介護疲れで離婚したい!離婚の条件と別居から進める方法

義両親や配偶者の介護に追われ、心身ともに限界を感じて離婚を考える方もいます。
まず知っておいていただきたいのは、夫婦が話し合いで合意できれば、理由にかかわらず離婚は成立するということです。たとえ相手が応じなくても、長期間の別居などによって夫婦関係の破綻が認められれば、裁判で離婚が認められる可能性は高まります。
統計では義両親の介護を担う妻は多くいます。しかし、配偶者の親に対する直接的な介護義務は原則としてありません。義両親の介護を一身に背負う必要はないのです。
この記事では、介護を理由に離婚するための条件、別居を進める際の注意点、そして請求できる可能性のあるお金について、弁護士がわかりやすく解説します。
目次
原則として義両親を介護する義務はない
よく妻が夫の両親を介護するというケースがあります。しかし、法的に見れば、原則として妻が義両親を介護する義務はありません。
民法では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定しています(民法877条1項)。つまり、介護義務(扶養義務)を負うのは「直系血族と兄弟姉妹」ということになり、介護される本人と直接血のつながりのない妻には、介護義務がないことになります。
ただし、以下のようなケースでは、義両親に対して介護する義務が生じるので注意しましょう。
- 義親と同居している
- 義親と養子縁組を結び、直系血族と同じ関係になっている
- 裁判所が特別な事情があると判断した
介護者の半数が同居の家族で女性が約7割
介護を担っている人の実態を、統計データから確認してみましょう。
厚生労働省の2022年「国民生活基礎調査」によると、要介護者と主な介護者の関係では、「同居」が45.9%を占めています。介護を必要とする人のおよそ半数が、同じ家に暮らす家族に支えられている状況です。
同居する主な介護者の続柄を見ると、「配偶者」が22.9%で最も多く、「子の配偶者」も5.4%を占めています。さらに男女別では、同居の主な介護者のうち女性が約7割(68.9%)です。なかでも「子の配偶者」による介護は、総数5,418人のうち5,273人(97.3%)が女性で、義両親の介護が主に妻に担われている実態が読み取れます。
また、同居の主な介護者のうち「悩みやストレスがある」と答えた人は31,747人(69.2%)にのぼります。そのうち女性は23,235人を占めており、負担の偏りだけでなく精神的な重圧の大きさも明らかです。
このように、介護は同居家族、とりわけ女性に重くのしかかる傾向があります。それでは、こうした状況で離婚することはできるのでしょうか。
出典:厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
義両親の介護を理由とした離婚
「夫の両親の介護をしている。しかし、夫がまったく協力してくれない」といった理由から、離婚を考える方もいらっしゃるでしょう。ここでは、義両親の介護で離婚できるケースについて解説します。
離婚できるケース
相手が離婚に合意している
相手が離婚に合意している場合は、協議離婚というかたちで、義両親の介護を理由として離婚することができます。
協議離婚とは、夫婦間の話し合いによって、離婚をするかどうか、どんな条件で離婚をするかを決める方法です。夫婦が合意して離婚届を提出すれば、離婚は成立します。当事者が合意さえすればどんな理由でも離婚をすることができるところが特徴です。
話し合いがまとまらず離婚調停に進んだ場合でも、双方が合意できればどのような理由でも離婚することができるので覚えておきましょう。
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法定離婚事由がある
離婚調停でも話がまとまらず離婚裁判に発展した場合でも、法定離婚事由があれば離婚することができます。法定離婚事由は以下の通りです。
法定離婚事由
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
※「回復の見込みのない強度の精神病」は、民法改正により削除されます。この改正は、2026年4月1日に施行されます。
たとえば、「妻が介護している間に、夫が不貞行為に及んでいた」といった事実があれば、離婚が認められることになります。
