介護事故で弁護士に相談・依頼する代表的なメリット3つ。事例も紹介
「長い間お世話になった施設との争いごとは避けたいな」
「被害者ももう年だったし仕方ないだろう」
介護事故では、上記のように考えてしまう方は多いです。
自動車事故の場合なら、健康な人がいきなり事故に遭うのだから、裁判を提起してでも損害賠償を得ようと思う心理になっても自然といえます。
一方、介護事故では訴訟を躊躇したり、諦めてしまう場合も多いでしょう。
しかし、施設側の都合で事故が起きたのであれば、損害に対して適切な補償を得ることは法的に当然認められた権利です。事故直後には施設側と示談交渉を行い、賠償額を提示されるでしょう。その説明に賠償額が低いなど納得いかない点があれば弁護士へ相談することをおすすめします。
本記事では、介護事故で弁護士に相談するメリットや介護事故の裁判事例を紹介します。
目次
介護事故を弁護士に相談・依頼するメリット
介護事故で施設側と争う気がある場合、弁護士の手を借りると納得のいく解決が実現しやすいです。弁護士に相談や依頼をしなければ、示談交渉で要望を通したり、裁判で勝利して希望額の賠償金を受け取ったりすることがむずかしいでしょう。
弁護士に法律相談や対応を依頼するメリットについてもう少し詳しく紹介します。
(1)専門的な見地からアドバイスしてもらえる
損害賠償請求の可否について
介護施設で生じた事故だからといって、すべての事故で施設側の責任を追及できるというわけではありません。原則として施設側に安全配慮義務違反が認められる場合のみ、損害賠償請求が可能となります。
しかし、法律の知識がないと、当該案件で施設側の安全配慮義務違反に当たるか判断できないケースがほとんどのはずです。弁護士に依頼すれば施設側の責任を追及できる事案か見極めてもらえます。
介護事故において誰にどのような責任が生じるのかを知りたい方は『介護事故による介護施設や職員の法的責任』の記事をご覧ください。
過失相殺による減額の程度について
介護施設における事故では、被害者である施設利用者の不注意や勝手な行動が事故発生の一因となっていることが珍しくありません。このようなケースでは、被害者側の過失の程度に応じて損害賠償請求の金額が減額となり、このような減額を過失相殺といいます。
しかし、過失相殺においては、どういった場合に過失があったといえるのか、過失の割合はどのように決定すればいいのかといったことを判断することが困難です。介護事故の実績が豊富な弁護士であれば、過去の事案や経験と照らし合わせて正確な過失割合を導いてくれるでしょう。
後遺障害が生じた際の適切な請求方法について
さらに、介護事故では後遺障害に関して争点にあげられやすいです。後遺障害とは病状が治癒した後に体に残ってしまった障害のことを指します。誤嚥や転倒等によって障害状態に陥る被害者も少なくありません。
後遺障害が生じた場合は、障害の程度を示す後遺障害等級を明確にし、等級に応じた請求を行う必要があります。
しかし、交通事故や労災事故の場合、認定機関があり障害の後遺障害等級を決めてもらえるのですが、介護事故ではそのような機関は存在しません。
そのため、介護事故の場合、後遺障害等級表をチェックし、どの等級に該当するか自分で決める必要があります。素人では判断がむずかしい部分です。弁護士の専門的な知見を頼ることで、該当する後遺障害等級を導き出すことができるでしょう。
(2)適切な賠償額の算定
被害者側が自ら施設側と交渉し、賠償額の提示を受ける場合もあるでしょう。
しかし、施設側から提示される賠償額は実際に裁判で獲得できる金額よりも低めに設定されている場合があります。実務の経験が豊富で相場を把握している弁護士の手を借りれば、提示額を引き上げられるでしょう。
さらに、施設側が把握しきれていない損害を発見し、賠償額に追加できる可能性もあります。より高額の賠償金を受け取りたいのであれば弁護士に依頼すべきだといえるでしょう。
(3)本人や家族の負担軽減
損害賠償を行うのであれば介護施設との交渉や裁判手続きを行うこととなりますが、基本的に経験がない以上、適切な交渉や裁判手続きを行うことは困難です。
特に、介護事故で家族を亡くした場合、遺族が負うショックには計り知れないものがあります。悲しみに暮れる中、葬儀の手配に加えて裁判手続きの必要まで迫られると精神的にも肉体的にも非常に辛い状況です。動揺した状態では施設側との交渉もうまくいかないでしょう。
いきなり裁判で弁論が交わされるのではなく、一度、施設側と示談による話合いを行った上で裁判に移行するのが一般的です。弁護士に依頼すれば施設側との交渉を代わりに行ってくれます。
