有価証券の相続でかかる税金|相続税や評価額の計算方法、節税方法
亡くなった方から相続した株式などの有価証券も、相続税の課税対象となります。
有価証券にどのくらい相続税がかかるかを調べるには、まず有価証券の種類ごとに相続税評価額を求めなければなりません。
この記事では、有価証券における相続税評価額の計算方法や、相続の流れについて解説していきます。
また、相続した株式を売却したときにかかる税金についてもご紹介します。
同じ有価証券でも、評価方法によりかかる相続税が変わってくるケースもありますので、有価証券を相続した方や、これから相続するかもしれない方はぜひ一度ご覧ください。
目次
有価証券を相続すると税金がかかる?
有価証券とは、財産的価値のある権利が明記されている証券や証書のことです。
有価証券を相続すると、相続税がかかります。また、相続後に有価証券を売却すると、所得税や住民税もかかります。
これらについて、詳しくみていきましょう。
有価証券には相続税がかかる
以下のような有価証券を相続すると、相続税がかかります。
- 株式
- 公社債
- 投資信託
ほかにも外国債券や、厳密には有価証券には含まれませんが、暗号資産やFXの保有残高なども課税対象の相続財産として扱われます。
なお、こうした有価証券の価格は変動するため、所定の方法で算定した各有価証券の価格(評価額)に対して相続税がかかる仕組みです。
ただし、相続税には基礎控除があります。
有価証券の評価額とその他の相続財産の課税価格の合計が基礎控除額以下なら、相続税はかかりません。
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
関連記事
相続後に株を売却すると所得税・住民税もかかる
相続した株を売却して利益が発生すると、その利益に対して所得税や住民税がかかります。税率は20.315%(所得税等15.315%、住民税5%)です。
なお、令和19年までは復興特別所得税として、基準所得税額の2.1%を所得税に加えて納付する必要があります。(所得税率15%×2.1%=所得税等の0.315%部分)
所得が20万円を超えると確定申告が必要
証券口座が「特定口座・源泉徴収あり」である場合を除き、株の売却による所得が20万円を超えたら、会社に年末調整をしてもらっているサラリーマンであっても基本的に確定申告が必要です。
年末調整を行わない自営業者などは、証券口座が「特定口座・源泉徴収あり」である場合を除き、1円でも所得があれば確定申告が必要です。
なお、相続した株式を売却せずに所有しているだけであれば、配当金などの収入を除いて、ふくみ益などに税金が発生することはありません。
※相続による証券の移管についてはNISA口座では受けられないので、NISA口座は考慮していません。
有価証券の相続税はいくら?まず評価額を確認
続いて、有価証券の評価額を確認する方法について解説します。
有価証券を含めた相続財産が基礎控除額を超えるのか確認するためにも、有価証券にどれくらいの相続税がかかるのか知るためにも、まずは評価額の確認が必要です。
株式、公社債、投資信託、暗号資産・FXに分けて見ていきましょう。
株式
株式の相続税評価額は、発行した会社が上場しているか否かで求め方が異なります。
上場株式の相続税評価額
まず、上場株式は以下の4つの価格のうち、もっとも低い価格を相続税評価額とします。
- 被相続人が死亡した日の最終価格
- 被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の平均額
- 被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の平均額
なお、日曜日など市場の休場日には最終価格がありません。
そのため、休場日に被相続人が亡くなった場合には、「被相続人が死亡した日の最終価格」の金額は亡くなった日から、もっとも近い日の最終価格となります。
たとえば、休場している日曜日に亡くなった場合に用いるのは、日曜日の翌日となる月曜日の最終価格です。
非上場株式の相続税評価額
非上場株式の相続税評価額は、「原則的評価方式」または「配当還元方式」で求められます。
- 原則的評価方式:創業者一族が株を相続する場合など、会社への支配権が強い方が相続する場合に用いられる
- 配当還元方式:少数株主からの相続が行われる場合に用いられる
まず原則的評価方式とは、会社自体の価値を評価する方式です。会社の規模に応じて以下のいずれかの方法が適用されます。
- 大会社:類似業種比準方式
類似する業種の上場企業の株価を参考に評価額を算出する - 中会社・小会社:併用方式
