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること |
| 5 | 同意しない意思を形成し、表明し、もしくは全うするいとまがないこと |
| 6 | 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚愕させること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚愕していること |
| 7 | 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること |
| 8 | 経済的または社会的関係上の地位にもとづく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること |
なお、この8類型のいずれかに該当すれば直ちに犯罪が成立するわけではありません。
その事由によって相手が実際に「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」になっていたといえるかどうかが、あわせて問われます。
性犯罪の裁判が通常の刑事裁判と異なる特徴
性犯罪の裁判では、被害者のプライバシー保護や精神的負担の軽減を図るため、通常の刑事裁判にはない特殊な手続きがとられます。
被告人側から見ると、反対尋問の機会や法廷での立証方法に制約がかかる場面があるため、あらかじめ把握しておく必要があります。
被害者の氏名や住所が伏せられる(被害者特定事項の秘匿)
裁判所の決定により、起訴状の朗読や証拠調べの際、被害者の氏名や住所などの個人情報が伏せられ、イニシャルや「被害者Aさん」といった呼称で審理が進められることがあります。
さらに、2024年2月施行の法改正により、被告人に送付される起訴状などの書面段階から被害者の個人情報を伏せることも可能になりました。
証人尋問での遮蔽措置・ビデオリンク方式
被害者が証人として法廷で証言する際、精神的負荷を和らげるために、被告人や傍聴席との間に衝立(遮蔽用パーテーション)が設置されたり、別室からモニター越しに証言するビデオリンク方式が採用されたりします。
司法面接等の記録媒体の証拠能力
2023年12月施行の法改正により、被害者が捜査段階で受けた聴取の録音・録画記録媒体について、一定の要件を満たす場合には、法廷での証人尋問を経ずに証拠として採用できる特則が設けられました(刑事訴訟法321条の3)。
被告人側から見ると反対尋問の機会が制限され得る場面であるため、記録媒体が証拠請求された際には内容を早期に精査し、必要に応じて証人尋問を求めるなどの対応を検討することになります。
被害者参加制度による被告人質問・意見陳述
被害者やそのご家族が「被害者参加人」として法廷に立ち、検察官の隣に座って被告人に対して直接質問を行ったり、求刑に関する意見を述べたりすることが認められています。
なお、痴漢などの「迷惑防止条例違反」にあたる事件は、同制度の対象外となります。
怪我を負わせた場合は裁判員裁判になる
同じ性犯罪でも、相手に怪我を負わせた致傷事件は裁判員裁判の対象となり、一般市民から選ばれた裁判員が有罪・無罪と量刑の判断に加わります。
審理に先立って公判前整理手続が必ず行われるため、準備にかかる期間も長くなります。
法律の専門家ではない裁判員に対して主張を理解してもらう必要があることから、書面中心ではなく法廷での口頭の説明や視覚資料を用いた立証が重視されます。
致傷の有無によって、弁護方針の立て方も準備にかけるべき時間も大きく変わります。
性犯罪の裁判例|5つのケースで見る判断の分かれ目
実際の裁判例を見ると、有罪・無罪の判断を分けているのは「被害者の供述が客観的な資料と整合しているか」という点です。
そして、事実に争いのない事件で実刑と執行猶予を分けているのは、被害弁償と再犯防止に向けた具体的な実績などです。
ここでは、罪名ごとに5つの裁判例を取り上げ、それぞれ何が決め手になったのかを見ていきます。判断基準の詳しい解説は次章でまとめます。
裁判例(1)不同意性交等罪|那覇地方裁判所 令和7年3月17日判決
客観的証拠が残りにくい行為について、被害申告の経過の自然さを決め手に有罪が認定された事例です。
前科はありませんでしたが、犯情の評価が重いとして実刑が選択されています。
事案の概要
整骨院を経営する被告人が、施術に訪れた20代の女性客に対し、オイルマッサージの施術中に身体に触れ、さらに性交等にあたる行為に及んだとされた事案です。
