ロードバイク事故で賠償請求すべき慰謝料の相場は?修理代はいくらまで?
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ロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクといったスポーツ自転車が人気を見せる一方で、思わぬ事故に巻き込まれるケースもあります。
もし事故に巻き込まれてしまったら、誰に、どういった賠償を求めればよいのでしょうか。また、大事にしていたロードバイクを壊されたことへの慰謝料や修理費はどうなるのでしょうか。
この記事では、ロードバイク事故が起きた状況別に、損害賠償請求相手と法的根拠を解説していきます。
目次
ロードバイク事故の裁判例
ロードバイク事故の判例について、裁判で認められた賠償額や争点に注目しながらみていきましょう。事故態様によっては、ロードバイク側にも一定の過失があると判断されています。
(1)道路の溝蓋の隙間にタイヤが挟まり転倒
道路の溝蓋同士の隙間(グレーチング)にロードバイクのタイヤが挟まって転倒してしまいました。被害者は顔面骨骨折、眼窩底骨折等の障害を負ったのです。
裁判所は道路が通常有すべき安全性を欠いていたものと認めました。一方で、ロードバイクを熟知しており、普段からこの道路を利用していた被害者にも2割の過失があるものとしました。(京都地方裁判所 平成25年(ワ)第4004号 損害賠償請求事件 平成26年11月6日)
金額 | |
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治療費 | 約11万円 |
入通院慰謝料・後遺障害慰謝料 | 350万円 |
小計 | 約369万円 |
最終合計※ | 約324万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など反映
ただし、グレーチングでの転倒事故については管理者に責任がないと判断した裁判もあります。(広島高等裁判所岡山支部 平成30年(ネ)第105号 損害賠償請求控訴事件 平成31年4月12日)
(2)道路上で前方車両に追突、前方車両に9割の過失あり
ロードバイクで走行中、前方車両が進路変更および急減速したことで衝突してしまいました。被害者には右眼通や頸椎捻挫の後遺障害が残ってしまったのです。
裁判所は、前方の自動車が急な進路変更や減速をしなければ事故は起こらなかったとしつつ、進路変更合図が出ていたことから、後方の被害者にも1割の過失があると判断したのです。(東京地方裁判所 平成30年(ワ)第39306号 損害賠償請求事件 令和2年10月21日)
金額 | |
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治療費 | 約71万円 |
入通院慰謝料 | 97万円 |
逸失利益 | 約245万円 |
後遺障害慰謝料 | 110万円 |
小計 | 約524万円 |
最終合計※ | 約335万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など反映
ロードバイク事故では誰にどんな損害賠償責任を問えるか
ロードバイク事故の原因によって、損傷賠償請求の相手や賠償請求の根拠が異なります。それらを検討する上で大事なのが、安全配慮義務違反の有無です。
安全配慮義務とは、相手が怪我をしないよう安全面に配慮する義務をいいます。安全配慮義務違反の有無については、予見可能性と結果回避性で判断されます。
予見可能性は事故が予見できたのか、結果回避性は適切な対応があれば事故は防げたのかということです。
予見できたはずの立場の人が見落としたり、対応が不適切であったときに賠償請求できます。
誰に、どんな法的根拠で請求できるかを整理していきましょう。
ロードバイクのイベントやレースで事故にまきこまれた責任は?
ロードバイクのスポーツ競技レースや大会などのイベントに参加する方も多いでしょう。イベントの運営者は、参加者が怪我をしないこと、安全に大会を進行させることなどの安全配慮義務を負います。
そのため、イベント中の怪我についてはイベント運営者に対して損害賠償請求できる可能性があるのです。
具体的には次のようなケースのとき、イベント運営会社の安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
たとえば
- 参加者がコース上の設置物に激突してしまった
- 悪天候でもイベントが決行され、増水した川に流された
- 順路標識に誤りがあり危険なルートを通らされて崖から転落した
- コースの交通整理が不適切で、部外者のバイクと衝突した
また、イベント中に他の参加者と接触事故が起きた場合にも、接触を誘発するような運営がなされていなかったか、参加人数は適正であったかなど、イベント運営の是非についても考えるべきでしょう。怪我の事故の因果関係を調べることが大事です。
関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』では同意書と損害賠償について解説しています。イベント参加時に免責同意書にサインしていても、損害賠償できる場合もありますので、あわせてお読みください。
部活動での事故は先生や学校に責任を問える?
