サッカー中の怪我で賠償請求したい|問うべき法的責任と賠償金の相場
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サッカーは学校の部活動や少年サッカーチーム、草サッカーなど子どもから大人まで親しまれているスポーツです。
一方で、ボールを奪ったり進路を妨害するなど接触機会が高く、一定の怪我のリスクは避けられません。なかにはスポーツ保険に入ることで怪我に備える方も多いでしょう。
しかし、すべての怪我について被害者が悪いとは言い切れません。サッカーをする環境に問題があって事故に巻き込まれてしまったり、怪我の賠償として不適切な金額提示を受けているケースも存在します。
この記事を読めばサッカー中の怪我についての賠償請求相手と法的根拠がわかりますので、最後までお読みください。
目次
サッカー中の事故で賠償が認められた裁判例
サッカーをするために準備をしていたところ、サッカーゴールが倒れてしまい、子どもが下敷きになってしまう痛ましい事故が起こっています。事故の経緯と、裁判所が判断した賠償内容をみていきましょう。
経緯|サッカーゴールを倒そうとしたら下敷きになった
複数名の中学生が、立ち入り禁止とされていることを知りながら、サッカーをするために広場に立ち入りました。サッカーをするにあたって、ゴールポストをいったん倒そうと考え、ゴールポストを引っ張ったところ、リフティングをしていた被害者のほうに倒れてしまったのです。被害者は避けることができず、クロスバーの下敷きになってしまいました。
被害者は救急車で病院に搬送されましたが、事故による腹部打撲が原因となって、腹腔内出血により死亡してしまったのです。
裁判所の判断|管理側に8割の過失がある
裁判所は、広場入口の一部が出入り自由になっていたこと、ゴールを一度倒してから移動させるという方法は通常予想されるものであったと指摘しました。そのうえでゴールが通常備えるべき安全性を欠いていたものとして、ゴールの設置または管理に問題があったことを認めたのです。
一方で、他生徒から声かけを受けていたと推認されるにもかかわらず、ゴール付近でリフティングを続けた点において被害者にも不注意があったことを指摘し、被害者にも2割の過失があるものと判断しました。(鹿児島地方裁判所 平成6年(ワ)第1292号 損害賠償請求事件 平成8年1月29日)
金額 | |
---|---|
治療関係費 | 約1万1,000円 |
逸失利益 | 約3689万円 |
慰謝料 | 2,000万円 |
葬儀費用 | 130万円 |
小計 | 約5,820万円 |
最終合計※ | 約5,000万円 |
※過失相殺、既払い金控除、弁護士費用などを反映
サッカー中の怪我で賠償責任を問えるケースはあるのか
サッカーをしていて負傷した場合、怪我の原因次第では、しかるべき相手に賠償責任を問うことができます。どういった相手に賠償責任を問えるのか、法的根拠とともにみていきましょう。
サッカークラブに賠償責任を問える?
サッカークラブやサッカー教室で怪我をした場合には、コーチやクラブの運営会社に対する賠償請求が認められる可能性があります。コーチは生徒の熟練度に合わせ、安全に配慮した適切な練習環境で指導をしなくてはなりません。
安全配慮義務や注意義務に違反し、コーチの不法行為に起因する事故が起きた場合には損害賠償請求が可能です。
イメージしやすいように、コーチの安全配慮義務違反や注意義務違反にあたる可能性がある例を示します。
たとえば
- 酷暑での練習を強行した結果、熱中症の症状を呈する生徒が続出した
- ヘディング後に激しい頭痛を訴える生徒を放置した結果、死亡に至った
- 初心者が上級者の試合のキーパーをして骨折、本人希望のグローブ着用を認めていなかった
コーチには、危険を予知して回避することや事故後の適切な対応が求められます。これらに問題があった場合には、コーチに事故の責任があると判断されるでしょう。
サッカークラブの運営者も賠償責任を負う
コーチの過失が認められた場合には、コーチを監督する立場として、クラブも賠償責任を負います。これは「使用者責任」という法的根拠に基づく請求です。
使用者責任とは?
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
コーチという一個人に請求するよりも、サッカークラブに請求するほうがスムーズに支払いを受けられる可能性が高いといえます。賠償請求という点においては、使用者責任も重要になってくるのです。
サッカー場やグラウンドなどの施設に賠償責任を問える?
