株式の財産分与は?離婚時の投資信託・確定拠出年金・NISAも解説

夫婦が離婚をするとき、婚姻中に二人で築いた財産(共有財産)を、原則2分の1の割合で分け合うことができます。これを財産分与といいます。
株式や投資信託などの有価証券も、共有財産であれば財産分与の対象ですが例外もあります。
この記事では、株式や投資信託が財産分与の対象になるかの基本ルール、さらに、iDeCo(イデコ)のような確定拠出年金やNISAといった資産がどう扱われるか、わかりやすく解説します。
また、特に複雑な株式の財産分与について、評価する方法と具体的な分け方、株で得た利益や自社株の扱いといった注意点も確認していきましょう。
株式や投資信託は離婚するとどうなる?
財産分与の基本ルール|共有財産と特有財産
株式や投資信託が財産分与の対象となるかは、「婚姻中に取得したかどうか」「特有財産にあたるかどうか」で判断されます。
婚姻中に取得した株式や投資信託は財産分与の対象
婚姻期間中に取得した財産であれば、夫婦どちらの名義であるかを問わず、原則として共有財産として扱われ、財産分与の対象となります。
共有財産とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産のことです。
たとえば、夫名義の証券口座であっても、妻が家事・育児を通じて生活を支えていた場合、その資産は財産分与の対象となる共有財産とみなされます。
財産分与の対象となる共有財産について詳しくは、関連記事『夫婦の共有財産|離婚時に財産分与の対象になる共有財産とは?』で具体例を交えて解説しています。
婚姻前や相続・贈与で得た財産は分与の対象外
夫婦の一方が婚姻前から有していた財産や、婚姻後に夫婦がそれぞれの親族からの相続・贈与によって取得した財産は、特有財産として財産分与の対象にはなりません。
特有財産とは、夫婦の一方が他方と無関係に取得・形成した財産をいいます。
どのような財産が特有財産なのか、特有財産をどのように証明するかは関連記事『財産分与の対象にならないものは?特有財産の具体例と証明方法を解説』で紹介しています。
株式や投資信託は基準時が重要
財産分与の対象となる財産は、基準時に存在するものでなければなりません。
株式や投資信託のように価格が変動する資産は、いつの時点を基準にするかが非常に重要です。
財産分与でいわれる基準時には、以下の2つがあります。
- 財産分与の対象財産を確定するための基準時
- 対象財産の評価額を決めるための基準時
財産分与の対象財産を確定するための基準時は、原則として別居時です。
もっとも、当事者間で合意できれば合意された時点を基準時とすることも可能です。
株式や投資信託など有価証券の評価額を決める基準時について詳しくは次章で解説します。
確定拠出年金(企業型DC・iDeCo)の扱い
確定拠出年金についても、財産分与の対象となる可能性があります。
確定拠出年金は、企業型(企業型DC)と個人型(iDeCo)の2種類に分けられます。
①企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型は企業が掛金を拠出します。
企業型確定拠出年金は、退職金の前払い的性質をもつものなので、婚姻期間中に積み立てられた部分については共有財産と判断されるケースもあります。
財産分与の対象となる金額は、基準時(別居時)における積立残高(評価額)の婚姻期間に対応する額です。
積立残高は、確定拠出年金運営管理機関(証券会社、銀行等)に問い合わせれば分かります。
②個人型確定拠出年金(iDeCo)
個人型は個人が掛金を拠出します。
婚姻中に掛金を拠出していた場合は、他方配偶者の協力があるといえるので、個人型確定拠出年金も財産分与の対象になります。
財産分与の対象となる額は、基準時(別居時)における積立残高(評価額)の婚姻期間に対応する額です。
積立残高は、確定拠出年金運営管理機関(証券会社、銀行等)に問い合わせれば分かります。
NISA(積立NISA)などの有価証券も対象
NISAも、婚姻期間中に夫婦の協力のもと築かれた財産であれば、財産分与の対象になります。債券、小切手などの有価証券も同様に取り扱われます。
NISAは投資信託をはじめとした金融商品で得た利益が非課税となる制度で、つみたて投資枠(積立NISA)と成長投資枠があります。
財産分与時(離婚訴訟なら口頭弁論終結時)における金融商品の時価が、財産分与の評価額となります。
評価額は、証券会社や信託銀行等が発行する残高証明書を取り寄せれば分かります。インターネット上で最新の評価額を確認することも可能です。
投資用不動産やゴルフ・リゾートの会員権は?
マンションやアパートなど、投資に用いるための不動産についても、財産分与の対象となる可能性があります。
投資用不動産の財産分与で注意しておきたいのが、離婚後の家賃収入を考慮する必要があるという点です。
不動産を売却してお互いに代金を分割するのか、どちらかが所有したまま代償金を一方に支払うのかを取り決めておくことが重要です。
なお、ローンの残債が不動産の時価を上回っているという場合には、原則としてプラスの財産を清算するという財産分与の特性上、該当する不動産について財産分与の対象外とすることも可能です。
ゴルフやリゾートを利用できる会員権も、財産分与の対象となる可能性があります。
評価額は、原則として離婚が成立した日の時価となります。
財産分与で株式を評価する方法
評価額を決める基準時は別居時ではない
財産分与には対象財産を確定する基準時と、評価額を決めるための基準時の2つがあります。
株式の評価額を決めるための基準時は、原則として、財産分与請求権を行使した時点です。
離婚訴訟であれば、口頭弁論終結時となります。
別居時点で保有していた株式や投資信託などの有価証券は、離婚訴訟であれば口頭弁論終結時の評価額で算定するのが原則です。
別居時から口頭弁論終結時までに株価が大きく変動したような場合は、公平の観点から、裁判所が裁量で基準時を判断するケースもあります。

