【弁護士監修】離婚時の財産分与目録|作成のコツと注意点

離婚時に公平な財産分与を行うためには、双方の財産を漏れなく把握しておく必要があります。そこで役立つのが財産目録です。
本記事では、印刷して使用できる財産目録のテンプレートと記入例を紹介します。また、財産目録の意義や作成方法、注意点について、弁護士の視点から詳しく解説します。
目次
財産分与における財産目録とは?テンプレートを紹介
財産目録の役割
財産目録は、離婚に際して夫婦間で分配すべき財産を明確にするための重要な文書です。
この目録は、夫婦が所有する資産や負債を包括的にリストアップし、どちらが何を受け取るかを決めるための判断材料となります。
財産目録の主な役割は以下の通りです。
- 財産の全容把握:夫婦が保有するすべての財産を洗い出し、その全体像を明確にします。
- 公平な分配の基礎:各財産の評価額や取得時期を記録することで、公平な分配の基礎となります。
- 合意形成のツール:夫婦間で財産分与の協議を行う際の基礎資料となります。
- 後のトラブル防止:将来的な紛争を予防するため、分与の内容と理由を明確に記録します。
- 法的手続きの円滑化:調停や裁判になった場合の証拠資料としても活用できます。
適切に作成された財産目録は、離婚手続きを円滑に進め、公平で納得のいく財産分与を実現するための重要な資料となります。
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財産目録の法的効力
財産目録自体には直接的な法的拘束力はありませんが、夫婦間で合意された内容を記録した文書として、以下のような法的意義があります。
- 合意の証拠:夫婦間で合意した財産分与の内容を証明する有力な証拠となります。
- 調停・裁判の資料:離婚調停や裁判になった場合、財産の全容を示す重要な資料となります。
- 公正証書作成の基礎:財産分与の合意内容を公正証書にする際の基礎資料となります。
財産目録の内容に基づいて実際に財産を分与する際には、不動産登記の変更など、別途手続きが必要となります。
財産目録のテンプレート

こちらのボタンからアトム法律事務所の財産目録テンプレートと記入例がダウンロードできます。財産分与の話し合いを始める前に、夫婦の財産の全体像を把握するツールとしてお使いください。
財産目録の基本構成
離婚時に作成する財産目録の基本的な構成は以下の通りです。
- 基本情報
- 職業・収入・年金
- 不動産
- 預貯金・現金・有価証券等
- 保険
- 自動車・その他の動産
- その他の財産
- 負債
- 特有財産
- 財産分与の方法と理由
- 特記事項
これらの項目を記入することで、夫婦の財産状況を包括的に把握し、公平な分配を行うための基礎資料となります。
今回紹介するテンプレートでは、まず3~8で夫婦の共有財産をリストアップし、9で双方の特有財産を記入します。婚姻中に夫婦の協力によって得た財産は、共有名義でもどちらか一方の名義でも原則として共有財産として扱います。
1.基本情報
夫婦の氏名、生年月日、婚姻期間などを記入します。また、財産分与の基準日として、別居日または離婚調停申立日のうち、早い方の日を記入します。基準日を決めておくことは、財産の評価額や対象となる財産を確定するために重要です。
詳しくは『財産分与の基準時|いつの時点の財産が対象?よくあるトラブルと解決法』をご確認ください。
2.職業・収入・年金
夫婦それぞれの職業、年収、年金情報を記入します。この情報は、財産分与後の生活設計や養育費・婚姻費用・年金分割の算定にも影響を与える重要な要素です。
3.不動産
所有する不動産の物件名、所在地、持分、現時点での評価額、取得日、帰属(夫/妻/共有)を記入します。不動産は多くの場合、夫婦の最大の資産となるため、正確な評価と帰属の決定が重要です。
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4.預貯金・現金・有価証券等
金融機関名、口座種類、基準日残高、帰属を記入します。預金通帳や証券口座の写しを添付すると、より正確な情報となります。
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5.保険
生命保険、医療保険、損害保険など、夫婦が契約している各種保険の情報を記入します。保険の種類、契約者、被保険者、受取人、そして基準日の解約返戻金の額を記載します。

