モラハラ離婚で慰謝料を請求できる?相場と慰謝料請求できる条件を解説
夫のモラハラを理由として離婚した場合、慰謝料は請求できるのでしょうか?
モラハラを受けて離婚に至った場合、身体的な暴力を受けたケースと比べると、慰謝料を請求することが難しい傾向にあります。
また、DVでの離婚の場合と比べて慰謝料の相場も低いことが多いです。
しかし、モラハラを原因とするうつ病の診断書など、モラハラに関する証拠を集められれば、適切な額での慰謝料請求が認められやすくなります。
今回は、モラハラを理由に慰謝料を請求できるのか、慰謝料の相場、集めておくべきモラハラに関する証拠について解説していきます。
目次
「モラハラ」とはどんな行為?
モラハラとは暴言や無視などの精神的暴力
モラルハラスメント(モラハラ)とは、道徳や倫理に反する精神的暴力のことです。
人格を否定する暴言はもちろん、無視や威圧的な態度をとる、行動を監視したり制限するなど、精神的に相手を傷つける行為はモラハラにあたります。
モラハラなどの相手の心を傷つける精神的な暴力は、殴る、蹴るなどの身体への暴力と同じく、DV(ドメスティック・バイオレンス)にあたります。
例えば、以下のような行為は、モラハラにあたります。
モラハラ行為の例
- 人格を否定する暴言を言う
- 大声でどなる
- 無視する
- 実家や友人関係、家庭内外での行動をチェック、制限する
- 他人や子どもの前で侮辱をする
- 妻のものを壊したり、捨てたりする
- 外に出て働くことを許さない
- 生活費を渡さない
モラハラのように、合理的な理由なく相手の生命や身体、精神を傷つけるような言動は「不法行為」にあたるため、加害者に対して慰謝料を請求できます。
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モラハラで離婚慰謝料の相場は?請求できる条件は?
モラハラで慰謝料を請求できる条件
不倫やDVなど相手の不法行為が原因で離婚した場合、精神的な苦痛に対する慰謝料の請求ができます。
モラハラも不法行為にあたり、離婚慰謝料請求の理由になり得ます。
モラハラが原因で離婚慰謝料を請求するためには、相手のモラハラ行為が原因で婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を被ったことを、客観的に立証する必要があります。
モラハラで離婚しても慰謝料請求は難しい?
モラハラでの慰謝料請求は、身体へのDVに比べて認められにくい傾向があります。
モラハラは、身体への暴力と違って証拠が残りづらく、精神的な暴力を受けたことを立証するのが難しいからです。
さらに、モラハラ行為の証拠を用意できたとしても、裁判官が「モラハラにあたらない」「双方に責任がある」と判断して、慰謝料請求を認めないケースも多いです。
これが、モラハラで慰謝料請求は難しいと言われる理由です。
しかし、事前にモラハラを受けている様子の録音や録画、専門機関への相談記録などモラハラがあったことを証明できる証拠を集めれば、慰謝料請求が認められる可能性は十分にあります。
たとえば、モラハラが原因でうつ病になったことを示す医師の診断書は、客観的な証拠であるため、慰謝料請求するうえで有力な証拠といえます。
モラハラの立証に役立つ証拠については、この記事の中でさらに詳しく解説します。
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モラハラの慰謝料請求の相場は50万円~300万円
モラハラの慰謝料相場は、50万円〜300万円です。
一方、DVの慰謝料相場が50万円〜500万円となっており、モラハラでの慰謝料は、DVの場合と比べても低い傾向にあります。
慰謝料額は、モラハラの内容や精神的苦痛の程度以外にも婚姻期間や別居期間、子どもの有無も考慮して判断されます。
すなわち、モラハラ行為の悪質性が高いほど、高額の慰謝料が認められることになります。
モラハラ慰謝料が高額になりやすいケース
- 暴言の内容が悪質である
- モラハラ行為が長期間、繰り返し行われている
- モラハラを受けて精神疾患を発症した
- 相手方に反省や謝罪がない
- 婚姻期間が長い
- 幼い子どもがいる
- 相手方が高収入・多額の資産を持っている
モラハラで慰謝料請求が認められたケース
メッセージアプリでモラハラを受けた事案
夫が一方的に妻に価値観を押し付け、妻が従わなかった際には罵倒をし続けたケースでは、慰謝料200万円が認定されました(東京地判令和元年9月10日)。
