介護事故で家族が死亡|損害賠償請求するときの法的根拠を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

介護事故で家族が死亡|損害賠償請求するときの法的根拠を解説

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介護事故 家族が死亡

介護事故で家族を亡くした遺族の中には、介護施設の対応などに不満や不信感を持つ人もいるでしょう。遺族の目の届かない場所で起こった事故であるため、事故原因が曖昧だったり日頃から介護施設の職員に不満を感じていた場合は尚更です。

今回の記事では、もし介護事故によって家族が死亡した時、その責任が介護施設や介護職員にあった場合の損害賠償請求について解説します。この機会に、損害賠償請求の法的根拠についても確認しておきましょう。

介護事故の基本情報

まずは、介護事故の基本情報を確認しておきましょう。介護事故の定義や死亡事故の発生件数・割合・原因などについて説明します。

介護事故とは

介護事故とは、介護施設内や施設への送迎途中や、介護職員が訪問した要介護者の自宅で、利用者の生命や身体に損害が発生した事案のことです。定義次第では、損害はなかったが発生する可能性のあった事案も含まれます。

損害の対象は利用者であり介護職員が被った損害は含まれません。

介護事故での死亡人数

全国で介護事故での死亡人数がどれぐらいいるかや、どれぐらいの頻度で発生しているかなどの実態は把握できていない状況となっています。

厚生労働省が介護事故の全国調査を定期的に行う仕組みがなかったことが理由です。

ただし、2022年に読売新聞が介護施設の死亡事故について実施したアンケート調査により、2021年度に政令市と中核市、県庁所在地、東京23区の106自治体だけで計1159人が介護事故で死亡していることが判明しています。(参考:https://www.yomiuri.co.jp/national/20220727-OYT1T50394/)

もっとも、上記は106の自治体が特別養護老人ホーム(特養)などの介護施設・事業所から報告を受けた死亡事故数であるため、実際の介護事故での死亡人数は年間1,159人を大幅に上回ると想定されます。

なお、厚生労働省は、2024年度から、全国の介護施設で発生した事故による死者数や原因などの情報を収集・分析し、結果を公表する予定です。

介護事故により死亡する割合

公益財団法人介護労働安定センター「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書によると、介護事故による身体的な損害内容の内訳は以下のとおりです。

損害内容割合
骨折70.7%
死亡19.2%
あざ・擦傷など2.5%
脳障害1.1%
その他不明6.5%

重大事故として報告された事例の内訳である点に考慮が必要ですが、介護事故によって約2割の人が死亡しています。

介護事故での死亡原因

さきほどの読売新聞が実施したアンケート調査によると、2021年度に介護事故で死亡した1159人の原因の内訳は、食事介助中に食べ物が気管に入る誤嚥(ごえん)が679人(59%)と最多で、転倒・転落が159人(14%)でした。

最近でも、特養の入所者がパンをのどに詰まらせ(誤嚥し)て窒息死した事故で、施設側に2490万円の賠償命令が出されたというニュースが報道されました(名古屋地裁令和5年8月7日判決)。

特養での死亡事故や誤嚥事故についてより詳しく知りたい方は、下記の関連記事を参考にして下さい。

介護事故で死亡したときの責任とは

介護施設で死亡事故が発生したとき、「誰に責任があるのか」判断が難しいケースもあります。特に、遺族については事故の瞬間を見ておらず、事故原因や責任の所在についての判断材料が少ないため、考えが整理できないこともあるでしょう。

介護事故による死亡の責任者は、次の3者が考えられます。

  • 介護施設
  • 介護職員
  • 要介護者本人

どのような場合であれば責任があるといえるのか、それぞれ解説していきます。

介護施設に責任があるケース

介護施設の設備や組織の問題などにより介護事故が発生すれば、介護施設の責任が問われます。

  • 危険が指摘されていた傾斜の急な階段で転落事故が発生した(設備の問題)
  • 介護職員が不足した状態で介護サービス事業を行い、要介護者の見守りが不十分なときに誤嚥事故が発生した(組織の問題)

上記のような介護施設に直接責任があるケース以外にも、介護職員に対する安全・衛生教育や管理が不十分な場合には、介護職員が起こした事故に対して、介護職員を使用する立場にある介護施設に責任が問われることがあります。

介護職員に責任があるケース

責任が介護職員にある介護事故は、介護職員の過失または故意による事故に分けられます。

  • 要介護者の歩行介助をしているとき自分がつまずいて、要介護者も転倒して死に至った(過失による事故)
  • 暴力を振るうなど虐待行為により要介護者を死亡させた(故意による事故)など

