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「お金のため」でも強制わいせつ罪は成立する#裁判例解説
「私は性的な欲求があったわけじゃない。ただお金が必要だっただけなんです!」
被告人の必死の弁解が法廷に響いた。7歳の女児に対して行った卑劣な行為について、被告人は「金銭目的であり、性的意図はなかった」と主張し続けている。
弁護人も力を込めて訴えた。
「昭和45年の最高裁判例では、性的意図がなければ強制わいせつ罪は成立しないと明確に示されています!」
しかし、裁判官の判断は従来とは全く異なるものとなった。この判決が、刑法解釈を根本から覆すことになろうとは、この時まだ誰も予想していなかった…。
※最高裁平29・11・29(平成28年(あ)1731号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 強制わいせつ罪の成立に行為者の性的意図は不要となった
- 被害者の性的自由の保護が最優先の考え方に転換した
- 金銭目的などの動機があっても強制わいせつ罪は成立する
強制わいせつ罪の成立要件について、刑法史上重要な判例変更が行われました。最高裁は平成29年11月29日、長年にわたって維持されてきた「性的意図必要説」を覆し、行為者の性的意図の有無を問わず強制わいせつ罪が成立するとの新たな判断を示しました。
この事件の被告人は、7歳の女児に対してわいせつ行為を行いましたが、「金銭目的であり性的意図はなかった」と主張していました。従来の判例であれば無罪となる可能性もありましたが、最高裁は被害者の性的自由の保護を重視する新たな解釈を採用しました。
この判例変更により、強制わいせつ事件の処罰範囲が大幅に拡大し、被害者保護の観点から画期的な進歩となりました。刑法の根本的な解釈変更の背景と意義について、詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、最高裁平成29年11月29日大法廷判決(平成28年(あ)1731号)を取り上げます。 この裁判は、7歳の女児に対する強制わいせつ事件で、行為者の性的意図の有無が争点となった事案です。
- 被告人:成人男性(被害女児の養父等の関係者)
- 被害者:7歳の女児
- 請求内容:強制わいせつ罪、児童ポルノ製造・提供罪等で起訴
- 結果:最高裁が47年間の判例を変更し、性的意図不要の新解釈を採用
🔍 事件の経緯
「もうお金がない…どうしよう」
被告人は生活費に困窮していた。そんな時、インターネットで知り合った人物から連絡があった。
「お金を貸してもいいが、条件がある。子どもとわいせつな行為をして、その様子を撮影して送ってくれ」
被告人は最初は躊躇したが、金銭的な窮状から、ついにその要求を受け入れてしまった。被告人は7歳の女児に対し、自分の陰茎を触らせ、口にくわえさせ、女児の陰部を触るなどの行為を行い、その様子をスマートフォンで撮影した。
逮捕後、被告人は取り調べで必死に訴えた。「私は性的な満足を得るためにやったのではありません。ただお金が欲しかっただけです。自分の性欲を刺激するつもりはまったくありませんでした」
弁護人も法廷で力強く主張した。「昭和45年の最高裁判例では、強制わいせつ罪が成立するには『性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図』が必要だと明確に示されています。被告人にはそのような意図は一切ありませんでした」
しかし、第一審の神戸地裁は意外な判断を下した。「強制わいせつ罪の成立に性的意図は不要である」として、従来の最高裁判例を相当でないと断じたのである。控訴審の大阪高裁も同様の判断を示し、ついに最高裁での審理となった。
※最高裁平29・11・29(平成28年(あ)1731号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
最高裁は、昭和45年判例を変更し、「刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うための個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合はありうるが、行為者の性的意図は強制わいせつ罪の成立要件ではない」と判示しました。
主な判断ポイント
従来判例の変更
最高裁は昭和45年判例について「もはや維持し難い」と明確に判断し、性的意図を一律に要求する解釈を放棄しました。
被害者の性的自由の重視
「被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべき」として、加害者の主観よりも被害者保護を優先する立場を明確にしました。
社会情勢の変化への対応