類似業種比準方式と純資産価額方式の折衷方式 - 特定の評価会社:純資産価額方式
会社の資産から負債を差し引いた金額をもとに評価額を算出
一方、配当還元方式は配当による利回りを重視した評価方法です。今後10年間でもらえるであろう配当金の合計額を、相続税評価額とします。
株式の相続税評価額について詳しくは、関連記事『株式の相続税評価額はいくら?上場株式・非上場株式の調べ方と計算方法』をお読みください。
公社債
公社債とは、国や公共団体、会社などが運営資金を調達するために発行する有価証券のことです。
公社債の評価方法は(1)利付債か割引債か、(2)上場か非上場かその他か、の組み合わせで決まります。
利付債とは、定期的に利子を受け取れる債券です。対して割引債とは債券発行のときに一定額割り引かれており、満期を迎えた際に額面金額が支払われる仕組みの債券です。
それでは各組み合わせによる公社債の評価方法を見ていきましょう。
- 上場されている利付公社債
(課税時期の終値+既経過利息)×券面額/100円 - 上場されていない利付公社債
(課税時期の平均値+既経過利息)×券面額/100円 - その他の利付公社債
(発行価額+既経過利息)×券面額/100円 - 上場されている割引公社債
課税時期の終値×券面額/100円 - 上場されていない割引公社債
課税時期の平均値×券面額/100円 - その他の割引公社債
{発行価額+(額面額-発行価額)×発行日から課税時期までの日数/発行日から満期までの日数}×券面額/100円
なお、個人向け国債も社公債の一つです。個人向け国債は満期まで保有していると元本が返ってくるほか、半年ごとに利益をもらえます。
個人向け国債の相続税評価額を求めるには、以下の計算式を用います。
額面金額+既経過利子相当額-中途換金調整額
既経過利子相当額とは、利子が発生してから半年未満に再度発生した利子のことです。これによって、利子は発生していてもまだ受け取っていない金額を反映させられます。
投資信託
投資信託とは、投資家から集めたお金を運用の専門家が株式や債券などにまとめて投資し、得られた利益を投資家に分配する、という仕組みの金融商品です。
投資信託にも株式と同様に「上場投資信託」と「非上場の投資信託」があり、上場しているか否かで相続税評価額の求め方が異なります。
上場投資信託の相続税評価額
上場投資信託は上場株式と同様に、以下の4つの価格のうち、もっとも低い価格を相続税評価額とします。
- 被相続人が死亡した日の最終価格
- 被相続人が死亡した月の毎日の最終価格の平均額
- 被相続人が死亡した月の前月の毎日の最終価格の平均額
- 被相続人が死亡した月の前々月の毎日の最終価格の平均額
非上場投資信託の相続税評価額
非上場の投資信託は、MRFやMMFのような「日々決算型の投資信託」とそれ以外の投資信託にわかれます。
日々決算型の投資信託の評価額は、以下の計算式を用いて求めます。
1口あたりの基準価額×口数+再投資されていない未収分配金(源泉所得税等を控除-信託財産留保額及び解約手数料
それ以外の投資信託の評価額は、以下の計算式を用いて求めます。
課税時期の1口あたりの基準価額×口数-課税時期に解約請求等をした場合の源泉徴収所得税等-信託財産留保額及び解約手数料
投資信託の相続税評価方法について詳しくは、関連記事『投資信託の相続税評価を簡単に計算!相続に必要な手続きや書類も解説』をお読みください。簡単に投資信託の相続税評価額の目安を計算する方法も紹介しています。
暗号資産・FX
厳密にいうと有価証券には含まれませんが、暗号資産やFXで資産を運用している人も多くいます。
暗号資産の相続税評価額
活発な市場が存在する場合は、暗号資産の交換業者が公表している取引価格のうち、以下のどちらかによって相続税評価額を決めます。
- 取引所の発行する残高証明に記載された、日本円での評価額
- 相続開始時点の、日本円での売却可能額
対して、活発な市場が存在しない場合には、その暗号資産の取引実態や専門家の鑑定価格を用いて評価します。
FXの相続税評価額
FXの評価額は、被相続人が亡くなった日に存在するポジションの最終価格と、FX会社への預け金やスワップポイントを相殺して評価します。
なお、FX口座にあるポジションを決済しないまま相続人のFX口座に移動させることはできません。相続の際には必ず決済されることになっています。
暗号資産(仮想通貨)と相続税について詳しくは、関連記事『仮想通貨(暗号資産)に相続税はかかる?相続手続きと評価方法を解説』をお読みください。
評価額をもとに有価証券の相続税を計算