この事案では、妻の人格や性格を否定する発言やLINEでのメッセージの送信、堕胎を迫るような発言が同居期間を通じて継続的になされていました。
モラハラは家庭内で行われることも多く、証拠の収集が難しい傾向にあります。
しかし、このケースのようにメッセージアプリでのモラハラを受けた場合、LINEの履歴などをスクリーンショットで保存することによって、慰謝料請求の重要な証拠を確保できます。
モラハラ以外に経済的暴力や家族への暴力があった事案
婚姻期間10年以上の夫婦にて、夫が妻に対して心無い発言をしたケースでは、慰謝料250万円が認定されました(東京地裁平成17年3月8日)。
病気で苦しんでいる妻に対して通院回数の多さを非難し、通院を実力で妨害しようとしたり、妻に少額の生活費しか渡さなかったにもかかわらずその支出にも細かく干渉していたケースです。
婚姻期間が長期間なことや長男に対して暴行を加えていたことも考慮されて、比較的高額な慰謝料が認められました。
モラハラ以外にも経済的暴力、自分や他の家族への暴行がある場合にはそれも併せて主張することで慰謝料額を増額できることもあります。
モラハラで慰謝料請求が認められなかったケース
モラハラの主張が相互にあり証拠不足だった事案
妻が夫に対して、風俗店利用、浪費、モラルハラスメントを理由に離婚慰謝料300万円を請求しましたが、棄却されました(東京地判令和3年11月29日)。
この事案では、妻は夫から「お前は損得ばかり考えている」「俺の病気が長引いているのはお前が原因だ」などと言われたと主張。一方、夫は妻からベッドの下で寝ることを強要されたなど、妻の言動こそがモラハラだと反論しました。
裁判所は、双方の主張に決め手となる証拠がなく、妻の主張のみを採用することはできないと判断しました。
婚姻関係が破綻した原因をモラハラと認めなかった事案
妻が夫に対して、モラルハラスメントを理由に慰謝料300万円を請求しましたが、棄却されました(東京地判平成31年3月20日)。
この事案では、妻は夫から「ばかやろう」「おまえ」などと言われたり、机をたたかれたり、ライトを顔に向けられたりしたと主張。一方、夫は妻から「私は寺の娘だ」「おまえは私のおかげで住職になれるんだ」などと言われたと反論しました。
裁判所は、双方に不適切な言動があったと認めつつ、婚姻関係が破綻したのは性格の不一致や家族観の違いが原因であり、夫に有責行為があったとは認められないと判断しました。
モラハラ夫に離婚の慰謝料を請求するには?
モラハラでの離婚慰謝料の請求方法は4通り
モラハラを受けた際に離婚慰謝料を請求する方法は、①夫婦間の協議での請求、②内容証明郵便による請求、③離婚調停での請求、④離婚裁判での請求です。
①協議での慰謝料請求をする場合、慰謝料が支払われない場合に備えて、差し押さえもできる強制執行認諾文言付きの公正証書で請求の内容をまとめておきましょう。
モラハラが原因で別居している場合は、②内容証明郵便を利用して離れて暮らす配偶者に慰謝料請求することができます。
また、①〜④の請求をしたうえで、慰謝料でなく「解決金」の名目で請求する方法、一括請求あるいは分割請求する方法もあります。
「慰謝料」とすると支払った側に離婚原因があることが明確になってしまうため、「解決金」という名目で慰謝料に相当する金額を支払うことがあります。
モラハラは不法行為の一種であることから、「慰謝料」でなく「解決金」の名目で支払われることも考えられます。
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慰謝料請求の時効に注意!
モラハラでの慰謝料請求をする際には、時効、請求できるタイムリミットがあることも注意しておきましょう。
離婚後でも慰謝料は請求できますが、離婚後3年を過ぎてしまうと時効が完成し、請求が認められないおそれがあります。
モラハラがあったとしても、被害者が「自分のために厳しく指摘してくれている」「自分の行いや性格が悪いからだ」と思ってモラハラされていると気づかないケースも少なくありません。
気づいたときには時効で慰謝料が認められなかった、という事態を避けるためにも、少しでもモラハラだと疑われる言動があれば弁護士に相談してみましょう。
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モラハラの慰謝料請求に必要な証拠は何?
モラハラで慰謝料請求するには証拠が必要!
