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「先輩からの頼み」で受け子に?特殊詐欺事件の衝撃判決#裁判例解説
「荷物を受け取ってくれる?先輩の書類だから」
地元の先輩からの軽い頼みに、男性は深く考えずに承諾した。他人名義のアパートで一人待機し、配達員に別人を名乗って荷物を受け取る。そんな特異な状況に違和感を覚えながらも、彼は荷物を受領した。
しかし、その直後に警察官が現れた。
「あなたは何者ですか?」
男性は本名を隠し、「知らない」と繰り返すだけだった。
果たして彼は本当に何も知らない「受け子」だったのか、それとも…。
※福岡高判平28・12・20(平成28年(う)192号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 特殊詐欺の「受け子」でも詐欺の故意が認定され得る
- 違法性の認識があれば未必的故意で足りる場合がある
- 騙されたふり作戦でも未遂罪は成立する
- 仮釈放中の犯行は量刑上重く評価される
特殊詐欺事件において、末端の「受け子」にどこまで刑事責任が問われるのでしょうか。
今回紹介する裁判例は、地元の先輩から荷物の受け取りを頼まれただけと主張する男性に対し、福岡高等裁判所が詐欺未遂罪の成立を認めた注目すべき事案です。
本件では、被害者が詐欺に気づいて警察に相談し、現金の代わりに現金様の紙を入れた荷物を送付する、いわゆる「騙されたふり作戦」が実施されました。それにもかかわらず、裁判所は被告人の行為に詐欺未遂罪の成立を認めました。
この判決は、特殊詐欺における「受け子」の刑事責任や、未必的故意の認定基準について重要な指針を示しており、同種事件の今後の判断に大きな影響を与える可能性があります。
目次
📋 事案の概要
今回は、福岡高判平28・12・20(平成28年(う)192号)を取り上げます。 この裁判は、特殊詐欺グループの「受け子」として荷物を受領した男性に詐欺未遂罪が成立するかが争われた事案です。
- 被告人:20代男性(仮釈放中)
- 被害者:78歳女性
- 請求内容:詐欺未遂罪の成立
- 結果:一審無罪→控訴審で有罪(懲役2年)
🔍 事件の経緯
78歳の女性のもとに、5月上旬から中旬にかけて複数の電話がかかってきた。
電話先の男は「ソニーが建てる医療施設の債券を、当社の出資であなた名義で購入したい」と持ちかけた。
その後、「名義貸しが発覚し問題になっている」「インサイダー取引にあたる」「穏便に済ませるには50万円で登録を」と次々と別人が名乗って電話をしてきた。
最終的には「渋谷警察署の警察官」と称する者まで現れたが、女性は不審に思い、5月13日に警察に相談。「詐欺の可能性が高い」と助言を受けた。
一方、その頃被告人は前刑の仮釈放中で、ほとんど働かずにネットオークションでわずかな収入を得るだけの生活を送っていた。地元の先輩であるAから時々声をかけられ、食事をおごってもらったりする関係だった。
5月19日夕方、被告人はコンビニでAと合流した後、他人名義で借りられたアパートの鍵を渡され、「荷物を受け取ってくれ」と頼まれた。被告人は詳しい事情を聞かずに了承し、一人でその部屋で待機することになった。
※福岡高判平28・12・20(平成28年(う)192号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
福岡高等裁判所は、一審の無罪判決を破棄し、被告人に懲役2年の実刑判決を言い渡しました。
裁判所は「本件のように特異な状況において荷物を受領する場合、そのような行為態様から通常想定される違法行為の類型には本件のような特殊詐欺が当然に含まれる」と判示し、被告人に詐欺の未必的故意があったと認定しました。
主な判断ポイント
詐欺の未必的故意の認定
裁判所は、被告人の荷物受領行為が極めて特異であったことを重視しました。他人名義のアパートで、面識のない住人の代わりに、配達員に別人を装って荷物を受け取るという状況から、「何らかの違法行為に関わる可能性の認識」があったと認定しています。
そして、このような特異な行為態様からは「特殊詐欺が当然に含まれる」として、詐欺に関与する認識があったと判断しました。
