財産分与の基準時|いつの時点の財産が対象?よくあるトラブルと解決法
離婚を決めたとき、最も揉める問題の1つが「財産分与」の話し合いです。
財産分与の際に重要になる「基準時」を正しく理解していないと、思わぬ損をすることになりかねません。
そこで、この記事では、離婚を考えている女性に向けて、財産分与の基準時とは何か、基準時をめぐりよく起こるトラブルとその解決策、財産分与で損をしないためのポイントを詳しく解説します。
離婚を考えている方がぜひ知っておくべき基礎知識をわかりやすくご説明しますので、ぜひ参考になさってください。
財産分与の「基準時」とは?
財産分与の「基準時」は2つある
財産分与の基準時は2つあります。
財産分与の基準時
- ①財産分与の対象財産を確定するための基準時
- ②対象財産の評価額を決めるための基準時
①は、いつの時点の財産を財産分与の対象とすべきか決めるための基準です。
言い換えれば、いつからいつまでに取得した財産が財産分与の対象になるのかという問題です。
②は、対象財産の評価をどの時点ですべきか決める基準です。
財産分与を行う際は、まず①の基準によって対象財産を確定し、その上で②の基準によってその財産がいくらか評価されます。
以下、それぞれの基準時について詳しく解説します。
①財産分与の対象財産を確定するための基準時
原則基準時は別居日
分与財産を確定するための基準時は、原則として別居日です。
財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産の清算を目的とするものであるため、夫婦間の経済的な協力関係がある期間に取得した財産が分与対象となります。
夫婦の経済的な協力関係が開始するのは、通常婚姻時からです。
ただ、事案によっては、婚姻前の同棲中から実質的な夫婦の協力関係が開始したと考える場合もあります。
そして、通常は別居時点で夫婦の経済的協力関係が終了すると考えられます。
実務のPoint
実務では、別居日が「令和〇年〇月〇日」と特定できない事案も少なくありません。
そのような場合、別居が開始したと考えられる月の末日を基準とします。
例)別居を開始したのが「令和6年11月頃」の場合、「令和6年11月30日」時点の財産を財産分与の対象とする。
別居していない場合の基準時
別居をしていない場合は、離婚時に存在した財産が財産分与の対象になります。
別居をせずに離婚調停の申立てを行った場合は、離婚調停の申立日が基準時となります。
単身赴任の場合の基準時
単身赴任中に夫婦関係が破綻した場合は、夫婦の経済的な協力関係がなくなった時点が基準時となります。
単身赴任開始時点が基準時となるわけではないことに注意してください。
具体的には、離婚調停申立日、どちらか一方が離婚の申し出をした日、配偶者が最後に自宅を出た日が基準日とされることが多いです。
個別具体的な事情を考慮した上で、上記とは異なる時点が基準日と判断される場合もあります。
単身赴任の場合の基準日の例は以下のとおりです。
【単身赴任の場合の基準日の例】
- 離婚調停申立日
- 当事者が離婚を申し出た日
- 配偶者が最後に自宅を出た日
- 生活費の送金をやめた時点
- 単身赴任の任期が終わったにもかかわらず同居を再開しなかった時点
- 海外赴任から帰国後、同居しなかった場合は帰国時 など
家庭内別居の場合の基準時
家庭内別居の場合の基準時は、基本的には、現実に別居した時点です。
財産分与の基準時である「別居」は、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点を意味します。
しかし、単に会話がない、寝食が別などの家庭内別居状態になったとしても、同居している以上は、夫婦の経済的な協力関係はまだ存在していると考えられます。
したがって、家庭内別居の場合も、夫婦の経済的協力関係が終了したとはっきり分かる別居時点を基準日と考えるのが一般的です。
別居と同居が繰り返される場合の基準時
別居と同居が繰り返される場合は、最終的な別居時が基準時となります。
例)令和6年11月15日に、夫婦喧嘩の末、夫が家を出た。夫は同月30日に帰宅したが、再び妻と口論となり令和7年7月10日に別居した。
→この場合、令和7年7月末時点における夫婦共有財産が財産分与の対象になります。
ただし、一度別居した後に一時的に帰宅したに過ぎない場合は、最初に別居した日を基準日と考えます。
徐々に別居状態になった場合
実務では、明確に別居が始まった事例だけでなく、夫婦関係の悪化に伴い少しずつ別居状態に移行していくケースも少なくありません。
例えば、もともと夫が仕事のために自宅以外にマンションを借りていたところ、妻との関係が悪化するにつれて、徐々に自宅に帰らなくなったというパターンです。
この場合、最後に自宅を出た日が特定できなければ、以下の時点を基準日として考えることになります。
- 遅くとも〇年〇月以降は自宅に帰っていないとわかる場合は、その前月末日
例)遅くとも令和6年11月以降は自宅に帰っていないとわかるなら、同年10月末日を基準日とする。 - 離婚調停申立日
対象財産の評価額を決めるための基準時
確定された対象財産の評価は、財産分与請求権が行使された時点です。
離婚調停を申し立てた場合は離婚調停成立時、離婚訴訟を提起したのであれば口頭弁論終結時が評価の基準時となります。