また、裁判で勝利するためには証拠の提出が求められますが、遺族の方はどのような書類が必要か判断できないケースが多いでしょう。証拠書類は弁護士を通じた請求も可能です。施設側が証拠を改ざん・隠蔽する可能性があるなら、裁判所に対して証拠保全請求も実施できます。
面倒で煩雑な手続きの多くを弁護士に任せることが可能なので、介護事故で弁護士に依頼するメリットは大きいでしょう。
介護事故を弁護士に依頼した後の対応
介護事故を弁護士に依頼した後の大まかな流れを確認しておきましょう。依頼した弁護士や事案の内容によって進め方は異なりますが、一般的に考えられる主な流れを紹介します。
(1)証拠の収集や確保などの準備
手元の資料のみでは今後の見通しがつかないような場合、弁護士は介護事故に関する資料を収集したり、調査を行うことがあります。
集まった資料から、施設側に対する責任を追及できるかどうかを調査していきます。調査の方法は、施設側に資料提供を依頼することもあれば、証拠保全という手続きをとる場合もあるでしょう。
証拠保全とは、施設側に証拠隠滅の恐れがあるような場合、裁判所に申し立てを行い、認められれば相手に対する証拠の提示命令が裁判所から出されるものです。
(2)示談交渉
一定の調査が行われて資料が集まったり、今後の見通しがたったりしたら、施設側との示談交渉をはじめます。示談交渉とは、話し合いによって争いの解決を図る方法です。
一般的に、いきなり裁判を起こすのではなく、示談交渉からはじめるケースが多くなっています。というのも、裁判というのは訴訟費用や時間などの負担が当事者双方にかかるため、できれば示談交渉で解決したほうが負担が少なく済むことが多いためです。
もちろん、事案の内容によっては示談交渉を行わずに裁判を提起した方がいいケースもありますが、どの方法を選ぶかは依頼した弁護士と慎重に検討していくべきでしょう。
示談交渉では、生じた介護事故の事実関係を整理し、どのような責任が誰にあり、どのくらいの損害賠償金を支払うのかなどについて話し合いを行います。
(3)調停や裁判へ移行することもある
示談交渉は、当事者双方が納得する落としどころを話し合いで探して、決めていくことになります。したがって当然、当事者双方の意見があわず、解決に至らないという可能性も大いにあります。
示談交渉で解決に至らない場合は、調停や裁判へ移行することになるでしょう。
調停とは、裁判所の調停委員などの第三者が介入する話し合いで争いの解決を図る方法です。示談交渉で解決に至らない場合、調停か裁判のいずれかに発展することが予想されますが、裁判と比べて調停は費用も時間もかからないという点から選ばれることがあります。
裁判とは、裁判所が法廷で当事者双方の言い分を聞いたり、証拠を確認して、裁判所の判決で争いの解決を図る方法です。弁護士でなくとも裁判手続きを行うことができますが、訴状や証拠の提出など煩雑な手続きが多いので、法律の専門家である弁護士に任せてしまえば安心です。
裁判手続きについては『介護事故の裁判|介護施設相手に訴訟する方法』の記事をご覧ください。
介護事故を弁護士に依頼する時のよくある疑問
被害者本人ではなく家族でも依頼可能?
介護施設に入居されているような方は、認知症などで判断能力がないこともあるでしょう。このように、被害者本人に判断能力がないような場合、家族というだけで弁護士に依頼することはできるのでしょうか。
弁護士に依頼するということは、施設側に対する損害賠償請求を進めていくということになります。被害者本人が存命している場合、損害賠償請求は基本的に被害者本人の意思が必要です。
判断能力のない被害者本人に代わって、家族が損害賠償請求をしたい場合、まず家庭裁判所に「成年後見人」の申し立てをして、就任する必要があります。そして、成年後見人となってから弁護士と当該案件についての依頼が可能になるのです。
成年後見人の申立てについても、手続きが煩雑なので弁護士に相談してみることをおすすめします。
介護事故で被害者が亡くなった場合はどうなる?
介護事故で被害者が亡くなられた場合は、被害者の相続人が損害賠償請求することができます。
- 相続人
配偶者は常に相続人となりますが、被害者が死亡した場合は以下の順で権利を引き継ぎます。- 子、孫などの直系卑属
- 父母、祖父母などの直系尊属
- 兄弟姉妹または兄弟姉妹の子
- 配偶者・子・父母
被害者が死亡した場合は損害賠償請求の権利を引き継ぐとともに、自身に対する慰謝料の請求権も持ちます。
請求権者が複数人いる場合は、代表者を一人決めて委任します。
弁護士費用の体系はどうなっている?
