熱中症で労災認定を受けるポイント|会社や職場で仕事中に熱中症になったら | アトム法律事務所弁護士法人

熱中症で労災認定を受けるポイント|会社や職場で仕事中に熱中症になったら

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熱中症労災認定をうけるポイント

毎年、記録的な暑さに見舞われる日本列島では、熱中症に十分な警戒が必要です。そんななか、職場で仕事中に熱中症によって体調を崩した方も多いことでしょう。

業務中に熱中症になったら、労災として認定されることになります。労災認定を受けることによって、安心して治療に専念をすることが出来るでしょう。

この記事では、熱中症で労災を受けるための要件やポイント、労災認定されないときの対処法、労災保険で補償が十分でないときにとるべき行動について解説します。お役に立てれば幸いです。

熱中症で労災認定を受けることができる

肉体労働の方や外回りをされている方は、気を付けないと熱中症により命を失うということもあります。
また、作業内容によっては屋内で作業されている人でも、熱中症となる危険性があるのです。

こういった危険性のある熱中症ですが、多くの人は労災認定までされておりません。そこで、熱中症で労災認定をすることが出来るのか、認定の要件について解説します。

熱中症の労災認定要件は大きく2つ

熱中症とは、高温多湿な環境下で体温調節機能等が低下したり、水分や塩分のバランスが著しく崩れるなどにより発症する障害の総称をいいます。

労働基準法施行規則別表第1の2第2号8には、「暑熱な場所における業務による熱中症」が業務上の疾病として規定されています。

この要件に該当するためには、次の二点が必要です。

(1)熱中症を発症したと認められること(医学的診断要件)
(2)上記(1)の発症が、業務に起因すること(一般的認定要件)

それぞれをもう少し詳しくみていきたいと思います。

(1)医学的診断要件

医学的診断要件は、以下の点によって判断をされると考えられております。

  • 作業条件及び温湿度条件などの把握
  • 一般症状の視診及び体温の測定
  • 作業中に発症した頭蓋内出血、脳貧血、てんかん等による意識障害などの識別診断

このような医学的診断要件に該当することにより、他の疾病では無く、熱中症を発症したということが認定されます。

(2)一般的認定要件

一般的認定要件は、以下の点を考慮して判断すると考えられております。

  • 業務上の突発的又はその発生状態を時間的、場所的に明確にしうる原因が存在すること
  • 当該原因の性質、強度、これらが身体に作用した部位、災害発生後発病までの時間的間隔などから災害と疾病との間に因果関係が認められること
  • 業務に起因しない他の原因により発病したものでないこと

これらの要件を総合的に判断して、一般的認定要件に該当するか判断します。

以上の医学的診断要件と一般的認定要件という二つの要件に該当すると判断された場合、労災保険から補償を受けることができます。労働災害であることが認定されれば、治療費などについて労災補償給付がなされます。

労災申請の手続きについて詳しく知りたい方は『業務災害が起きた際の手続きを紹介|労災保険給付の請求をしよう』の記事をご覧ください。

熱中症で労災からもらえる給付の種類と金額

労災認定によって受け取れる給付の主な種類と金額を紹介します。

療養補償給付

熱中症の治療で治癒するまでに必要な費用の全額が受け取れます。

労災指定病院で治療を受けた場合は、治療費を窓口で支払う必要がありません。治療行為そのものを現物給付として受け取る形となります。
労災指定病院以外で治療を受けた場合は、治療費を全額いったん立て替えて、あとから労災保険の申請を行い給付を受ける流れとなるので注意しましょう。

療養補償給付について詳しくは『労災の治療費は療養(補償)給付から|給付内容や手続きについて解説』の記事をご覧ください。

休業補償給付

療養のために仕事ができず賃金を得られない損害に対する給付で、過去3ヶ月の平均賃金の80%程度を休業4日目から受け取れます。
休業補償給付について詳しくは『労災保険の休業補償|給付条件や計算方法を解説』の記事をご覧ください。

障害補償給付

後遺症が残った場合の給付で、障害の程度に応じて決められた金額を受けとれます。
障害補償給付について詳しくは『労災の後遺障害等級|認定基準と障害(補償)給付の金額早見表』の記事をご覧ください。

遺族補償給付

労災で労働者が死亡した場合の遺族に対する給付で、遺族の人数に応じて決められた金額を受け取れます。

これら給付の他にも、葬祭料・傷病補償年金・介護補償給付といった項目もあげられます。労災で労働者が死亡した場合について詳しくは『労災による死亡事故で遺族が行うべき労災保険の申請方法』の記事をご覧ください。