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配偶者の非協力が悪意の遺棄に該当する可能性
夫が義両親の介護に一切協力しないという事実だけでは、直ちに「悪意の遺棄」とは認定されません。実務上、悪意の遺棄として離婚が認められる典型例は、正当な理由のない別居や生活費の不払いです。
ただし、以下のような事情が複数重なる場合には、夫婦間の協力・扶助義務を放棄したものとして、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当し、離婚が認められる可能性があります。
- 夫が家事や介護に一切協力せず、妻に過度な負担を強いている
- 妻が介護負担で体調を崩しているにもかかわらず、夫が放置している
- 介護サービスの利用や外部支援の検討すら拒否している
- 「親の介護はお前の仕事だ」といった発言を繰り返している
こうした状況では、配偶者とのやり取り(メール、LINE)や医師の診断書を保存し、弁護士に相談することをおすすめします。
介護によって夫婦関係が破綻している
介護によって夫婦関係が破綻しているという場合は、法定離婚事由の「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」とみなされれば、離婚が認められる可能性が高いです。
夫婦関係が破綻しているとみなされるケースには「介護が原因で別居し、別居が長期間に及んでいる」「妻が協力を求めても、夫がまったく話を聞かず、暴言を吐く」などといった場合が該当します。
離婚が難しいケース
相手が離婚を拒否し、法定離婚事由がない
相手が離婚に同意しておらず、ほかに法定離婚事由もないという場合は、離婚が難しいでしょう。
協議離婚や離婚調停で話がまとまらなかった場合は、離婚裁判に移行することになります。離婚裁判では法定離婚事由の存在が必須になるため、介護以外に法定離婚事由がないという場合は、離婚することは難しくなります。
婚姻関係が破綻した理由が自分にある
婚姻関係が破綻した理由が自分にある場合は、自身が有責配偶者(夫婦関係の破綻の主な原因となる行為をおこなった配偶者)となり、原則として離婚を請求することは認められません。
たとえば、自分が配偶者にDVをおこなったり、不貞行為に及んだりした場合は、たとえ介護を理由に離婚を請求しても認められないでしょう。
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夫の介護を理由とした離婚
「夫の介護をしており、精神的に限界が来てしまった」といった理由から、離婚を考える方もいらっしゃるでしょう。ここでは、夫の介護を理由として離婚できるケースについて解説します。
離婚できるケース
相手が離婚に合意している
相手が離婚に合意している場合は、協議離婚というかたちで、夫の介護を理由として離婚することができます。
法定離婚事由がある
夫が「回復の見込みのない強度の精神病」にかかっている場合、現行の民法では法定離婚事由の一つにあたり、離婚が認められる可能性があります。
ただし、2026年4月1日に施行される民法改正により、この規定は削除されます。
改正後は、精神病に限らず、こうした事情が「婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかどうかという観点から判断されることになります。身体的な障害がある場合も同様に、この「重大な事由」に該当するかどうかで判断されます。
裁判所は、病気や障害の内容や重さだけで結論を出すわけではありません。夫婦関係がどの程度実質的に失われているか、さらに離婚後に本人の療養や生活をどのように支えていくのかといった点も含めて、総合的に判断します。
離婚が難しいケースと注意点
相手が離婚を認めずほかに法定離婚事由がない場合や、自分が有責配偶者である場合は離婚が認められません。
また、夫が認知症だったり、脳梗塞などの後遺症によって意思疎通ができなかったりした場合、協議や調停で離婚の手続きを進めていくことはできない点に注意が必要です。
意思疎通が難しい夫と離婚の手続きをする場合は、まず家庭裁判所に成年後見の申し立てをおこない、夫に成年後見人を立ててもらう必要があります。そして、成年後見人を相手に離婚裁判を進めていくことになります。
介護を理由に離婚をしようと思ったら?
