ゴルフ事故の賠償責任と慰謝料の相場|賠償金請求の方法と要点をつかむ
更新日:
ゴルフの打球が直撃する、ゴルフのプレー中の転倒するなど、ゴルフ事故の賠償にあたって、事故の法的責任は誰にあるのか、慰謝料はいくら請求できるのかといった数々の疑問をお持ちでしょう。
突然のトラブルに巻き込まれた被害者にとって、不安や疑問は当然のことです。
この記事では、これまで実際に起きたゴルフ事故の事例とともに、法的な賠償責任を解説します。そして、ゴルフ事故の賠償請求先は誰になるのか、慰謝料の相場はいくらか、賠償請求方法についても要点をまとめました。
最後にはゴルフ事故の被害にあった方に向けて、無料の法律相談窓口も紹介していますのでお役立てください。
ゴルフ事故の賠償事例がわかる
ゴルフ事故は様々な状況で起こっています。ここでは、他の人の打球が当たって怪我をしてしまった事例、ゴルフ場の設備で怪我をしてしまった事例、ゴルフ場内を走行するカートとの衝突事故をみていきましょう。
事例(1)左目を直撃した打球事故、加害者に責任あり
ゴルフコースでプレー中、加害者の打球が同伴競技者の左目を直撃しました。被害者は続発性緑内障による後遺症が生じたものとして、加害者に対して損害賠償請求を起こしたのです。
裁判所は、被害者に後遺障害併合第12級に該当する後遺症が残ったことや、加害者の注意義務違反などを認定しました。しかしながら、被害者の回避行動にも注意義務違反があること、長期の治療中断期間があるなど治療に対する姿勢も症状悪化の要因となったことを指摘しました。その結果、被害者に6割の過失を認定したのです。(東京地方裁判所 平成23年(ワ)第31372号 損害賠償請求事件 平成27年3月26日)
費目 | 金額 |
---|---|
入通院慰謝料 | 160万円 |
逸失利益 | 約1,198円 |
後遺障害慰謝料 | 290万円 |
小計 | 約1,650万円 |
最終合計※ | 約368万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など反映
事例(2)ゴルフ場で転んで骨折、ゴルフ場に責任あり
ゴルフ場でのプレー中、OBライン付近に設置された雨水排水用のチューブ設備に足を挟んで転倒しました。事故により左脛腓骨骨幹部骨折の障害を負ったのです。被害者はゴルフ場の経営会社に安全配慮義務違反があるものとして損害賠償請求を起こしました。
裁判所はチューブ設備が転倒する危険性の高い構造であったこと、ラフと同様の高い芝が覆いかぶさり発見しづらかったことなどを指摘し、ゴルフ場経営会社の不法行為を認定しました。その一方で、被害者のゴルフ歴の長さや注意不足を指摘して、被害者にも2割の過失を認定したのです。(さいたま地方裁判所 平成20年(ワ)第3184号 損害賠償請求事件 平成23年11月11日)
費目 | 金額 |
---|---|
入通院慰謝料 | 170万円 |
休業損害 | 約314万円 |
治療関係費 | 約85万円 |
小計 | 約576万円 |
最終合計※ | 約507万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など反映
事例(3)ゴルフカートとの接触事故、運営会社に責任あり
ゴルフ場の従業員が進行させていたゴルフカートが接触し、被害者は右肩腱板不全断裂、頚椎捻挫などの怪我を負いました。その結果、後遺障害併合12級相当のしびれや疼痛などが残り、被害者はゴルフ場の経営者に対して損害賠償請求を起こしたのです。
裁判所は従業員の過失を指摘し、従業員を雇用する会社に対して使用者責任に基づく損害賠償を命じたのです。被害者の請求した賠償の一部が認められました。(神戸地方裁判所 平成29年(ワ)第617号 損害賠償請求事件 令和元年10月31日)
費目 | 金額 |
---|---|
入通院慰謝料 | 約178万円 |
休業損害 | 530万円 |
後遺障害慰謝料 | 280万円 |
後遺障害逸失利益 | 約867万円 |
小計 | 約1,900万円 |
最終合計※ | 約2,000万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など反映
ゴルフ事故で賠償請求できる相手は誰か?