給付内容ごとに必要な書類を作成し、労働基準監督署に提出することで給付を受けることが可能となります。 
労災認定の申請手続きの流れについて知りたい方は、下記の関連記事をご覧ください。

熱中症が労災認定されないなら不服申立て

熱中症を労災申請したが認定されなかったり、認定されても支給内容に納得できなかったりする場合には、「不服申立て」を行うことができます。

労災の決定に関して不服がある場合は、以下の3つの方法をとることができるのです。

  1. 審査請求
    労災に関する決定について再度、審査するよう請求する手続きのこと
  2. 再審査請求
    審査請求の結果を再度、審査するよう請求する手続きのこと
  3. 行政訴訟
    審査請求や再審査請求の結果について、国を相手取り裁判を提起すること

熱中症が労災認定されなくてもすぐに諦める必要はありませんが、認定結果をくつがえすのは容易ではありません。そのため、一番最初の申請手続きの段階から、該当の熱中症が労災の認定要件を満たしていることを主張していくことが大切です。

不服申立てについて詳しく知りたい方は『労災の不支給決定や支給内容に納得できない場合は不服申立てができる』の記事をご覧ください。

こんな場合の熱中症は労災に該当する?

熱中症が生じやすい環境としては、猛暑の日に屋外で長時間の作業をするときはもちろん、高温多湿になるような閉めきった室内の職場でも危険性が高いです。

このように、屋外や室内で作業中に熱中症になったら、業務を起因として熱中症を発症した可能性が高いことがわかりやすいので、労災に該当するイメージも付きやすいでしょう。

では、通勤中や帰宅後に熱中症の症状が現れたら労災として認められるのでしょうか?

Q1.通勤中に熱中症で倒れたら?

通勤中に熱中症になった場合も、通勤災害として労災の対象となる場合があります。

就業のために合理的な経路および方法による移動中に熱中症を発症し、さらに以下のような要件を満たしている場合に通勤災害として認められることになります。

  • 住居と就業場所との往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 単身赴任先と家族の住む住居間の移動

通勤の途中で合理的な経路を逸れたり、通勤と関係ない行為を行ったりすると、通勤に該当しないと判断されることになるので注意が必要です。

通勤災害が認められる要件などについて詳しくは、関連記事『通勤災害とは何か|寄り道で怪我しても労災?』をあわせてご確認ください。

Q2.会社から帰宅後に熱中症になったら?

会社から帰宅後に熱中症になった場合は、いつどこで熱中症を発症するに至ったのかによって労災認定されるかが変わってきます。

業務中や通勤中からめまいやふらつきなどの体調不良を感じており、帰宅してから熱中症の症状が改善しなかったり、悪化したりしたような場合には労災の対象となる場合があるでしょう。

単純に、帰宅後の自宅内が暑くて熱中症になったような場合は労災として認められません。

また、業務とは関係ない、労働者側の個人的なことが原因で熱中症になった場合は労災認定されません。たとえば、会社からの帰宅途中にお店に立ち寄り飲酒したことで脱水症状に陥り、熱中症になったような場合も労災には該当しません。

ただし、会社命令による飲み会の後に熱中症を発症したような場合は、業務との関連性があるとして労災として扱われる可能性もあるでしょう。

Q3.会社が熱中症対策してくれない!

会社には適切な熱中症の予防対策を行い、従業員が熱中症にならないよう労働環境を整えるという安全配慮義務を負っています。
そのため、会社が熱中症対策をしてくれないのであれば、安全配慮義務違反が生じていることになるのです。

会社の安全配慮義務違反が原因で熱中症となった場合には、労災保険による給付だけでなく、会社に対する損害賠償請求を行うことが可能な場合があります。

熱中症に関して会社が守るべき安全配慮義務の内容や、会社に対する損害賠償請求については後ほど詳しく解説していますので、引き続きご覧ください。

熱中症による労災が認められた事例を紹介

屋外の作業における熱中症の事例

屋外作業中に発生した熱中症が労災であるとされた事例として、以下のようなものがあります。

  • 朝方から木造家屋建築工事現場で組み立て作業を行っていたところ、熱中症となった
  • 道路工事現場の交通誘導業務を行っている最中に熱中症となった
  • 上水道の布設工事における送水管の清掃作業中に、管内が気温の上昇により暑くなり熱中症となった

