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不法投棄の罰則の判例|「野積み=一時保管」の詭弁#裁判例解説

「これは一時保管です!いずれ処分する予定だったんです!」
アルミニウム製錬会社の工場長の必死の弁明が最高裁判所の法廷に響いた。しかし、裁判官たちの視線は冷ややかだった。
「30年近く続けておいて、今更一時保管とは言えません。しかも野積みの状態で相当期間放置していたのでしょう?」
「その通りです。防止措置も分別もせず、山積みのまま野ざらしでした」
検察官の厳しい指摘に、弁護人は言葉を失った。果たして最高裁は、この業界でまかり通っていた「野積み保管」という言い逃れを許すのだろうか…。
※最高裁平18・2・20(平成16年(あ)1683号)をもとに、構成しています
この裁判例から学べること
- 「野積み」状態での長期放置は法的に「一時保管」ではなく「投棄」とみなされる
- 自社敷地内での廃棄物処理でも適法な許可や設備が必要
- 30年の継続性と常習性は量刑に大きく影響する
産業廃棄物の不法投棄において、企業が最もよく使う言い逃れが「これは一時保管だった」という主張です。しかし、その実態が「野積み」状態での長期放置だった場合、法的にはどう判断されるのでしょうか。
今回ご紹介する裁判例は、アルミニウム製錬会社が30年近くにわたって工場敷地内に産業廃棄物を投棄し続け、「一時保管」を主張したものの、地裁・高裁・最高裁すべてでその主張が退けられた重要なケースです。
特に最高裁は「野積みした行為は仮置きなどとは認められず、不要物としてその管理を放棄したもの」と明確に断罪し、産業廃棄物処理における企業の責任を厳しく問いました。この事例を通じて、真の適法な廃棄物管理とは何かを学んでいきましょう。
目次
📋 事案の概要
今回は、最高裁平18・2・20(平成16年(あ)1683号)を取り上げます。この事件は、アルミニウム製錬会社が工場敷地内に産業廃棄物を不法投棄したとして起訴され、一審・控訴審・上告審すべてで有罪が確定した事案です。
- 被告会社:福島県に工場を置くアルミニウム製錬会社
- 被告個人:同社常務取締役兼工場長として工場業務を統括管理
- 投棄状況:平成13年8月から11月にかけて、汚泥等約9724キログラムを工場敷地内に投棄
- 継続期間:昭和51年から約30年間、同様の投棄を継続
- 最終結果:会社に罰金150万円、工場長に懲役1年2月(執行猶予3年)及び罰金30万円で確定
🔍 事件の経緯
「もう限界だった。処分業者は引き受けてくれないし、費用もない。でも工場は動かさなければならない」
昭和51年から始まった工場敷地内への廃棄物投棄。最初は処分業者が見つからない分だけのつもりだったが、経営が厳しくなるにつれ、次第に常態化していった。
「工場長、今日もあの穴の脇に置いておいて」「わかりました。いつものように積んでおきます」
従業員との間では相変わらず「穴に捨てる」「穴に埋める」という表現でやりとりが続いていた。北西側に掘られた巨大な穴の脇には、分別もされない廃棄物が山積みされ、雨ざらしの状態で放置されていた。
平成12年には環境問題への意識の高まりを受け、技術顧問を迎えてISO14001の取得を目指した。しかし現実は変わらなかった。「会社の経営状況では、具体的な対策は無理でした」と後に証言することになる。
転機が訪れたのは平成13年12月。暴力団員が工場を訪れ、「産業廃棄物の不法投棄がある。ばらされたくないなら、廃棄物の仕事を俺たちに任せろ」と脅してきたのだ。
「これ以上、暴力団と関わるわけにはいかない」
経営陣は毅然とした判断を下し、喜多方警察署に相談した。雪の降る中、現場保存を求められた会社は、翌年4月まで廃棄物の撤去を見合わせることになった。
警察の実況見分では、会社も積極的に協力した。フォークリフトやバックホーを提供し、従業員も作業に参加した。「できるだけ協力しないと、罪が重くなると思ったんです」と工場長は振り返る。
しかし法廷では一転、「これは一時保管だった」「いずれ処分する予定だった」と主張することになる。果たしてこの主張は、30年間続いた投棄の実態を前に通用するのだろうか。地裁から最高裁まで、一貫してその答えは「ノー」だった。
※最高裁平18・2・20(平成16年(あ)1683号)をもとに、構成しています
⚖️ 裁判所の判断
一審(福島地裁会津若松支部)の判決
一審は被告らの「一時保管」という主張を明確に退け、有罪判決を下しました。裁判所は「客観的に見て『捨てる』との評価をされるべき行為態様である」と判示し、30年近く続いた投棄の実態を重視しました。
控訴審(仙台高裁)の判決
控訴審も一審判決を支持し、控訴を棄却しました。特に「野積みの状態で野ざらしにされており、一定量に達すれば、ショベルローダーで本件穴に押し込める状態にあって、長いもので4か月以上放置されていた」ことを重視し、これを管理ではなく「放棄」と認定しました。
最高裁の判断
最高裁は「本件各行為は、仮置きなどとは認められず、不要物としてその管理を放棄したものというほかはない」と明確に断罪しました。
主な判断ポイント
「野積み」は「一時保管」ではない