モラハラの慰謝料請求を認めさせるためには、客観的な証拠が不可欠です。
事前に、モラハラを受けたことを立証できる証拠を集めておきましょう。
モラハラに関する証拠には、以下のものがあります。
モラハラの証拠
- LINEやメールのスクリーンショット
- モラハラの録音、録画
- モラハラを受けたことを記録した日記やメモ
- 警察や相談機関への相談記録
- うつ病などの診断書、医療機関への通院履歴
モラハラに関する証拠は、離婚を切り出した後に集めようとしても、配偶者が勝手に処分してしまう可能性が高いです。
必ず、離婚を切り出す前に証拠を集めておきましょう。
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モラハラの直接的な証拠を集める
モラハラを受けた際には、モラハラ自体を記録した直接的な証拠を集めましょう。
侮辱や暴言にあたるようなことを発言している様子の録画・録音は、モラハラという行為を直接的に証明することができる重要な証拠です。
口頭だけでなくSNS、メールなどでモラハラを受けた場合には、それらのメッセージを写したスクリーンショットといった記録も証拠になり得ます。
また、そのような録音・録画、メッセージの記録がなくても、モラハラを受けたことを記録した日記やメモも慰謝料請求の証拠として認められることがあります。
公的機関の相談記録も重要な証拠になる
モラハラを受けた際には、配偶者暴力相談支援センターなどの相談機関に相談をしましょう。
モラハラは、身体への暴力と同じく、正当な理由なく相手を傷つける重大な違法行為であり、PTSDになった場合には刑法上の傷害罪として処罰されることもある、悪質な行為です。
一生回復できない心の傷を負うことも十分にあり得ますので、モラハラを受けたら、まずは配偶者暴力相談支援センターなどの相談機関に相談しましょう。
身の危険が迫っているなど緊急に避難する必要がある場合には警察や交番に駆け込んだり、夫人相談所などに一時的に保護してもらいましょう。
警察や配偶者暴力相談支援センターなどに相談すれば、そのときの相談記録が離婚や慰謝料請求をするための重要な資料になることもありますので、迷わず相談に行きましょう。
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心療内科の診断書も有力な証拠
モラハラを受けた際には、精神科や心療内科などの専門の医療機関に通院をしましょう。
モラハラによって、うつ病やPTSDなどの重大な精神疾患になってしまうことも十分に考えられます。
モラハラから自分の心を守るためにも、医師やカウンセラーなどの専門家に診断、治療をしてもらいましょう。
また、医療機関を受診した際の領収書や処方箋、医師が書いた診断書は、離婚や慰謝料請求をするための有力な証拠として評価されることもあります。
モラハラ離婚の慰謝料に関するQ&A
Q1.姑のモラハラでも慰謝料請求できますか?
夫によるモラハラだけでなく、姑、配偶者の親族によるモラハラも慰謝料請求が認められることがあります。
ただし、夫によるモラハラと同様に、慰謝料請求は認められにくい傾向にあります。
慰謝料は、相手の不法行為によって受けた精神的苦痛への賠償であるため、姑のモラハラも不法行為にあたらなければ、慰謝料請求は認められません。
単にモラハラを受けただけでなく、執拗ないやがらせやいじめを受けて精神的苦痛を受けたといえるぐらいにモラハラが限度を超えた悪質なものでなければなりません。
一方で、夫が姑のモラハラを黙認し、夫婦関係を改善する努力をしなかった場合、夫に対する慰謝料請求が認められることもあります。
また、夫と姑がいっしょになってモラハラをして精神的苦痛を与えた場合は、夫と姑両方に慰謝料請求をすることができます。
親族のモラハラで慰謝料請求が認められたケース
夫と義父が妻に対して古風で従順な主婦像を強く求め、些細なことで注意をし、家事ができないとなじったケースでは慰謝料250万円が認められました(東京地判平成16年12月27日)。
婚姻期間が20年以上と長期間だったこと、夫から平手打ちなどの暴力を受けていたことも考慮されたことで高額の慰謝料が認められたケースです。
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Q2.モラハラでの離婚慰謝料に税金はかかりますか?
通常であれば、大きな所得を得たときは所得税が課税されます。
しかし、モラハラでの離婚慰謝料を受け取っても、原則として税金はかかりません。
これは、慰謝料(損害賠償金)が、「失った利益をゼロの状態に戻すためのお金」だからです。
ただし、慰謝料が相当額を超えて高額である場合には、相当額を超えた金額に贈与税がかかるおそれがあります。
また、慰謝料を不動産で受け取った場合には、慰謝料を支払う方も受け取った方にも税金が課せられます。
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まとめ|モラハラで離婚を考えているなら弁護士に相談!
モラハラをするような夫の場合、簡単には離婚協議に応じてくれず、むしろ話し合いの中で感情的になって、さらなる暴言や暴力に発展するようなことも考えられます。
また、モラハラでの慰謝料請求は、身体への暴力のケースと比べて認められにくく、認められたとしても低い金額でしか認められないことが多いです。
モラハラでの離婚、慰謝料請求を認めてもらうためには、モラハラに関する証拠をしっかり集めておかなければなりません。
どのような行為がモラハラにあたるのか、どんな証拠がモラハラに関する証拠になるのか、まずは弁護士に相談してみましょう。
法律の専門家である弁護士であれば、どのような主張をすれば離婚が認められるのか、どんな証拠があれば慰謝料請求が可能か、適切なアドバイスをすることができます。
離婚裁判に発展しなくても、話し合いの段階から弁護士が介入することで相手との交渉を安全に、かつ有利に進めることもできます。
モラハラにあったら、ひとりで抱え込まず、まずは弁護士に相談してみましょう。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了