例)不動産の価格が別居時は2,000万円、離婚時は1,600万円となっていた場合、離婚時の評価額である1,600万円の不動産として財産分与を行うことになる。
ただし、預貯金や保険の解約返戻金などは別居時と分与時で基本的に価値が変動しないため、別居時の評価額で考えます。
以下、離婚訴訟を想定したときに、いつの時点の評価額を基準とするのか財産の種類ごとにご説明します。
①不動産
基準時(別居時)に所有していた不動産を、口頭弁論終結時点の時価で評価します。
時価の算定の仕方は、当事者双方が提出した複数の不動産業者の査定書の平均値とすることが一般的です。
②預貯金
別居時の残高が評価額になります。
別居時時点の残高証明書が証拠になります。
③株式
基準時(別居時)の保有数を、口頭弁論終結時点の時価をかけて評価します。
上場株式の時価は、口頭弁論終結時の直近被の取引価格の終値を用います。
非上場株式の時価は、「(総資産-負債)÷発行済み株式総数=一株あたりの価額」という計算式で株式の価値を算出する方法が実務ではよく用いられます。
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④生命保険、学資保険、医療保険など
別居時の解約返戻金相当額が評価額になります。
基準時(別居時)時点における保険会社作成の解約返戻金証明書が証拠になります。
⑤退職金
基準時(別居時)にすでに退職金が支払われている場合、預貯金や不動産として形を変えて残っているのであれば、その残存している限度において財産分与の対象になります。
まだ支払われていない場合であっても、原則として基準時に自己都合退職した場合における退職金相当額が財産分与の対象になります。
勤務先が作成した退職金計算書が証拠になります。
財産分与の基準時をめぐるトラブルと解決策
夫婦の一方が別居後に共有財産を費消した場合
別居後に夫婦の一方が共有財産である預貯金を勝手に使ってしまい、離婚時に額が減少してしまうケースは少なくありません。
この場合、お金を使った理由に一方の責任がある場合は、別居時点の額がそのまま存在するものとして計算します。
例
夫婦共有財産である夫名義の預貯金について、別居時の残高は600万円であった。別居後、夫がギャンブルに使ってしまい、離婚時の残高は300万円になっていた。
→この場合、財産分与の対象になるのは、基準時(別居時)に存在した600万円の預貯金です。
したがって、妻は600万円×1/2=300万円の分与を夫に請求できます。
夫は自分の取り分である300万円をすでに使ってしまったので分与を受けることはできません。
夫は妻に300万円を支払わなければなりません。
夫婦の一方が別居直前に共有財産を持ち出した場合
夫婦の一方が別居前に共有財産である預貯金などを持ち出し、その使い道について合理的な説明がされない場合、それに相当する額が残っていると推認して財産分与をする場合があります。
裁判例の中には、夫婦の一方が持ち出した共有財産の額を考慮した上で財産分与の額を判断したケースがあります(下記裁判例参照)。
【裁判例】東京高判平成7年4月27日
裁判所は、妻への財産分与相当額を2,510万円と設定した上で、既に妻が持ち出した3,610万円の財産額との差額1,100万円については、妻から夫に分与することとし、妻にその金額相当額の支払いを命じました。
別居後に預貯金が増加した場合
別居後、夫婦共有財産が増加した場合であっても、原則どおり別居時の共有財産が分与対象となります。
ただし、夫の不貞などが原因で別居が始まり、その間夫が十分な婚姻費用を支払わなかったがために預貯金が増加したなどの事情があれば、妻は夫に対し、婚姻費用の清算または扶養的財産分与を請求できる可能性があります。
財産分与で損をしないための準備
別居前に財産リストの作成と証拠収集をしておく
財産分与で損をしないために最も重要なのは、夫婦共有財産をすべて正確に把握することです。
特に相手名義の財産は、全く存在を把握していないものがあるかもしれないという意識を持ち、入念に調べる必要があります。
別居をする前に通帳をコピーしたり、金融機関から相手方に届いた明細書などを収集しておきましょう。
財産隠しの可能性がある場合は、弁護士に早めに相談して弁護士会照会などの専門的な手段を利用して調査を進めましょう。
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弁護士に相談して有利になる交渉を進める
これまでご説明したとおり、財産分与の基準時は別居時が原則です。
しかし、事案によっては、他の時期を基準時としたり、基準時後の事情を考慮するのが適切な場合もあります。
例えば、別居後も家族経営の事業を手伝い、夫婦共有財産の形成に寄与・貢献した場合は、当然その貢献分も財産分与に反映されるべきです。
また、清算的財産分与(簡単に言うと2分の1ルール)で解決できない問題でも、扶養的財産分与など別の視点から、分与額の増額を主張できる可能性もあります。
このような検討には、専門家である弁護士のアドバイスが欠かせません。
財産分与の問題は複雑ですのです、お一人で悩まず、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
その他にも様々な評価方法がありますが、複雑ですので気になる方は弁護士に直接相談するのがおすすめです。