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公文書毀棄罪の判例|長時間の取り調べに対する憤慨から調書を破った男性の運命#裁判例解説
「こんなもんなんじゃ!」
約6時間におよぶ取り調べに疲れ果てた被告人が、警部補の手から参考人調書を奪い取り、一気に引き裂いた。パリッと音を立てて破れる調書。取調室に緊張が走る。
「これでいこう」
警部補は即座に被告人を公文書毀棄(こうぶんしょきき)の現行犯で逮捕した。しかし、この瞬間から始まった法廷闘争は、三つの裁判所で全く異なる判断を示すことになる。
一審では有罪、控訴審では逆転無罪、そして最高裁では再び有罪へ――。違法な取り調べで作成された調書は法的保護に値するのか。公文書毀棄罪の成立要件を巡る画期的な判例が生まれた瞬間だった。
※最高裁昭57・6・24(昭和54年(あ)1647号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 違法な取り調べ下でも完成した調書は公文書毀棄罪の対象となる
- 取り調べの違法性は量刑において考慮される重要な情状事実
刑法258条の公文書毀棄罪は、公務の信頼性と継続性を保護するために設けられた重要な規定です。しかし、違法な取り調べの過程で作成された調書を被疑者が破った場合、それでも公文書毀棄罪が成立するのでしょうか。
今回ご紹介する判例は、この根本的な問題について最高裁が明確な判断を示した画期的なケースです。長時間の取り調べに憤慨した参考人が調書を引き裂いた行為について、一審有罪、控訴審無罪、最高裁有罪という劇的な展開を見せました。
この事例を通じて、公文書毀棄罪の成立要件、違法捜査と公文書の保護価値の関係、さらには適正手続きの重要性について深く理解していきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、最高裁昭57・6・24(昭和54年(あ)1647号)を取り上げます。 この裁判は、長時間の取り調べを受けた参考人が警察官作成中の調書を引き裂いた公文書毀棄事案です。
- 被告人:自動車窃盗事件の参考人として取り調べを受けた男性
- 事故状況:覚せい剤使用者との宿泊中に異常行動を示し、使用車両に盗難被害届が判明
- 請求内容:公文書毀棄罪による処罰
- 結果:最高裁が控訴審の無罪判決を破棄し、懲役3月執行猶予1年の有罪判決
🔍 事件の経緯
「天井裏で物音がする!誰かがのぞいている!」
昭和53年3月27日、京都市内のモーテル(自動車旅行者が利用する宿泊施設)で覚せい剤常習者の女性と宿泊していた男性が異常な興奮状態で騒ぎ立てた。通報で駆けつけた警官が男性の使用車両を照会すると、盗難被害届が出ていることが判明した。
「自動車に盗難被害届が出ているので、署まで来て説明してほしい」
男性は任意同行に応じたが、パトカーの後部座席で両側を警官に挟まれる状況だった。太秦署で約3時間の取り調べの結果、窃盗犯でないことが判明したが、今度は参考人として調書作成が始まった。
「代金の支払い場所はどこですか?」 「だから、○○で払ったって言ってるでしょう!」 「それは記載できません」
午後5時頃から警部補は男性の回答を記載せず、同時に任意提出書の作成も執拗に求めた。約40分間の攻防で男性は「今日は帰らせてください」と明確に退去を求めたが、警部補はさらに執拗に尋問を続けた。
調書の読み聞かせが始まったその瞬間
「こんなもんなんじゃ!」
約6時間の取り調べに疲れ果てた男性が調書を奪い取り、一気に引き裂いた。
「これでいこう」
警部補は即座に公文書毀棄の現行犯で逮捕した。
※最高裁昭57・6・24(昭和54年(あ)1647号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
判決の要旨
本件は三審全てで異なる判断が示された極めて興味深い事例です。
一審京都地裁は有罪(懲役6月)、控訴審大阪高裁は無罪、最高裁は有罪(懲役3月執行猶予1年)という結論でした。
主な判断ポイント
公文書毀棄罪の成立要件について(最高裁の判断)
