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補助金詐欺幇助で有罪判決を受けた印刷会社社長の事例#裁判例解説
「またお願いします」
田中からの短い依頼の電話に、印刷会社を経営する被告人は一瞬躊躇した。震災復興補助金を利用してF市にLED工場を建設するという事業—それは被告人自身が提案し、補助金申請の手続きまで支援したプロジェクトだった。
「ペーパーマージン取引をお願いしたい」
通常とは逆向きの物の流れ、異常に短い期間での資金移転、そして900万円という高額なマージン。書類上の取引を装って、約3億円もの資金を移動させる仕組み。
「やばい取引なのではないか」
被告人の脳裏をよぎった不安は、現実のものとなった…。
※福島地判平30・6・5(平成29年(わ)133号・157号)をもとに、構成しています。名前は仮名です
この裁判例から学べること
- 補助金詐欺の幇助行為は、直接的な申請行為でなくても処罰される
- 正当な取引を装った資金移転は、補助金詐欺の重要な構成要素となる
- 未必の故意でも幇助犯は成立する
今回ご紹介する福島地裁の判決は、補助金詐欺の主犯ではないものの、正当な取引を装った資金移転によって詐欺を容易にしたとして、印刷会社の社長が詐欺幇助罪で有罪判決を受けた事例です。被告人は約3億円の資金移転に協力し、900万円のマージンを得ていました。
この事例を通じて、補助金詐欺における幇助行為の成立要件や、「正当な取引の仮装」がなぜ詐欺の重要な構成要素となるのかを詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、福島地判平30・6・5(平成29年(わ)133号・157号)詐欺幇助被告事件を取り上げます。
この裁判は、ふくしま産業復興企業立地補助金とF市企業立地助成金の詐欺事件において、正当な取引を装った資金移転により詐欺を容易にしたとして、印刷会社社長が詐欺幇助犯として処罰された事案です。
- 被告人:印刷業を営む株式会社Aの代表取締役
- 被告人(正犯者):販売会社Bの代表取締役田中と、LED関連事業会社Dの取締役
- 請求内容:検察官による詐欺幇助罪での起訴
- 結果:懲役2年6月・執行猶予4年の有罪判決
🔍 裁判の経緯
「震災で被災した工場を再建するために、補助金を活用してF市にLED工場を建設してはどうか」
商工会議所の副会頭も務めていた被告人が、長年取引関係にあった田中に提案したのが事の始まりだった。被告人は自身も震災で被災し、同じ補助金制度を利用して工場を再建した経験があったのだ。
「申請手続きを支援する中小企業診断士を紹介します。つなぎ融資についても、地元金融機関の幹部に話をつけましょう」
被告人は田中の補助金申請を積極的に支援した。しかし、やがて田中から予想外の依頼が舞い込む。
「ペーパーマージン取引をお願いしたい。Aさんの会社を通して、DからBに資金を移したいんです」
最初は断った被告人だったが、「よほど事情があるのだろう」と考え直し、協力することを決めた。
平成25年10月から翌年3月にかけて、被告人は3回にわたって虚偽の請求明細書を作成。「F工場A及び設備工事」などと記載し、実際には納品されていない商品の取引を装った。
「やばい取引なのではないか」
物の流れが通常と逆向きであること、送金間隔が異常に短いこと、そして900万円という高額なマージンを得ることに、被告人は不安を感じていた。しかし、既に動き出した仕組みを止めることはできなかった。
結果として、D社から株式会社Aを経由して株式会社Bに、合計3億近くの金銭が送金された。この資金移転により、田中らは投下固定資産の取得実績を仮装し、福島県から約10億円超、F市から5,000万円の補助金を詐取することに成功したのである。
※福島地判平30・6・5(平成29年(わ)133号・157号)をもとに、構成しています。名前は仮名です
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、被告人の行為が詐欺幇助に該当すると判断しました。
「本件取引は、田中及び佐藤において、B社が本件補助金等を不正に受給するために、投下固定資産の取得取引の実績を仮装し、取得費用の水増しが行われていることの発覚を妨げるための取引の仕組み(循環取引)の一部分を占めるものであるから、これが田中及び佐藤による正犯行為を容易にする性質のものであったことは明らかに認められる」と認定しました。