炎天下にもかかわらず、屋外で長時間の作業を行っていることが原因となっています。
また、休憩が十分に実施されていなかったことも原因となっていることが多いようです。

屋内の作業における熱中の事例

屋内作業中に発生した熱中症が労災であるとされた事例として、以下のようなものがあります。

  • パン製造工程において監視作業を行っていたところ、高温となる作業位置で監視していたために熱中症となった
  • 漁船の機関室内で作業を行っていたところ、機関室内の温度が上昇したために熱中症となった
  • 工場内で鉛インゴットの製造作業を行っていたところ、溶鉱炉の過熱により熱中症となった

室内でありながら作業機械や室内自体が高温となり、そのような作業環境で長時間が経過したために熱中症となっています。
また、室内の温度を調整するための排気装置や冷却装置が十分に機能していなかったために室内が高温となってしまったことも、原因となっていることが多いようです。

熱中症の症状や対策法

熱中症がどのような症状なのかをきちんと理解をすることが、労災請求する際に必要となります。ここでは、基本的な熱中症についての解説するので、一読ください。

熱中症は3段階に分類される

日本救急医学会熱中症分類では、暑熱による障害を一括して「熱中症」と捉えた上で、重症度に応じて3段階に分類をされております。

分類1|軽度

分類1は、軽度の状態を指し、熱失神、日射病、熱痙攣がそれにあたります。
手足のしびれ、めまい、立ちくらみなどの症状が生じます。

分類1では、現場にて対応可能な病態と考えられておりますが、油断は禁物です。 
症状が出たのであれば直ちに涼しい場所に移動させ、水分補給や体を冷やすなどの対応を取りましょう。

症状が悪化した場合には、病院への搬送を行うべきです。

分類2|中等症

分類2は、中等症のもので、熱疲労に該当します。
頭痛、吐き気、倦怠感などの症状が生じます。

大量の水分が奪われた状態ですので、危険な状態であると考えられております。速やかに医療機関への受診が必要です。

分類3|最重症

分類3は、最重症の病状をさしており、熱射病に該当します。
体がけいれんする、意識障害などの症状が生じます。

中枢神経症状、肝腎機能障害などの臓器障害を呈するものであり、医療機関での診療が必須の状態です。

熱中症を防ぐために個人で出来ること

熱中症を防ぐために個人でできることはしっかりと予防対策を行いましょう。

最も大切なのは、水分や塩分補給です。
また、涼しい服装で、日陰を利用するなどしてこまめに休憩をしましょう。
特に、気温の高い日や作業場が屋外である場合には、気を付けなければなりません。

身体は徐々に慣れていくものでありますので、突然暑くなった初夏などはまだ身体が暑さに慣れていないこともあります。このような時期は、より慎重に作業に従事することが必要となります。

また、職場が一般的に涼しい環境を提供していたとしても、職場内では人によって暑さの感じ方も異なるでしょう。人より暑さを感じやすい方は、冷やしたタオルを首に巻いたり、小型の扇風機を使ったりするなどして暑さ対策を工夫してみることをおすすめします。

熱中症を防ぐために会社が守るべき安全配慮義務

会社には、労働者を熱中症にさせないように対策を行うという安全配慮義務を負っています。
そのため、会社がこのような義務を怠っている場合は、労働者の側から、積極的に熱中症を防止するための施策を会社に提案して良いことになります。以下の対策を取っていない場合は会社に提案をすることも検討をしましょう。

厚生労働省による熱中症予防対策案としては、以下のようなものが挙げられております。

WBGT値を活用と値に応じた対応

WBGT値とは、暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数であり、この値の基準値を超える高温多湿の作業場所においては、「熱を遮る遮へい物」、「直射日光・照り返しを遮ることができる簡易な屋根」、「通風・冷房設備」の設置を行うべきとされています。

休憩場所は整備しているか

高温多湿の作業場所やその近隣に冷房を備えた休憩場所を設ける。
また、体を適度に冷やすことのできる氷やシャワーなどの設備を設けるといった対策を行うべきとされています。