被告人は、同意なく身体に触れたこと自体は認めたものの、性交等にあたる行為はしていないと主張し、成立するのは不同意わいせつ罪の限度にとどまると争いました。
裁判での争点
争点は、性交等にあたる行為があったかどうか、言い換えれば被害者の法廷での証言を信用できるかという一点でした。
弁護人は、以下の3点を指摘して証言の信用性を争いました。
- 被害者は行為そのものを目で見ていない
- 被害者の身体から被告人のDNA型が検出されていない
- 証言に変遷や不自然な点がある
判決結果
裁判所は被害者証言に高度の信用性を認め、不同意性交等罪の成立を認定しました。
求刑は懲役7年、判決は酌量減軽のうえ、懲役4年6か月の実刑となりました。
裁判例(2)不同意わいせつ罪|岡山地方裁判所 令和8年4月9日判決
全面否認が認められず、前科がないにもかかわらず実刑となった事例です。
事案の概要
被告人が、取材のため自宅を訪れた20代の女性に対し、繰り返し酒を勧めて泥酔させたうえ、馬乗りになるなどしてわいせつな行為をしたとされた事案です。
被告人と被害者は、取材を受ける側と取材する側という関係にありました。被告人は、行為そのものを全面的に否認しました。
裁判での争点
争点は、(1)被害者が多量の飲酒により同意しない意思を形成することが困難な状態だったか、(2)被告人が暴行とわいせつ行為を行ったかの2点です。
いずれも、被害者の法廷での供述を信用できるかという問題に帰着しました。弁護人は、以下の5点を主張しています。
- 被害者には、自らの失態を取り繕うなどの目的で虚偽の申告をする動機があった
- 酩酊により夢と現実が混同し、被害があったと誤認した可能性がある
- 被害者が述べる行為の態様は、被告人の身体的制約からみて不自然である
- 被害直後に被害者から友好的な内容のメッセージが送られており、被害者の行動として不自然である
- 被害者の供述と、その母親の供述が食い違っている
判決結果
裁判所は弁護人の主張をすべて退け、不同意わいせつ罪の成立を認めました。
前科がないにもかかわらず、懲役2年の実刑(求刑は懲役3年の実刑)となりました。
裁判例(3)痴漢(迷惑防止条例違反)|東京高等裁判所 平成26年7月15日判決
通信記録と映像鑑定という客観的証拠により、一審の有罪判決が覆って無罪となった事例です。
事案の概要
走行中のバス車内で、被告人が17歳の女性の臀部に着衣の上から触れたとして、迷惑防止条例違反に問われた事案です。
被告人は一貫して否認しましたが、一審は被害者の供述を全面的に信用できるとして有罪とし、罰金40万円を言い渡しました。被告人がこれを不服として控訴しました。
裁判での争点
争点は、被害者供述の信用性、とりわけ客観的証拠との整合性でした。
被告人は、当時交際相手とメールのやり取りをしており、右手で携帯電話を操作し、左手は吊り革を掴んでいたため、被害者が述べるような態様の行為は不可能だと主張しました。
判決結果
東京高等裁判所は一審判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡しました。決め手となったのは、以下の客観的証拠です。
- メールの送受信時刻:携帯電話会社の接続記録により、分秒単位で裏づけられた
- バスの車載カメラ映像の専門家鑑定:被害を受けたとされる時間帯の直前まで、被告人が右手で携帯電話を操作し、左手で吊り革を掴んでいた状況が確認された
- 繊維鑑定の結果:被告人の手指の付着物から、被害者のスカートの繊維は検出されなかった
裁判例(4)盗撮(性的姿態等撮影罪)|釧路地方裁判所 令和7年9月1日判決
保釈中の再犯という不利な事情がありながら、治療と再犯防止の道筋を示したことで執行猶予が付された事例です。
事案の概要
被告人が、商談中の相手や店舗内の利用客に対し、スマートフォンを差し向けるなどして複数回にわたり盗撮に及んだ事案です。大半は未遂に終わっています。
さらに被告人は、盗撮目的で入浴施設の女性用脱衣所に立ち入ったとして建造物侵入罪でも起訴され、その事件で保釈されている期間中に、再び盗撮行為に及んでいました。
裁判での争点
事実関係に争いはなく、実質的な争点は実刑か執行猶予かという量刑の一点でした。
判決結果
懲役1年6か月、4年間執行猶予(求刑は懲役1年6か月)でした。裁判所が不利に評価した事情と、有利に評価した事情は以下のとおりです。
判決(量刑)を左右した「不利な事情」と「有利な事情」
| 内容 | |
|---|---|
| 不利な事情 | ・大胆で手慣れた手口であること ・保釈中に再び犯行に及んでおり、常習性が根深いこと ・立場を悪用した犯行であること |