介護職員の行為が一般的に考えられる選択肢の1つであっても、介護施設に定めるマニュアルなどに反していれば、責任があると認定される可能性があります。

要介護者本人に責任があるケース

身体的な障害や認知機能の衰えなどを考慮して介護サービスが行われていても、要介護者が介護施設側の予見できない行動を行ったことにより事故が発生することもあります。

  • 普段は介護職員を呼んでトイレに同伴するのに、勝手に1人でトイレに行く途中で転倒して死亡した
  • 要介護者が自分の意思(認知症などの症状はなし)で、施設に内緒で買い物に出たときに交通事故にあってしまった
    など

このような事情がある場合には、要介護者が死亡した場合に、介護施設側に損害賠償請求を行うことが難しくなるでしょう。

しかし、認知症の人の場合は、普段は思いつかないような行動によって事故を起こすことが介護施設側が予見できたといえます。
そのため、認知症であることがわかっていた場合には、予見可能な行動といえたのかという判定の方法が異なります。

認知症患者の介護事故における損害賠償請求や具体的な裁判例についてより詳しく知りたい方は、下記の関連記事を参考にして下さい。

介護職員や施設に責任があるなら損害賠償請求を検討しよう

介護事故によって家族が死亡したとき、遺族は介護職員や介護施設に対して慰謝料を請求できるのでしょうか。法的根拠を含めて説明します。

民事上の損害賠償で慰謝料などを請求する

慰謝料とは、民事上の損害賠償により請求できます。損害賠償の対象は、身体や物、経済上の利益に対する損害などです。介護事故で要介護者が損害を受けた場合、要介護者や家族はその損害に対し損害賠償(慰謝料)を請求することになります。

損害賠償には次の2つがあります。

  • 債務不履行にもとづく損害賠償(民法415条)
  • 不法行為にもとづく損害賠償(民法709条)

介護事故が発生した場合の損害賠償についてみていきましょう。

債務不履行にもとづく損害賠償(民法415条)

介護施設と要介護者は介護サービス利用契約を締結しています。介護施設は利用料をもらう代わりに、要介護者の安全確保と適切な介護サービスを提供する義務を負っています。この義務を安全配慮義務といいます。

介護施設が安全配慮義務を怠ったために介護事故が発生した場合、介護施設は債務不履行責任を負わなければなりません。
そのため、介護施設に対して介護事故によって生じた損害について損害賠償請求を行うことが可能となるのです。

介護職員の安全配慮義務違反により介護事故が発生した場合でも、債務不履行による損害賠償請求は介護サービス利用契約を締結している介護施設に対して行います。

安全配慮義務違反の有無を判断するのは難しい面もありますが、裁判では次の2つを判断基準として検討を行います。

  • 予見可能性:事故の発生を予見することが可能であったか
  • 結果回避性:事故を回避する可能性があったか

不法行為にもとづく損害賠償(民法709条)

不法行為とは次の要件を満たす行為をいいます。

  • 故意または過失による行為(加害行為)であること
  • 他人の権利または法律上保護される利益を侵害したこと
  • 加害行為と損害発生との間に因果関係があること
  • 行為者に責任能力があること

介護施設または介護職員に不法行為が認められれば、遺族は介護施設や介護職員に対して不法行為による損害賠償請求ができます。

また、介護職員の故意・過失によって事故が発生した場合、介護職員に対して不法行為を問うとともに、介護施設に対して使用者責任を問うことも可能です。

介護施設側に対する損害賠償請求は、まず介護施設側との話し合い(示談交渉)により行われるケースが多いですが、責任の有無や損害額について折り合いがつかない場合には裁判による解決を図ります。

介護事故における裁判の流れを詳しく知りたい方は、下記の関連記事を参考にして下さい。

介護事故と死亡との因果関係が争われた裁判例

介護事故により家族が死亡したときに介護施設に慰謝料などを請求する際には、因果関係が問題になるケースが多いです。

介護施設の利用者は高齢者が多いため、別の原因とあいまって症状が重くなった結果、死亡するケースもあるからです。

ここからは、介護事故と死亡との因果関係の有無が争われた裁判例を2つ紹介します。

デイサービスの送迎時の転倒骨折と死亡との因果関係が争われた裁判例

ある医院でデイサービスを受けた患者(当時78歳)がバス送迎時に転倒骨折し、寝たきり状態になったところ、その後肺炎を発症して死亡した事案で、遺族が損害賠償請求訴訟を提起したところ、介護職員の注意義務違反と死亡との間の因果関係が争点になりました。