弁護士
離婚後も保険を継続するか、受取人をどうするのかなどを検討する必要があります。
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6.自動車・その他の動産
自動車やその他の高額動産(美術品、宝飾品など)の品名、現時点での評価額、帰属を記入します。
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7.その他の財産
上記の項目に含まれない財産(例:退職金、知的財産権など)を記入します。
退職金については、すでに退職して支給がされている場合には預金などが財産分与の対象になります。
これに対し、将来的に支給される見込みの退職金についても財産分与の対象となると考えられます。30〜40代であっても、会社に退職金規定がある場合には、財産分与の対象となります。その場合は、原則として基準日に自己都合退職した場合の退職金を調査し、それを勤続期間と婚姻後の同居期間で按分したものが財産分与の対象となります。
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8. 負債
夫婦の負債・借金も財産分与の対象であり、財産の全体から負債に相当する額を差し引いて財産分与を行うことになります。
住宅ローンやその他の借入金について、債権者、債務の種類、基準日の残債額、返済期限、負担者を記入します。負債の分担は将来の生活に大きな影響を与えるため、慎重に協議する必要があります。
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9.特有財産
特有財産とは、婚姻前から所有していた財産や婚姻中に相続・贈与により取得した財産など、財産分与の対象とはならない個人の財産を指します。特有財産の欄に記入すると、負債と同様に、財産総額から控除されます。
どのように取得したかを明確に記載し、共有財産と特有財産を区別することで、トラブルを防止し、公平で透明性の高い財産分与が可能になります。
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10.財産分与の方法と理由
各財産の分与方法とその理由を記入します。この項目は、将来的な紛争を予防し、合意の根拠を明確にするために重要です。
11.特記事項
標準的な項目では網羅できない個別の事情や、財産分与に関する特別な合意事項などを記入します。
財産目録作成時の注意点
財産目録を作成する際は、以下の点に注意が必要です。
- 正確性:すべての情報を正確に記入し、可能な限り裏付けとなる資料(預金通帳の写し、不動産評価書など)を添付しましょう。
- 網羅性:些細と思われる財産でも、すべて記載するよう心がけましょう。
- 評価の適正性:不動産や美術品など、評価が難しい財産については、専門家の評価を受けることをお勧めします。
- 取得時期の明確化:婚姻前から所有していた財産か、婚姻中に取得した財産かを明確にすることが重要です。
- 将来の変動への考慮:退職金や年金など、将来発生する可能性のある財産についても記載を検討しましょう。
- 負債の明確化:資産だけでなく、負債も正確に記載することが重要です。
財産目録の作成には弁護士のサポートを
財産目録の作成には法律的な知識と経験が必要です。複雑なケースや高額な財産が関わる場合は、弁護士などの専門家のサポートを受けることをお勧めします。
- 法的な適切性の確保:財産分与に関する法律や判例を踏まえた適切な目録作成が可能です。
- 公平性の担保:中立的な立場から、双方の利益を考慮した公平な分与案を提案できます。
- 見落としの防止:専門家の目で財産を精査することで、見落としを防ぐことができます。
- 評価の適正性:不動産や事業用資産など、専門的な評価が必要な財産について適切なアドバイスが得られます。
- 税務上の考慮:財産分与に伴う税金の問題についても適切なアドバイスが可能です。
- 紛争予防:専門家のサポートを受けることで、将来の紛争リスクを軽減できます。
適切に作成された財産目録は、公平で納得のいく財産分与を実現し、新たな人生のスタートを円滑にするための重要な役割を果たします。財産分与でお悩みの方は、ぜひ専門家に相談し、適切な財産目録の作成を検討してみてください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
弁護士
裁判所で調停や裁判を行う場合は、その裁判所が指定する財産目録の書式を使用するのが一般的です。裁判用の書式は、管轄の家庭裁判所の窓口やホームページで入手することができます。