有価証券の評価額がわかったところで、具体的な相続税の計算方法に移ります。
ここでは、計算の流れを解説した後に具体的な計算例を見ていきましょう。
有価証券の相続税の計算方法
有価証券の相続税は、その他の相続財産と合わせて計算します。流れは以下の通りです。
- 有価証券の評価額と、その他の相続財産を合計し、課税価格を算出
- 課税価格から基礎控除額を引く
- 2で算出した金額を法定相続分に従い各相続人に分配
- それぞれに相続税率・控除額を適用し相続税を出したのち、すべてを合計する
- 合計額を実際の相続分配に応じて各相続人で分割する
法定相続分とは、民法で定められた遺産分割の意割合のことです。
必ずしも法定相続分通りに遺産分割する必要はありませんが、相続税の計算では一旦、法定相続分通りに財産を相続したと想定して相続税を算出します。
たとえば相続人が妻と子なら、法定相続分は妻2分の1、子2分の1です。
相続人が妻と親であれば、法定相続分は妻3分の2、親3分の1となります。
なお、相続税の税率と控除額は以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 相続税の税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
有価証券の相続税の具体的な計算例
ここでは、以下の条件における相続税の計算例を紹介します。
- 相続する有価証券の評価額:2,000万円
- その他の相続財産:3,000万円
- 相続人:妻と子1人の合計2人
- 遺産分割:妻2分の1、子2分の1
- 課税価格の算出
相続財産の合計 = 2,000万円 + 3,000万円 = 5,000万円 - 課税価格から基礎控除額を引く
基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 2) = 4,200万円
5,000万円 – 4,200万円 = 800万円 - 800万円を法定相続分通りに分割
妻2分の1、子2分の1なので、それぞれ400万円ずつ - それぞれの金額に対する相続税を算出し、合わせる
妻・子ともに相続税は400万円 × 10% – 0円 = 40万円
合わせて80万円 - 相続税の合計を、実際の遺産分割の割合に応じて分ける
妻2分の1、子2分の1で相続するため、相続税は妻40万円、子40万円
有価証券を相続する場合の税金対策3つ
続いて、有価証券の相続税対策として以下の3つを紹介します。
- 生前贈与の利用
- 相続時生産課税制度の利用
- 相続税の納税猶予制度の利用
生前贈与の活用
生前贈与では、毎年110万円までの贈与は非課税となります。
特に、将来的に価値が上がると考えられる株式や投資信託などは、早めに贈与しておくと安心です。
ただし、被相続人の死亡前3〜7年の間の贈与については、相続税の対象になります。また、非課税枠内での贈与であっても、定期贈与とみなされると贈与税の対象になることがあります。
詳しい注意点は『生前贈与は110万円まで非課税|非課税枠が使えない・広がるケースは?』にてご確認ください。
相続時精算課税制度の利用
60歳以上の親・祖父母から18歳以上(令和4年3月31日までの贈与は20歳以上)の子・孫への贈与に適用できる制度です。
毎年110万円までの贈与が非課税になることに加え、累計2,500万円までを非課税で贈与できます。
非課税で贈与した累計2,500万円に当たる部分は、贈与人の死亡時に相続税の対象になります。
しかし、相続時の価格ではなく贈与時の時価が相続税の対象となるため、将来的に価格の上がる可能性が高い有価証券であれば、相続時精算課税制度で早めに贈与しておくほうがお得です。
詳しくは『【令和6年最新】相続時精算課税制度のデメリット7つとメリット5つ』をご覧ください。
相続税の納税猶予制度の利用
中小企業の非上場株式の場合、相続人が事業を継承するのであれば、一定の要件を満たすことで相続税の納付が猶予・免除されます。
ただし、適用には厳格な要件があるため、制度の適用を検討する場合は専門家の助言が不可欠です。
有価証券を相続する流れ
有価証券の相続は以下のような流れで進めていきます。
- 相続人、相続財産の調査をする
- 遺産分割協議をする
- 証券口座を開設する
- 相続手続き、相続税の申告をする
(1)相続人、相続財産の調査をする
有価証券を相続する場合、まずは相続人を確定させる必要があります。被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍謄本を用いて、すべての相続人を洗い出します。