弁護士
調停の場合は、当事者で合意した時点や、直近の時価で株式等の有価証券の評価額を算定します。
上場株式は原則として時価で評価する
上場株式の場合、別居時に保有していた株式数に、現在の時価をかけて評価します。
離婚訴訟であれば、口頭弁論終結時又は裁判時の時価によります。
株価は一定であることがなく、日々刻々と変化するものであり、価値が変わってしまうという点に留意してください。
非上場株式は評価方法が複雑
非上場株式の場合は、上場株式のように市場価格をもとに評価することができません。
そのため、以下のような評価方法を用いて会社の決算報告書や貸借対照表などの資料から評価することになります。
非上場株式の評価方法
- 純資産価額方式
- 類似業種比準価額方式
- 併用方式
- 配当還元方式 など
①純資産価額方式
純資産価額方式とは、今現在、「会社の借入金などの負債をすべて返済して、会社を解散させた」場合に、株主一人ひとりに返ってくる金額を評価額にするという評価方法です。
②類似業種比準価額方式
類似業種比準価額方式とは、非上場企業の株式について利益額、配当金額、純資産額の3つの要素から、類似する業種の上場企業と比較する評価方法です。
たとえば上場企業の1/3の利益額、1/3の配当金額、1/3の純資産額である非上場企業の株式については、上場企業の1/3の評価額とします。
そこに、会社規模を勘案して一定の率を乗じたものが、非上場株式の評価額となります。
③併用方式
併用方式では、会社規模に応じてそれぞれ類似業種比準価額方式、純資産価額方式の2つを併用して評価します。
④配当還元方式
配当還元方式とは、今後10年間でもらえるであろう配当金の合計額を評価額とする評価方式です。
4つの評価方式のほかに、より簡易的な評価方法として、「(総資産-負債)÷発行済み株式総数=一株あたりの価額」という計算式で株式の価値を算出する場合もあります。
非上場株式を評価する方法は複雑で、どれを選ぶかによって評価額が大きく変わることもあります。どの方法を選ぶべきか、個々の家庭の状況からも異なってくるでしょう。
「どの方法で評価すればよいかわからない」ということも考えられますので、お悩みの方は弁護士に相談することをおすすめします。
株式を財産分与する3つの方法
株式を財産分与する方法には、「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つがあります。
以下は、それぞれ3つの方法のメリット・デメリットを簡単に比較した表になります。
| メリット | デメリット | |
|---|---|---|
| 現物分割 | 売却の手間を省ける | ・場合によっては公平に分与できない ・自社株の場合は注意が必要 | 
| 代償分割 | ・公平に分与できる ・自社株の場合も安心 | 代償金が負担になることも | 
| 換価分割 | 公平に分与できる | ・非上場株式は売却が困難 ・株価が低い時期に売却せざるをえないことも | 

弁護士
それぞれの方法にはメリットとデメリットの両方があります。
最適な分割方法を選択するには、弁護士などの専門家に相談し十分に検討することが重要です。
現物分割
現物分割は、株式をそのまま分け合う方法です。
メリットとしては、売却の手間がかからないということが挙げられます。
ただし、株式の銘柄や数量が少ない場合は、公平な分与が困難になってしまうというデメリットがあります。
また、財産分与の対象が自社株の場合は、離婚後の元夫婦が自社株を持ち合うことになるので、経営上好ましくないという点がネックです。
代償分割
代償分割は、一方が株式を保有し続け、他方にその株式の評価額に相当する現金などを支払う方法です。
メリットとしては、公平な分与が可能になるということが挙げられます。また、配偶者が会社経営者である場合は、離婚後も自社株を保有し続けることになりますので、経営上の混乱を避けることができます。
ただし、代償金が多額に上る場合、資金の準備が負担になるというリスクがあるので注意が必要です。
換価分割
換価分割は、株式を売却して現金化し、その現金を分割する方法です。
メリットとしては、代償分割と同様に、公平に分与することが可能であるということが挙げられます。
ただし、非上場株式の場合は、そもそも売却することが難しいという点に注意してください。
また、売却時の市場状況によっては、株価が低い時期に売却せざるを得ないというリスクがあります。
株式を財産分与するときの注意点
婚姻前から所有していた株で儲けたお金は財産分与の対象にはならない
婚姻前から所有していた株式の配当金は特有財産に当たるため、財産分与の対象になりません。
たとえ、婚姻後に株式が値上がりをしていたとしても、婚姻前から有していた株式である限り、値上がり分も含めすべて特有財産であると考えられます。
また、婚姻中に株式を売却し、貯蓄の形にしていたとしても特有財産であることに変わりはありません。
もっとも、婚姻中に得た収入(共有財産)で株式を買い増すなどの運用を続けていた場合は、その運用益は財産分与の対象となる可能性があります。
株式の譲渡益にかかる税金はどうすべきかを考えておく
株式等を売却する場合、売却益に対し一定の税金がかかります。

