和解離婚とは?|手続きの流れ、メリット・デメリット
離婚裁判(離婚訴訟)の中で和解によって離婚する場合を「和解離婚」といいます。
実務では、離婚裁判を起こした場合、判決よりも和解によって離婚するケースが多いです。
その理由は、和解離婚には、判決で離婚する場合に比べて様々なメリットがあるからです。
ただし、和解離婚にもデメリットはあります。
和解離婚するかどうか決める場合は、メリット・デメリットを具体的に検討することが大切です。
この記事では、和解離婚の流れやメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
目次
和解離婚とは?
離婚する方法は、細かく分けると、①協議離婚、②調停離婚、③審判離婚、④裁判離婚、⑤和解離婚、⑥認諾離婚の6つがあります。下図をご覧ください。
当事者が離婚に合意すれば、協議離婚が成立します。
合意できなければ、調停離婚を申立て、調停不成立ならば裁判離婚を申し立てるのが一般的な流れです。
離婚裁判中に裁判官から和解勧告があり、これに応じて和解すれば和解離婚することになります。
和解離婚する場合も、当事者間に未成年の子がいる場合は、親権者を必ず決めなければなりません。
離婚裁判を提起した際、養育費、慰謝料、財産分与、年金分割なども併せて請求した場合は、これらの問題についても和解できます。
和解の内容は、画一的なものではなく、当事者の事情に合わせて柔軟に決めることができます。さらに、訴えを起こした内容以外についても、柔軟に取り決めることができます。
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和解離婚の手続き
和解離婚の流れを大まかに述べると、以下のとおりです。
〇和解離婚の流れ
- 原告が家庭裁判所に離婚裁判の訴状を提出する
- 訴状の送達を受けた被告が、答弁書を送る
- 第一回口頭弁論期日が開かれる
- 月に1回程度の頻度で口頭弁論を繰り返す
- 裁判所から和解勧告がある
- 当事者が離婚や離婚条件につい合意に至り、和解調書が作成される(和解離婚成立)
「和解勧告」のタイミングは明確に決まっているわけではありません。離婚裁判の初期段階のケースもあれば、当事者の主張と証拠が出揃った段階で和解勧告がされるケースもあります。
また、本人尋問(原告と被告が裁判官の前で自分の体験した事実等を説明する手続き)が終わった段階で、和解勧告がされる場合もあります。
和解勧告に従うかどうかは本人の自由です。
もっとも、離婚裁判で控訴・上告まで徹底的に争うと2年以上かかる場合が多く、経済的にも時間的にも大きな負担がかかります。
和解離婚した方が、裁判離婚をするよりも早期解決でき、全体的なメリットが大きくなる可能性があります。
和解勧告に応じるかどうかは、和解のメリット・デメリットを弁護士とよく検討した上で決めるのがおすすめです。
現在のところ、和解離婚するには、原則として本人が裁判所に出頭する必要があります。
もっとも、法改正によって、今後は和解離婚や調停離婚がウェブ会議でできるようになります(改正人事訴訟法37条4項、改正家事事件手続法268条3項ただし書)。2025年度中の施行が予定されています。
和解離婚成立後の流れ
和解離婚は、和解調書に記載すると、その記載に確定判決と同一の効力が与えられます。
したがって、和解調書に離婚する旨の記載があると、離婚が成立します。
和解離婚成立後に忘れてはならないのが役所への届出です。
具体的には、原告が、和解成立日から10日以内に、離婚届と和解調書謄本(又は和解調書省略謄本)を届出人の本籍地または所在地の市町村役場に提出する必要があります。
和解離婚の場合、離婚届の記入は届出人が単独で行うことができます。証人の署名は必要ありません。
和解離婚に関する統計
ここでは、離婚裁判になった場合、どのような結論で裁判が終了するケースが多いのか見ていきましょう。
下の表をご覧ください。
離婚裁判の終わり方 | 件数 | 割合 |
---|---|---|
認容(裁判離婚) | 2,673 | 32.9% |
棄却 | 349 | 4.3% |
却下 | 7 | 0.09% |
和解(和解離婚) | 3,040 | 37.4% |
取下げ | 1,802 | 22.2% |
その他 | 246 | 3.0% |
上記の表を見ると、離婚裁判のうち37.4%が和解離婚により終了したことが分かります。つまり、離婚裁判のうち4割近くの夫婦が和解離婚を選択したことになります。
また、判決で離婚が認容されるケースは32.9%であり、和解離婚の方が裁判離婚より多いことが分かります。
和解離婚のメリット
財産分与について柔軟に決められる
和解離婚は、当事者の合意により離婚条件を自由に決めることができます。
ここでは、住宅ローンと退職金を例に、和解離婚のメリットを解説します。
①住宅ローンについて
住宅ローンが残っている場合、和解離婚であれば、当事者双方が納得した解決が可能です。
