財産分与の調停とは|財産分与を拒否されたら調停?流れや手続きを解説
離婚時には、夫婦の財産を公平に分け合う財産分与を行います。しかし、相手方が財産を分け与えることを拒むケースは少なくありません。
話し合いがうまくまとまらない時は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、離婚調停の中で財産分与についても話し合うことができます。
離婚後でも一定の期間内であれば財産分与の請求は可能で、財産分与請求調停という財産分与専用の調停を使います。
この記事では、財産分与の請求を考えている方や、財産分与の話し合いが難航している方に向けて、調停の利用方法や流れについて解説します。
また、財産分与の争点や調停でよく聞かれることなど、実際の調停がイメージしやすくなる情報もご紹介します。
この記事で分かること
- 財産分与の調停の流れ
- 財産分与の調停の申し立て方法
- 財産分与を拒否された時の対処法
- 財産分与の調停でどんな話をするか
目次
財産分与の調停とは?
財産分与とは?
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、離婚時に分け合う手続きです。
財産分与の対象となり得る財産は、家や土地などの不動産、車などの動産、預貯金や有価証券、退職金などと多岐に渡ります。
財産分与の割合は原則として2分の1ずつとされていますが、何を分与するか、いくらずつ分け合うかは、夫婦が話し合って自由に決めることができます。
関連記事
調停とは?
調停とは、夫婦間の話し合いでは合意ができなかったときに、裁判所の調停委員会のもとで話し合いを行い、合意を目指す手続きです。
裁判官が最終的な決定を下す裁判(訴訟)とは異なり、当事者間で合意ができなければ調停は不成立となって終了します。
調停は、当事者間の話し合いを目的とした手続きではありますが、夫婦が顔を合わせることはほとんどありません。
基本的には、夫婦の双方が男女2名の調停委員と交互に面談をして、意見をすり合わせていきます。
離婚前と離婚後の調停手続きの違い
離婚前と離婚後では利用できる手続きが少し違います。
財産分与について話し合う調停
- 離婚前・・・離婚調停
- 離婚後・・・財産分与請求調停
離婚調停とは、離婚の合意ができない夫婦が、離婚することの可否や親権、養育費、慰謝料など離婚条件全般について広く話し合うものです。
一方、財産分与請求調停は、すでに離婚した夫婦が、財産分与についてのみ話し合うものです。
手続きの名称が異なるとはいえ、離婚前と離婚後で話し合う内容が大きく違うわけではありません。
関連記事
財産分与の調停の流れ
離婚調停も財産分与請求調停も、基本的な流れは変わりません。
1.申立書を家庭裁判所に提出する
調停を利用したい場合は、一方の当事者が離婚調停申立書・財産分与請求調停申立書などいくつかの書類を作成して、管轄する家庭裁判所に提出します。
離婚調停と財産分与請求調停では、使用する申立書が異なるため注意してください。
また、財産に関する資料も併せて提出します。
調停の費用も申立時に支払います。費用の内訳は裁判所に納める収入印紙、切手代、戸籍謄本の取得費用で、合計で3,000円程度です(裁判所によって異なります)。
調停の申し立て方法については、『【記入例あり】離婚調停の申し立て方法|申立書の書き方・必要書類』の中でさらに詳しく解説しています。
参考
2.調停期日が開かれ、話し合いが行われる
第1回の調停期日が決まると、裁判所から当事者双方に向けて呼出状が届きます。1回目の調停は、申し立てから1~2か月後に行われることが多いようです。
調停が行われる日には夫婦が裁判所に出向き、別々に調停委員と面談します。1回の面談は30分~1時間程度のことが多く、それを2往復ほど繰り返します。
調停委員は、夫婦の一方が話したことについて、もう一方に質問をします。それを繰り返して、意見の調整を行います。
