勝手に別居された…婚姻費用や慰謝料は請求できる?一方的な別居の対処法

突然、配偶者が何の相談もなく別居してしまった。
そんな状況に戸惑い、今後どうすればいいのか分からず不安を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、「配偶者に勝手に別居された」と悩む方に向けて、法律の観点から適切な対処法をわかりやすく解説します。
特に「夫が一方的に家を出て行ってしまった」と悩む女性の方に向け、婚姻費用の負担、慰謝料請求の可否、そして離婚への影響など気になる点ついて詳しく解説します。
この記事を読めば、配偶者に勝手に別居された場合の正しい法的対応がわかります。大切な生活と権利を守るために、ぜひ参考になさってください。
目次
勝手な別居は法的に問題?
別居は「悪意の遺棄」に当たる?
配偶者が理由も告げず、一方的に家を出て行った場合、「悪意の遺棄」として離婚原因になったり、慰謝料を請求できる可能性があります。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく、配偶者に対する同居・協力・扶助義務(民法752条)を放棄することです。
例えば、夫が理由もなく家出して、妻や子どもの生活費を負担しない場合は、悪意の遺棄に該当する可能性が高いです。
ただし、別居の原因に正当な理由があれば、悪意の遺棄には該当しません。
正当な理由の有無は諸事情を総合考慮して判断されます。別居の原因が他方配偶者にもある場合は、別居に正当な理由があるといえるため、悪意の遺棄には該当しません。
悪意の遺棄が認められるためには、別居に正当な理由がないことに加え、一方的な別居が非難に値する行為であると主張することもポイントです。
具体的には、幼い子どもがいること、他方配偶者の収入がないこと、他方配偶者や子どもが病気に罹患していることなどを主張立証すると、悪意の遺棄と認められる可能性が高くなります。
家を出た配偶者が婚姻費用を負担せず、残された家族の生活が困窮しているという事情も悪意の遺棄が認められる方向に働きます。
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勝手に別居されたら早期に対応を
同意のない別居が突然始まった場合、精神的なショックだけでなく、生活費の問題や子どもの養育、今後の離婚協議など、多くの課題が一気に押し寄せてきます。
突然日常が一変してしまい混乱するのも無理はありません。しかし、何の対応もとらずにいると、別居を容認したと捉えられるおそれがあります。
離婚したくない場合
「別居を容認したくない」「離婚したくない」と思っている場合は、婚姻関係の修復に向けて具体的に動き出す必要があります。
別居が長期化するほど夫婦関係の修復が難しくなってしまいます。後述するとおり、相当長期の別居期間は離婚原因に当たり、強制的に離婚が認められてしまう可能性があるのです。
相手がこちらの連絡を無視する場合は、弁護士に早めに相談して、弁護士を通じて連絡すると効果的です。
離婚してもいい場合
また、「別居や離婚もやむを得ない」と考えている場合も、早急な対処が必要です。
受け身の態度のままだと、相手にとって都合のよい離婚条件で離婚が成立し、こちらだけ不利益を被ることになりかねません。
離婚を考えている場合は、自分の求める離婚条件を整理した上で、相手と冷静に話し合うことが不可欠です。
このような交渉は、精神的負担が大きいことに加え、十分な法的知識が必要です。離婚交渉を弁護士に任せると、精神的負担も一気に軽くなり、正しい法的知識のもと、ご自分にとって有利な条件での離婚の実現につながります。
別居後の婚姻費用の負担はどうなるの?
別居中も生活費は請求できる
夫が勝手に別居した場合も、婚姻から生ずる費用(婚姻費用)を請求できます。
民法760条により、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担するものとする」と規定され、婚姻費用分担義務が定められているからです。
婚姻費用は、収入の多い配偶者が、収入の少ない配偶者に対し支払う義務があります。
具体的には、夫婦の衣食住の費用、子どもの監護に要する費用、教育費、医療費、交際費など、婚姻生活を営む上で必要な一切の費用を婚姻費用として請求できます。
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別居後の婚姻費用はできる限り早めに請求する
婚姻費用は、夫婦で合意できるならばどの時点からでも構いません。
合意できない場合は、原則として「請求のときから」「別居の解消または離婚に至るまで」請求できます。
後になってから、過去の婚姻費用を支払うよう請求するのは難しいので注意が必要です。
請求時期を明確にするため、書面やメールで請求するようにしましょう。実務では、婚姻費用分担請求調停の申し立て時を、請求の始期とすることも多いです。
未払いの婚姻費用は離婚時にどうなる?
未払婚姻費用については、財産分与の中で考慮してもらうことは可能というのが判例の考え方です(最判昭和53年11月14日)。
しかし、財産分与の額は、裁判所が裁量的に判断するため、未払婚姻費用の全額が財産分与として考慮されるとは限りません。実務では、本来受け取ることのできる婚姻費用より少なめの額となることが一般的です。
正当な額の婚姻費用を受け取るためには、できる限り早めに支払い請求しておくことが大切です。
婚姻費用分担請求の手続き
婚姻費用の分担を求めるには、当事者で話し合うのが基本です。
夫婦で合意できなければ、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てるのが一般的です。
調停では、両者の収入や生活状況、子どもの有無などを踏まえて適切な分担額が決定されます。実務上、婚姻費用の額は家庭裁判所が公表している算定表を基に決定される扱いが定着しています。
調停がまとまらない場合には、審判で判断されます。審判では、算定表に従って婚姻費用の額が決められます。
相手がどれだけ支払いを拒んでいても、最終的には審判で支払義務が確定し、強制執行も可能になります。
「配偶者が勝手に別居を始め、婚姻費用も払ってくれない」とお悩みの方は、ぜひ早めに弁護士に相談して、家庭裁判所での手続きを活用することをおすすめします。
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一方的な別居は慰謝料や離婚にどう影響する?