弁護士を依頼する時にかかる費用がどうなっているのか気になると思います。弁護士費用はさまざまな体系が考えられますが、一般的には相談料・着手金・成功報酬金・日当・実費などの項目を合計したものが弁護士費用となることが多いでしょう。
弁護士費用
- 相談料
30分5500円~1.1万円程度(無料相談の場合もあり) - 着手金
11万~33万円程度(着手金無料で完全報酬型の場合もあり) - 成功報酬金
最終的に獲得した利益の11~22%程度(完全報酬型なら割合が大きくなる傾向) - 日当
出廷1回につき1.1万~3.3万円程度など - 実費
郵送代や手数料など実際にかかった費用
※消費税込みを想定した金額です。
かかった時間で費用を割り出すタイムチャージ制を採用している弁護士もいます。相談時に、弁護士費用についても質問しておくようにしましょう。
弁護士費用特約があれば安心
弁護士費用特約とは、弁護士費用を保険会社が上限の範囲で負担してくれる保険特約です。
最近の保険では、交通事故に限らず日常生活で起きる事故に関する弁護士費用特約を設けていることもあります。ご自身が加入する保険にこのような特約が付いているか、介護事故でも特約を使用できるかを確認してみましょう。
介護事故の裁判事例
介護事故の裁判事例を紹介します。判例をチェックすることで違法性の判断基準や裁判所の見解、損賠賠償額の相場等、さまざまな情報を得ることが可能です。
事例(1)鹿児島地裁平成29年3月28日判決
まず、介護事故で頻発の誤嚥に関する事例を紹介します。
本事例では介護施設に入居する男性が誤嚥により窒息し、低酸素脳症を発症してしまいました。誤嚥の可能性があるロールパンをちぎらずにそのまま与えたことに対して、事故のリスクを認識していながら回避の措置を取らなかったことが施設側の義務違反だと判断されたのです。
裁判所が命じた損害賠償額は慰謝料を含め、3,600万円にも上りました。誤嚥事故は死亡に至る可能性が高いので、転落事故等その他の事故と比較し慰謝料が高額になる傾向があります。
事例(2)東京地裁平成29年2月15日
グループホームの入居者であった93歳の男性が窓から転落した事案です。
高齢者が転落した窓はストッパーが備わっていたものの、ロックがかかった状態でも20センチ程度開くことができ、少し力を入れて窓を動かせば鍵を使わずに窓が解除できてしまう危険な仕様でした。
本事案ではこの窓が通常有すべき安全性を欠いていたと判断され、施設側の工作物責任を認めています。工作物責任とは工作物に欠損や欠陥が生じていたことを原因として他人に損害を与えた場合、その工作物の所有者が問われる責任を指します。(民法717条1項)
賠償金は慰謝料を含め、約1,000万円が命じられました。
判決では「被害者は認知症患者であったこともあり、通常の高齢者と比較し予想だにしない行動を取る危険が高いため、事故防止の十分な対処策を取るべきだ」とも述べられています。
事例(3)福岡地判平成28年9月12日
転落事故について過失相殺が考慮されたケースとして紹介します。過失相殺とは事故が起きた際、被害者側にも落ち度がある場合、損害賠償額から被害者の落ち度の割合だけ減額する制度のことです。
介護事故では認知能力が乏しい高齢者の行動も一つの要因となり、事故が起きてしまうケースがあります。
本事案では当時100歳であったショートステイ利用者の女性が自宅まで送迎してもらった際、足を踏み外して階段から転落してしまいました。後頭部を強打し脳挫傷に陥り、病院に運ばれましたが治療のかいなく死亡してしまいました。
本件では施設側の安全配慮義務違反が問題となっています。当時は雨が降っており、かつバランスを崩しやすい階段を歩行中の出来事であったこと、階段を上る際に体を支える等のサポートを行い、転落を防止するべきだったことを理由に安全配慮義務に違反すると判断されました。
損害賠償額は被害者遺族の慰謝料や入通院にかかった費用から過失相殺により3割控除され、約1,350万円が支払われています。
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介護事故においては弁護士に相談のうえ、依頼を行うことで様々なメリットを受けることが可能です。
まずは弁護士への法律相談を行い、誰にいくらの請求が可能であり、請求のために何をすべきなのかを知りましょう。そのうえで、信頼できると感じたのであれば、依頼した際の費用を確認の上、弁護士への依頼を行うことをおすすめします。
介護事故でご家族を亡くされたり、大きな後遺障害が残ってしまった場合は、アトム法律事務所の弁護士による無料相談をぜひご利用ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了