最高裁は、「刑法258条にいう公務所の用に供する文書とは、公務所において現に使用し又は使用に供する目的で保管している文書を総称するもの」であり、「これを完成させるために用いられた手段方法がたまたま違法とされるものであっても、既にそれが文書としての意味、内容を備えるに至っている以上、将来これを公務所において適法に使用することが予想されなくはなく、そのような場合に備えて公務所が保管すべきものである」と判示しました。
取り調べの違法性について(控訴審の判断)
大阪高裁は、「参考人である被告人の意思を制圧し、身体的自由を拘束した実質的逮捕と同視し得る情況下においてなされたもの」として取り調べの違法性を認定し、「任意捜査である参考人取り調べの限界を逸脱した違法なもの」と判断しました。
違法な取り調べと文書の保護価値の関係
控訴審は「違法な取り調べの過程において作成中のものであり、公務員たる司法警察員が職務を違法に執行しながら作成中の未完成文書」として保護に値しないと判断したのに対し、最高裁は作成過程の違法性と文書の保護価値は別問題として、公文書毀棄罪の成立を認めました。
👩⚖️ 弁護士コメント
公文書毀棄罪の成立要件の明確化
この判例は、公文書毀棄罪における「公務所の用に供する文書」の判断基準を明確に示した重要な先例です。作成過程に違法性があったとしても、文書としての体裁と内容を備えていれば保護対象となるという最高裁の判断は、公務の継続性と信頼性を重視したものといえます。
違法捜査への対処と限界
一方で、この判例は違法な取り調べを容認するものではありません。
最高裁も「被告人の本件犯行が警察官による違法かつ執拗な取調によって直接誘発されたもの」として、一審の懲役6月から懲役3月執行猶予1年に減軽しており、違法捜査は量刑において十分考慮されることを示しています。
参考人取り調べの限界
控訴審が詳細に認定した取り調べの違法性は、参考人に対する任意捜査の限界を示す貴重な判断材料です。身体的自由の拘束、長時間の取り調べ、退去希望の無視などは、実質的逮捕と評価され得る重要な要素として位置づけられます。
📚 関連する法律知識
公文書毀棄罪(刑法258条)の基本構造
公文書毀棄罪は「公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、3月以上7年以下の拘禁刑に処する」と規定されています。
保護法益は公務の正確性と継続性であり、文書の真正性を保護することで行政の信頼性を確保することを目的としています。
任意捜査の限界
刑事訴訟法上、参考人に対する取り調べは任意捜査として位置づけられ、強制力の行使は原則として許されません。
しかし、実際には身体的自由の拘束を伴う場合があり、その限界については個別具体的な状況に応じて判断されることになります。
違法収集証拠排除法則との関係
違法な手続きで収集された証拠の取扱いについては、我が国では限定的な排除法則が採用されています。
本件では証拠排除ではなく、文書の保護価値そのものが争点となった点で、従来の議論とは異なる視点を提供しています。
🗨️ よくある質問
Q.未完成の調書でも公文書毀棄罪は成立するのですか?
最高裁判例によれば、署名押印がなされていない未完成の調書であっても、文書としての意味・内容を備えている以上、公務所の用に供する文書に該当し、毀棄すれば犯罪が成立します。
重要なのは文書の完成度ではなく、公務所での使用可能性です。
Q.違法な取り調べを受けた場合、どのような救済手段がありますか?
直接的な証拠排除は限定的ですが、違法な取り調べは量刑において有利な情状として考慮されます。
また、国家賠償請求や刑事補償の対象となる可能性があります。取り調べ中は弁護士の立会いを求めることも重要な権利です。
Q.参考人として呼ばれた場合、どこまで協力義務があるのですか?
参考人には出頭義務も供述義務もありません。任意捜査である以上、いつでも退去することができ、供述を拒否することも可能です。
ただし、捜査への協力は社会的義務として期待されており、合理的な範囲での協力が望まれます。
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