| 有利な事情 | ・前科がないこと ・事実を認めて反省の態度を示していること ・専門医療機関を受診するなどして再犯防止に努める旨を約束していること |
裁判例(5)児童ポルノ禁止法違反|大阪地方裁判所 令和7年9月30日判決
営利目的の常習的な犯行でありながら、監督体制と弁償の意向を示したことで執行猶予が付された事例です。
事案の概要
被告人が、入浴施設において児童(18歳未満の者)を盗撮して児童ポルノを製造し、これを不特定の相手に販売するなどした事案です。
製造3件、提供4件、公然陳列1件の合計8件が起訴されました。
裁判での争点
被告人は捜査段階から事実を認めており、争点は量刑に絞られました。
判決結果
懲役3年及び罰金70万円、懲役刑については5年間執行猶予(求刑と同一)でした。裁判所の評価は以下のとおりです。
判決(量刑)を左右した「不利な事情」と「有利な事情」
| 内容 | |
|---|---|
| 不利な事情 | ・あらかじめ下調べをしたうえで機材を設置した計画性 ・販売・閲覧により拡散させたこと ・相応の期間にわたり多数を製造・販売しており常習的であること ・営利目的であること |
| 有利な事情 | ・前科がないこと ・捜査段階から事実を認め反省していること ・父親が監督すると述べていること ・父親の勤務先が被告人を雇用すると述べていること ・懲戒解雇という社会的制裁を受けていること ・被害弁償のための金銭を弁護人に預け、弁償の意向を示していること |
なお判決は、本件の重大性に照らして猶予期間を最長の5年とし、さらにこの種の犯行が経済的に割に合わないことを理解させるため、罰金刑を併科するのが相当としています。
性犯罪の裁判例から見る裁判の判断基準
性犯罪の裁判で有罪・無罪を分けているのは、被害者の供述が客観的な資料と整合しているかどうかです。
そして量刑を分けているのは、被害者への弁償と、再犯防止に向けて実際に何を行ったかという点です。
有罪・無罪を分ける判断基準
供述の信用性
当事者の言い分が対立する場合、裁判所は次の3つの角度から信用性を検討します。
(1)被害申告の経過に不自然さがないか
裁判例(1)では、被害者が当日のうちに姉に、その後に夫に被害を打ち明け、翌日には自らメモを作成し、医師の診察時にも同じ内容を述べていた経過が重視されました。
裁判例(2)でも、近しい人物から順に段階を踏んで申告している点が自然だと評価されています。
重要なのは、裁判所が「なぜその順番で、そのタイミングで申告したのか」を当時の立場から説明できるかを見ている点です。
裁判例(2)では、報道機関に勤める被害者が勤務先と取材先との関係悪化を懸念して申告をためらった経緯が、当時の心境として自然だと判断されました。
申告が遅れたこと自体は、直ちに信用性を減じる事情にはなりません。
(2)虚偽の申告をする動機があるか
裁判例(2)で弁護人は、被害者には自らの失態を取り繕う動機があったと主張しましたが、退けられています。
裁判所は、虚偽の被害を作り上げれば被害者自身も失職や刑事責任のリスクを負う立場にあった点を指摘しました。
動機を争点にする場合、「嘘をつく理由があり得る」と言うだけでは足りず、そのリスクを負ってでも嘘をつくだけの事情があったことまで示す必要があります。
(3)客観的証拠と整合しているか
もっとも重要なのがこの点です。時刻や位置が記録として残る資料は、供述の信用性を検証する手がかりとして機能します。
裁判例(3)では、携帯電話会社の接続記録によりメールの送受信時刻が分秒単位で特定され、これを起点に車載カメラ映像を解析した結果、被害を受けたとされる時間帯に被告人の両手が塞がっていたことが明らかになりました。
高等裁判所はこれを理由に一審の有罪判決を破棄しています。
ここで注意すべきは、端末の表示と事業者側に残る記録は別物だという点です。端末の画面は後から操作できる余地があるとみられやすいのに対し、事業者側の接続記録は第三者が保有する客観的資料として扱われます。
裁判例(3)で「客観的な証拠により裏づけられている」と評価されたのは、事業者側の接続記録と車載カメラ映像という二重の裏づけがあったためです。
また、映像は入手できるかどうかだけでなく、どう解析するかが結果を左右します。
裁判例(3)では、一審の鑑定は被告人の右手に着目したものでしたが、控訴審で左手の状況に焦点を当てた鑑定を実施したことが決定打になりました。同じ映像から、鑑定事項の設定によって異なる結論が導かれたということです。