自転車競技部などの部活動中に起きた事故では、学校側への賠償請求が認められる可能性があります。具体的には、学校側が安全配慮義務に違反したことで事故が起こった場合に請求可能です。
安全配慮義務違反を例示します。
安全配慮義務違反の例
- ヘルメット装着などの安全指導を怠り、転倒して頭部を強打した
- 炎天下での練習を強行した結果、熱中症で倒れた
- 事故が多発していることで有名な道路で練習させ、車にはねられた
スポーツと怪我は隣り合わせのものですが、すべてが子どもの不注意とは言えません。
部活動中の事故についてどういった流れで対応するべきか、関連記事もお役立てください。
第三者にぶつかられたときの責任は?
第三者による不法行為責任にもとづき、損害賠償請求が可能です。
ロードバイクに乗っているときには、周囲の安全に配慮すること、交通ルールを守ることなどの義務を負います。こういった義務違反によって怪我をさせられた場合には、不法行為責任にもとづく賠償責任を問えるのです。
一方で、交通事故に関しては双方に過失があるものと判断されるケースも多く、ご自身も一定の責任に問われる可能性もあるでしょう。
事故の相手がタクシーやバス、営業車両などのときは?
タクシーやバス、営業車両と交通事故にあったときには、運転していた加害者本人だけでなく、加害者を雇用する立場にある会社に賠償責任を問える可能性があります。
会社は使用者責任にもとづき、雇用する労働者の不法行為について賠償責任を負うのです。通常は個人よりも会社のほうが資力があるため、賠償金を支払ってもらうという観点から会社に対して賠償請求するケースが多くなります。
相手の会社に対して賠償請求する場合には、弁護士を立てて対応してくることも考えられるため、被害者も弁護士への依頼を検討しましょう。
ロードバイクで転倒して怪我をした責任は?
ハンドル操作のミスや不注意で転倒してしまった自損事故の場合は、誰にも損害賠償できません。ご自身で加入するスポーツ保険の利用などが考えられるでしょう。
ただし道路が安全性を欠いていたことで事故が起こった場合には、道路の管理者の安全配慮義務違反や注意義務違反の有無とは関係なく、賠償責任を問える可能性があります。たとえば次のようなケースが該当します。
- 道路の陥没・劣化などでできた段差にタイヤを乗り上げて転んだ
- 溝蓋が正しく嵌められておらず隙間に挟まって、自転車から放り出された
本来、有すべき安全性を欠いた状態を「瑕疵」といいます。
道路の瑕疵と事故の因果関係が認められれば、単なる自損事故ではありません。道路の管理者に対して工作物責任や営造物責任を問い、損害賠償請求を検討するべきです。
ロードバイク事故で慰謝料は請求できる?