最高裁は、防止措置も分別もされずに山積みの状態で相当期間野ざらしにされていた状態について、「仮置きなどとは認められない」と明確に否定しました。真の一時保管には適切な管理が不可欠であることを示しています。
自社敷地内でも適法性は要求される
「産業廃棄物を野積みした本件各行為は、それが被告会社の保有する工場敷地内で行われていたとしても、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという法の趣旨に照らし、社会的に許容されるものと見る余地はない」として、自社敷地内であることを理由とした正当化を完全に否定しました。
継続性と常習性の重視
昭和51年から約30年間継続した投棄について、「長期間にわたり常習的に行われた産業廃棄物の不法投棄」として悪質性を認定し、量刑に反映させました。
事後の協力は犯罪成立を覆さない
暴力団の介入を断ったことや捜査への協力、事後的な撤去は量刑において考慮されたものの、犯罪の成立自体は覆されませんでした。
👩⚖️ 弁護士コメント
最高裁が示した明確な基準
この最高裁決定は、産業廃棄物の「一時保管」と「投棄」の境界線について、極めて明確な基準を示しました。単に「処分予定だった」という主観的意図では不十分で、客観的な管理状況が決定的に重要であることが確立されています。
特に「野積み」状態での長期放置は、どのような理由があろうとも「投棄」とみなされることが明確になりました。適法な一時保管のためには、適切な保管施設、分別管理、防止措置、具体的な処分計画などが不可欠です。
自社敷地内でも法的責任は同じ
本判決のもう一つの重要なポイントは、自社敷地内での廃棄物処理であっても、法的な基準は変わらないということです。「自分の土地だから何をしても構わない」という考えは完全に否定されました。
産業廃棄物の適正処理は、企業の社会的責任として位置づけられており、所有権の範囲内であることは免責事由にはなりません。むしろ、排出事業者として第一義的な責任を負っているからこそ、より厳格な管理が求められます。
三審制での一貫した判断の意味
この事件では、被告側が地裁・高裁・最高裁すべてで争いましたが、すべての審級で同じ結論に至りました。これは、廃棄物処理法の解釈において司法府の見解が統一されていることを示しており、同種事案における予測可能性を高めています。
企業としては、「上級審で逆転できるかもしれない」という甘い期待は持たず、初めから適法な処理体制を構築することが重要です。
📚 関連する法律知識
廃棄物処理法の基本構造と罰則
廃棄物処理法第16条は「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定し、これに違反した場合、第25条により「5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科」という重い刑罰が科されます。
さらに第32条の両罰規定により、個人だけでなく法人に対しても3億円以下の罰金が科される可能性があります。本件では比較的軽い処罰でしたが、これは事案発生当時の法定刑によるものです。
産業廃棄物の適正処理義務
産業廃棄物については、排出事業者が最終処分まで責任を負う「排出事業者責任」の原則が確立されています。単に処理業者に委託すれば終わりではなく、適正な処理が行われるまで責任は継続します。
自社での保管も可能ですが、廃棄物処理法施行規則に定める保管基準を満たす必要があります。野積みは原則として禁止されており、適切な保管施設での管理が求められます。
環境犯罪の厳罰化の流れ
近年、環境犯罪に対する処罰は厳格化の傾向にあります。平成15年の法改正では罰則が大幅に強化され、平成29年改正では不適正処理に対する措置命令の強化が図られました。
企業にとって環境コンプライアンスは、もはや経営の根幹に関わる問題となっており、適正な廃棄物管理体制の構築は事業継続の前提条件です。
🗨️ よくある質問
Q.自社敷地内であれば、産業廃棄物の処理基準は緩やかになるのでしょうか?
本最高裁決定は「被告会社の保有する工場敷地内で行われていたとしても、社会的に許容されるものと見る余地はない」と明言しています。
自社敷地内であることは、適法性の判断において何ら考慮されません。むしろ排出事業者として、より厳格な管理が求められます。
Q.「一時保管」として認められるためには、どのような要件が必要ですか?
適法な一時保管のためには、(1)適切な保管施設での管理、(2)廃棄物の種類別分別、(3)飛散・流出防止措置、(4)具体的で実現可能な処分計画、(5)合理的な保管期間などが必要です。
本件のような「野積み」状態では、どのような主観的意図があっても保管とは認められません。
Q.事後的に適正処理を行えば、刑事責任は軽減されるのでしょうか?
事後的な措置は量刑において考慮される可能性がありますが、犯罪の成立自体を覆すものではありません。
本件でも捜査協力や事後的な撤去が量刑で考慮されましたが、有罪判決は確定しています。予防こそが最も重要であり、適法な処理体制の事前構築が不可欠です。
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