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10億円脱税の代償は実刑4年#裁判例解説
「土地15億6000万円、建物3億5000万円、設備10億1900万円を計上して、全額除却損にしてください」
電話の向こうで、被告人の声が響いた。税理士事務所の事務員である女性は手を止めた。
「でも、除却の資料は…」「資料は要りません。とにかく指示通りにやってください。質問は一切受け付けません」
30億円を超える巨額の資産が帳簿上で一瞬にして消える。それは、10億円超の脱税を可能にする壮大な手口の始まりだった…。
※東京地判平30・11・20(平成25年(特わ)302号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 架空の固定資産除却損や売却損の計上は重大な脱税手法として厳しく処罰される
- 10億円超の脱税は実刑が不可避で、高額な罰金も併科される
法人税の脱税事件は後を絶ちませんが、今回ご紹介する事例は、その手口の巧妙さと規模の大きさで注目を集めた案件です。
不動産賃貸業を営む会社の代表取締役が、税理士事務所の職員を巧みに操り、架空の固定資産除却損や売却損を計上することで、3年間で約10億6000万円もの法人税を免れようとした事件です。
被告人は複数の関係会社を設立・解散させながら、本来は個人に帰属すべき不動産収入を法人の所得として申告し続けていました。そして申告法人に利益が発生すると、今度は架空の損失を計上して所得を圧縮するという二段構えの手法を使用していたのです。
この事例を通じて、法人税脱税の典型的な手口と、それに対する裁判所の厳しい判断を詳しく解説していきます。
目次
📋 事案の概要
今回は、東京地判平30・11・20(平成25年(特わ)302号)を取り上げます。 この裁判は、不動産賃貸事業を営む会社の代表取締役が、売上の一部除外や架空の固定資産除却損の計上により法人税を免れた事案です。
- 被告人:不動産賃貸会社の代表取締役(86歳)
- 請求内容:法人税法違反(脱税)に基づく刑事処罰
- 結果:懲役4年及び罰金2億4000万円の有罪判決
🔍 事件の経緯
「もう税金なんて払いたくない…」
被告人は不動産賃貸業で巨額の収益を上げていたが、個人で申告すると高額な税負担を強いられることに不満を抱いていた。そこで考え出したのが、複数の法人を設立して所得を分散させる手法だった。
平成21年1月、被告人は申告法人を設立し、自己所有の不動産31物件の賃貸収入約16億円をこの法人の収入として計上することにした。しかし、これでは約12億円もの純利益が発生してしまう。
「こんなに利益が出ては意味がない。何とかしなければ…」
被告人は税理士事務所の事務員に電話をかけた。
「土地や建物、設備を購入したことにして、それを全部除却損で落としてください。資料は送りません。質問も一切しないでください」
事務員は困惑したが、被告人の強い指示に従って架空の固定資産除却損約9億6200万円を計上した。さらに架空の固定資産売却損4億2000万円も計上し、これらを売上高と相殺させることで、帳簿上の不自然さを隠そうとした。
翌年も同様の手口を繰り返し、平成22年12月期には保守管理費名目で約7000万円、架空の固定資産売却損として約10億5800万円を計上。平成23年12月期にも架空の固定資産売却損約4億5400万円と賃料収入の除外約3億円を行った。
この結果、3期合わせて約35億円もの所得を秘匿し、本来納付すべき約10億6000万円の法人税を免れた。すべての期で欠損金を計上し、法人税額をゼロにしていたのである。
※東京地判平30・11・20(平成25年(特わ)302号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
裁判所は、「売上の一部を除外し、架空の固定資産売却損を計上するなどの方法により敢行した虚偽過少申告ほ脱」として、被告人に懲役4年及び罰金2億4000万円を言い渡しました。
主な判断ポイント
不動産収入の法人帰属性
裁判所は、被告人が自由意思に基づいて申告法人に不動産収入を帰属させる法形式を選択し、実際にそのように申告していたとして、収入の法人帰属を認定しました。
組織的・継続的な脱税手法
3年間にわたり、売上除外、架空の固定資産除却損・売却損の計上、相殺処理など多岐にわたる所得秘匿手段を用いたとして、その手口を「露骨かつ巧妙」と評価しました。
悪質性の高い動機
税務・会計の基本原則を無視し、「税金を全く納めずに申告法人の売上の全てを意のままにすること」が動機であったと推認し、納税義務をないがしろにするものと厳しく批判しました。
👩⚖️ 弁護士コメント
組織的脱税への厳罰主義
本判決で注目すべきは、高齢の被告人(86歳)に対してなお実刑判決を下した点です。
修正申告を行い、本税・延滞税・重加算税をすべて納付していたにもかかわらず、懲役4年という重い刑が科されました。これは、組織的かつ継続的な脱税に対する司法の厳しい姿勢を示すものといえます。
実質課税の原則の徹底
被告人は複数の関係会社を設立・解散させながら所得の付け替えを行っていましたが、裁判所は実質的に被告人個人が支配する法人群であることを見抜き、形式的な法人格に惑わされることなく課税関係を判断しました。
これは実質課税の原則の適用例として重要な意味を持ちます。
税理士事務所職員の関与リスク
本件では税理士事務所の職員が被告人の指示に従って不正な経理処理を行いましたが、このような行為は職員自身も刑事責任を問われるリスクがあることを示しています。
顧客からの不審な指示には毅然とした対応が必要です。
📚 関連する法律知識
法人税法違反の構成要件
法人税法違反(脱税)が成立するためには、(1)偽りその他不正の行為、(2)税額の免脱、(3)故意が必要です。本件では架空の損失計上という「偽りその他不正の行為」により、約10億円という巨額の「税額の免脱」を行い、被告人には明確な「故意」が認められました。
実質課税の原則
税法では、法形式よりも経済的実質を重視して課税関係を判断する「実質課税の原則」が適用されます。
本件でも、複数法人を使った複雑なスキームの実質を見抜いて適正な課税関係を認定しています。
重加算税と刑事処罰の関係
重加算税の納付は刑事処罰を免れる理由にはなりません。むしろ重加算税が課される「隠蔽・仮装」行為は、刑事処罰の対象となる「偽りその他不正の行為」と重なることが多く、両方の責任を負うことになります。
🗨️ よくある質問
Q.複数の法人を使った節税スキームは違法なのですか?
複数法人の利用自体は適法ですが、実質的に同一人が支配する法人群を使って税負担を不当に軽減しようとする場合、税務上は実質課税の原則により否認される可能性があります。
さらに、架空の取引や損失を計上すれば脱税罪に該当します。
Q.税理士事務所の職員が顧客の指示で不正な処理を行った場合の責任は?
職員であっても脱税に加担すれば共犯として刑事責任を問われる可能性があります。
本件のように明らかに不審な指示については、たとえ顧客からの強い要求があっても拒否すべきです。
Q.後から修正申告すれば刑事処罰は免れますか?
修正申告や納税は刑事処罰を免れる理由にはなりません。
ただし、量刑上は有利な事情として考慮される場合があります。本件でも修正申告等が行われましたが、悪質性の高さから実刑判決となりました。
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一方で「岡野タケシ弁護士」としてSNSでのニュースや法律問題解説を弁護士視点で配信している(YouTubeチャンネル登録者176万人、TikTokフォロワー数69万人、Xフォロワー数24万人)。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士、弁理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了