有価証券の相続にも税金はかかる|各証券ごとの相続税評価を解説

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有価証券の相続

亡くなった方から相続した株式などの有価証券も、相続税の課税対象となります。

有価証券にどのくらい相続税がかかるかを調べるには、まず有価証券の種類ごとに相続税評価額を求める必要があります。

この記事では、有価証券における相続税評価額の計算方法や、相続の流れについて解説していきます。

また、相続した株式を売却したときにかかる税金についてもご紹介します。

同じ有価証券でも、評価方法によりかかる相続税が変わってくるケースもありますので、有価証券を相続した方や、これから相続するかもしれない方はぜひ一度ご覧ください。

有価証券の相続税について

有価証券とは

有価証券とは、財産的価値のある権利が明記されている証券や証書のことです。

以前は、株式について株券が発行されていたため遺産整理などで株券を発見することができましたが、現在では株券が電子化されたため、紙の株券のように手に取れるものはなくなりました。そのため、被相続人が亡くなった後、株式の配当金などをきっかけに初めて株式の存在に気がつく、というケースも珍しくありません。

相続税とは

相続税とは、被相続人(亡くなった方)から相続・遺贈により財産を取得したときに、その取得した財産に課される税金のことをいいます。

相続税には相続した課税対象の財産から、一定金額を控除できる「基礎控除」という制度が存在します。そして相続税は、相続した課税対象の財産から、この基礎控除を差し引いた額に対してかかります。

すなわち「相続した課税対象の財産の合計金額が、基礎控除額を上回った場合に」相続税が発生するということです。

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相続財産として課税対象になる有価証券

被相続人が遺した有価証券の中で、相続財産として課税対象になるのは以下のようなものです。

  • 株式
  • 公社債
  • 投資信託

ほかにも外国債券や、厳密には有価証券には含まれませんが、暗号資産やFXの保有残高なども課税対象の相続財産として扱われます。

有価証券の相続税評価額

株式

株式は、発行した会社が上場しているか否かで相続税評価額の求め方が異なります。

まず、上場株式は以下の4つの価格のうち、もっとも低い価格を相続税評価額とします。

  • 被相続人が死亡した日の最終価格
  • 被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の平均額
  • 被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の平均額
  • 被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の平均額

なお、日曜日など市場の休場日には最終価格がありません。そのため、休場日に被相続人が亡くなった場合には、「被相続人が死亡した日の最終価格」の金額は亡くなった日から、もっとも近い日の最終価格となります。たとえば、休場している日曜日に亡くなった場合に用いるのは、日曜日の翌日となる月曜日の最終価格です。

次に、非上場株式の相続税評価額は、「原則的評価方式」と「配当還元方式」という方式で求められます。

原則的評価方式とは、会社自体の価値を評価する方式で、創業者一族が株を相続する場合など会社への支配権が強い方が相続する場合に用いられます。

一方で配当還元方式は配当による利回りを重視した評価方法で、少数株主からの相続が行われる場合に用いられます。

株式の相続税評価額について詳しくは、関連記事『株式の相続税評価額はどう計算する?上場・非上場株式をそれぞれ解説』をお読みください。

公社債

公社債とは、国や公共団体、会社などが運営資金を調達するために発行する有価証券のことです。発行元がどこかによって相続税評価額の求め方に違いはありません。公社債の評価方法は「利付債」か「割引債」か、そして「上場」か「非上場」か「その他」か、の組み合わせで定められています。

利付債とは、定期的に利子を受け取ることができる債券です。対して割引債とは債券発行のときに一定額割り引かれており、満期を迎えた際に額面金額が支払われるという仕組みの債券です。

それでは各組み合わせによる公社債の評価方法を見ていきましょう。

  • 上場されている利付公社債
    (課税時期の終値+既経過利息)×券面額/100円
  • 上場されていない利付公社債
    (課税時期の平均値+既経過利息)×券面額/100円
  • その他の利付公社債
    (発行価額+既経過利息)×券面額/100円
  • 上場されている割引公社債
     課税時期の終値×券面額/100円
  • 上場されていない割引公社債
     課税時期の平均値×券面額/100円
  • その他の割引公社債
     {発行価額+(額面額-発行価額)×発行日から課税時期までの日数/発行日から満期までの日数}×券面額/100円