夫婦が合意に至るまでの間、1か月に1回程度の頻度で調停期日が繰り返されます。
3.成立または不成立となって調停が終了
離婚することや財産分与についての合意ができたら、調停は成立となり、調停調書が作成されます。
反対に、これ以上調停を続けるべきでないと判断された場合には、調停は不成立となって終了します。
関連記事
・離婚調停の不成立とは?その後離婚可能?不成立にしないポイントも解説
4.審判に移行する場合もある
調停が不成立となった後の流れは、離婚前と離婚後で異なります。
離婚前の場合
離婚調停が不成立となった場合、夫婦が取り得る選択肢は、離婚を諦めるか、再び協議をするか、裁判を起こすかです。
ただし、調停が不成立となったときに、裁判官の判断でまれに審判に移行することがあります。
審判とは
裁判官が、当事者から提出された資料や調査の結果などに基づいて判断する手続き
離婚自体には合意ができているものの、些細な条件の違いで離婚できないといった状況だと、審判が行われることがあります。
とはいえ、ほとんどの場合は審判が行われずに調停が終了します。
離婚後の場合
離婚後の財産分与請求調停の場合、調停が不成立になると自動的に審判に移行します。
したがって、財産分与請求調停を起こせば、ほぼ確実に裁判官の審判を受けられることになります。
なお、財産分与請求調停を申し立てる際は、調停からではなくいきなり審判を申し立ててもよいという制度になっています。
ただし、審判を申し立てても、裁判所の判断でまずは調停を行うように指示される場合もあります。
審判の結果に不服がある場合、2週間以内であれば即時抗告(不服申し立て)ができます。即時抗告が認められれば、高等裁判所で再審理を受けることができます。
離婚調停で財産分与を拒否されたら?
財産分与は拒否できる?
財産分与を請求する権利は、法律で認められた権利です。
双方の合意によって財産分与を放棄することはできますが、相手方から請求されたら原則として財産分与を拒否することはできません。
たとえ一方が専業主婦であっても、家事や育児によって財産の形成に貢献したといえるため、原則として2分の1の割合で財産分与を受け取る権利があります。
共働きでも、双方に共有の財産があるのであれば、収入の多寡に関わらず財産分与を行います。
ただし、相手方が特有財産を主張したり、借金と相殺したりして可能な限り支払う額を少なくしようとすることは十分に考えられます。
財産分与を拒否されたらどうする?
離婚前に財産分与を拒否された場合
離婚協議で相手方が財産分与を拒否している場合は、まず離婚調停の申し立てを考えましょう。
調停を行っても合意が難しい場合は、夫婦で再度協議するか、離婚裁判を申し立て、附帯処分として財産分与についての審理を求めることになります。
訴訟中に裁判官から和解を促されることもよくありますが、和解ができなければ最終的に裁判官が判決を言い渡します。
このように、裁判を起こせば相手の合意がなくても財産分与について決まります。
なお、日本の制度上、いきなり離婚裁判を申し立てることはできません。離婚裁判を起こすには、事前に離婚調停を行って不成立になっている必要があります(調停前置主義)。
また、弁護士に交渉を依頼するのも有効な手段です。
離婚後に財産分与を拒否された場合
財産分与について合意せずに離婚し、後から財産分与を請求したいという場合は、財産分与請求調停を申し立てましょう。
財産の引き渡しを拒否された場合
財産分与の合意をしたのに、離婚後に財産分与の引き渡しを拒まれているという場合は、強制執行の手続きを使って引き渡しを実現できる可能性があります。
ここでいう強制執行とは、裁判所が相手方の給与や財産を差し押さえることです。
強制執行ができる条件や差し押さえのやり方については、『離婚時の取り決めを強制執行で実現する方法|慰謝料・養育費など』で解説しています。
4つの争点|財産分与の調停で何を決める?
