死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説
更新日:
死亡事故は、被害者本人と遺族に言葉にできないほど大きな精神的苦痛をもたらします。死亡という精神的苦痛に対する法的な救済手段が「死亡慰謝料」です。
死亡慰謝料の相場は2,000万円から2,800万円で、被害者の立場に応じて金額相場があります。その相場をベースにして個々の事案で増額・減額が検討されるべきです。
死亡慰謝料は、交通事故の被害者だけでなく、労災事故、医療事故、学校事故など、様々な事故で発生します。
この記事では、突然の事故で大切なご家族を亡くされた遺族に向けて、死亡慰謝料の基礎知識、死亡慰謝料の相場、慰謝料請求手続き、そして弁護士に依頼するメリットまで、必要な情報をわかりやすく解説します。
目次
死亡事故における慰謝料の基礎知識
死亡事故の慰謝料とは?
死亡慰謝料とは、死亡事故の被害にあうという精神的苦痛を緩和するための金銭です。
死亡慰謝料には、以下の2種類があります。
概要 | |
---|---|
被害者本人の死亡慰謝料 | 被害者の精神的損害に対する損害賠償として、死亡時に当然発生する慰謝料 |
近親者固有の慰謝料 | 被害者本人の死亡慰謝料とは別に、死亡によって精神的苦痛を被った近親者が独自に請求できる慰謝料 |
死亡慰謝料が発生する代表的なケースは、交通事故です。しかし、それ以外の労災事故、医療事故、介護事故、学校事故、スポーツ事故など、交通事故に限らず、死亡慰謝料の請求が認められる可能性があります。
ここからは被害者本人の死亡慰謝料と近親者固有の慰謝料についてくわしく説明します。
被害者本人の死亡慰謝料の請求権者は誰?
被害者本人の死亡慰謝料を請求できるのは、被害者の法定相続人です。法定相続人は、配偶者がいる場合は配偶者が常に相続人となり、配偶者以外の相続人については以下の順位に従って決まります。
相続順位 | 法定相続人 |
---|---|
第1順位 | 子 |
第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母など) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
例えば、被害者に配偶者と2人の子がいる場合、法定相続人は配偶者と2人の子です。上図でいうと、被害者の配偶者、長男、二男の3人が法定相続人になります。
もし被害者の父母や兄弟姉妹がいたとしても、第2順位や第3順位の者は相続人にはなりません。
したがって、被害者本人の死亡慰謝料を請求できるのは、配偶者、長男、二男となります。
死亡慰謝料は誰がどのように相続する?
死亡慰謝料の配分方法は、法定相続分に従って決まります。以下の法定相続分の一覧表をご覧ください。
親族構成 | 配偶者あり | 配偶者なし |
---|---|---|
子あり | 配偶者:1/2 子:1/2 | 子ども:1 |
子なし | 配偶者:2/3 直系尊属:1/3 | 直系尊属:1 |
子も直系尊属もいない場合 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 | 兄弟姉妹:1 |
配偶者のみの場合 | 配偶者:1 | ー |
※法定相続人が複数いる場合、法定相続分を人数分に分けます。
先ほどと同じ具体例で、死亡慰謝料の配分方法を考えてみましょう。
事故で被害者が死亡し、被害者本人の死亡慰謝料として2,000万円が発生したとすると、慰謝料は以下のように配分されます。
- 配偶者:2,000万円 × 1/2 = 1,000万円
- 長男:2,000万円 × 1/4 = 500万円
- 二男:2,000万円 × 1/4 = 500万円
遺族に対する慰謝料は請求できる?