また、相続人の調査と同時に相続財産の調査も行います。相続財産の中に株式や公社債が含まれている場合には、証券を発行した会社が上場しているかどうかなども確認しましょう。
さらに、相続では遺産分割の際に遺言が優先されるため、遺言書の捜索も一緒におこなっておきましょう。
(2)遺産分割協議をする
遺言書が見つからなかった場合には、相続人で相続財産の分割協議を行い、誰が何を相続するのかを明確にする必要があります。
無事に遺産分割協議で財産の分割がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書は、相続人全員が「遺産分割協議で決定したことに合意をした」という旨を書面に残すために作成されます。
なお、遺産分割協議で財産の分割方法がまとまらなかった場合には、家庭裁判所で遺産分割調停の申し立てをします。遺産分割調停とは、裁判官と調停委員が当事者双方の言い分を聞き、遺産分割の調整や解決策の提案などをしてくれる手続きです。
相続税の遺産分割について詳しくは、関連記事『遺産未分割で相続税申告する方法とデメリット|遺産分割に期限はある?』をお読みください。
(3)証券口座を開設する
有価証券の相続では、証券を換金して相続人に払い戻すという受け取り方はできません。
被相続人が利用していた口座から、同じ証券会社の相続人名義の口座に移す方法がとられます。そのため、被相続人の株式や投資信託が預けられている証券会社に、相続人が口座を持っていない場合には、新しく相続人自らの名義の口座を開設する必要が出てきます。
相続人名義の口座に移された証券に関しては、相続人の判断により売却して換金することが可能です。
(4)相続手続き、相続税の申告をする
最後に、財産ごとに相続に必要な手続きを行います。
たとえば株式であれば、相続人が開設した証券口座に移管してもらうために自身が正当な相続人であることを証明する資料(戸籍謄本、遺産分割協議書など)を提出し、相続手続きを行います。
また、相続した財産により相続税の申告が必要な場合には、相続税申告の手続きも行う必要があります。
関連記事
有価証券の相続についてよくある質問
最後に、有価証券の相続に関してよくある以下の質問にお答えします。
- どこの証券会社に株を持っていたかわからない場合は?
- 相続手続きをしたのに被相続人宛てに配当通知が来たら?
どこの証券会社に株を持っていたかわからない場合は?
被相続人が株式を持っていたことは知っていても、口座がある証券会社がどこなのかわからない場合には「証券保管振替機構(ほふり)」に問い合わせてみましょう。
ほふりに対して登録済加入者情報開示請求を行うと、被相続人が口座を持っていた証券会社や信託銀行の情報を入手できます。
相続手続きをしたのに被相続人宛てに配当通知が来たら?
相続手続きが完了して、株式の名義も相続人に変更したのに被相続人宛ての配当通知が届いた場合には、2つの理由が考えられます。
まずは、決算の後に株式の名義が変更されたケースです。名義変更が決算後に行われた場合は単純に、タイミングの問題であるため、次回から配当通知の宛先は相続人に切り替わります。特に相続人が追加で手続きをする必要はありません。
次に、信託銀行の特別口座に被相続人名義の株式があるケースです。まだ被相続人名義の株式が残っている場合は信託銀行で手続きが必要なので、直接該当する信託銀行に問い合わせをしましょう。
有価証券の相続で不安があるときは税理士に相談
有価証券の相続税評価は複雑です。
もちろんご自身で計算をして相続税の申告、納付まで行うこともできます。しかし、計算を間違えてしまうと本来支払う必要のない金額まで余分に納めてしまったり、あとから申告のミスが発覚して追加で請求をされてしまうおそれもあります。
そのため、相続する有価証券の価値を正しく評価して、漏れのないように申告、納付をするためには、相続税に強い税理士に相談するのがおすすめです。
たとえば、この記事で紹介した遺産分割の段階で税理士に相談をしていると、相続税を少なく抑えられるような分割方法のアドバイスを受けることもできます。
相続に関して不安があるときには、ぜひ一度相続税に強い税理士に相談してみてください。
監修者
高部孝之税理士事務所
税理士高部孝之
2019年税理士試験合格 2020年税理士登録
都内大手税理士法人にて約13年間勤務。資産税部門の責任者などを経て、2024年に独立し浅草にて資産税を強みとする税理士事務所を開業。
専門用語を用いず、平易な言葉で説明することを大切にしており、お客様が親しみやすく相談しやすい税理士を理想としています。
保有資格
税理士・FP技能士1級・相続診断士