一方で、「証拠がない」という主張は常に有効とは限りません。
裁判例(1)では、問題となった行為はそもそも客観的証拠が残りにくく、本来残っているはずの証拠が存在しない事案ではないとして、DNA型不検出の主張が退けられました。
裁判例(3)では繊維が検出されなかったことが無罪方向の事情として言及されていますが、この違いは、その行為の性質上、本来であれば痕跡が残っているはずといえるかどうかにあります。
なお裁判例(3)で高等裁判所は、「不可能とまではいえない」という理由で信用性を認めた一審の判断を、論理の飛躍であり、この種の事案で求められる慎重さを欠くと明確に否定しました。
可能性を否定しきれないというだけで有罪にすることは許されない、という原則を確認した判断です。
刑法176条1項と177条1項各号(8つの類型)への該当性
実際の判決では、8類型のどの号にあたるかが明示されます。
- 裁判例(1)
施術中に予期しない性的行為をされ、恐怖または驚愕したことにより、同意しない意思を全うすることが困難な状態にあったと認定(6号) - 裁判例(2)
多量の飲酒による泥酔で同意しない意思を形成することが困難な状態にあったことに乗じ、さらに馬乗りになるなどの暴行により全うすることが困難な状態にさせたと認定(1号・3号)
ここで注目すべきは、裁判例(1)が「同意しない意思を全うすることが困難な状態」を物理的な拘束ではなく施術中という状況から認定している点です。
暴行や脅迫がなくても、その場の状況から要件該当性が認められる場合があります。
故意(相手の状態についての実際の認識)
故意の有無は、被告人が行為の時点で「相手が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にある」と実際に認識していたかどうかの問題です。
裁判例(2)では、被告人が「被害者が上記状態にあることを認識しながら」行為に及んだと認定されています。
ここで裁判所が認定しているのは、一般的に見てそう認識するのが合理的だったかではなく、被告人が現に認識していたかです。
したがって、故意を争う場合の主張は「自分は実際にそう認識していなかった」というものになります。
当時の状況が通常であれば相手の同意を疑わせないものだったという事情は、その主張を裏づける間接的な材料として位置づけられます。
量刑を分ける判断基準
有罪が認定された場合、裁判所はまず犯行そのものの事情(犯情)から同種事案の中での位置づけを定め、そのうえで被告人側の事情(一般情状)を加味します。
裁判例(1)がこの枠組みを明示しており、犯情から導かれる位置づけを「中程度」としたうえで、刑を決めています。
このうち、弁護活動によって動かせる余地が大きいのは一般情状の部分です。
被害弁償・示談
被害者への謝罪と被害弁償、さらに「処罰を求めない」という宥恕(ゆうじょ)の意思が得られているかは、量刑において重要な情状となります。
ただし、弁償だけで結論が決まるわけではありません。
裁判例(1)では、被告人が謝罪の言葉を述べ、70万円を支払っていましたが、実刑が言い渡されています。犯情の評価が重い事案では、弁償があっても執行猶予に至らない場合があります。
一方で、示談が成立していなくても評価の対象にはなります。
裁判例(5)では、弁償の実現には至っていないものの、被告人が弁償のための金銭を弁護人に預けて意向を示していた点が、有利な事情として明示されました。
再犯防止策・治療実績
反省の言葉だけでなく、専門医療機関への通院実績や、ご家族による具体的な監督体制が構築されているかも評価されます。
裁判例(4)では、保釈中に再び犯行に及んだという相当に不利な事情がありながら、前科がないことと、専門医療機関を受診するなどして再犯防止に努める旨を約束していることが考慮され、執行猶予が付されました。
裁判例(5)はさらに具体的で、父親が監督すると述べていることと、その父親の勤務先が被告人を雇用すると述べていることが、それぞれ別個の有利な事情として挙げられています。
「家族が見守ります」という抽象的な表明ではなく、誰がどのように監督し、生活と収入をどう立て直すのかという具体像が求められているということです。
なお、裁判例(4)は「受診を約した」段階での評価です。判決までに実際の通院実績まで提示できていれば、より強い情状として機能します。
常習性・同種前科
過去に同種の事件を起こしている場合、再犯リスクが高いとみなされ、量刑上は不利な要素となります。
前科がない場合でも、行為の積み重ねから常習性が認定されることがあります。