勝手に別居した配偶者に慰謝料請求できる?
離婚を余儀なくされたことによって精神的苦痛を受けた場合、相手方に対し離婚慰謝料を請求できます。
離婚慰謝料の典型例は、不貞行為やDV・モラハラがある場合です。配偶者の一方的な別居が「悪意の遺棄」に該当し婚姻関係が破綻した場合も、離婚慰謝料を請求できます。
ただし、離婚慰謝料が認められるためには、別居の理由や別居前の夫婦関係、別居後の対応など、具体的な事情が重要になります。
証拠としては、別居の経緯を記録したメモ、LINEやメールのやり取り、第三者の証言などが有効です。
相手が婚姻費用を負担していない事実や、残された家族の生活が困窮している事実を証明するために、通帳や給与明細などの証拠があると、さらに効果的です。
離婚慰謝料の相場は、100万円〜300万程度と考えられます。悪意の遺棄を理由とする慰謝料の場合は、50万円〜100万円程度が相場となります。
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悪意の遺棄を理由に慰謝料請求が認められた裁判例
ここでは、夫の悪意の遺棄を理由に、妻の損害賠償請求が認められた裁判例をご紹介します。
①不貞行為をしていた夫が一方的に別居に踏み切った行為が、悪意の遺棄に該当すると認められた事例(東京地判平成28年3月31日)
夫は不貞相手との交際を主たる目的として、妻が夫との関係修復を望む態度を示していたにもかかわらず、一方的に別居に踏み切った。その後は、生活費の負担等、夫婦間の協力義務を果たすこともなかった。
→裁判所は、妻も就業しており、別居によって妻が直ちに経済的に困窮したとの事情はうかがわれないことを考慮しても、夫による別居は、悪意の遺棄として、妻に対する不法行為に該当すると判断しました。
結論として、不貞行為について100万円、悪意の遺棄について50万円の慰謝料をそれぞれ認めました。
②経済的援助をしてきた妻と、生後間もない子を置いて自宅を出た夫が、離婚調停を申し立て、養育費の支払いをしなかった行為が、悪意の遺棄に該当すると認められた事例(東京地判平成21年4月27日)
妻は、夫に対し、自動車運転免許取得費用などの多くの援助をして献身的に支えてきた。それにもかかわらず、夫は、妻と生後間もない子を置いて家を出て、その後、格別夫婦関係の修復を図ることもなく、離婚調停を申し立てたり、調停で決まった養育費の支払いを滞らせるなどした。
→裁判所は、夫の行為が悪意の遺棄に該当すると認め、妻の損害賠償請求を認めました。
勝手に別居した配偶者から離婚請求されたらどうなる?
婚姻関係の破綻について主な責任がある配偶者を、有責配偶者と言います。不貞行為や悪意の遺棄に及んだ場合、有責配偶者に当たる可能性が高いです。
判例によると、有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。しかし、以下3つの要件を満たすと、例外的に離婚が認められる場合があります(最判昭和62年9月2日)。
【有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件】
①相当長期間の別居
実務上、おおむね10年以上の別居期間があると有責配偶者からの離婚請求が認められやすくなります。
子どもがいない場合等は、5、6年の別居期間でも離婚が認められる可能性があります。
②未成熟子がいない
有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、原則として未成熟子(社会的・経済的に自立していない子)がいないことが必要です。
ただし、子どもが高校生以上の場合は、有責性の程度や別居期間の長さ等に鑑み、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。
③特段の事情の不存在
離婚によって相手方配偶者が、精神的、社会的、経済的に極めて過酷な状態に置かれる等の特段の事情がなければ、有責配偶者からの離婚請求が認められる可能性があります。
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離婚を見越した準備が大切
夫があなたと幼い子どもを残して勝手に別居を始めた後、生活費の支払をしていない場合、夫は有責配偶者に当たるため、夫からの離婚請求がすぐに認められる可能性は低いでしょう。
ただし、上述したとおり、別居期間が長期にわたり、子どもが成長すれば、いずれ夫からの離婚請求が認められる時期がやってきます。
そのときに備え、離婚前から将来の生活を見据えた準備を進めておくことが大切です。
あるいは、早期の離婚を受け入れる代わりに、こちらに有利な離婚条件を提示するという戦略も考えられます。早期の離婚が成立するのであれば、有責配偶者が相場より高い慰謝料や財産分与等を認容する可能性は高くなります。
いずれにせよ、離婚が認められるまでの別居期間の長さや、離婚に向けた準備、離婚条件等については、専門家である弁護士に相談するのが最も安心な方法です。
「勝手に別居されて今後どうしていいかわからない」とお悩みの方は、まずは弁護士にお気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了