サッカー中の怪我には、サッカー場やグラウンドの安全面が原因と考えられるケースも存在します。
サッカー場やグラウンドは、利用者の安全面に配慮した管理・運営が必要です。設備が最低限もつべき安全面を欠いていることを「瑕疵」といい、設備の瑕疵によって怪我をしたときには、工作物責任または営造物責任に基づき、施設側に賠償請求可能です。
施設の瑕疵に当たる可能性があるものを例示します。
たとえば
- サッカーゴールが固定されておらず、倒れてきて下敷きになった
- ピッチに不要な器具が放置されており、躓いて骨折した
- コーナーフラッグの設置に不備があり、倒れてきて目に当たり失明した
怪我をした原因の見極めが重要です。サッカー場やグラウンドに必要な最低限の安全性が保たれていないことで負傷したのか、事故の原因を明らかにしましょう。
施設を利用する際に免責同意書にサインしていても、施設側がすべての賠償責任から免れるわけではありません。関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』では同意書の効力について解説しています。
部活や授業中の賠償責任は問える?
部活や体育の授業中に負傷した場合には、先生に対する損害賠償請求が認められる可能性があります。そして、先生に過失があると判断できる場合には、先生を監督する立場として学校運営者や学校を設置した地方公共団体に賠償請求可能です。
学校管理下で怪我をした場合に知っておきたい情報と併せて、詳しい解説は下記の関連記事をご覧ください。
サッカー中の怪我に賠償責任を問える?
サッカーはプレーヤー同士の激しい接触を伴うスポーツでもあるので、相手に対して怪我の賠償責任を問うことは難しい可能性があります。
ただし、あまりにも悪質だと判断された場合には、相手に賠償責任が認められる可能性もあるでしょう。
- ボールを保持していないのに顔を蹴り上げられた
- 審判の判断に納得できないプレーヤーが殴りかかってきた
こういったプレーは通常のサッカーの範囲を超えていたり、悪質性の高いものと判断される可能性があります。プレーヤーの不法行為と認められれば、損害賠償請求が認められます。
サッカー中に怪我をしたとき慰謝料の相場はいくら?
サッカー中に負傷した場合、賠償請求できる金額はいくらになるのでしょうか。賠償請求というと「慰謝料」をイメージする人は多いでしょう。
慰謝料とは、精神的苦痛を和らげるための金銭として請求できる補償のひとつです。まずは、慰謝料の金額がどのように決まるのかを解説していきます。
サッカー中の怪我に対する慰謝料
サッカーで負傷して治療を受けた場合には、入通院慰謝料が請求可能です。入通院慰謝料の金額を計算するには、治療期間の長さを用います。入通院慰謝料の相場を下表に示しますのでご覧ください。
※横軸は入院期間、縦軸は通院期間の長さを示す/1月は30日単位
たとえば、入院なし、2ヶ月通院した場合、入通院慰謝料の相場は52万円が見込まれます。仮に入院して治療を受けたときや、何度も手術を受けていたり、生死が危ぶまれるほどの重傷のときは、相場表よりも高額になるでしょう。
その一方で、打撲やねんざなど比較的軽傷のときには、同じ治療期間であっても、相場表よりも低い金額になる見込みです。
治療期間の長さや内容によって入通院慰謝料の適正相場が変わるため、より精密な計算については、弁護士に依頼することをおすすめします。
サッカー中の怪我で後遺症が残ったときの慰謝料
サッカー中の怪我による後遺症が残ったときには、後遺障害慰謝料を請求できます。後遺障害慰謝料の相場は110万円から2,800万円となる見込みです。
後遺障害とは、障害の残った部位、障害の内容に応じて1級から14級までの等級に分けたものです。後遺障害等級の区分は、厚生労働省の障害等級表をご覧ください。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
後遺障害等級がひとつ違えば、賠償金は大きく変わります。ご自身の障害の程度が何級に該当するのか判断できない場合は弁護士にアドバイスをもらいましょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
サッカー中に死亡してしまったときの慰謝料
サッカー中の事故に起因して死亡したとき、死亡慰謝料の相場は2,000万円~2,800万円が見込まれます。個別の事情を反映して増減される可能性は十分ありますが、おおよその相場を知っておきましょう。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
※その他には独身の男女、子ども、幼児などを含みます
死亡事故の慰謝料は、精神的苦痛の程度によって増額されることもあります。よって、あくまで相場と考えておきましょう。
