介護事故の裁判|介護施設相手に訴訟する方法と訴訟事例の解説 | アトム法律事務所弁護士法人

介護事故の裁判|介護施設相手に訴訟する方法と訴訟事例の解説

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介護事故で裁判

昨今ではニュースなどでも取り上げられているように、介護事故により利用者に重大な損害が生じてしまった場合、裁判にまで発展するケースも多々あります。

しかし、こうした介護事故においてどのような場合に裁判にまで発展をするのか、介護施設の責任はどういった場合に認められるのかについて、ニュース内で詳しく述べられておりません。

そこで、本記事では介護事故で介護施設の責任が認められる理由、訴訟提起の方法、裁判の流れについて解説を行います。判例についても紹介していますので、最後までご覧ください。

介護事故における介護施設や職員の責任は?

介護事故の場合、介護施設には、債務不履行責任または不法行為によって損害賠償責任を負う可能性があります。
また、それだけではなく、行政処分や刑事事件にも発展する可能性があるので、その点についても解説します。

どういった介護事故が多いのか

介護ミスにより生じる介護事故で最も多い事故類型とされているのが、転倒・転落事故です。介護利用者は身体的な面だけでなく、認知能力の点からも転倒を起こしやすく、ベッドからの転落事故は数多く報告されております。

また、食事の際には誤嚥事故や食中毒などが考えられ、これらの事故は大変な事故につながりやすく、最悪の場合では死亡するおそれもあります。

加えて、介護施設職員からの虐待や過度な身体拘束についても問題になっているのが現実です。当然ながら、このような事実が明らかになった場合、介護施設および当該職員は責任を問われることになります。

介護施設が負う可能性のある法的責任

介護事故により、介護施設は民事上の損害賠償義務・刑事上の刑罰・行政上の認定取消処分などの責任を負う可能性があります。

民事上の損害賠償義務とは、基本的には金銭の支払いになり、介護施設利用者が被った損害や慰謝料を請求することになります。
そして、この請求が認められるかで特に問題となるのが、契約により生じる安全配慮義務に反していたかという点です。

たとえば、転倒して骨折した場合、転倒することを予見できたのか、その事故を回避することは出来たのかという観点から、安全配慮義務違反を検討することになります。

また、職員に明らかな重過失や故意があった場合は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)や傷害罪(刑法204条)等の刑事上の責任に問われることがあるでしょう。

加えて、介護施設は介護事故があった場合、行政に対して「事故報告書」を提出することになります。その報告を受けた都道府県は、介護施設に対して行政指導を行うことになり、最も重い処分の場合は指定居宅サービス事業者の指定取り消しや業務停止が課される恐れがあるのです。

介護事故の発生から訴訟提起までの流れ

介護施設の介護事故により重大な損害が生じてしまった場合、どのようにして訴訟提起をするのでしょうか。訴訟提起までの流れについて解説します。

証拠の取得と保全

介護事故の発生後、介護施設は利用者や利用者家族(キーパーソン等)に対して、どのようにして介護事故が生じてしまったのかを説明する義務があります。
しかし、介護施設からの説明は、正確な情報かどうかが不明である点に加え、立場上、不利な事実をどこまで詳細に話しているのかという点でも疑問が残ります。

そのため、裁判を見据えて行動を行う上では、客観的な証拠の取得が必要不可欠といえるでしょう。代表的な証拠としては、介護記録や診療録、事故報告書、介護保険認定調査票があげられます。

これらの証拠は、利用者等が請求をすれば開示をしてもらえるのが原則ですが、前述したとおり、改ざんの恐れなどもあり、証拠保全という裁判上の手続きを行わなければならない場合もあるといえます。

証拠保全を行う場合は、速やかに適切な手続きを行うことが要求されるので、専門家である弁護士に依頼すべきでしょう。

内容証明郵便の送達と介護施設との示談交渉

基本的には、介護事故が起きてすぐに訴訟提起を行うのではなく、まずは示談交渉を行い、話し合いでの解決を目指します。
利用者側の請求内容を文章化したうえで、内容証明郵便で介護施設側に送付し、示談交渉を開始しましょう。

内容証明郵便とは通常の郵便とは異なり、いつどのような文章の内容を送ったのかが郵便局により証明してもらえます。
そのため、請求内容について後に揉めることを防ぐことが可能です。

