事故の損害賠償は示談交渉で早期円満解決を目指す!弁護士が進め方を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

事故の損害賠償は示談交渉で早期円満解決を目指す!弁護士が進め方を解説

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損害賠償の示談交渉

事故で被害を受けた場合、被害者は加害者に対し、損害賠償を請求できます。

たとえば、事故によってケガをしたなら治療費、仕事を休むことになったら休業損害、精神的苦痛に対する慰謝料などが賠償に含まれる可能性があるものです。

そうした損害賠償は、いきなり裁判をするのではなく、「示談交渉」といって裁判外で当事者同士で話し合う方法で解決を目指します。

あるいは事故の内容によっては相手が加入する保険会社との交渉になる場合があります。保険会社は交渉ノウハウに長けており、平然と「この金額が妥当」といって低い金額の示談案を提示してくる場合もあるのです。

この記事では示談交渉による損害賠償トラブルについて、早期かつ円満な解決を目指すポイントを解説します。

また、交渉のプロである弁護士に任せるメリットやタイミングも解説するので、早期に被害を回復し平穏な日常生活を取り戻すために、本記事をぜひご活用ください。

損害賠償を示談交渉でおこなう具体的な進め方

示談交渉とは、裁判を経ずに、当事者同士の話し合いでトラブルを解決することです。示談交渉の基本的な流れを以下に示します。

示談交渉の流れ

  • 損害額の算定
  • 示談交渉開始
  • 交渉の継続(複数回のやり取り)
  • 示談条件の合意
  • 示談書の作成
  • 賠償金の支払いと事案の終結

示談交渉を進める上では次のような点に注意しましょう。

示談交渉の注意点

  • 書面やメールなどお互いの主張が明確に残る形でやりとりをする。
  • 示談書に署名押印する前に弁護士に示談書の確認を依頼しましょう。示談が成立した場合、基本的に後から合意をなかったことにはできません

直接会って話し合っても構いません。しかし、何らかの危害が及ぶ可能性もゼロではありませんし、後で「言った言わない」のトラブルが生じるおそれがあるがあるので書面でのやりとりをおすすめします。

損害額の算定

示談交渉を始める前に、まず損害額を正確に算定することが重要です。

損害の内容は事故ごとに様々ですが、たとえば携行品の買い替え費用・修理費などの物的損害、ケガの治療費、仕事を休んだ時の給与補償である休業損害、精神的苦痛への補償である慰謝料などが含まれます。

損害額は実費で請求すべきものと、一定の計算方法が決まっているものに分かれています。たとえば慰謝料の算定には専門的な知識が必要です。

正確な損害額を把握することで、交渉の土台が固まり、適切な賠償を受け取ることにつながります。損害賠償請求にくわしい弁護士の協力を得ることが望ましいでしょう。

本記事内「損害賠償請求できるものとは?」では損害賠償のうち、慰謝料や逸失利益などの算定についてまとめていますので、あわせてお読みください。

示談交渉開始

損害額が確定したら、相手方に連絡を取って示談交渉を開始します。事故の状況や責任の所在、算定した損害額について説明して賠償を求める意思を明らかにする段階です。

交渉の開始時点では、互いの主張に隔たりがあるのが普通です。しかし、穏やかな態度で臨み、相手の言い分にも耳を傾けていきましょう。

また、この時点で交渉の進め方や今後のスケジュールについても合意を得ておくとスムーズに交渉を進められます。

示談交渉開始時のワンポイント

示談交渉の開始時は内容証明を用いることをおすすめします。内容証明とは、郵便局が、いつ、誰が、誰宛てに、どんな内容の文書を送ったかを証明してくれるサービスをさします。

後々に「いつ、どんな内容の文書を送ったか」という事実を証明する際に、非常に強い証拠となるのです。また、自分の主張を正式に伝え、その事実を記録に残す効果もあります。

交渉の継続(複数回のやり取り)

示談交渉は通常、一度で決着がつくことは稀で、複数回のやり取りが必要となります。この過程では、お互いの主張の違いを少しずつ埋めていくことが目標となります。

交渉の中で決めていくものは損害の範囲と金額、責任の所在(お互いの過失の程度)、支払いの期限やルールなどが一般的です。

示談の成立を目指すためには、粘り強く、しかし譲るべきところは譲る姿勢で交渉を続けることがポイントです。

なお、交渉が行き詰まった場合は交渉に慣れた弁護士に意見を求めることも有効になります。報酬を得る目的で被害者の代理人となって交渉できるのは弁護士に限られますので、資格のない人に任せてはいけません。