平成16年と平成29年の刑法改正により法定刑が段階的に重くなったことや、性的被害に対する社会の意識変化を重視して解釈を変更しました。
客観的判断基準の採用
行為そのものが持つ性的性質が明確な場合は、他の事情を考慮することなく客観的にわいせつ行為と判断できるとしました。
👩⚖️ 弁護士コメント
判例変更の画期的意義
この判決は刑法解釈史上、極めて重要な意味を持ちます。長年にわたって維持されてきた「性的意図必要説」が覆されたことで、強制わいせつ罪の処罰範囲が大幅に拡大しました。
特に注目すべきは、最高裁が社会情勢の変化を明確に判決理由に組み込んだ点です。
課題点
一方で、行為者の主観的事情を「個別具体的な事情の一つ」として考慮する余地は残されています。
また、わいせつ行為の該当性判断において、社会通念に照らした総合的な判断が求められることになり、より慎重な事実認定が必要となるでしょう。
📚 関連する法律知識
強制わいせつ罪とは
令和5年7月12日以前の「わいせつ事件」については、改正される前の「強制わいせつ罪」(旧 刑法176条)が適用されます。
おこした強制わいせつ事件が公訴時効をむかえるまでは、強制わいせつ罪の刑罰を受ける可能性がつづきます。
強制わいせつ罪というのは、13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。
暴行または脅迫というのは、判例上「相手の意に反する」という程度の行為だと解釈されています。
この点、具体的に殴る蹴る等の暴力を振るっていなくても、強制わいせつ罪が成立します。
さらに13歳未満の者に対しては、暴行又は脅迫がなくても、強制わいせつ罪が成立します。
強制わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の懲役です。
わいせつ行為の判断基準
今回の判例変更により、わいせつ行為の該当性は以下の観点から判断されることになりました。
- 行為そのものが持つ性的性質の有無と程度
- 行為が行われた際の具体的状況
- 社会通念に照らした性的意味の有無と強さ
- 個別事案に応じた具体的事実関係
類似する性犯罪との関係
強制性交等罪(旧強姦罪)については、従来から性的意図は要件とされておらず、今回の判例変更により両罪の解釈の整合性が図られました。
また、監護者わいせつ罪などの新設された犯罪類型にも同様の解釈が適用されることになります。
不同意わいせつ罪とは
不同意わいせつ罪(刑法176条)は、令和5年7月13日以降のわいせつ事件に適用されます。
不同意わいせつ罪とは、16歳以上の者に対し、被害者が「一定の事由」によって、被害者が「同意しない意思を形成・表明・全う」することが困難な状態である場合に、「わいせつな行為」をしたときに成立します。
不同意わいせつ罪(刑法176条1項)
- 暴行・脅迫
- 心身の障害
- アルコール・薬物の影響
- 睡眠その他の意識不明瞭
- 同意しない意思を形成・表明・全うするいとまの不存在
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
1~8までの行為・事由その他これらに類する行為・事由によって、「同意しない意思を形成・表明・全う」を困難にさせたり、その状態に乗じたりして、「わいせつな行為」をした場合、不同意わいせつ罪(刑法176条1項)が成立します。
なお、不同意わいせつ罪は配偶者間であっても成立します。
また、16歳未満の者に対しては、上記1~8のような行為がなくても、わいせつ行為をしただけで不同意わいせつ罪が成立します。
不同意わいせつ罪の法定刑は、6か月以上10年以下の拘禁刑です。
🗨️ よくある質問
Q.今回の判例変更で、どのような行為が新たに処罰対象となるのですか?
従来は処罰されなかった「報復目的」「悪ふざけ目的」「金銭目的」などによるわいせつ行為が処罰対象となります。
ただし、客観的にわいせつ行為と評価される必要があり、単なる身体接触すべてが処罰されるわけではありません。
Q.昭和45年判例とは具体的にどのような事件だったのですか?
被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで、脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をした事件でした。当時の最高裁は「性的意図がなければ強制わいせつ罪は成立しない」と判断していました。
Q.この判例変更により過去に無罪となった事件の見直しは行われるのですか?
確定判決に対しては再審事由に該当しない限り見直しはありません。
しかし、今後同種の事件については新しい解釈基準により判断されることになります。
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