介護事故裁判の争点は?訴訟準備から裁判進行の流れ!裁判事例も解説 | アトム法律事務所弁護士法人

介護事故裁判の争点は?訴訟準備から裁判進行の流れ!裁判事例も解説

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介護事故で裁判

介護事故のなかには、介護施設への責任追及をすべき事故があります。責任問題は話し合いではなかなか解決できず、裁判にまで発展することもあるのです。

本記事では介護事故に関して介護施設の責任、訴訟提起の方法、裁判の流れについて解説を行います。

介護事故をめぐる裁判から判例についても紹介していますので、最後までご覧ください。

介護訴訟前は施設の責任を検討|ただちに訴訟提起にはならない

介護事故が起こった後も、ただちに介護施設を相手取った訴訟を起こせるわけではありません。

介護施設は債務不履行責任または不法行為が認められるとき、介護事故に関する損害賠償責任を負う可能性があります。

いいかえれば、訴訟を起こすときは介護施設側の責任を検討して、損害賠償請求の見通しを立てることが必須です。

介護事故はただちに訴訟を起こすことは難しい

介護事故が発生した場合、すぐに訴訟を起こすことは、様々な理由から難しいとされています。

訴訟を起こす前に検討・対応すべきこと

証拠集めの困難さ介護施設側に証拠資料があるのでその入手に時間がかかる
専門性医学知識や介護関連の知識が必要となり、証拠の検討も難しいケースが多い
負担精神的負担だけでなく経済的な負担も大きくなりやすい
話し合いの可能性まず介護施設側から状況の説明を受けて話し合うことが一般的

介護事故で訴訟を起こすまでには書類の収集や今後の見通しを立てるなど、検討・対応すべきことが多数あります。

よって介護事故でただちに訴訟を起こすことは難しいのです。

訴訟前に介護施設が負う可能性のある法的責任

介護施設は民事上の損害賠償義務・刑事上の刑罰・行政上の認定取消処分などの事故について3つの責任を負う可能性があります。

3つの責任のうち利用者や遺族が訴えることができるのは民事責任の部分です。刑事責任や行政責任は、別の機関が主体となって訴訟の原告(訴える側)となります。

刑事責任・行政責任・民事責任の主体

責任の種類責任追及の主体
刑事責任警察・検察や裁判所
行政責任
民事責任利用者本人や遺族

介護事故の民事責任

民事責任は基本的には金銭の支払い(損害賠償責任)のことで、介護施設利用者が被った損害や慰謝料を請求することになります。

もっともすべての介護事故において損害賠償請求が認められるわけではありません。特に問題となるのが、介護利用者と介護施設間の契約により生じる安全配慮義務に反していたかという点です。

安全配慮義務とは?

介護施設や介護職員が、利用者へ安全にサービスを提供し、危害が加わらないように最大限の注意を払う義務のこと

介護施設側は、介護に関する知識やノウハウを生かし、施設設備や人員配置など、利用者を危険にさらすことのないような体制づくりが求められるのです。

たとえば、利用者が転倒して骨折した場合には、その転倒することを予見できたのか、その事故を回避することは出来たのかという観点から、安全配慮義務違反を検討することになります。

刑事責任や行政責任の可能性

また、職員に過失や故意があった場合は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)や傷害罪(刑法204条)等の刑事上の責任に問われることがあるでしょう。

加えて、介護施設は介護事故があった場合、行政に対して「事故報告書」を提出することになります。

その報告を受けた都道府県は、介護施設に対して行政指導を行うことになり、最も重い処分の場合は指定居宅サービス事業者の指定取り消しや業務停止が課される恐れがあるのです。

介護事故の発生から訴訟提起までの流れ

介護施設の介護事故により重大な損害が生じてしまった場合、どのようにして訴訟提起をするのでしょうか。訴訟提起までの流れについて解説します。

証拠の取得と保全

介護事故の発生後、介護施設は利用者や利用者家族(キーパーソン等)に対して、どのようにして介護事故が生じてしまったのかを説明する義務があります。

しかし、介護施設からの説明は、正確な情報かどうかが不明である点に加え、立場上、不利な事実をどこまで詳細に話しているのかという疑念も残るでしょう。

そのため、裁判を見据えて客観的な証拠の取得が必要不可欠です。代表的な証拠としては、介護記録や診療録、事故報告書、介護保険認定調査票、防犯カメラ映像などがあげられます

これらの証拠は、利用者等が請求をすれば開示をしてもらえるのが原則です。しかし、悪質な施設では改ざんや紛失の恐れもあり、証拠保全という裁判上の手続きが必要な場合もあるといえます。