ゴルフ事故での賠償請求の相手は、まさに「事故発生の原因となったもの」に対して行うべきです。そして、事故発生の原因を検討するときは「安全配慮義務の有無」が極めて重要になります。
安全配慮義務とは、相手が怪我をすることなく、安全に過ごせるように配慮する義務のことです。この安全配慮義務に違反したとき、事故の賠償責任を問える可能性があります。
安全配慮義務違反の有無は、次の2つの基準で判断されます。
- 事故は予見できたか(予見可能性)
- 適切に対応していれば事故は防げたか(結果回避性)
つづいて賠償請求できる相手を検討していきましょう。
他のゴルファーに賠償請求
加害者による不法行為の結果に事故が起こり、怪我をしてしまったときには、損害賠償請求が可能です。
不法行為とは?
ある人の権利や利益を違法に侵害する行為のこと
ゴルファーには競技者として最低限の安全配慮義務が求められます。競技の特性をよく理解して、周囲の人が安全にゴルフを楽しめるように配慮しなくてはなりません。
例えば次のようなときには、不法行為にあたる可能性があります。
- 前方をよく見ずにプレーをして打球を人に当ててしまった
- ゴルフカートを運転中にわき見をしてしまい、衝突事故を起こした
- グラブを振り回して人を殴打してしまった
ゴルフをするための注意を怠ったり、通常のゴルフプレーの範囲を超えたことで事故が起こったときには、相手に対して賠償責任を問うことができます。
キャディーに賠償請求
キャディーにはプレーの適切な進行をすすめたり、ゴルファーへの助言や安全面の配慮などが求められています。キャディーはゴルファーに対する安全配慮義務を負い、安全配慮義務違反により事故が起きた場合は損害賠償請求が可能です。
例えば次のような場合、キャディーの安全配慮義務違反にあたる可能性があります。
- 悪天候のなかプレーを続行させて落雷事故が起こった
- 前方に人がいると知りながらプレーを止めさせず、打球が前方人物に直撃した
- キャディーの運転するカートが他のカートと接触してむちうちになった
また、キャディーが賠償責任を負う時には、キャディーを雇用するゴルフ場も使用者責任に基づく賠償責任を負います。
使用者責任とは?
従業員の不法行為により賠償責任が認められたとき、その従業員を雇用する会社も賠償責任を負うこと
キャディーに事故の過失が認められた事例
同伴していたゴルファーの打球が被害者の左目に当たってしまった事故です。加害者、同行したキャディおよびキャディを雇用する会社に対して損害賠償請求を起こしました。
裁判所は、加害者の過失を認定しつつも一部については被害者の過失も認定し、また同行するキャディーに対しても両名の十分な観察を怠ったものとして、1割の過失を認めたのです。(平成23年(ワ)第1332号 岡山地方裁判所)
ゴルフ場に賠償請求
ゴルフ場の設備に瑕疵があった場合には、設備の管理者であるゴルフ場に対して工作物責任にもとづく損害賠償請求が可能です。
瑕疵とは、本来設備が持つべき安全性を欠いている状態のことです。
工作物責任とは?
土地の工作物の瑕疵によって他人に損害を負わせたとき、その工作物を占有・所有するものが賠償責任を負うこと
例えば次のようなものは、設備の瑕疵に当たる可能性があります。
- 施設内のマンホールに蓋がない状態になっていて、転落して怪我をした
- 歩行者用通路とゴルフカート通行路を明確に分ける表示がなく、衝突事故が起きた
- ゴルフカートの整備が不十分だったために暴走し、池に突っ込んでしまった
事故発生の原因がすべてゴルファーにあるとは限りません。事故当時の状況をよく整理して、事故発生原因を検討すべきです。
顧問の先生や学校に賠償請求
部活動でゴルフをしているときに怪我をした場合には、学校や教師の責任を問える可能性があります。部活動では、顧問の先生に安全配慮義務があるためです。
そして、顧問の先生に安全配慮義務違反があるときには、顧問の先生を監督する立場として学校も損害賠償責任を負います。事故態様によっては単なる生徒間トラブルではなく、部活動の場が安全であったのかも検討すべきです。
学校の先生が負う安全配慮義務や部活動中に事故が起こった時の流れを知りたい方は、関連記事をお読みください。
ゴルフ事故の慰謝料はいくら?