ロードバイク事故の慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類に大別できます。
慰謝料とは、被害者が被ったつらさや苦しさなどの精神的苦痛を緩和するために支払われるものです。しかし、被害者の希望額を請求できるわけではありません。
慰謝料には一定の相場や計算方法があります。適正な金額をスムーズに受けとるためにも、慰謝料の金額の決まり方を知っておきましょう。
ロードバイク事故の慰謝料はいくら認められるか
ロードバイクが壊されたことへの慰謝料は認められにくい
慰謝料は人身傷害による精神的苦痛を緩和するためのもので、物的損害で負った精神的苦痛に対しては支払われません。物的損害は修理費や買い替え費の支払いによって賠償責任を果たしていると考えられています。
そのため、ロードバイクを壊されたことへの慰謝料は認められない可能性が高いです。
入通院慰謝料の相場
怪我の治療を受けた時には入通院慰謝料を請求できます。入院を伴っていたり、治療期間が長いケースほど、入通院慰謝料は高額になる見込みです。下表に入通院慰謝料の相場表を示します。
※横軸は入院の長さ、縦軸は通院の長さを示す/1月は30日単位
※金額の単位:万円
相場表をみれば、入院の長さと通院の長さの交わるところで入通院慰謝料の金額がわかります。たとえば入院3ヶ月、通院5ヵ月の場合、入通院慰謝料の相場は204万円です。
もっとも、すり傷や打撲など比較的軽傷で済んだときには、同じ治療期間であっても、相場表より低額になることに留意してください。
相手方から金額を提示されたときは安易に同意せず、一度弁護士に内容の妥当性を相談してみてください。
とくに、相手から「お支払いできるのはここまでです」などと説明を受けているかもしれませんが、弁護士が交渉に入ることで増額の余地があることも多いです。
後遺障害慰謝料の相場
ロードバイク事故で後遺症を負ったとき、後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害慰謝料の相場は110万円~2,800万円です。
後遺障害慰謝料の金額は後遺障害等級ごとに一定の相場があります。後遺障害等級とは、後遺症の部位や症状によって14段階にわけられているものです。後遺障害等級は第1級が最も重く、第14級は最も軽いとされています。
後遺障害等級 | 相場 |
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第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
ご自身の後遺症が後遺障害等級の何級に該当するのかは、次のように検討します。
- 交通事故の場合は、損害保険料率算出機構が審査と認定をしてくれます。
損害保険料率算出機構への申請は、加害者側の保険会社が代わりに申請する「事前認定」という方法よりも、自分で申請する「被害者請求」がおすすめです。弁護士に依頼すれば被害者請求のサポートが受けられます。 - 学校事故の場合は災害共済給付という共済金を受けることが多いです。共済金のうち、障害見舞金の申請をすると、後遺障害等級の審査と認定を受けることができます。
- 労災事故の場合は障害補償給付の申請をもって、労働基準監督署が後遺障害等級の審査と認定をしてくれます。
認定内容に納得できないときや、認定を受けられないときには、何級に相当するかを立証して損害賠償請求時に交渉しなくてはなりません。
また、相手から後遺障害慰謝料の提示を受けたときには、後遺障害慰謝料の相場表よりも低くないかを確かめましょう。金額に疑問があるときには、まず弁護士に見解を尋ねてみてください。
死亡慰謝料の相場
ロードバイク事故で死亡してしまった場合、死亡慰謝料の相場は2,000万円から2,800万円です。死亡慰謝料には、亡くなったご本人への慰謝料と、残された近親者への慰謝料を含んでいます。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
※その他とは独身の男女、子ども、幼児などをいう
死亡事故の慰謝料は、精神的苦痛の大きさに比例して増額される可能性があります。増額のポイントや相続の原則については関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説』の解説を参考にしてください。
通勤中のロードバイク事故は労災の可能性あり
ロードバイクで通勤していた場合の交通事故は、労災にあたる可能性があります。会社に交通事故発生を報告して、労災申請の手続きを進めるようにしましょう。
なお、交通事故の相手から受けとる賠償金と、労災保険から受けとる保険金は重複して受けとれない部分もあります。たとえば労災保険をつかって治療を受けたならば、相手の保険会社に治療費の請求はできません。一方で、慰謝料のように労災保険からの給付に含まれないものもあります。
通勤災害は交通事故との賠償金調整などが複雑なこと、加害者の保険会社とも交渉が必要なことなどから、弁護士への依頼が望ましいです。
ロードバイク事故における損害賠償金の内訳
ロードバイク事故における損害賠償金の内訳をみていきましょう。なお、以下に示す内訳はあくまで一例にすぎません。もっと詳細に賠償金の内訳を知りたい方は、弁護士への相談をおすすめします。
損害項目 | 概要 |
---|---|
治療費 | 治療費全般 |
通院交通費 | 通院交通費 |
付添費 | 通院や治療の付き添い費 |
休業損害 | 働けないことで損失した経済的利益 |
逸失利益 | 後遺障害や死亡で将来の経済的利益を得られなくなったという損害 |
葬儀費用 | 葬祭料 |
慰謝料 | 精神的苦痛を和らげるための金銭 |
物損部分 | ロードバイクの修理費用や買い替え費用、破れたウェア代など |
内訳の中でも、とくに逸失利益は金額が高額になりやすく、交渉もシビアになることが予想されます。
逸失利益の算定には、事故にあう前の収入や年齢、後遺障害逸失利益においては後遺症の程度などが関係し、複雑な計算式になります。
関連記事では後遺障害逸失利益や死亡逸失利益の計算方法について解説していますので、あわせて参考にしてください。
ロードバイクの修理代はどうなる?買い替え費用は?