交渉の継続のワンポイント

事故によっては保険会社との示談交渉になったり、相手が弁護士を立ててきたりする場合があります。その場合は不利な立場に立たされないよう、弁護士への早めの相談がおすすめです。

示談条件の合意

複数回の交渉を経て、最終的な示談条件について合意に達します。この段階では、賠償金額だけでなく、支払い方法や時期、付帯条件なども含めて細かく取り決めていきましょう。

合意に至る前に、提示された条件が自分にとって本当に納得のいくものかどうか、冷静に検討することが大切です。

また、将来的な問題が発生しないよう、あいまいな表現や解釈の余地がある条項は避け、明確な言葉で合意内容を確認しましょう。

示談条件の合意のワンポイント

相手の示談条件をうのみにせず、迷ったときには弁護士に相談することがポイントです。弁護士はこれまでの経験や判例などをもとにして、示談内容について助言できます。

示談書の作成

示談条件で合意に達したら、それを書面にまとめた示談書を作成します。示談書は法的な効力を持つ重要な文書であり、後々のトラブルを防ぐためにも、慎重に作成しましょう。

示談書には、当事者の氏名、事故の概要、損害の内容、賠償金額、支払方法、示談成立日などの基本的な情報に加え、互いの権利放棄や今後の請求を行わない旨の条項なども含めます。

専門的な法律用語や複雑な表現は避け、誰が読んでも理解できる平易な言葉で記述することが望ましいです。示談書の作成は弁護士に依頼するのが一般的ですが、自分で作成する場合は、必ず法律の専門家にチェックしてもらいましょう。

示談書の作成のワンポイント

一度成立した示談は原則としてやり直しができません。示談書に署名してしまう前に、必ず弁護士に内容のチェックを受けるようにしてください。

賠償金の支払いと事案の終結

示談書に両者が署名・押印をしたら、合意した内容に基づいて賠償金の支払いが行われます。支払いは、示談書に記載された方法と期日に従って確実に行われることが重要です。

一括払いの場合は受け取りを確認し、分割払いの場合は支払いスケジュールを管理します。賠償金の受け取りが完了したら、領収書を発行するなどして支払いの証明を残しておくことが大切です。

損害賠償請求を示談交渉でおこなうメリット

損害賠償請求の方法は複数ありますが、示談交渉でおこなうメリットは多数あります。

示談交渉のメリット

  • 時間的・経済的・精神的な負担を減らせる
  • プライバシーが守られる
  • 柔軟で納得感のある解決を目指せる

以下、それぞれのメリットを説明します。

時間的・経済的・精神的な負担を減らせる

示談交渉は、裁判や調停よりも時間的・経済的・精神的な負担を大幅に減らすことが期待できます。

示談交渉では、お互いにどれだけ歩み寄れるのか、もともとの争点の数しだいで示談成立までの時間を相当短縮可能です。

示談交渉が不成立になった場合、調停や訴訟などに移行するのが一般的ですが、なんらかの結論が出るまでには数か月かかることが通常です。

訴訟であれば、長ければ数年にわたって続くことを覚悟する必要があります。その間にかかる費用や精神的負担は相当大きなものといえます。

プライバシーが守られる

示談交渉は、当事者間に限った話し合いなので、第三者に知られたくない事実を公表せず進めることができます。

他方、訴訟になれば公開が原則であるため、傍聴に来た第三者に、知られたくない事情を聞かれてしまう可能性があります。

柔軟で納得感のある解決を目指せる

示談交渉は、当事者が合意すれば、自由に示談内容を決めることができます。例えば、相手方の謝罪や再発防止に努める旨の条項を示談書に入れることも可能です。

一方、訴訟の場合は、あくまで金銭的な賠償責任の有無とその額が問題になります。

そのため、たとえ訴訟で認容判決が出たとしても、被害者が本当の意味で求めている謝罪や将来に向けての対応策が示されることはありません。

したがって、示談の方が訴訟よりも当事者の意思に即した柔軟な対応が可能で、より納得感のある解決につながりやすいといえます。

示談交渉をうまく進めるコツ

相手方にもメリットがある点を説明しながら交渉する

示談を成立させるポイントは、「今の段階で合意した方が、相手にもメリットがある」ことを上手に伝えることです。

例えば、示談不成立の場合は訴訟提起する予定であり、その場合は、過去の裁判例から考えて、現時点より高額な損害賠償金が認められる可能性があるということを説明する方法があります。