弁護士
現在の税率は所得税15%、住民税5%に復興特別所得税を加えた20.315%となっています。
たとえば、100万円で購入した株式が、基準時に200万円の評価額になっていた場合、売却すると約20万円の税金がかかります。
この200万円分の株式を、代償分割する場合、分与額はいくらにすべきでしょうか。
この税金分について当事者間でどのように負担するかは、合意によって自由に決めることができます。
税金分も公平に分け合い90万円を分与する、評価額をそのまま2分の1ずつ分け合い100万円を分与するなどの方法が考えられます。
株式の財産隠しに注意する
株式を財産分与するとき、相手が財産分与の対象となる株式を隠すことがあることに留意してください。
財産隠しが疑われる場合は、本人に開示を求めても断られる可能性が高いです。証券会社の名前がわかっているときは、弁護士会照会制度や調査嘱託を利用することをおすすめします。
株式以外にも、相手が財産隠しをしている場合があります。より詳しく財産隠しについて知りたい方は、『離婚の財産隠しの手口は?よくある隠し場所と見つける方法を解説』をご覧ください。
夫が経営者の場合、自社株の扱いに注意
夫が会社経営者であるという場合は、自社株の扱いに注意が必要です。
経営者が保有している自社株は、婚姻中に得たものであれば財産分与の対象になる可能性が高いでしょう。
ただし、婚姻中に得た株式であっても、妻の貢献によるものではないとして、夫の特有財産であることを主張してくるおそれがあります。
また、株式の価値に相当する代償金や他の財産を渡すか、現物のまま分与するかの問題もあります。
現物で株式を渡した場合、妻が経営に口出しできる状態になってしまいます。これを避けるためにも代償金によって財産を分け与えるケースは多いですが、代償金を支払う場合に争いになりやすいのが株式の評価方法です。
会社が上場していない場合は、明確な時価が存在しないため、様々な評価方法の中から一つを選んで時価を決定することになりますが、どの評価方法を採用するかで争いが生じるおそれがあります。
自社株の扱いだけでなく、経営者の夫と離婚する場合は、さまざまな注意点があります。くわしくは『会社経営者の夫との離婚|3つの注意点を解説』をご覧ください。
財産分与案について考えておく
株式を財産分与するときは、どのように財産分与するかについて、ある程度見通しを立てておくようにしましょう。
財産分与の対象、分与額、分与方法について、具体的に書き出して整理するのがおすすめです。
また、離婚する場合、財産分与の他にも考えなければならない離婚条件がたくさんあります。
離婚条件の話し合いは交渉事である以上、自分の主張が100%通ることは難しいと考えておく必要があります。
ここで重要なのは、相手方がこちらの主張を拒否した場合に備え、代替案をあらかじめ用意しておくことです。
代替案を提示するには、離婚条件の優先順位を整理しておくことが大切です。
例えば、財産分与の対象に株式が含まれる場合、「株式の正確な折半にこだわるのか」「一定額の金銭の支払や不動産の分与があれば、その他の財産分与は求めないという譲歩が可能なのか」など、具体的な内容まで考えておくと交渉が進みやすいでしょう。
株式の財産分与のお悩みは弁護士へ
婚姻期間中に夫婦が協力して取得した株式や投資信託等の有価証券は、財産分与の対象です。
ただし、会社名義の株式や、結婚する前から保有していた株式については、財産分与の対象とはならない可能性があります。
財産分与の問題は、離婚問題の中でも特に激しい対立が起こりやすい分野です。
特に対象財産に株式が含まれる場合、その評価額や分与方法をめぐって、紛争が長期化する可能性があります。
株式の財産分与には、弁護士を始めとする専門家の関与が欠かせません。大きなトラブルに発展する前に、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

弁護士
確定拠出年金は原則60歳までは引き出すことができません。
財産分与するにはまとまった現金が必要になるケースも多いので、支払い能力によってはもめる原因になりやすいです。