適切な作業管理を行っているのか

高温多湿の作業場所における作業時間の短縮や休憩時間の確保がなされているのか。
また、熱中症になりやすい作業をなるべく避けているのかといったことから判断されます。

熱への順化による対策の有無

徐々に熱になれさせて、環境に対応できるようにする期間を計画的に設けることをいいます。

水分や塩分の補給は十分か

自覚症状の有無にかかわらず、作業の前後や作業中に定期的な水・塩分を補給するように指示や誘導を行っていることをいいます。

熱中症を防ぐ服装を着用させているか

クールジャケットなどの透湿性・通気性の良い服装を着用させているのか。
直射日光が当たる作業を行う際に通気性の良い帽子を着用させているのか。

労働者の健康状態に対する配慮

定期的な健康診断、日常の健康管理への指導、作業開始前や作業中の巡視などによって労働者の健康状態を確認するといった作業を行っているかどうかにより判断される。

労働衛生教育を行っているか

作業を管理するものや労働者に対して、以下のような事項の教育をあらかじめ行っているか

  1. 熱中症の症状
  2. 熱中症の予防方法
  3. 緊急時の救急措置
  4. 熱中症の事例

もちろん、全ての対策を取っていないからといって、直ちに会社に安全配慮義務違反が認められるわけではありませんが、会社の安全配慮義務違反を検討する上での一つの参考になります。

熱中症による会社責任|損害賠償請求の方法

業務中に熱中症を起こしてしまった場合、労災請求をするだけでは無く、会社に対して損害賠償請求をすることも考えられます。労災では、以下に説明するように一部の賠償金しか支払われません。

ここでは会社への損害賠償請求について解説をいたします。

安全配慮義務違反を理由とする請求

上記でも少し記載をしましたが、会社には安全配慮義務がありますので、この義務に反したことにより労働者が熱中症となった場合は、安全配慮義務違反により生じた損害について損害賠償請求を行うことが可能です。

会社の義務としては、安全に労働を出来る環境を作るという安全配慮義務の他にも、熱中症などを発症した場合に適切な救護活動を行う救護義務もあると考えられているといえます。

会社がこれらの義務に反して損害が生じてしまった場合には、損害賠償の請求も検討をしましょう。

熱中症の原因に安全配慮義務違反が認められた判例

伐採・清掃作業中に、熱中症を発症して従業員が死亡した事案です。

造園業を営む会社は、事故当時の気温や湿度が厳重警戒レベルにあったにもかかわらず死亡した従業員に作業をつづけさせ、具合が悪くなったことを認識した後も放置し、心肺停止状態まで救急車を呼ぶなどの措置を取らなかったとして、安全配慮義務違反が認められ、損害賠償請求が一部認められました。(大阪高等裁判所 平成26年(ネ)第1206号 損害賠償請求控訴事件 平成28年1月21日)

従業員を雇う使用者側には、熱中症が疑われる従業員がいる時は適切に休憩をとらせ、回復しないのであれば早急に救急車を呼ぶといった義務があるのです。

損害の具体的な内容

損害請求をする際の具体的な内容としては以下の様なものが挙げられます。

  • 治療関係費
    治療代、手術代、入院費用など
  • 休業損害
    仕事ができなくなったことで生じる損害
  • 逸失利益
    後遺障害が残り以前のように仕事ができなくなったことで生じる損害
  • 慰謝料
    被害者の精神的苦痛を金銭化したもの

このうち、治療関係費については、労災保険から支払がありますが、休業損害や逸失利益は被った損害の一部しか負担をしてもらえません。

また、慰謝料については労災保険からは全く補償されないため、慰謝料の請求のためには、会社に損害賠償請求をする必要がでてきます。
特に後遺障害が発生したり、死亡した場合などは、多額の損害賠償額が認められることもあります。

慰謝料の相場額について知りたい方は『労災事故で慰謝料を請求できる?相場額は?』の記事をご覧ください。

具体的にどのような損害をいくら請求することができるのかについて正確に知りたいのであれば、専門家である弁護士に相談をしてみると良いでしょう。

会社への請求は話し合いから

実際にどのようにして会社へ損害賠償請求をするのかというと、まずは、上司との話し合いになるかと思います。請求というと、内容証明郵便を出して、訴訟提起をするというイメージですが、あくまでも話し合いが基本になります。

会社が話し合いに全く応じない、法律上の話で良く分からないということがあれば弁護士に相談をしてみましょう。

アトム法律事務所の無料相談

労災に該当する熱中症によって、重大な後遺障害が残ったりご家族が亡くなられてしまい、会社に対する損害賠償請求を検討している場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

弁護士に相談をすることで、より良い解決策を提案してくれます。会社への請求がうまくいかない方は一度ご相談ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了