ロードバイクが破損した場合の賠償について、修理代か買い替え費なのかは損壊の程度によります。
修理代については必要相当の範囲で認められます。相手方と話し合ってすすめるため、先行して修理や買い替えに踏み切るのは得策ではありません。かかった費用をスムーズに支払ってくれない場合もあります。
ポイントとして、修理代のすべてを支払ってくれない可能性があることを知っておきましょう。
これは「経済的全損」という考え方に基づいています。
たとえばロードバイクの修理費を見積もると100万円になったとします。しかし、事故時における同型のロードバイクの市場価格が50万円であれば、相手方が負う賠償責任は50万円となるのです。
買い替え費用を請求する場合にも、特別な事情がない限りは同型のロードバイクを中古市場において取得する諸費用に限られます。
ロードバイク事故における3つの損害賠償請求方法
ロードバイク事故の損害賠償請求をする方法には、示談交渉、調停、裁判があります。それぞれの違いも併せて解説しますので、具体的な損害賠償請求の検討に役立ててください。
(1)示談交渉|話し合いでスタート
示談とは事故の当事者同士で話し合い、お互いに一定の譲歩をして争いをやめることです。
双方の合意に基づくため一定の納得感を抱きやすいことや、調停や裁判と比べて早い解決が見込めることから、まず示談交渉でスタートすることケースが多くなります。
なお、相手から示談案を提示されても、その場での判断は避けて一度持ち帰ることをおすすめします。示談で一度決めたことは、原則変更できません。相手が提示する示談案が常に正しいとは限りませんので、まだ弁護士に相談していないという方も、一度弁護士など法律の専門家にアドバイスをもらうべきでしょう。
示談交渉はいつ始める?
示談交渉を始める時期は、すべての損害が算定可能になったタイミングです。つまり、最速でも怪我が完治した後になります。
なお、物損部分について先行して示談を持ち掛けられる場合があります。これは、人身損害にくらべて、物損部分の算定が早くできるためです。
仮に何らかの後遺症が残ったときには、後遺障害等級認定を受けてから始めましょう。一度成立した示談は後からやり直すことが原則できません。
後遺症が残ったときの示談交渉について解説した記事『事故後の後遺症に関する示談交渉の流れは?あとから示談をやり直せる?』もあわせてお役立てください。
(2)調停|裁判所を介して話し合う
示談交渉での解決が難しいときには、裁判所を介して話し合う「調停」を採るケースもあります。いきなり裁判を起こすのではなく、第三者を交えた話し合いによって解決を目指す方法です。
ただし調停も双方の合意によって成り立ちます。そのためお互いの主張が平行線をたどっているときには、調停での解決も難しいでしょう。
(3)裁判|裁判官に賠償を決めてもらう
示談交渉や調停での解決が難しいときには、裁判所に賠償内容を決めてもらうために、裁判を起こすことも必要です。裁判所の判断を「判決」といい、この判決には当事者の合意は不要です。そのため、被害者側の主張が100%通る場合もあれば、加害者側の意見が100%通ることも起こりえます。
裁判は三審制なので不服があれば控訴可能ですが、そのぶん結果が出るまで長期化することを念頭においておきましょう。
関連記事では、スポーツ中の事故に関して裁判を起こす際の手続きや流れを解説しています。裁判例も交えて説明しますので、参考にしてください。
次に読みたい関連記事
ロードバイク事故での弁護士相談を検討してみませんか
弁護士に相談することで損害賠償請求の方針を立てることができます。また、正式に依頼した場合には、相手方との交渉や裁判対応も一任できる点もポイントです。
関連記事『スポーツ事故の解決を弁護士に依頼するメリット』でも紹介している通り、弁護士に相談・依頼するメリットは多数あります。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了