「騙されたふり作戦」における未遂犯の成立
被害者が詐欺に気づいて現金様の紙を送付していた点について、裁判所は「未遂犯の成否を決するには、受領行為の時点でその場に置かれた一般通常人が認識し得た事情、及び行為者が特に認識していた事情を基礎として当該行為の危険性を判断するのが相当」と判示。
被害者が騙されたふりをしているという事情は「一般通常人において認識し得ず、被告人も認識していなかった」として、この事情を判断から除外し、詐欺未遂罪の成立を認めました。
共同正犯の成立
被告人とAとの間の共謀について、「組織の下位者に対し情報を十分に提供しないまま、暗に犯罪への協力を要請し、これを受けた当該下位者において、うすうす上位者の犯罪的な意図を察しつつ、詳細を確認しないまま犯行に参画する」場合でも共同正犯が成立するとしました。
👩⚖️ 弁護士コメント
詐欺の故意認定における新たな基準
本判決で注目すべきは、特殊詐欺の「受け子」に対する故意の認定基準です。従来、詐欺の故意が認められるためには、詐欺に関与するという具体的な認識が必要とされてきました。
しかし本判決は、「特異な状況での荷物受領」という行為態様から、「通常想定される違法行為の類型には特殊詐欺が当然に含まれる」として、より広い範囲で故意を認定しています。
これは実務上重要な意味を持ちます。今後、特殊詐欺の受け子として関与した者が「詳しい事情は知らなかった」と主張しても、行為の特異性や状況から故意が推認される可能性が高くなったといえるでしょう。
未遂犯における危険性判断の明確化
「騙されたふり作戦」における未遂犯の成立についても重要な判断を示しています。被害者が詐欺に気づいていたという事情があっても、行為者がそれを認識していなければ、その事情は危険性判断から除外されるとしました。
警察の捜査手法として用いられる「騙されたふり作戦」の有効性が法的にも確認されたといえます。
量刑における考慮要素
本件では懲役2年の実刑が言い渡されましたが、裁判所は量刑において、仮釈放中の犯行であることを重視しています。
一方で、被告人が犯行計画の詳細を把握していなかったことや、Aに利用された側面があることなども考慮し、検察官の求刑(懲役3年6月)よりも軽い刑を選択しています。
📚 関連する法律知識
特殊詐欺における共犯の類型
特殊詐欺は複数の役割分担により実行される組織的犯罪です。
主な役割として、被害者に電話をかける「架け子」、現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」、ATMから現金を引き出す「出し子」、犯行に使用する道具を調達する「道具調達役」などがあります。
本件の被告人は「受け子」として関与したものです。
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未必的故意の概念
未必的故意とは、犯罪事実の発生を積極的に意図してはいないものの、その発生を認識し、発生しても構わないと認容している心理状態をいいます。
確定的故意(積極的に犯罪を意図する場合)と区別されますが、刑法上は同様に故意として扱われます。
特殊詐欺事件では、末端の実行者が全体の犯行計画を詳細に把握していないことが多いため、未必的故意の認定が重要な争点となることが頻繁にあります。
🗨️ よくある質問
Q.「知らなかった」と主張すれば無罪になるのですか?
本判決が示すように、詳細を知らなかったという主張だけでは無罪にはなりません。
行為の態様や状況から違法性の認識があったと推認されれば、未必的故意が認定される可能性があります。
特に、常識的に考えて不自然・異常な状況での行為については、より厳しく判断される傾向にあります。
Q.騙されたふり作戦で逮捕された場合、無罪主張はできないのですか?
本判決によれば、被害者が騙されたふりをしていたという事情は、行為者が認識していなければ考慮されません。
したがって、行為時点で一般人が認識できる範囲での危険性判断により、未遂犯として処罰される可能性があります。ただし、具体的な事案により判断は異なるため、詳細な法的検討が必要です。
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