証拠保全を行う場合は、速やかに適切な手続きを行うことが要求されるので、専門家である弁護士に依頼すべきでしょう。

内容証明郵便の送達と介護施設との示談交渉

基本的には、介護事故が起きてすぐに訴訟提起を行うのではなく、まずは示談交渉を行い、話し合いでの解決を目指します。

利用者側の請求内容を文章化したうえで、内容証明郵便で介護施設側に送付し、示談交渉を開始しましょう。

内容証明郵便とは通常の郵便とは異なり、いつどのような文章の内容を送ったのかが郵便局により証明してもらえます。そのため、請求内容について後に揉めることを防ぐことが可能です。

また、介護施設との示談交渉では実際に話し合うことが大切ですが、話し合った内容は必ず、確認の為に書面に残しておくことをおすすめします。

介護施設側からの提案等は書面でも受けるようにして、介護施設との話し合いで決まったことがあれば、その都度、確認書などに残すようにしましょう。

示談交渉のくわしい流れや弁護士の役割については、関連記事でくわしく解説しています。示談交渉による解決を検討している方は関連記事をあわせてお読みください。

示談交渉で解決出来なければ訴訟提起する

介護施設との示談交渉において、介護施設側の責任の有無、損害金額等に折り合いがつかない場合は、裁判所を通じた手続きを考えることになります。

訴訟提起をする場合は、原則としては被告である介護施設の住所地を管轄する裁判所になります。

利用者のご家族が遠方に居住しており、利用者もご家族のご自宅付近で治療をしているということもあるでしょう。

現在ではWeb会議や電話会議を利用して裁判を行うことが多く、裁判の都度、出張費用が必ず発生するとは限りません。

弁護士に依頼するにあたって出張費用を含めた弁護士費用の見通しを聞いておくと安心です。

介護訴訟における裁判の流れ|和解で終了する可能性は?

介護訴訟は次のように、主張の整理、尋問手続き、判決あるいは和解手続きの流れで進行します。

介護訴訟の流れ

  • 主張の整理
  • 尋問手続き
  • 判決あるいは和解手続き

介護事故の訴訟の流れについて、「判決」と「和解」の違いも踏まえてみていきましょう。

主張の整理

訴訟提起後、まず原告と被告間の主張を整理するところから始まります。裁判では、弁論主義という大原則があり、裁判所は当事者間で主張立証した事実や証拠のみから判断することになります。

裁判所は職権で調査することはせず、当事者が主張する内容をはじめて聞いて判決を出すことを意味しています。そのため原告と被告との主張の整理を十分にする必要があるのです。

当事者間で意見が相違している争点部分について、互いの主張や根拠となる証拠を提示し、裁判所がどの部分について判断したうえで結論を示す必要があるのかを明らかにします。

複雑な事件ほど、この主張整理は時間がかかり、長ければ数年かかることもあります。

利用者側が行うべき主張内容である、介護施設側の法的責任や請求できる損害賠償の具体的な内容については『介護事故による介護施設や職員の法的責任』の記事をご覧ください。

尋問手続き

主張整理がある程度終了した段階で、当事者本人および証人の尋問手続きを行うことになります。

介護事故の場合は、介護施設職員、医師、介護施設代表者などが尋問の対象者となるでしょう。また、目撃者などがいる場合は、その目撃者からも話を聞いておくことをおすすめします。

さらには怪我と損害の因果関係が争いになっている場合は、有利な医学的根拠を話してくれる専門家も対象となります。

このように、尋問手続きを終えて、最終準備書面を提出した後、判決が下されることになります。

判決あるいは和解手続き

介護施設側と主張の食い違う部分が多いと、主張の整理だけで相当な期間がかかりますので、早期解決は難しいといえるでしょう。

また、判決を受けてもその判決が直ちに確定するわけではありません。双方が控訴する権利を持っているため、判決に不服がある場合は再度裁判が開かれる可能性があります。

こうして最終的な結論が出るまで数年かかることもあるのです。

和解という選択肢

裁判では、いかなるタイミングでも和解ができます。裁判官から促されることもあれば、当事者同士で和解を申し出ることも可能です(民事訴訟法第265条)。

裁判における和解とは、当事者同士が互いに譲歩し、話し合いによって紛争を解決することを指します。裁判官が判決を言い渡す前に当事者間で合意に至り、訴訟手続きを打ち切ることです。

和解の流れ

  • 和解の提案:一方の当事者または裁判所が、和解の提案を行う
  • 和解交渉:当事者間で、和解の条件について交渉
  • 和解調書の作成:合意内容をまとめた和解調書を作成
  • 裁判所の認可:裁判所が和解調書を認可し、和解が成立

裁判上の和解は確定判決と同じ意味を持つので、早期に裁判手続きを終わらせることが可能です。

また裁判官から言い渡される判決とは違い、和解は、当事者同士の合意の下で成立します。よって、双方に一定の納得感を持った解決となるのです。

和解に応じた方がよいかは、証拠が十分であるのか、裁判所の心証がどのようになっているのかなどを弁護士と相談をしながら決めることになるでしょう。

裁判所の心証とは?