近親者固有の慰謝料を請求できるのは、以下の1または2に該当する遺族です。
近親者の固有の慰謝料
- 被害者の父母、配偶者、子(民法711条)
- 被害者との間に民法711条所定の者と実質的に同視し得べき身分関係が存在し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者(最高裁判所昭和49年12月17日判決)
2に該当する者として、裁判所に近親者固有の慰謝料が認められた例としては、内縁の配偶者、兄弟、祖父母、孫、被害者の義理の妹(身体障害者であり、長く被害者の養護のもとに生活していた)などがあります。
具体的には、同居の有無や同居期間、生活状況などが総合考慮されるでしょう。
死亡慰謝料の相場と金額を決める要素
死亡慰謝料の相場
多くの事故の死亡慰謝料相場は、交通事故の場合に用いられる以下の基準額をもとに算定する扱いが一般的です。
死亡慰謝料の相場は2,000万円から2,800万円で、被害者の方の立場によっておおよその相場が設けられています。
被害者の立場 | 金額 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子ども、幼児など) | 2000万円~2500万円 |
相場表の金額は、被害者本人の死亡慰謝料と近親者固有の慰謝料の両方を含んだものです。
また、相場額は「弁護士基準」(または裁判所基準)と呼ばれるものです。弁護士基準とは、裁判を起こした場合に認められる可能性が高い金額であり、法的な正当性の高い基準でもあります。
慰謝料額は交渉が大事
たとえば、加害者側が加入する保険会社が交渉相手となった場合、弁護士基準よりも低額にとどまる基準に基づいた「相手方の保険会社基準」の金額を提示してくることが多いです。
しかし、そのような提案に応じる義務はありません。遺族は、弁護士基準に基づいた適正な賠償金を請求する権利を有しています。
加害者側の主張に少しでも納得いかない場合は、できるだけ早く弁護士に相談・依頼することをおすすめします。弁護士が代理人となって交渉できますので、個人で交渉するよりも増額の可能性を高めることが可能です。
まだ依頼すると決めていない段階であっても、弁護士に相談すれば、遺族が適切な補償を受けられるよう具体的なアドバイスが受けられるでしょう。
死亡慰謝料が増額・減額される要因
次のような事情があった場合、死亡慰謝料が増額または減額される可能性があります。
増額される可能性の事情
- 加害行為の悪質性が高い
- 加害者に重過失がある
慰謝料とは目に見えない精神的苦痛を緩和するための金銭でもあります。
よって、増額事情もケースバイケースですが、被害者の精神的苦痛を増大させると判断された場合には増額につながる可能性はあるでしょう。
一方で、以下のような事情があるときには弁護士基準の相場額を下回る慰謝料となる可能性があります。
減額される可能性の事情
- 被害者に過失がある
- 固有の慰謝料を請求しうる近親者がいない
過失とは、その死亡事故における被害者の落ち度をいいます。
たとえば労災事故であれば、被害者側にも大きな不注意があって死亡事故につながったときには、被害者側にも一定の責任があるとして慰謝料を含む損害賠償金全体が減額されるのです。
もっとも亡くなられた被害者は自ら意見できません。不当に高い過失を押し付けられてしまえば、適正な賠償を受けられないことになってしまいます。
よって、ご遺族としても過失割合の交渉は慎重におこない、弁護士の意見を聞いてみることも大切です。
死亡慰謝料が増額された裁判例
ここでは、死亡慰謝料が基準額よりも増額された裁判例をご紹介します。
市立保育所に入所中の児童(当時4歳5か月)が保育所内で熱中症で死亡した事故について、保育士に重大な過失があったとして市の国家賠償責任が認められた事例(さいたま地方裁判所 平成21年12月16日判決)
死亡慰謝料の基準に従えば、被害者が幼児に当たるケースとして、2,000万円〜2,500万円が相場となるところ、以下の諸事情が考慮され、合計2,900万円の慰謝料が認められました。
対象者 | 認容額 | 考慮された事情 |
---|---|---|
被害者本人 | 2,000万円 | ・わずか4歳5か月の幼児だった。 ・死に至る態様が痛ましいものだった。 ・保育士らの重過失によって保育所内で死亡した精神的苦痛は相当大きい。 |
母 | 400万円(※) | ・不妊治療の末、ようやく授かった子どもだった。 ・事故後も様々な精神症状に苦しめられている。 ・重過失によって本件事故が引き起こされた。 ・事故後の報告が不十分であり、原告らの心痛に十分配慮したものとは言い難い。 |
父 | 400万円(※) | ・不妊治療の末、ようやく授かった子どもだった。 ・事故後の精神的苦痛は計り知れない。 |
父方の祖母 | 100万円 | ・唯一の孫。 ・多い時期にはほぼ毎日、両親に代わって被害者の世話をしており、日常かなりの時間を被害者と共にしていた。 |
※最終的に、日本スポーツ振興センターから支払われた死亡見舞金からの損害填補による減額あり。
【コラム】死亡慰謝料以外に請求できるお金は?
死亡事故が発生した場合、遺族は、死亡慰謝料の他にも以下の賠償金を請求できる可能性があります。
主な請求費目
- 死亡による逸失利益
- 葬儀関係費
- 生前の治療関係費
死亡による逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が事故により死亡しなければ、将来得たであろう利益を意味します。被害者の年齢や生前の収入によっては、数百万円から数千万円にのぼることも考えられる、重要な賠償費目です。
計算方法は以下のとおりです。
死亡逸失利益の計算方法
基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
計算式に用いる数字は、被害者の属性(給与所得者、事業所得者、家事従事者、高齢者、子ども、失業者など)によって変わります。
くわしい計算方法は関連記事で解説していますので、そちらもぜひご覧ください。
葬儀関係費
遺族は、葬儀関係費として、葬祭費、供養料、墓碑建立費、仏壇費、仏具購入費などを請求できます。
請求できる葬儀費用の金額は、原則として150万円が上限とされていますが、例外的に150万円を超える金額が認められるケースもあります。
生前の治療関係費
被害者が死亡するまでに治療を受けた場合、治療費、入通院慰謝料(傷害慰謝料)、付添看護費、入院雑費などを請求できます。
これらの損害賠償金の相場については、関連記事で詳しく解説しています。
死亡慰謝料の請求手続き|死亡慰謝料請求の流れは?