もっとも、伝え方を工夫しなければ、相手の感情を逆なでしてしまい交渉決裂となってしまうおそれが高いです。

話し合いを冷静に進め、相手の納得を得るには、交渉経験豊富な弁護士に任せるのが最も安心です。

感情的になって「加害者」にならないようにする

自分で示談交渉をするときの最大の注意点は、冷静さを保つことです。

示談交渉の当初は、お互いの主張する示談金額がかけ離れていたり、そもそも相手が賠償責任を認めないことも珍しくありません。

ここから、感情的にならず事実に基づいて相手方を粘り強く説得するのは、精神的にとても大きな負担です。

相手の言動が許せず、つい感情的になってしまうと、場合によっては、逆に損害賠償請求をされたり、刑事責任を問われたりする可能性もゼロではありません。

このようなトラブルを回避するには、示談交渉の経験豊富な弁護士に依頼するのが最もおすすめです。

法的に不備のない示談書を作成する

示談交渉で重要かつ非常に難しいのが、示談書の作成です。

示談が成立した場合、後々のトラブルを防ぐために示談書を作成する必要があります。

ネットを検索すれば示談書のひな形は簡単に入手することができますが、ひな形にはあくまで一般的な内容しか記載されていないという点は要注意です。

法的に不備のない示談書を作成し、トラブルを終局的に解決するためにも、弁護士に示談交渉を進めてもらうのがおすすめです。

弁護士は示談書を作成する前に、その内容を隅々まで検討し、将来の紛争防止のために最善の注意を払います。

示談不成立の場合の対処法を考えておく

示談交渉を進める上で、示談不成立となった場合の次の手段を考えておくことも大切です。一般的に、示談不成立後の請求手段としては、ADR、調停、訴訟があります。

ADRとは何か?

ADR(Alternative Dispute Resolution)とは、裁判外紛争解決手続を意味します。

法的なトラブルを裁判(訴訟)によらない方法で解決する手段です。例えば、弁護士会が運営している紛争解決センターもADRの一つになります。

弁護士会によっては、医療機関との紛争に詳しい弁護士が当事者の話を聞いて解決を図る医療ADRなど、専門的なADRを設置しているところもあります。

ADRは訴訟とは異なり柔軟な解決ができる点がメリットですが、対立が激しい場合は向きません。

調停とは何か?

調停は、裁判官や調停委員が関与しつつ、当事者の話し合いを進める手続です。

調停は、調停委員などの説得により相手方の合意を得やすくなったり、証拠の提出がスムーズになる点がメリットです。

しかし、調停は、あくまで話し合いである以上、合意に至らなければ解決できない点がデメリットです。

訴訟とは何か?

訴訟は、裁判所の判断によって紛争を解決する手続です。

相手方が賠償責任を否定したとしても、裁判官が、証拠上、賠償責任が認められると判断すれば、強制的に責任が認められ終局的な解決ができる点がメリットです。

しかし、1回の裁判で判決が確定するとは限らないため、時間的・経済的負担が大きい点がデメリットといえます。

示談が不成立になった場合にとる手段は様々です。

示談交渉において、譲歩すべきか、早めに見切りをつけて次の手段へ移るべきかといった判断は非常に難しいため、示談交渉の経験豊富な弁護士に事前に相談して、示談の見通しを聞きながら、ご自身にとって最適な方法を選択するとよいでしょう。

弁護士に依頼するメリットと最適なタイミング

弁護士に賠償問題の交渉を依頼するメリットは?

弁護士に依頼するメリットはたくさんあります。

弁護士に依頼するメリット

  • 専門的な知識と経験: 賠償問題に関する深い知識と数多くの交渉経験を持つ弁護士は最善の解決策を提案可能です。
  • 客観的な視点: 感情的な状況に陥りがちな交渉を客観的な視点から冷静に判断し、有利な結果になるように力を尽くします。
  • 時間と労力の節約: 時間と労力を要する法的な手続きや交渉の負担を軽減できます。
  • 精神的な負担の軽減: 賠償問題に関する悩みは、精神的な負担が大きいです。弁護士に相談することで、心身ともに安心して問題解決に専念できます。

弁護士に交渉を任せるタイミングはいつ?