主な判断ポイント
幇助行為の該当性
本件取引は正当な取引を仮装してD社からB社に資金を移転させるものであり、補助金詐欺のための循環取引の一部として正犯行為を容易にしたと認定されました。実際には納品されていない物品の取引を装い、投下固定資産の取得実績を仮装する効果がありました。
幇助の故意の認定
被告人は補助金制度の仕組みを熟知し、本件取引が補助対象事業に関連することを認識していました。また、物の流れが通常と逆向きであること、送金間隔が異常に短いこと、高額なマージンを得ることから、正常な取引でないことを認識していたと判断されました。
量刑判断
正犯行為の被害額が11億円余りと極めて多額で、震災復興を阻害する行為として社会的影響も大きいものの、被告人の幇助の故意は未必的なものにとどまり、申請行為そのものに直接関連するものではないことなどを考慮し、懲役2年6月・執行猶予4年が相当と判断されました。
👩⚖️ 弁護士コメント
補助金詐欺における幇助行為の範囲
この判決で注目すべきは、補助金の申請書類に直接関与していない行為でも、詐欺全体の仕組みにおいて重要な役割を果たしていれば幇助犯が成立することを示した点です。
被告人が作成した請求明細書は補助金の交付申請には直接使用されませんでしたが、投下固定資産の取得実績を仮装し、詐欺の発覚を防ぐ効果があったと認定されました。
未必の故意でも成立する刑事責任
被告人は正犯者らの具体的な詐欺手法について詳細に認識していたわけではありませんが、取引の異常性を認識し、何らかの不正に関連する可能性を認識していれば、未必の故意による幇助犯が成立します。特に専門知識を有する事業者には、より高い注意義務が課せられることがこの事例からも読み取れます。
📚 関連する法律知識
補助金詐欺の構造と幇助犯
補助金詐欺は、多くの場合、複数の企業や個人が関与する複雑な仕組みで実行されます。
申請書類の作成、取引実績の仮装、資金の循環など、各段階で異なる協力者が必要となることが多く、直接申請に関与しない者でも幇助犯として処罰される可能性があります。
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循環取引による詐欺の仕組み
本件では、B社→D社→A社→B社という資金の循環により、実態のない設備投資が行われたように装われました。
このような循環取引は、補助金詐欺における典型的な手法の一つで、税務調査や監査での発覚を免れる目的で用いられることが多くあります。
未必の故意の認定基準
刑法上の故意は、確定的故意と未必の故意に分かれます。未必の故意は、犯罪事実の発生を積極的に意図していなくても、その可能性を認識し、それでも行為を実行した場合に認定されます。
本件では、被告人が取引の異常性を認識していたことが、未必の故意認定の決め手となりました。
🗨️ よくある質問
Q.補助金申請に直接関与していなくても、詐欺幇助罪で処罰されるのでしょうか?
詐欺幇助罪で処罰される可能性があります。
補助金詐欺は複雑な仕組みで実行されることが多く、申請書類の作成以外の段階で協力した場合でも、詐欺全体を容易にしたと認められれば幇助犯が成立します。
特に、取引実績の仮装や資金の循環に関与した場合は要注意です。
Q.具体的な詐欺の手法を知らなかった場合でも、刑事責任を問われるのでしょうか?
詳細な手法を知らなくても、取引の異常性を認識し、何らかの不正に関連する可能性を認識していれば、未必の故意による幇助犯が成立する可能性があります。
特に、高額なマージンを得る場合や、通常とは異なる取引の流れがある場合は、より注意が必要です。
Q.長年の信頼関係がある相手からの依頼だった場合、情状は考慮されるのでしょうか?
人間関係は量刑において一定程度考慮される要素ですが、犯罪の成立そのものを妨げるものではありません。
むしろ、信頼関係を悪用した犯罪として、より重く処罰される場合もあります。信頼関係があるからこそ、慎重な判断が求められます。
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一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了