また、介護施設との示談交渉では実際に話し合うことが大切ですが、話し合った内容は必ず、確認の為に書面に残しておくことをおすすめします。介護施設側からの提案等は書面でも受けるようにし、介護施設との話し合いで決まったことがあれば、その都度、確認書などに残すようにしましょう。

示談交渉で解決出来なければ訴訟提起する

介護施設との示談交渉において、介護施設側の責任の有無、損害金額等に折り合いがつかない場合は、裁判所を通じた手続きを考えなければなりません。

訴訟提起をする場合は、どこの裁判所に訴訟を提起するのか検討をしなければならず(管轄の問題)、原則としては被告である介護施設の住所地を管轄する裁判所になります。

利用者のご家族が遠方に居住しており、利用者もご家族のご自宅付近で治療をしているということもあるでしょう。
その場合、弁護士に依頼するにあたって出張費用などが気になるかもしれませんが、現在ではWeb会議や電話会議を利用して裁判を行うことが多く、裁判の都度、出張費用が必ず発生する訳ではありません。

介護訴訟における裁判の流れ|和解で終了する可能性は?

次に裁判の流れについて解説します。裁判をする際には、弁護士に依頼をすることも多いかもしれません。

しかし、弁護士に任せきりにするのではなく、ご自身でもしっかりと裁判の流れを理解することがよい結果につながります。

主張の整理

訴訟提起後、まず原告と被告間の主張を整理するところから始まります。裁判では、弁論主義という大原則があり、裁判所は当事者間で主張立証した事実や証拠のみから判断することになります。

裁判所は職権で調査したりすることはせず、当事者が主張する内容をはじめて聞いて判決を出すことを意味しています。そのため原告と被告との主張の整理を十分にする必要があるのです。

当事者間で意見が相違している争点部分について、互いの主張や根拠となる証拠を提示し、裁判所がどの部分について判断したうえで結論を示す必要があるのかを明らかにします。

複雑な事件ほど、この主張整理は時間がかかり、長ければ数年かかることもあります。

利用者側が行うべき主張内容である、介護施設側の法的責任や請求できる損害賠償の具体的な内容については『介護事故による介護施設や職員の法的責任』の記事をご覧ください。

尋問手続き

主張整理がある程度終了した段階で、当事者本人および証人の尋問手続きを行うことになります。

介護事故の場合は、介護施設職員、医師、介護施設代表者などが尋問の対象者となるでしょう。
また、目撃者などがいる場合は、その目撃者も証人としてお話を聞いた方がいいかもしれません。怪我と損害の因果関係が争いになっている場合は、有利な医学的根拠を話してくれる専門家も対象となります。

このように、尋問手続きを終えて、最終準備書面を提出した後、判決が下されることになります。

和解手続きで終わることもある

裁判では、いかなるタイミングでも和解をすることができます。裁判を最後まですると数年かかることも多くあります。前述したとおり、特に重大な介護事故の場合、主張の整理だけで相当な期間がかかりますので、早期解決という点からはむずかしいといえるでしょう。

和解手続きですと、タイミングによっては早期に終了をすることが出来る点にメリットがあります。和解に応じた方がよいかは、証拠が十分であるのか、裁判所の心証がどのようになっているのかなどを弁護士と相談をしながら決めることになるでしょう。

介護事故の訴訟事例

介護事故が起こったとき、まずは介護施設側との話し合い(示談交渉)で解決を目指すことが多いです。しかし、双方の主張が折り合わず話し合いでは解決できない場合、裁判に発展していくことになります。

ここからは介護事故の裁判事例をいくつか紹介していきます。なお、同様の怪我や事故形態であっても同じような結果が得られるとは限りません。あくまで裁判事例として参考程度にとどめてください。

事例(1)施設内での転倒による死亡事故

介護老人保健施設において、利用者の方が3度にわたって施設内で転倒、頭がい骨骨折による両側前頭葉脳挫傷の末に亡くなられました。ご遺族は注意義務違反などを主張して、介護老人保健施設に対する損害賠償請求を起こしたのです。

ご遺族は施設利用者の転倒リスクに合わせた対応が取られなかったこと、離床センサーの導入、福祉用具による歩行補助や車いす使用の検討、頭部保護用の保護防止着用などが必要であったと主張しました。