裁判例(4)では、保釈されている期間中に再び盗撮に及んだという経過そのものから、盗撮癖が根深いと認定され、裁判例(5)でも、相応の期間にわたり多数を製造・販売していたことから常習的な犯行と評価されました。
5つの裁判例のうち(1)(2)(4)(5)はいずれも前科がない事案ですが、結論は実刑2件・執行猶予2件に分かれています。前科がないことは有利な事情のひとつにすぎません。
否認したことの量刑への影響
否認が認められなかった場合、そのことが量刑上不利に評価されることがあります。
裁判例(2)は、被告人が不合理な弁解に終始し、自らの行いに真摯に向き合っていない点を量刑理由に明示したうえで、前科がないことなどを考慮してもなお実刑が相当としました。
他方、裁判例(4)(5)は事実を認めて反省の態度を示している点が有利な事情として挙げられ、いずれも執行猶予となっています。
誤解がないよう申し添えると、身に覚えのない事実を認める必要は一切なく、黙秘権の行使や事実を争うこと自体が不利益に扱われるわけではありません。
問題となるのは、証拠に照らして明らかに成り立たない弁解を維持し続けた場合です。
性犯罪の裁判に向けた具体的な弁護戦略
裁判での弁護戦略は、「身に覚えがない(否認)」のか、「事実を認めて執行猶予を目指す(情状)」のかによって、準備すべきものが根本的に異なります。
どちらの方針を取るかは、検察官が開示する証拠の内容を精査したうえで、起訴後の早い段階で固める必要があります。
否認する場合の弁護戦略
公訴事実を争う場合、検察官が立証責任を負う以上、被告人側が無実を証明する必要はありません。求められるのは、検察官の主張に合理的な疑いが残ることを、証拠にもとづいて示すことです。
消えてしまう前に客観的証拠を保全する
防犯カメラの映像は、施設によっては数日から数週間で自動的に上書きされます。公共交通機関の車載カメラも同様で、通信事業者が保有する接続記録にも保存期間があります。
裁判例(3)で逆転無罪が実現したのは、これらの記録が保全され、法廷に提出できる状態にあったためです。
これらは第三者が保有する記録であり、本人やご家族が施設に申し入れても開示されないことがほとんどです。弁護士会照会などの法的な手続きを通じて取得する必要があるため、着手の早さがそのまま選択肢の広さになります。
公判前整理手続で証拠開示を求める
否認事件では、第1回公判の前に公判前整理手続が行われることがあります。裁判員裁判では必ず実施され、それ以外の事件でも、争点が複雑な場合には裁判所の判断で実施されます。
ここで裁判所・検察官・弁護人が争点を整理し、取り調べる証拠を決めます。
被告人側にとって重要なのは、この段階で検察官が持っている証拠の開示を請求できる点です。
検察官が取り調べを請求した証拠に加え、類型証拠(刑事訴訟法316条の15)や主張関連証拠(同法316条の20)の開示を求めることができます。
また、この段階で鑑定や証人尋問を請求するかも判断します。
裁判例(3)では控訴審の段階で左手の状況に焦点を当てた鑑定が決定打となりましたが、同じ映像でも「何を明らかにするために使うのか」という設計次第で結論が変わるということです。
主張は争点の核心に絞る
被害者供述の変遷や不自然さを指摘する場合、争点の核心に関わるものに絞る必要があります。
裁判例(1)では、供述に変遷があるなどの指摘について、いずれも証言の核心部分に関係しない事情であって信用性を左右しないと判断されました。周辺的な食い違いを数多く列挙しても、評価にはつながりにくいということです。
裁判例(2)でも「被害直後の言動が被害者らしくない」という主張が、当時の被害者の立場と心境から説明可能だとして退けられています。
この種の主張を行う場合は、その行動が被害者の置かれた状況からは説明しきれないことまで示す必要があります。
罪を認めて執行猶予を目指す場合の弁護戦略
公訴事実を認める場合は、一般情状をどこまで積み上げられるかが結果を分けます。
被害弁償を早期に申し入れる
弁護人を通じて謝罪の意思を伝え、適正な金額を提示し、示談成立に向けた交渉を進めます。起訴後であっても、量刑上の評価には十分に影響します。
もっとも、性犯罪では、被害者が加害者側との接触を望まないケースも少なくありません。
ただし裁判例(5)が示すとおり、示談が成立しなかった場合でも、原資を準備して申し出た経過を記録として残しておくことに意味があります。なお、被害者との連絡は弁護人を介して行うのが原則です。
再犯防止の実績と監督体制を具体的に示す