ゴルフ事故では、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などの請求が認められます。
慰謝料とは、被害者が負った精神的苦痛を和らげることを目的とした金銭補償です。精神的苦痛は目に見えないもので、感じ方に個人差があります。そのため慰謝料には一定の算定方法や相場があるのです。
ここからはゴルフ事故の慰謝料相場や賠償金の内容をみていきましょう。
ゴルフ事故の慰謝料相場
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料の金額は、怪我の治療期間の長さで決まります。下表は入通院慰謝料の相場です。
※単位:万円
※横軸は入院・縦軸は通院月数を示す/ひと月は30日
入通院慰謝料の相場は、入院月数と通院月数でおおよそ決まります。たとえばゴルフ事故で頭部を負傷してしまい、入院2ヶ月、通院3ヶ月の治療を要したとき、入通院慰謝料の相場は154万円です。横軸が「2月」、縦軸が「3月」の交わる箇所をみればわかります。
もっとも入通院慰謝料は治療中に負った精神的苦痛を金銭に置き換えたものです。そのため、痛みや苦しさが増すほど金額は増額されます。具体的には、生命に危険が及んだ状態が続いたり、複数にわたって手術が必要になった場合です。
一方で打撲や切り傷など比較的軽傷で済んだ場合には、この表よりも低い慰謝料が予想されます。
怪我の慰謝料は、関連記事『怪我の慰謝料はいくらが相場?弁護士基準の金額と請求の流れを紹介』でも詳細に解説しています。
相場のほかに、一般的な請求の流れを知りたい方は関連記事をお読みください。
後遺障害慰謝料
ゴルフ事故の後遺障害慰謝料の金額は110万円~2,800万円で、後遺症が残った部位や程度で決まります。
具体的には、後遺症を14段階に分けた「後遺障害等級」によって相場があり、それぞれの事情を考慮して金額が決まるのです。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
※後遺障害等級は厚生労働省の「障害等級表」による
たとえば、打球が目を直撃して片目を失明した場合は、後遺障害8級、後遺障害7級、後遺障害5級、後遺障害3級、後遺障害2級のいずれかで、後遺障害慰謝料の相場は830万円~2,370万円です。
後遺障害等級しだいで後遺障害慰謝料の金額が百万円以上変わる可能性があります。医師の診断書や検査結果などの医証を元に交渉して、適正な後遺障害慰謝料の獲得を目指しましょう。
もしご自身の後遺障害等級が何級か判断がつかない場合は、弁護士にアドバイスをもらうことも有効です。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
死亡慰謝料
ゴルフ事故の死亡慰謝料相場は2,000万円~2,800万円です。この金額は亡くなったご本人とご遺族への慰謝料を考慮した金額になります。また、葬儀費用は実際にかかった費用を損害として請求可能で、上限は150万円ほどです。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
※その他とは独身の男女、子ども、幼児などをいう
ゴルフ事故で賠償請求すべきお金
ゴルフ事故で賠償請求すべき金銭は慰謝料だけではありません。賠償金の内訳として代表的なものを以下にまとめました。
項目 | 概要 |
---|---|
治療費 | 治療にかかる費用全般 |
通院交通費 | 通院に係る交通費 |
付添費 | 家族の付き添い費 |
休業損害 | 怪我で働けず実際に失った経済的利益 |
逸失利益 | 後遺障害や死亡によって未来の経済的利益を得られなくなったという損害 |
葬儀費用 | 葬儀に関する費用 |
慰謝料 | 精神的苦痛を緩和するための金銭 |
賠償金の内訳は事故態様しだいですが、事故による実際の損害、事故によって得られるはずのものが失われた損害、精神的な損害にわけることができます。
逸失利益の算定・交渉には注意
とくに、後遺障害や死亡による逸失利益は、賠償金の中でも高額になりやすいです。よって、相手方と交渉でもめやすい可能性があります。
おおよその逸失利益の相場や計算方法を知っておき、不当に低い金額で納得しないように注意しておきましょう。
関連記事では逸失利益の計算方法を具体例も併せて説明しています。
会社役員の休業損害は認められる?