裁判所は、1回目の転倒事故について介護施設側に落ち度があるとは言えないと判断しました。しかし、2回目および3回目の転倒事故については、施設側の注意義務違反と傷害の因果関係を認めたのです。死亡慰謝料として2,300万円、逸失利益として138万7,810円、葬儀費用117万6,111円などの損害賠償を認めました。(京都地方裁判所 平成28年(ワ)第3590号 損害賠償請求事件 令和元年5月31日)

事例(2)ベッドから車椅子への移乗中に転落して死亡した事故

特別養護老人ホームに入居していた高齢者は、介護用リフトによってベッドから車椅子へと移乗中に転落して、外傷性くも膜下出血などにより死亡してしまいました。

裁判所は、被害者の身体が持ち上がりループが張られた時点で、再度ループの状態が正常であるかなどの確認しなかったことに注意義務違反を認めたのです。一方で、ご遺族が主張した「速やかに病院に搬送すべき注意義務に違反した」という主張については、認められないとしました。

裁判所は死亡慰謝料として1,200万円、遺族らに固有の慰謝料として100万円ずつ、葬儀費用として90万8,498円をはじめとする損害賠償を認めました。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第19413号 損害賠償請求事件 平成28年12月19日)

事例(3)食事が喉に詰まって窒息し寝たきりになった事故

老人ホームに入居していた高齢者が、白玉団子をのどに詰まらせて窒息状態となり、低酸素脳症を発症後に遷延性意識障害となって植物状態になってしまいました。

ご遺族は事故当時に咀嚼および嚥下能力が低下している高齢者が、粘着性・弾力性のある団子を口にすることで窒息するということを予見できたとし、団子の提供を中止するまたは嚥下の状況を注意深く確認すべきだったとして損害賠償請求を起こしました。

裁判所は施設側に過失があったものと判断して、損害賠償請求の一部を認めました。(高松高等裁判所 平成30年(ネ)第109号、平成30年(ネ)第163号 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 平成30年9月13日)

事例(4)訪問介護サービス中に玄関から転倒して骨折した事故

人工透析が必要であった被害者は、自宅から病院に通院する必要があったため、在宅介護サービスなどを提供する事業者と訪問介護契約を締結して介護サービスを受けていました。

事故当日、病院に向かうために介護士は自宅玄関の上がりかまちのうえに立っている被害者に靴を履かせた後、立たせたままの状態で待つよう指示し、その場を離れた隙に被害者は転倒して玄関土間に転落してしまったのです。被害者は、左大腿骨頸部内側骨折の傷害を負ってしまいました。

裁判所は、上がりかまちに立っている被害者から目を離す際には、被害者をいったん座らせたり、被害者の家族に介助をお願いしたりするなど、被害者の転倒を防ぐ義務を負っていたと判断しています。そのため、被害者を立たせたまま目を離し、転倒防止の措置を講じなかったことに安全配慮義務違反を認めたのです。

裁判所は、入通院慰謝料328万円、後遺障害慰謝料1180万円などの損害賠償を認めました。もっとも、近親者固有の慰謝料については否定されています。(東京地方裁判所 平成24年(ワ)第14177号 損害賠償請求事件 平成25年10月25日)

介護施設を相手取った訴訟を検討するなら弁護士に依頼しよう

裁判を検討するなら弁護士は欠かせない

裁判を行う場合には、裁判手続きを適切に行わなければ、希望する判決を得られないでしょう。

そのため、専門家である弁護士への依頼は欠かせません。
弁護士に依頼を行い、裁判手続きを代わりに行ってもらいましょう。

もっとも、利用者の家族でなければ利用者の元々の状態などわからないこともあり、弁護士にすべてを委ねておけば大丈夫というのではなく、弁護士と一緒に戦うという気持ちが大切です。
証拠の収集や主張内容の確認については、弁護士との間でしっかりと連絡を取り、協力することが欠かせません。

弁護士に依頼を行うのであれば、まずは弁護士に相談を行い、依頼により生じる費用の確認や、裁判手続きを任せてよいかについての判断を行いましょう。

アトム法律事務所の無料相談窓口

介護事故でご家族を亡くされた、重い後遺障害が残ってしまったという場合は、アトム法律事務所の無料相談をご利用ください。相談費用の負担を気にせず、依頼の必要性について確認を行うことが可能です。

訴訟だけでなく、示談交渉などによって解決に導ける可能性があるかなどについて弁護士からアドバイスがもらえるでしょう。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了