別居を検討する
介護を理由に離婚を考え始めた場合、まずは別居という選択肢を検討する方法があります。
いったん介護から距離を置くことで気持ちを落ち着け、自分の本音や今後の方向性を整理しやすくなります。また、別居は離婚を真剣に考えているという意思を相手に示すきっかけにもなります。
一般に、別居が3~5年程度と長期間に及び、夫婦関係が実質的に破綻していると判断されれば、裁判で離婚が認められる可能性は高まります。ただし、期間だけでなく経緯や双方の事情も考慮されます。
別居を始める際は、あらかじめ住まいを確保し、可能であれば相手に意思を伝えておくことが望ましい対応です。別居中でも婚姻費用(生活費)は請求できます。経済面に不安がある場合は、早めに弁護士へ相談することを検討してください。
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弁護士に相談する
別居しても考えが変わらず、介護を理由に離婚しようと考えたときには、弁護士に相談することをおすすめします。
協議離婚で話がまとまらない場合は、離婚調停や離婚裁判を検討することになります。弁護士に相談することで、交渉や主張を代理でおこなってもらうことができます。
また、現在の状況から、法定離婚事由に相当する理由があるかどうか、離婚が認められそうかどうかといったことを法的な観点で判断してもらえるというメリットがあります。慰謝料請求や財産分与、養育費等の離婚条件についても的確に主張してもらえるでしょう。
カウンセリングを検討する
介護をしていてつらくなってきたものの、離婚するかどうか迷っているという場合は、介護福祉士や離婚カウンセラーなどの第三者に話を聞いてもらうのもよいでしょう。
場合によっては、関係を修復できたり、次にどのような行動を取ればよいかがわかったりすることもあると思います。
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介護を理由に離婚をすることになったときのポイント
介護だけを理由とした慰謝料請求は難しい
「介護で離婚するとき、夫に慰謝料は請求できるのか」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。介護だけを理由に、慰謝料を獲得することは難しいです。
離婚慰謝料とは、離婚の原因を作った方が、もう一方の精神的苦痛を補償するために支払うお金です。
離婚の慰謝料は、すべての場合で支払われるものではありません。請求できるのは、基本的に相手に不倫などの不法行為がある場合が前提となります。
介護自体は不法行為に該当しないため、介護だけを理由に慰謝料を相手から勝ち取るのは難しいでしょう。
ただし、「介護に対する夫の言動のせいでうつ病を患った」といったケースでは、慰謝料が認められる可能性があります。
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財産分与は基本的に2分の1の割合となる
介護離婚をするときであっても、財産分与(夫婦が婚姻期間中に築いた財産を離婚時に公平に分配すること)がおこなわれます。
財産分与の割合(寄与割合)は、2分の1、つまり半分ずつ分けるのが原則です(2分の1ルール)。
たとえ自分が専業主婦であり、義両親や夫の介護を放棄したとしても、基本的には2分の1ずつ分けるという原則は変わらない点を押さえておきましょう。
また、相手が合意すれば、これまで夫や義両親の介護をしてきたということを鑑みて、分与の割合を変更するといったことも可能です。
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養育費も支払ってもらえる
介護が必要な夫と離婚する場合であっても、夫に収入があれば、養育費を支払ってもらうことができます。
子どもの介護を理由に離婚する場合であっても、養育費を支払う義務は変わりません。
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・離婚後の養育費の相場はいくら?支払われなかったらどうする?
介護離婚に関するよくある質問
Q. 介護を理由に離婚できる条件は?
夫婦が話し合いで合意すれば、理由を問わず離婚は成立します。相手が同意しない場合でも、不貞行為や「婚姻を継続し難い重大な事由」などの法定離婚事由があれば、裁判で離婚が認められます。
実務上、別居期間がおおむね3年程度続いていれば、婚姻関係が破綻していると評価されやすい傾向があります。ただし、同居期間、子どもの有無、離婚による経済的・精神的影響なども総合的に考慮されます。
Q. 介護で別居すれば離婚できる?
介護を理由に別居し、その状態が長く続いている場合、夫婦関係が実質的に破綻していると評価される可能性があります。ただし、別居期間の長さだけでなく、別居に至った経緯や相手の対応なども総合的に考慮されます。
別居中でも婚姻費用(生活費)を請求できるため、経済面に不安がある場合は早めに手続きを検討することが重要です。別居前から、介護の負担状況や相手の発言・態度を記録しておくと有利に働くことがあります。
Q. 介護離婚で慰謝料は請求できる?
一般に、離婚慰謝料が認められるには配偶者の不法行為が原因で離婚せざるを得なくなったという事情が必要です。単に「介護が大変だった」という負担の重さだけでは、直ちに不法行為とは評価されにくく、慰謝料請求は難しいのが実務上の傾向です。
一方で、介護中に不貞行為があった場合や、介護への非協力に加えて暴力や重大な侮辱があり、その態様が悪質である場合には、慰謝料が認められる可能性があります。証拠として、問題となる言動の録音やメール・LINE、精神的被害を裏付ける医師の診断書などを確保しておくことが重要です。
介護を理由に離婚するときは弁護士に相談!
相手が離婚することについて認めていたり、法定離婚事由があったりする場合は、義両親や夫の介護を理由に離婚することができます。
「介護に疲れて離婚したい」という場合は、ひとりで抱え込まずに弁護士などの第三者に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、現在の状況から離婚が認められるかどうかを判断してくれるほか、調停や裁判に移行した際もスムーズに対応してくれます。
無料相談を受け付けている弁護士事務所もありますので、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。全国15拠点を構えるアトム法律グループの代表弁護士として、刑事事件・交通事故・離婚・相続の解決に注力している。
一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了