再犯防止については、受診や通院を約束する段階でも評価されますが、実際に着手した実績があれば、より強い情状として機能します。
裁判までの期間は限られていますが、何をいつから始めたのかという記録が残せるかどうかが分かれ目になります。受診は早いほど有利です。
ご家族が情状証人として証言する場合も、「今後は責任を持って監督します」という決意表明にとどまらず、具体的に何をするのかを述べられるよう準備します。
- 同居するのか、別居であればどの程度の頻度で状況を確認するのか
- 通院に同行するのか、継続状況をどう把握するのか
- 就労先の見込みや生活費の工面をどうするのか
- 被害者側との接触を防ぐため、生活圏や通勤経路をどう変えるのか
裁判員裁判が行われる事件では、法律の専門家ではない裁判員に理解してもらう必要があるため、口頭での説明のわかりやすさがより重要になります。
保釈を請求して準備の時間を確保する
身柄が拘束されたままでは、被害弁償の交渉も、医療機関の受診も、就労先の確保も自分では進められません。
ただし、性犯罪では罪名によって保釈の扱いが異なります。不同意性交等罪は法定刑の下限が5年の拘禁刑であるため、権利保釈(請求があれば原則として許可される保釈)の除外事由にあたります(刑事訴訟法89条1号)。
この場合は裁判所の裁量による保釈を求めることになり、被害者やその関係者との接触禁止が条件として付されるのが通常です。一方、不同意わいせつ罪は法定刑の下限が6か月であるため、同号には該当しません。
身元引受人の確保や、被害者との接触を防ぐ生活環境の整備といった条件面の準備が、許否の判断に影響します。
そして、保釈中の再犯は決定的に不利といえます。
裁判例(4)では、保釈されている期間中に再び盗撮に及んだ経過そのものから常習性が根深いと認定されました。保釈が取り消されて身柄拘束に戻るリスクもあるため、保釈中の生活ルールは必ず守る必要があります。
起訴される前の段階から動けることは多い
なお、ここまでは起訴後の裁判を前提に解説してきましたが、本来は起訴される前の段階から弁護士に相談することが望ましいといえます。
この記事で見たとおり、防犯カメラの映像や通信記録には保存期間があり、専門医療機関への通院実績は時間をかけなければ積み上がりません。
これらはいずれも、起訴を待たずに着手できるものです。
また、捜査段階で被害弁償や示談が成立すれば、そもそも起訴されずに事件が終わる可能性もあります。
すでに起訴されている場合でも遅すぎるということはありませんが、捜査段階で相談できるのであれば、その時点で動き始めるに越したことはありません。
性犯罪の裁判まとめ
性犯罪の裁判は、2023年7月の刑法改正により処罰の要件が具体化され、被告人側にとって厳しい情勢にあることは事実です。
しかし実際の裁判例が示しているのは、結論を分けているのが「その時点で残せるものを、どれだけ残せたか」だという点です。
- 否認する場合は、通信記録や映像といった後から動かせない資料によって、検察官の主張に合理的な疑いが残ることを示せるか
- 事実を認める場合は、被害弁償の申し出、専門医療機関の受診、監督体制と生活再建の具体像を、判決までにどれだけ実績として積み上げられるか
いずれの方針を取るにせよ、鍵を握るのは着手の早さです。映像や通信記録には保存期間があり、医療機関の通院実績は時間をかけなければ積み上がりません。
証拠の保全も、検察官が持つ証拠の開示請求も、個人では進められない手続きが大半です。
だからこそ、方針が固まる前の段階から弁護士と準備を進めることが重要になります。
アトム法律事務所は24時間365日相談予約受付中
性犯罪の裁判は、何をどの順番で準備するかによって結果が変わります。
証拠の保全にも、検察官が持つ証拠の開示請求にも、被害弁償の交渉にも、それぞれ適切なタイミングがあり、過ぎてしまえば取り返しがつかないものも少なくありません。
アトム法律事務所では、性犯罪事件の刑事弁護を数多く取り扱ってきた実績があります。公判に向けてご自身の状況では何から着手すべきか、見通しとあわせてお伝えすることが可能です。
また、警察沙汰になった事件については、初回30分無料での弁護士相談を実施しています。相談ご予約窓口は、24時間365日つながります。
ひとりで抱え込まず、まずはご相談ください。ご本人だけでなく、ご家族からのご相談もお受けしています。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律税務グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