離婚調停では、離婚をするかどうかを話し合うのはもちろんですが、財産分与や慰謝料、親権、養育費、面会交流、婚姻費用についても併せて話し合うことができます。
その中でも、財産分与などお金に関する問題は、争いになりやすい部分です。
財産分与の話し合いでよく争点になるのは、以下の4点です。
①財産分与の対象となる財産の範囲
夫婦の双方が保有する財産のうち、財産分与の対象となるものを共有財産、財産分与の対象から除く個人の財産を特有財産と呼びます。
婚姻前から使用している口座の預貯金や、親から頭金の援助を受けて購入した家などは、共有財産として扱うべきかどうかはっきりしないことが多く、双方の主張がぶつかりやすいです。
財産を手放したくない人は、特有財産であることを主張してくるでしょう。
また、住宅ローンや自動車ローンなどの借金や子ども名義の預貯金、退職金なども、財産分与の対象に含めるかどうかの争いになることがあります。
②寄与割合
寄与割合とは、夫婦それぞれの財産形成に対する貢献度を示す割合です。夫婦の財産は寄与割合に応じて分けられます。
財産分与の割合は原則として2分の1ですが、割合を変更することも可能です。その場合、それぞれが財産の形成にどれくらい貢献したかが争われます。
③財産の評価方法
現金や預貯金はそのまま半分ずつに分ければよいですが、不動産や車などの分割に適さない財産は、何円の価値があるかを評価して相当する価値を分け合います。
分与する側からすれば、低く評価した方が相手に渡す額が少なくなります。受け取る側からすれば、高く評価したほうが有利になります。
財産の評価方法は一通りではありませんので、どの評価方法を選ぶかで争いが生じることがあります。
④財産分与の基準時
財産分与の基準時とは、どの時点の財産をもとに財産分与額を算定するかという基準となる日のことです。
原則として、別居した時(夫婦の協力関係が終わった日)の財産を基準にしますが、そもそも別居日がいつなのか、別居後も協力関係があったかは個別の判断が必要です。
また、価値の変動しやすい財産に関しても、どの時点の価値を基準とするかが非常に重要です。
財産分与の基準時については、『株式の財産分与の方法|投資信託や確定拠出年金の扱いは?』の中でも解説しています。
財産分与の調停では何が聞かれる?
財産分与の調停で聞かれること
離婚調停では、調停委員から様々なことについて質問されます。その中でも、財産分与に関しては以下のような事項がよく聞かれます。
- 希望する財産分与の額・内容
- 夫婦の財産の状況
限られた時間の中ですべての主張を伝えるのは簡単ではありませんので、伝えたいことや聞きたいことをまとめたメモを作成して持っていくとよいでしょう。
財産分与の調停の持ち物呼出状
離婚調停の際には、以下のような物を持っていきましょう。
- 本人確認書類
- 印鑑
- スケジュール帳
- メモ帳・筆記用具
- 話したいことをまとめたメモ
- 裁判所に提出した書類の控え
- 財産に関する資料
- 電卓
- 振込先口座のわかるもの
太字は、財産分与を請求するときに必要な物です。
離婚調停で財産分与を請求する場合は、相手方の財産の内容を証明する資料を提出する必要があります。財産の資料は、調停の申立書類と一緒に提出するか、調停期日に持参します。
電卓は財産分与などの金額を計算する際にあると役立ちます。
また、財産分与の振込先口座の情報もメモして持っていきましょう。
これらのほかに、裁判所から資料などを持ってくるように指示されることがありますので、指示に従って用意します。
財産分与調停のメリット・デメリット
財産分与を調停で決めるメリット
財産分与調停のメリット
- 相手と直接会わないため、冷静な気持ちで話をできる
- 第三者からの客観的な意見を得られる
- 財産開示を促してもらえる
- 債務名義が得られる
相手と直接会わないため、冷静な気持ちで話をできる
調停中に夫婦が顔を合わせることは基本的にはありません。そのため、相手と会うのが不安な方や、顔を合わせるとヒートアップしてしまいそうだという方でも安心して利用することができます。
冷静な気持ちで話し合うことができるため、合理的な判断がしやすいといえます。
第三者からの客観的な意見を得られる
調停委員会という第三者からの客観的な意見を得られるのも調停のメリットです。