例えば、「夫婦の一方が住宅ローンを支払い続ける」と約束する、または、「夫婦の一方が代償金及び相手方を債務者とする住宅ローンの残債務相当額を支払うのと引き換えに不動産を取得する」と約束するなど、事案に応じて債務の負担者を決めることができます。
ただし、債務者を変更する場合は、金融機関に事前に承諾を得る必要がある点に注意してください。
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②退職金について
退職金の支払まで相当長い期間がある場合、離婚裁判だと支払時期や支払額について激しい争いになるケースが少なくありません。
仮に財産分与として退職金を支払うよう判決で命じられても、判決だと一括払いしか認められないため、相手方に手持ち資金がない場合は、結局支払いを受けられない事態になりかねません。
一方、和解離婚の場合、将来退職金が支給されたときに財産分与としてお金を支払ったり、分割払いで支払うなど、柔軟に支払方法を決めることができます。
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相手方の任意の支払が期待できる
和解離婚の場合、裁判離婚の場合よりも、財産分与や慰謝料が約束どおり支払われることが期待できます。
なぜなら、判決によって強制的に支払いが命じられる場合と違い、和解離婚では相手方も納得の上で支払条件を決めているからです。
もし相手が約束どおりお金を支払わなかった場合でも、和解調書があれば、裁判所に対し、履行勧告や履行命令の申立てが可能です。
それでも相手方が支払わない場合は、和解調書に基づき、強制執行できます。
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面会交流について柔軟に決められる
実務では、非監護親が離婚裁判が確定する前に子どもとの面会を希望して、面会交流調停や審判を申し立てるケースが多いです。
この場合、離婚裁判とは別に面会交流についての調停や審理が進むことになります。
しかし、これでは離婚問題全体の解決に時間がかかってしまいます。
一方、和解離婚の場合、たとえ訴状で面会交流について申し立てていなくても、当事者で面会交流の条件を話し合うことが可能です。
和解で面会交流について合意する方法は、離婚原因に争いがあり、相手方が離婚を拒否しているケースで、特に有効な解決策になる可能性があります。
なぜなら、子どもとの面会の機会がきちんと確保されれば、相手方が離婚に応じる可能性が高くなるからです。
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本人尋問の負担を回避できる
離婚裁判において、本人尋問が実施される前に和解離婚が成立すれば、尋問の負担を回避できます。
本人尋問は、法廷において相手方の見ている前で行われるのが原則であるため、精神的に大きな負担となります。
この負担感を回避できる点も、和解離婚の大きなメリットです。
裁判離婚よりも早期に解決できる
裁判所の統計によると、令和4年における離婚裁判の平均審理期間は、14.7か月でした(引用元:人事訴訟の概況(令和4年1月~12月)。
判決に不服があり、控訴・上告まで行う場合は、2年以上かかるケースも珍しくありません。
したがって、裁判離婚を目指すとなると、長い期間がかかることを覚悟しておかなければなりません。
一方、和解離婚であれば、和解に応じる段階が早いほど、早期に離婚問題を解決できます。
早期解決に至れば、弁護士費用など経済的な負担も軽減できます。
戸籍に裁判離婚したと記載されない
和解離婚の場合、戸籍に「離婚の和解成立日」と記載されます。
一方、判決によって離婚した場合、「離婚の裁判確定日」と記載されます。
したがって、裁判離婚したことを戸籍に残したくない方にとって、和解離婚はメリットがあります。
和解離婚のデメリット
判決よりも離婚条件が不利になる可能性がある
和解とは「お互いに譲り合うこと」です。
言い換えれば、判決になった場合よりも自分にとって不利な条件での和解になる場合も有り得ます。
ただし、和解には上記のとおり様々なメリットがあります。
したがって、特定の離婚条件の有利不利にこだわりすぎるよりも、全体的な視点から和解に応じるかどうか検討することが重要です。
協議離婚よりも時間や手間がかかる
最短で離婚する方法は、協議離婚です。これに比べれば、和解離婚は時間も手間もかかってしまうデメリットがあります。
和解離婚の相談は弁護士へ
離婚裁判になった場合、実務では、判決よりも和解離婚を選択するケースが多いです。
その理由は、和解には離婚条件を柔軟に決められるなどのメリットがあるからです。
ただし、デメリットもあるため、和解勧告に応じるかどうかは慎重な検討が必要です。
和解離婚のメリット・デメリットを十分検討するには、弁護士による専門的なアドバイスが欠かせません。
裁判離婚や和解離婚についてお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にお気軽にご相談ください。
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了