死亡慰謝料を請求する場合、その他の損害賠償金と合わせて、示談交渉からスタートすることが多いです。そして、示談交渉が不成立となった場合には、調停や訴訟へと進む流れが一般的といえます。
死亡慰謝料請求の流れ
- 示談交渉
- 調停等
- 訴訟
(1)示談交渉
示談交渉とは、何かしらのトラブルや事故が起こった際、裁判を経ずに当事者同士が話し合い、その問題を解決するための手続きです。
示談交渉の目的は、裁判を避ける、損害賠償額を決定する、責任の所在を明確にすることにあります。
示談交渉にはメリットが多い
訴訟や調停は第三者の手続きを経るため、時間と費用がかかることは避けられません。まず示談交渉を選択する大きな目的は、迅速かつ費用負担をできるだけ少なくして解決できるメリットがあるからです。
また示談交渉はお互いが納得できる内容を決めることにあります。示談条項の中に謝罪文言を明記したり、再発防止に関する取り決めを行えるなど、遺族の真意に即した柔軟な解決ができる点がメリットです。
一方の訴訟は「判決」として裁判官より言い渡され、勝敗が決まるものです。場合によっては納得できない結果に終わることもあります。
このように、示談交渉は調停や訴訟と比べて、費用や時間の負担が少なく、また、お互いの話し合い次第で柔軟に解決内容を決められる点が大きな強みです。
示談交渉の流れ
示談交渉はまず損害賠償請求額を算定することから始めます。そして、その請求内容を相手に送付して、話し合いをスタートするのです。
示談交渉の流れ
- 損害の把握:損害賠償請求額の全額を算定。
- 相手への連絡:示談交渉を開始することを相手に伝える。
- 話し合い:両者で損害額や責任割合について話し合う。
- 合意書の作成:最終的な合意内容で合意書を作成する。
- 支払い:加害者が被害者に損害賠償金を支払う。
相手方と争いが少なければスムーズに進むものの、加害者側が提示する案が、被害者本人や遺族に対する償いとして十分であることは少ないのが現実です。
一度成立させた示談をやり直すことは原則できません。
相手が理不尽な主張を続けるようであれば、損害賠償請求にくわしい弁護士への相談も検討してみて、対応方法の助言を受けてみましょう。その助言によって訴訟に踏み切るのも一つの選択です。
後悔のない選択をするには、豊富な実務経験と法的な知識を有する弁護士に早期に相談しておくのがおすすめです。
(2)調停等
示談が不成立に終わったとしても、いきなり訴訟提起は行わず、中間的な方法で解決を目指すこともできます。
代表的な手続きが調停です。調停は、裁判所で調停委員を介して行う話し合いです。その他にも、弁護士会が運営している紛争解決センターを利用する方法もあります。
また、労災事故であれば、労働審判という手続を利用し、訴訟よりも早期かつ柔軟な解決を目指すことも視野に入れるとよいでしょう。
(3)訴訟
示談交渉や調停などによる解決が難しいとき、最終的には裁判所に訴訟を提起することになります。
裁判所は、弁護士基準で慰謝料等の損害額を算定するのが一般的です。このとき、遺族側の請求が適正なものであることを示す証拠をいかに提出できるかが結果を左右します。
適切な主張立証ができれば、遺族の主張が認められ、たとえ加害者側が責任を否定していても損害賠償金の支払い義務が生じます。
ご家族の死亡事故は弁護士に相談しよう
弁護士に依頼するメリットと選び方
弁護士に依頼することで、慰謝料請求の手続きがスムーズに進みます。
特に、示談交渉や訴訟の経験が豊富で、法的知識も十分に備えた弁護士であれば、加害者側や保険会社との交渉において遺族に有利な結果を引き出すことができます。
弁護士を選ぶ際には、以下のポイントに注意すると良いでしょう。
弁護士選びのポイント
- 死亡事故に関する経験が豊富な弁護士を選ぶ
- 初回相談が無料で、相談予約がしやすい弁護士を選ぶ
- 遺族に寄り添った対応ができる弁護士かどうか確認する
適切な弁護士を選べば、法的に強力な味方を得られるだけでなく、遺族の精神的な負担も大幅に減るでしょう。
事故の起こった状況ごとに弁護士に相談・依頼するメリットを説明した記事もありますので、あわせて参考にしてください。
死亡事故の慰謝料請求ならアトム法律事務所へ
アトム法律事務所では、事故により家族を亡くされた方からの相談を無料で受け付けています。
事故で大切なご家族を亡くされたご遺族が法的に正当な補償を受けられるよう、全力でサポートいたしますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了