妥当な財産分与方法などといった情報を、初めて離婚する人が手に入れるのは簡単ではありません。調停委員のアドバイスを受けることで、一方的に不利な条件で合意してしまうことを防げるでしょう。
財産開示を促してもらえる
財産分与の際に相手が財産を隠していると、こちらが受け取れる財産が少なくなってしまいますので、何とかして相手の財産を把握しなければなりません。
こちらから相手に対して銀行口座などの開示を求めることはできますが、法的な手続きではないため、応じてもらえないことも少なくありません。
そういった場合、調停委員が相手方に財産を開示するよう説得してくれることもあります。
債務名義が得られる
調停で財産分与が決定すると、債務名義が得られます。
債務名義とは、金銭などの支払いを受ける権利があることを証明する書類です。
これがあると、相手方が財産分与を履行しなかった場合に、強制執行(差し押さえ)を行って強制的に実現させることができるようになります。
関連記事
・離婚時の取り決めを強制執行で実現する方法|慰謝料・養育費など
財産分与を調停で決めるデメリット
財産分与調停のデメリット
- 双方が合意しなければ調停が成立しない
一方で、何度も裁判所に足を運んで話し合いを行ったとしても、最終的に双方が合意しなければ離婚調停は成立しないというデメリットがあります。
離婚後の財産分与請求調停は、調停が不成立になると自動的に審判に移行するため、ほぼ確実に裁判官の判断が得られます。
しかし、当事者が審判の結果に納得できなければ、2週間以内に即時抗告を申し立てて審理をやりなおしにすることができるため、必ずしも結果が確定するものではありません。
財産分与の調停に関するよくある質問
Q1.財産分与の調停はいつでも申し立てられる?
離婚前であれば、財産分与の調停に申し立て期限はありません。いつでも離婚調停を申し立てることができます。
離婚後に請求したい場合は、離婚から2年間という請求期限があります。
2年以内に相手方と合意をするか、財産分与請求調停を起こさなければ、財産分与を受け取れなくなってしまうため注意してください。
2024年5月に、財産分与の請求期限を離婚後2年間から離婚後5年間に延長する改正民法が可決されました。この改正民法は、2年後の2026年までに施行されます。
関連記事
・財産分与の時効は離婚から何年?2種類の請求期限と最新情報を解説
Q2.財産分与の調停で通帳を開示させることはできる?
離婚調停や裁判中は、家庭裁判所の調査嘱託を用いて預貯金残高や取引履歴を開示させられる可能性があります。
調査嘱託とは、裁判所を通じて金融機関等に情報を開示させる手続きです。
しかし、調停の段階で調査嘱託が認められることは少なく、多くの場合は訴訟の中で利用されています。
また、弁護士に依頼して弁護士会照会を利用するという方法もあります。弁護士会照会は、弁護士会を通じて金融機関などに情報の開示を求める手続きで、調停や裁判を起こしていなくても利用することができます。
弁護士から調査嘱託を申し立てたら認められたというケースもあるため、財産隠しの疑いがある場合はまず弁護士に相談してみるとよいでしょう。
関連記事
・離婚すると貯金はどうなる?貯金の財産分与と貯金隠しの対処法を解説
Q3.財産分与の調停ではいつからいつまでの通帳が必要?
一般的に、財産分与の対象となるのは結婚した時から別居または離婚した時までに築いた財産です。
したがって、婚姻時から別居時または離婚時までの通帳の記録が必要です。
独身時代の口座をそのまま使用していた場合、婚姻時にすでに口座にあったお金は特有財産として扱うことが多いため、別居時だけでなく婚姻時の残高を把握する必要があります。
関連記事
まとめ
財産分与の話し合いがうまくまとまらない時は、離婚調停で財産分与についても話し合うことができます。
また、財産分与について決めずに離婚した場合も、離婚後2年以内であれば財産分与請求調停を起こして財産分与を請求することが可能です。
財産分与には、財産の範囲や評価方法などに関する専門的な判断が必要になるため、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
協議離婚をする際にも、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成すれば同様の効果が得られます。ただし、公正証書の作成には夫婦間でやり取りする金額に応じて5,000円~数万円の手数料が必要です。