なお、個人向け国債も社公債のうちの一つです。個人向け国債は満期まで保有していると元本が返ってくるほか、半年ごとに利益をもらうこともできます。

個人向け国債の相続税評価額を求めるには、以下の計算式を用います。

額面金額+既経過利子相当額-中途換金調整額

既経過利子相当額とは、利子が発生してから半年未満に再度発生した利子のことをいいます。これによって、利子は発生していてもまだ受け取っていない金額を反映させることができます。

投資信託

投資信託とは、投資家から集めたお金を運用の専門家が株式や債券などにまとめて投資し、得られた利益を投資家に分配する、という仕組みの金融商品です。

投資信託にも株式と同様に上場している「上場投資信託」と、非上場の投資信託が存在します。また、上場しているか否かで相続税評価額の求め方も異なります。

まず、上場投資信託は上場株式と同様に、以下の4つの価格のうち、もっとも低い価格を相続税評価額とします。

  • 被相続人が死亡した日の最終価格
  • 被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の平均額
  • 被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の平均額
  • 被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の平均額

次に非上場の投資信託は、MRFやMMFのような「日々決算型の投資信託」とそれ以外の投資信託にわかれます。

日々決算型の投資信託の評価額は、以下の計算式を用いて求めます。

1口あたりの基準価額×口数+再投資されていない未収分配金(源泉所得税等を控除-信託財産留保額及び解約手数料

それ以外の投資信託の評価額は、以下の計算式を用いて求めます。

課税時期の1口あたりの基準価額×口数-課税時期に解約請求等をした場合の源泉徴収所得税等-信託財産留保額及び解約手数料

投資信託の相続税評価方法について詳しくは、関連記事『投資信託の相続税評価を簡単に計算!相続に必要な手続きや書類も解説』をお読みください。簡単に投資信託の相続税評価額の目安を計算する方法も紹介しています。

暗号資産・FX

厳密にいうと有価証券には含まれませんが、暗号資産やFXで資産を運用している人も多くいます。

まずは暗号資産の評価額です。活発な市場が存在する場合は、暗号資産の交換業者が公表している取引価格のうち、取引所の発行する残高証明に記載された日本円での評価額又は相続開始時点の日本円での売却可能額によって評価します。対して、活発な市場が存在しない場合には、その暗号資産の取引実態や専門家の鑑定価格を用いて評価します。

FXの評価額は、被相続人が亡くなった日に存在するポジションの最終価格と、FX会社への預け金やスワップポイントを相殺して評価します。なお、FX口座にあるポジションを決済しないまま相続人のFX口座に移動させることはできません。相続の際には必ず決済されることになっています。

暗号資産(仮想通貨)と相続税について詳しくは、関連記事『仮想通貨(暗号資産)に相続税はかかる?相続手続きと評価方法を解説』をお読みください。

有価証券を相続する流れ

有価証券の相続は以下のような流れで進めていきます。

①相続人、相続財産の調査をする
②遺産分割協議をする
③証券口座を開設する
④相続手続き、相続税の申告をする

①相続人、相続財産の調査をする

有価証券を相続する場合、まずは相続人を確定させる必要があります。被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本を用いて、すべての相続人を洗い出します。

また、相続人の調査と同時に相続財産の調査も行います。相続財産の中に株式や公社債が含まれている場合には、証券を発行した会社が上場しているかどうかなども確認しましょう。

さらに、相続では遺産分割の際に遺言が優先されるため、遺言書の捜索も一緒におこなっておきましょう。

②遺産分割協議をする

遺言書が見つからなかった場合には、相続人で相続財産の分割協議を行い、誰が何を相続するのかを明確にする必要があります。

無事に遺産分割協議で財産の分割がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書は、相続人全員が「遺産分割協議で決定したことに合意をした」という旨を書面に残すために作成されます。

なお、遺産分割協議で財産の分割方法がまとまらなかった場合には、家庭裁判所で遺産分割調停の申し立てをします。遺産分割調停とは、裁判官と調停委員が当事者双方の言い分を聞き、遺産分割の調整や解決策の提案などをしてくれる手続きです。

