配偶者と子供で農地や山林を相続する際に知っておきたいこと
被相続人(配偶者)が亡くなると相続が発生し、配偶者と子供は相続人となります。農地や山林の相続は、宅地などの相続とは流れが少し異なるため、全体像を理解しておいたほうが安心です。この記事では、配偶者と子供で農地や山林を相続する場合に知っておきたいことを、わかりやすく解説します。
『配偶者と子供による農地・山林の相続』に関する基本事項
農地を相続するときの手続きの流れ
農地を相続する場合は、以下のような流れで手続きを進めます。
1.遺言書の有無を確認する
被相続人が遺言書を作成していた場合は、遺言書の内容に従って相続手続きを行います。遺言書がない場合は、遺産分割協議などを行って相続手続きを進めます。
2.相続人を確認する
相続人となるのは、被相続人の配偶者、子供、父母、兄弟姉妹などです。このとき、相続人調査を行い、誰が相続人になるのかを確認する場合もあります。
3.相続財産を確認する
相続財産調査を行い、不動産や預貯金など、どのような財産があるのか、評価額はいくらなのかを確認します。
4.遺産分割協議を行う(遺言書がない場合)
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、相続財産をどのように分割するかを決めます。遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所に調停や審判を申し立てます。
5.相続登記の申請手続きを行う
遺産分割協議が成立したら農地の相続登記の申請手続きを行い、名義を相続人に変更します。
6.農業委員会に届出を出す
農地を取得したことを知った日から約10か月以内に、管轄の農業委員会に届出を提出します。提出を怠ると、農地の利用や売却などの権利が制限される可能性があるため注意が必要です。
7.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
山林を相続するときの手続きの流れ
山林を相続する場合、相続人の決定以降は以下のような流れで手続きを進めます。
1.市町村に所有者変更の届出を出す
山林の所有者となった日から90日以内に、管轄の市町村に所有者変更の届出を提出します。提出を怠ると、ペナルティを科される可能性があるため注意が必要です。
2.相続登記の申請手続きを行う
遺産分割協議が成立したら相続登記の申請手続きを行い、名義を相続人に変更します。
3.必要に応じて相続税の申告・納税を行う
相続財産の評価額の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。また、必要に応じて納税も行います。
4.森林組合へ所有者変更の報告をする
管轄の森林組合に所有者変更があったことを報告します。報告を怠ると、森林組合の指導や助言を受けることができなくなる可能性があるため注意が必要です。
相続手続きは時間と手間がかかるため、早めに準備を進めるようにしましょう。
農地・山林の相続登記手続きと費用の相場
農地や山林を相続した場合は相続登記の申請を行い、相続人に名義を変更する必要があります。相続登記の手続きは、民法上では被相続人の死亡日から10年以内が時効とされていましたが、2024年4月からは、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に行うことが義務付けられました。
相続登記の申請手続きに必要な書類
農地や山林の相続登記をするにあたって、以下の書類が必要です。
- 登記申請書
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍(出生から亡くなるまでのすべての謄本)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書
- 農地・山林を相続する相続人の住民票
- 固定資産課税明細書
- 相続関係説明図(戸籍謄本・除籍謄本の原本の還付を希望しない場合は不要)
- 遺産分割協議書(遺産分割協議を行った場合のみ)
相続登記の申請手続きは法務局で行いますが、申請方法は、法務局の窓口または郵送の2パターンがあります。
相続登記の申請手続きにかかる費用
相続登記にかかる費用は、必要書類の取得費のほか、申請時に納める登録免許税、司法書士への報酬などがあります。
必要書類の取得費は、それぞれ数百円程度です。相続登記の登録免許税は、固定資産税評価額に税率(0.4%)を乗じて計算します。相続登記の登録免許税は一筆の土地の固定資産税評価額が100万円以下の場合、2025年3月31日までは免税されるため、農地では免税となることが多いです。
司法書士の報酬はさまざまですが、相場は10万円~20万円程度と考えておくとよいでしょう。司法書士に依頼する場合は、複数の司法書士から見積もりをとり、比較検討することをおすすめします。
相続登記は手続きが複雑で、費用もかかります。相続人が決まったら、早めに手続きを進めましょう。
関連記事
・相続登記の登録免許税|計算方法や免税措置は?必要書類や手続きも解説
・土地の名義を変更したら相続税がかかる?名義変更と課税条件を解説
法定相続分による相続割合【配偶者と子供で相続する場合】
配偶者と子供の法定相続分は2分の1ずつです。子供が複数人いる場合は、遺産の2分の1を子供の人数で均等に分割します。
法定相続人 | 相続割合 |
---|---|
配偶者+子1人 | 配偶者:1/2 子:1/2 |
配偶者+子2人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/4 |
配偶者+子3人 | 配偶者:1/2 子:1人あたり1/6 |
被相続人が亡くなって2億円の相続が発生し、配偶者と子供2人が相続人となった場合、配偶者の法定相続分は1億円、子供の法定相続分は5,000万円ずつになります。
法定相続分は、相続人の間で遺産分割協議を行う際に、法律上の分け方の目安となるものです。ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分とは異なる割合で遺産を分割することも可能です。
相続税における基礎控除の概要と計算方法
相続税は、課税対象となる遺産の総額が基礎控除額を上回る場合に申告の義務が発生し、場合によっては相続税額が発生することもあります。相続税の基礎控除額の計算方法は、以下のとおりです。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
法定相続人 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
たとえば、法定相続人が配偶者と子供1人の場合は4,200万円、配偶者と子供2人の場合は4,800万円が基礎控除として遺産総額から差し引かれます。遺産の総額が基礎控除額を下回る場合は相続税は発生せず、申告の必要もありません。
関連記事
・相続税は基礎控除以下なら無税!計算方法やその他の控除も解説
相続税の申告方法と申告期限
遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、被相続人の住所地を管轄する税務署に申告します。申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月以内です。
相続税の申告書は、税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。申告書の提出方法は、持参または郵送のほか、e-Tax(電子申告)でも可能です。
相続税の申告書作成は、自分で行うこともできますが、専門的な知識を要するため、税理士に依頼することをおすすめします。
関連記事
・【やさしい】相続税申告書の書き方|誰でも簡単に申告書を作成できる!