会社役員も休業損害を請求できますが、通常の給与所得者と比べて金額面で争いやすいです。
休業損害とは、怪我で仕事ができずに失った収入をいいます。入院中だけでなく、必要に応じて通院日や家での安静期間にも認められうるものです。
休業損害は、事故発生前3ヶ月間の平均給与を勤務日数で除して日額を算定し、休業日数分を請求します。
会社役員の報酬は、労務提供への対価に当たる部分と利益配当の性質を持つ部分で構成されています。休業損害として労務提供への対価に当たる部分は認められやすいのですが、利益配当に当たる部分は交渉次第になるでしょう。
ゴルフ事故発生から賠償金確定までの流れ
ゴルフ事故発生から賠償金確定までの流れを時系列にそって解説します。
(1)事故発生から治療開始
ゴルフ事故が起こったら、事故発生をゴルフ場に報告して、病院で治療を受けてください。
その時は大したことがないと思っても、神経症状(しびれや疼痛)は後から出てくることもあります。事故の経緯を医師にすべて伝えて検査に協力しましょう。
(2)治療終了または症状固定
治療を続けていくと「完治」あるいは「症状固定」をむかえます。症状固定とは、一般的に認められた医療行為を受けてもこれ以上改善が見込めない状態になることです。
治療終了または症状固定となったら、相手と損害賠償の交渉を始める時期になります。慰謝料も賠償金の一部ですので、慰謝料の算定と請求も治療終了または症状固定後に始めます。
(3)示談交渉で慰謝料を請求、賠償金が決まる
相手に損害賠償を請求する方法はいくつかありますが、まずは示談交渉から始めることが多いでしょう。
示談とは、お互いに一定の譲歩をしながら話し合いをして、争いをやめることをいいます。示談交渉は裁判外で行われることがポイントで、お互いの合意を元にしていることから、一定の満足度が得られるメリットがあります。
示談交渉で解決できた場合は、示談金を受けとります。示談金とは、ゴルフ事故で被害者が負った損害を補てんするための金銭全体のことで、通常は慰謝料も含まれます。
一方で、お互いに合意できなければ示談は実現できません。相手が責任を全く認めていなかったり、示談金額で合意できないときには、示談とは異なる解決手段を検討すべきです。
一度示談が成立した後に追加請求することは原則認められません。よって、すべての損害算定が可能な時期に示談を開始することも大切です。
示談交渉以外の手段には調停や裁判がある
調停とは、裁判所を介して話し合うことで解決を目指す手段になります。第三者が介入することで、示談交渉がうまくいかなくても、調停で解決できる場合もあるでしょう。
裁判とは、裁判所の裁判官に賠償金を確定してもらう手段です。当事者の合意ではなく、裁判官による判決が言い渡されることになります。
このように、賠償請求の方法は複数あります。関連記事ではスポーツ事故での裁判手続きや、有利に進めるポイントを判例から解説しているので、参考にしてみてください。
ゴルフ事故の賠償は弁護士に相談しよう
ゴルフ事故で重い障害が残ったような場合の賠償に関する悩みや疑問は、まず弁護士に相談すべきです。弁護士に相談するとどういったメリットを受けられるのか、弁護士への無料相談窓口と共に紹介します。
ゴルフ事故の賠償問題を弁護士に任せるべき理由
ゴルフ事故の賠償問題について、弁護士に相談することで次のような悩みや不安が解消できる場合があります。
- 誰に賠償請求するべきかわからない
- いくら賠償請求するべきかわからない
- 賠償請求を進めるに具体的に何をすればいいかわからない
弁護士は、事故の経緯を聞き取って損害賠償請求先や法的根拠を整理します。そして、これまでの事例や相場を元にした適正な賠償金へ近づけるために交渉します。
弁護士ならば、相手の応対に合わせて臨機応変に対応可能です。示談交渉でまとめるべきなのか、裁判も視野に入れるべきなのかを判断し、被害者と共に解決を目指していきます。
関連記事では、スポーツ中の怪我に関して弁護士に依頼するメリットを解説中です。弁護士への依頼を検討している方はあわせてお読みください。
弁護士依頼の関連記事
ゴルフ事故の賠償|弁護士への無料相談はこちら
ゴルフ事故で重大な後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりした場合は、アトム法律事務所の無料法律相談をご活用ください。
重大な後遺障害が残ったり、死亡事故の際には、賠償金の交渉に注意してください。なぜなら重大事故ほど賠償金が高額になり、相手方との交渉が難航したり、金額が不当に低い恐れがあるからです。
法律相談の利用後に、弁護士が強引に契約を迫ることはありません。まずは無料相談を利用してみて、弁護士に依頼するべきかを考えてみませんか。
無料の法律相談をご希望される方は、下記フォームより電話またはLINEにてご連絡ください。専属スタッフが24時間365日体制で、法律相談の予約を受付中です。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了