裁判所は、高齢者の場合、骨折により寝たきり状態となり、最終的な死亡に至るという経過は、通常人が予見可能な経過であるとして、事故と死亡との間には因果関係があると認定しました(東京地裁平成15年3月20日判決)。

ただし、上記事案は、骨折、肺炎の発症、死亡との間の各時間がかなり近接していた事案であり、骨折から病気が発症し、それが原因で死亡したすべてのケースで、因果関係が認められるとは限らない点に注意する必要があります。

なお、デイサービスの送迎時の事故に関する損害賠償請求についてより詳しく知りたい方は、下記関連記事を参考にして下さい。

褥瘡の悪化と死亡との因果関係が争われた裁判例

介護有料老人ホームにおいて、入所者(当時87歳)の褥瘡管理が適切に行われず、そのために入所者が搬送先病院で敗血症により死亡したと主張して遺族が損害賠償請求訴訟を提起した事案で、介護施設側の債務不履行や注意義務違反と死亡との間の因果関係が争点になりました。

裁判所は、敗血症を発症するほどの褥瘡の悪化は、介護施設の債務不履行・注意義務違反により生じたものであるとして死亡は本件施設の債務不履行・注意義務違反により生じたと認定し、因果関係を肯定しました(横浜地裁平成24年3月23日判決)。

ただし、褥瘡については介護施設側の責任を認めつつ、死亡との間は因果関係は否定するような裁判例(東京地裁平成19年4月20日判決)も存在するので注意が必要です。

なお、褥瘡に関する介護施設側への責任追及についてより詳しく知りたい方は、下記関連記事を参考にして下さい。

損害賠償請求できる項目|慰謝料だけではない

慰謝料とは被害者の精神的苦痛を金銭化したものに過ぎないため、慰謝料以外にも、介護事故によって生じた損害を慰謝料とは別に請求することが可能です。

そのため、死亡事故において請求できる内容は、以下のようなものとなります。

  • 死亡慰謝料
    死亡した被害者の精神的苦痛に対する慰謝料
    被害者の家族も個別の慰謝料請求が可能
  • 死亡逸失利益
    被害者が生きていれば本来得られたはずの利益が得られなくなったっという損害
  • 葬儀費用
    被害者の葬儀にかかった費用
  • 治療費用
    被害者が死亡するまでに治療がなされていた場合の治療費用

介護施設を利用する要介護者であった被害者の多くは高齢者であるため、仕事による収入を得ているケースは少ないものの、公的年金を得ている可能性が高いでしょう。このような公的年金も死亡逸失利益の対象となります。

葬儀費用については、葬儀を行う上で社会通念上相当程度といえる範囲の費用が対象となります。

慰謝料の具体的な相場額が知りたい方は『介護事故のケガや死亡の慰謝料相場は?損害賠償の内訳や判例も紹介』の記事をご覧ください。

死亡事故で損害賠償を争う場合は弁護士にご相談ください

弁護士に相談や依頼を行う必要性とは?

介護事故で家族が死亡した場合、介護施設から遺族に対し事故状況の説明とともに損害賠償の話があるかもしれません。事故発生に備えて、介護施設の多くは損害賠償責任保険に加入しています。

しかし、介護施設が過失等を認めないケースや提示された金額に納得できないケースもあるでしょう。
その時は、介護事故による損害の賠償を巡って介護施設等と争うことになります。

損害の小さい事故ならば被害者や家族が個人で対応することもありますが、死亡事故など大きな事故の場合は弁護士に相談しましょう。

介護施設との交渉や調停、裁判など、どのケースでも法律の専門家の力がないと正当な権利を主張できません。
特に、死亡事故では請求できる金額が高額になることが多いため、主張内容や証拠の収集方法を誤ると、得られなくなってしまう金額が大きくなることが多いのです。

そのため、弁護士に相談を行い、適切な主張内容や証拠の収集方法についてアドバイスを受けましょう。

また、弁護士に依頼を行うと、必要な手続きを弁護士が代わりに行ってくれます。
死亡事故では、被害者の葬儀や法要のために時間が必要になるので、損害賠償請求の手続きに関しては弁護士に任せるべきでしょう。

弁護士に相談や依頼した時のメリットや、弁護士だからこそできる対応については、関連記事『介護事故を弁護士に相談・依頼するメリット!介護トラブルに強い弁護士とは?』で深掘り解説しています。あわせてご覧ください。

弁護士に相談するなら無料の法律相談がおすすめ

介護事故でご家族が亡くなられた場合はまず、弁護士の法律相談を活用して、今後の対応や依頼の必要性などの判断を行いましょう。
無料の法律相談であれば、費用を気にせずに必要な質問や確認を行うことが可能です。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了