相続税の遺産分割について詳しくは、関連記事『遺産分割と相続税申告|基礎知識と手続きまで解説』をお読みください。

③証券口座を開設する

有価証券の相続では、証券を換金して相続人に払い戻すという受け取り方はできません。被相続人が利用していた口座から、同じ証券会社の相続人名義の口座に移すという方法がとられます。そのため、被相続人の株式や投資信託が預けられている証券会社に、相続人が口座を持っていない場合には、新しく相続人自らの名義の口座を開設する必要が出てきます。

相続人名義の口座に移された証券に関しては、相続人の判断により売却して換金することが可能です。

④相続手続き、相続税の申告をする

最後に、財産ごとに相続に必要な手続きを行います。とえば株式であれば、相続人が開設した証券口座に移管してもらうために自身が正当な相続人であることを証明する資料(戸籍謄本、遺産分割協議書など)を提出し、相続手続きを行います。

また、相続した財産により相続税の申告が必要な場合には、相続税申告の手続きも行う必要があります。

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相続した有価証券を売却したときにかかる税金

売却益の20%の税金がかかる

相続した株式を売却すると、利益が発生した場合には利益分に対して所得税と住民税がかかります。

納税額は、株式を売却して得た利益分に20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)の税率をかけることで求めることができます。なお、令和19年までは、復興特別所得税として基準所得税額の2.1%を所得税に加えて納付する必要があります。(所得税率15%×2.1%=所得税等の0.315%部分)

所得が20万円を超えると確定申告が必要

「特定口座・源泉徴収あり」以外である場合、年末調整を行うサラリーマンは株式の売却による所得が20万円を超える場合に確定申告が必要となり、年末調整を行わない自営業者などは、確定申告が必要です。仮に会社員で年末調整をする場合でも確定申告をしなければなりません。

※相続による証券の移管についてはNISA口座で受けることができませんので、NISA口座は考慮していません。

さらに、株式の売却による利益が20万円以下で、年末調整を行うサラリーマンであるため、確定申告をしなかった方でも証券口座が「特定口座・源泉徴収あり」以外である場合、年末調整を行うサラリーマンは株式の売却による所得が20万円を超える場合に確定申告が必要となり、会社員で年末調整をしても確定申告をしなければなりません。

年末調整を行わない自営業者などは、「特定口座・源泉徴収あり」以外である場合、1円でも所得があれば確定申告が必要です。

なお、相続した株式を売却せずに所有しているだけであれば、配当金などの収入を除き、売却をしない限りはふくみ益などには税金が発生することはありません。

有価証券の相続についてよくある質問

どこの証券会社に株を持っていたかわからない場合は?

被相続人が株式を持っていたことは知っていても、口座がある証券会社がどこなのかわからない場合には「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせてみましょう。ほふりに対して登録済加入者情報開示請求を行うと、被相続人が口座を持っていた証券会社や信託銀行の情報を入手できます。

相続手続きをしたのに被相続人宛てに配当通知が来たら?

相続手続きが完了して、株式の名義も相続人に変更したのに被相続人宛ての配当通知が届いた場合には、2つの理由が考えられます。

まずは、決算の後に株式の名義が変更されたケースです。名義変更が決算後に行われた場合は単純に、タイミングの問題であるため、次回から配当通知の宛先は相続人に切り替わります。特に相続人が追加で手続きをする必要はありません。

次に、信託銀行の特別口座に被相続人名義の株式があるケースです。まだ被相続人名義の株式が残っている場合は信託銀行で手続きが必要なので、直接該当する信託銀行に問い合わせをしましょう。

相続税の相続税の無料相談

有価証券の相続で不安があるときは税理士に相談

有価証券の相続税評価は複雑です。

もちろんご自身で計算をして相続税の申告、納付まで行うこともできます。しかし、計算を間違えてしまうと本来支払う必要のない金額まで余分に納めてしまったり、あとから申告のミスが発覚して追加で請求をされてしまうおそれもあります。

そのため、相続する有価証券の価値を正しく評価して、漏れのないように申告、納付をするためには、相続税に強い税理士に相談するのがおすすめです。

たとえば、この記事で紹介した遺産分割の段階で税理士に相談をしていると、相続税を少なく抑えられるような分割方法のアドバイスを受けることもできます。

相続に関して不安があるときには、ぜひ一度相続税に強い税理士に相談してみてください。

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監修者情報

アトムグループ 協力税理士

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