・相続税の申告はネットで可能!やり方やe-Taxが使えない人も解説
農地の相続税評価額を計算する方法
農地の相続税の評価方法は、農地の種類によって異なります。
純農地・中間農地:倍率方式で評価
純農地および中間農地の価額は、倍率方式によって評価します。倍率方式の計算式は以下のとおりです。
純農地・中間農地の評価額=固定資産税評価額×評価倍率
固定資産税評価額は自治体ごとで評価され、毎年送付されてくる「固定資産税納付書」に記載されています。また、評価倍率は、国税庁による「評価倍率表」で確認できます。
市街地農地:宅地比準方式または倍率方式で評価
市街地農地の価額は、宅地比準方式または倍率方式で評価します。
宅地比準方式は、農地を宅地とした場合の1㎡あたりの価額から、宅地に転用する場合の1㎡あたりの造成費に相当する額を差し引き、面積を乗じて算定します。倍率方式の算定方法は、純農地や中間農地と同様の計算式を使います。
【宅地比準方式による計算方法】
市街地農地の評価額=(宅地の場合の1㎡あたりの金額-1㎡あたりの宅地造成費)×面積
【倍率方式による計算方法】
市街地農地の評価額=固定資産税評価額×評価倍率
市街地周辺農地:宅地比準方式または倍率方式で評価
市街地周辺農地の価額は、市街地農地とした場合の80%相当の価額で評価します。算定方法は、宅地比準方式または倍率方式で評価します。
【宅地比準方式による計算方法】
市街地周辺農地の評価額=(宅地の場合の1㎡あたりの金額-1㎡あたりの宅地造成費)×面積×0.8
【倍率方式による計算方法】
市街地周辺農地の評価額=固定資産税評価額×評価倍率×0.8
山林の相続税評価額を計算する方法
山林の相続税評価方法は、山林の区分によって異なります。
純山林・中間山林:倍率方式で評価
純山林および中間山林の価額は、倍率方式で評価します。
純山林・中間山林の評価額=固定資産税評価額×評価倍率
市街地山林:宅地比準方式または倍率方式で評価
市街地山林の価額は、宅地比準方式または倍率方式で評価します。
【宅地比準方式による計算方法】
市街地山林の評価額=(宅地の場合の1㎡あたりの金額-1㎡あたりの宅地造成費)×面積
【倍率方式による計算方法】
市街地山林の評価額=固定資産税評価額×評価倍率
配偶者控除で配偶者分の相続税負担を軽減
相続税における配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が取得した財産のうち、1億6,000万円または法定相続分のいずれか多い金額までは相続税が課税されない制度です。配偶者控除の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 被相続人と法律上の結婚関係にある
- 遺産分割が完了している
- 相続税の申告期限までに相続税の申告書を提出する
たとえば、被相続人が配偶者と子供2人を残して亡くなり、相続財産の合計が2億円の場合、配偶者の法定相続分は1億円です。このとき配偶者控除を適用することで、配偶者分の相続税は0円になります。
ただし、のちに配偶者が亡くなって配偶者の財産を子供が相続するときに、相続税負担が増える可能性があるため注意が必要です。そのため、相続税を節税するための最善策を検討する場合は、税理士に相談することをおすすめします。
関連記事
・配偶者の税額軽減は1.6億円以上!デメリットや適用要件も解説
『配偶者と子供による農地・山林の相続』に関するよくある質問
農地や山林を相続する際に相続税はかかりますか?
農地や山林を含む遺産の総額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告義務があり、相続税が発生する可能性があります。ただし、配偶者は配偶者控除を適用することにより、相続税が0円になる場合もあります。
農地や山林を相続したら登記が必要ですか?
農地や山林を相続した場合は、相続人の名義に変更するために、相続登記の手続きが必要です。登記手続きは、司法書士に依頼するのが一般的です。
農地や山林を相続したら固定資産税がかかりますか?
農地や山林を相続した場合は、固定資産税の課税対象となります。固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に対して課されます。
農地・山林を相続したら農業委員会や森林組合に届出が必要ですか?
農地・山林を相続した場合は、農業委員会や市区町村長への届出が必要です。農地を相続した場合は、農地を取得したことを知った日から約10か月以内に農業委員会に届出を、山林を相続した場合は、山林の所有者となった日から90日以内に市区町村長に届出を提出します。
農地・山林を相続したら、農業や林業を行う義務がありますか?
相続後に農業や林業を行わないといけないという義務はありません。ただし、農業や林業を行わない場合、相続税の納税猶予が受けられないほか、毎年固定資産税がかかります。そのため、相続後に放置するのは得策とはいえません。農業や林業を行わない場合は、売却などを検討するのがおすすめです。
他にもおさえておきたい相続の基本
いざというときに備えて、相続対策や相続手続きについて理解しておくことは大切です。ほかの記事でも相続の基礎知識について詳しく解説しておりますので、ぜひお役立てください。
監修者情報
アトムグループ 協力税理士