当事者同士の交渉で少しでも不安や不満を覚えた場合は、できる限り早いタイミングで弁護士に依頼することが大切です。

話し合いがこじれてから弁護士が関わると、相手方から「本人の言っていたことと違う」と反論されて、合意がまとまりにくくなるおそれもあります。

弁護士が早期に関与するほど、法的に筋の通った主張を首尾一貫して行えるため、依頼者に有利になります。

当初から当事者の意見の対立が激しいとわかっている場合は、示談交渉を開始する時点で弁護士をつけておくのが望ましいでしょう。

損害賠償の交渉で知っておきたいこと

損害賠償できる・できないは何が違う?

相手の損害賠償責任の有無が違います。

損害賠償とは、ある行為(例えば不法行為や契約違反など)によって他者に生じた損害(財産的損害や身体的損害など)を補償するための金銭的な支払いを指します。

逆に言えば、相手の行為による損害ではない場合、何も損害が生じていない場合などは請求が認められません。

相手方の行為が義務に違反している不法行為(被害者の法的な権利を脅かす行為)であるなどの法的問題として主張することがポイントです。

損害賠償請求できるものとは?

損害賠償の目的は、損害を受けた側が本来の状態に戻るための助けとなることです。よって、事故との因果関係が認められる損害については賠償請求できます。

損害賠償請求の内容についてはケースバイケースですが、主な請求内容は以下のとおりです。

主な損害賠償請求内容

慰謝料の種類概要
治療関係費事故のケガの治療費、入院の費用、手術費用など
通院交通費事故のケガの治療のために通院した交通費
休業損害ケガで働けないことへの給与補償
入通院慰謝料治療中に受けた精神的な苦痛に対する補償
後遺障害慰謝料回復が難しい障害で日常生活や仕事に支障が出ることへの補償
死亡慰謝料亡くなった本人や遺族が受けた精神的な苦痛への補償
後遺障害逸失利益労働能力が下がって失われた本来得られたはずの収入
死亡逸失利益亡くなった本人が生きていれば得られたはずの将来の収入

ここからは特に算定方法がわかりづらい慰謝料と逸失利益について説明します。

慰謝料について

加害者の行為によってケガをしたり、死亡結果が生じた場合の慰謝料については、原因が交通事故以外であっても、交通事故の実務に関する慰謝料と同じ考え方で算定するのが一般的です。

交通事故の場合に請求できる慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つです。

3つの慰謝料

慰謝料の種類概要
入通院慰謝料治療中に受けた精神的な苦痛に対する補償
後遺障害慰謝料回復が難しい障害で日常生活や仕事に支障が出ること、苦痛・不便さへの補償
死亡慰謝料亡くなった本人や遺族が受けた精神的な苦痛への補償

これらの慰謝料は、相手方が独自の基準で算定して提案してくることも多いです。よって提示されている金額が常に正しいとは限りません。

もっとも法的に正しく、金額が高くなりやすいのは弁護士が算定する「弁護士基準」といわれる計算方法で、裁判でも認められうる金額になります。

慰謝料の計算方法は以下の関連記事でくわしく解説しているので、あわせてお読みください。

逸失利益について

逸失利益には後遺障害逸失利益と死亡逸失利益の2つがあり、いずれも「得べかりし利益」ともいわれる、本来得られるはずのものが得られなくなった損害のことです。

後遺障害逸失利益と死亡逸失利益

概要
後遺障害逸失利益労働能力が下がって失われた本来得られたはずの収入
死亡逸失利益亡くなった本人が生きていれば得られたはずの将来の収入

後遺障害逸失利益は、原則後遺障害として認定された後遺症が残ったときに請求できる金銭です。

逸失利益とは何か

たとえば腕や足のしびれ(神経症状)では後遺障害12級や14級に認定されることが多く、事故前の収入をベースにして後遺障害逸失利益の請求ができます。

死亡逸失利益は亡くなられた人の属性によって計算式は様々ですが、実際に金銭収入を得ていない人でも請求できる可能性があります。

逸失利益の計算方法は関連記事を参考にしてみてください。

賠償問題の交渉は弁護士に相談しよう!

損害賠償の問題は、いたずらに長引かせてしまうと、示談交渉での解決が難しくなってしまう恐れがあります。その結果、示談不成立となり、さらに負担の大きい解決方法を取らざるをえない状況になりかねません。

賠償問題の解決は、法律の知識や交渉術が必要となり、一人で抱え込むには大きな負担がかかります。相手方とのやり取りは、感情的になりがちで、適切な解決から遠ざかってしまうリスクもあるでしょう。

弁護士はあなたの権利をしっかりと守り、正当な賠償額を獲得するためのサポートします。損害賠償請求を検討している方は、弁護士への相談・依頼も考えてみましょう。

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

詳しくはこちら

高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了