関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説』では増額の理由として考えられうる事情についても解説していますので、あわせてお読みください。
サッカー事故で賠償請求すべき費目とは何か
サッカー中の怪我に関して、賠償請求するべき代表的な項目を下表にまとめました。
費目 | 内容 |
---|---|
治療関係費 | 治療費、入院雑費、手術代など |
付添費 | 家族が治療に付き添った場合の費用 |
休業損害 | 治療中に働けなかった期間に失った経済的利益 |
逸失利益 | 後遺障害や死亡により将来の経済的利益が得られなくなった損害 |
葬儀費用 | 葬祭にかかった費用 |
慰謝料 | 精神的苦痛を金銭に置き換えたもの |
損害賠償請求項目には、休業損害や逸失利益のように一定の計算方法に基づいて算定するべき項目もあるため、被害者やご家族だけでは適切な相場がつかみづらいものです。
損害賠償請求項目にもれがないか、計算方法はどうなるのか、弁護士に相談して適正額を算定してもらう方法がおすすめです。
逸失利益は慎重に算定しよう
逸失利益は、損害賠償の費目の中でも高額になりやすい部分といえます。そのぶん、相手方との交渉がシビアになって、本来もらえるはずの金額よりも低くなってしまうことを避けねばなりません。
逸失利益とは、事故がなければ将来得られたはずの収入が失われたという損害のことです。
事故にあう前の収入や事故時の年齢などの様々な要素を元に金額を決めていきますので、計算方法について解説した以下の関連記事も参考にしてみてください。
サッカーでの負傷について賠償請求する方法
賠償請求の方法には、示談、調停、裁判の3通りがあります。賠償請求といってもすぐに裁判を始めるのではなく、まずは示談から始めて、調停や裁判へ移る流れとなるでしょう。
(1)示談|当事者間で話し合う
示談とは、民事上の争いについて、お互いの話し合いで解決内容を決めることをいいます。示談は裁判所を通さず、示談で決めたことに従って、争いを終結させます。
示談をするためには、お互いに一定程度の譲歩が必要です。譲歩したとはいえ、双方で納得して示談するため、一定程度の満足度は得られます。また、裁判所を介するよりも早く解決できる可能性があるでしょう。
その一方で、双方の主張が全く異なっているときや、賠償金額について意見が合わせられないときには、示談をすることは難しいものです。この後に紹介する調停や裁判といった異なる方法の検討が必要でしょう。
なお、後遺症が残ったときには示談交渉を始めるタイミングも重要です。関連記事では後遺症が残ったときの示談の流れや注意点についてわかりやすく説明していますので、参考にしてみてください。
(2)調停|裁判所を介入してもらい話し合う
調停とは、民事上の争いに関して、裁判所などに介入してもらって話し合い、解決内容を決めることをいいます。
示談ではうまくいかなくても、第三者の助言によって話し合いが進む可能性があります。しかし、調停も当事者の合意をもとにするため、話し合いが平行線をたどるときには、調停での解決も難しいでしょう。
(3)裁判|裁判所に賠償を決めてもらう
裁判では、裁判官が民事上の争いについて賠償内容を確定させます。
示談で賠償金について折り合いがつかなかった場合や、相手が不当に低い金額を提示してきた場合には、裁判所が適正金額を定めてくれるというメリットがあります。
双方ともに一定の責任が認められる場合だけでなく、片方が完全に勝つあるいは負けるという判決も起こりえるでしょう。相手方に責任がないと判断されると、怪我をしても一切の賠償を得られないこともあります。
サッカーの賠償請求について裁判を検討している方は、関連記事『スポーツ事故の裁判例|損害賠償請求が認められるかどうかのポイント』もお役立てください。裁判を起こすための手続きやながらがわかります。
サッカーの賠償問題は弁護士に相談しよう
サッカーの賠償問題を巡っては、まず弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
被害者が弁護士に頼るべき理由をみていきましょう。
サッカーの賠償問題を弁護士とともに進めるべき理由
サッカーの賠償問題に関して、弁護士に相談・依頼すべき理由は大きく3つあります。
3つの理由
- 適正な賠償額を算定できる
- 賠償請求に向けて証拠や資料集めを助けてくれる
- 示談交渉から裁判対応まで任せられる
被害者が独力で交渉するよりもスピーディーな進行が期待できること、被害者の負担が軽減されることなど、どれも被害者にとっては見逃せないポイントです。
サッカーの怪我の賠償問題について、弁護士への依頼で得られるメリットは多数あります。弁護に依頼するメリットについては、関連記事『スポーツ事故の解決を弁護士に依頼するメリットと無料相談のご案内』も詳しく解説しているので、併せてお役立てください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了