裁判で提示された証拠や当事者の主張などを総合的に判断し、事件の事実関係や法律問題について、どのような結論に至る可能性が高いと考えているかという内部的な判断のこと

介護事故の訴訟事例

介護事故が起こったとき、まずは介護施設側との話し合い(示談交渉)で解決を目指すことが多いです。しかし、双方の主張が折り合わず話し合いでは解決できない場合、裁判に発展していくことになります。

ここからは介護事故の裁判事例をいくつか紹介していきます。なお、同様の怪我や事故形態であっても同じような結果が得られるとは限りません。あくまで裁判事例として参考程度にとどめてください。

事例(1)施設内での転倒による死亡事故

介護老人保健施設において、利用者の方が3度にわたって施設内で転倒、頭がい骨骨折による両側前頭葉脳挫傷の末に亡くなられました。

ご遺族は注意義務違反などを主張して、介護老人保健施設に対する損害賠償請求を起こしたのです。

ご遺族の主張

  • 利用者の転倒リスクに合わせた対応が取られなかったこと
    以下の事項が必要であった。
  • 離床センサーの導入
  • 福祉用具による歩行補助や車いす使用の検討
  • 頭部保護用の保護防止着用など

裁判所は、1回目の転倒事故について介護施設側に落ち度があるとは言えないと判断しました。

しかし、2回目および3回目の転倒事故については、施設側の注意義務違反と傷害の因果関係を認めたのです。

死亡慰謝料として2,300万円、逸失利益として138万7,810円、葬儀費用117万6,111円などの損害賠償を認めました。(京都地方裁判所 平成28年(ワ)第3590号 損害賠償請求事件 令和元年5月31日)

転倒事故は介護施設の中でも非常に多い

介護事故の中でも多い事故形態の一つが転倒です。

介護サービスを受けている方は、とっさに受け身が取れなかったり、加齢によってもろくなった骨が折れやすかったりして大ケガにつながる可能性が高くなっています。

また、打ちどころによっては重大な結果になってしまうことのほか、転倒直後に気づかれず、あとから急変して対応が遅れたりすることも起こり得ます。

利用者が転倒事故にあったときにどのように対応すればよいのか、関連記事の解説を参考にしてみてください。

事例(2)ベッドから車椅子への移乗中に転落して死亡した事故

特別養護老人ホームに入居していた高齢者は、介護用リフトによってベッドから車椅子へと移乗中に転落して、外傷性くも膜下出血などにより死亡してしまいました。

裁判所は、被害者の身体が持ち上がりループが張られた時点で、再度ループの状態が正常であるかなどの確認しなかったことに注意義務違反を認めたのです。一方で、ご遺族が主張した「速やかに病院に搬送すべき注意義務に違反した」という主張については、認められないとしました。

裁判所は死亡慰謝料として1,200万円、遺族らに固有の慰謝料として100万円ずつ、葬儀費用として90万8,498円をはじめとする損害賠償を認めました。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第19413号 損害賠償請求事件 平成28年12月19日)

移乗介助はあらゆる場面で起こる

介護サービスを受ける人の状態次第ですが、移乗介助は介護サービスのなかでも頻繁に行われるものです。

移乗介助の例

  • ベッドと車椅子間の移動
  • 車椅子とトイレ間の移動
  • ベッドと浴室間の移動
  • 浴室内で浴槽への移動

移乗介助中の事故が起こった原因が設備にあるのか、介護スタッフの不注意によるのかなど原因を解明することで、介護施設側に損害賠償請求できる場合があります。

移乗介助の事故事例や責任問題については、よりくわしく関連記事で解説しているので参考にしてください。

事例(3)食事が喉に詰まって窒息し寝たきりになった事故

老人ホームに入居していた高齢者が、白玉団子をのどに詰まらせて窒息状態となり、低酸素脳症を発症後に遷延性意識障害となって植物状態になってしまいました。

ご遺族は事故当時に咀嚼および嚥下能力が低下している高齢者が、粘着性・弾力性のある団子を口にすることで窒息するということを予見できたとし、団子の提供を中止するまたは嚥下の状況を注意深く確認すべきだったとして損害賠償請求を起こしました。

裁判所は施設側に過失があったものと判断して、損害賠償請求の一部を認めました。(高松高等裁判所 平成30年(ネ)第109号、平成30年(ネ)第163号 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 平成30年9月13日)

事例(4)訪問介護サービス中に玄関から転倒して骨折した事故

人工透析が必要であった被害者は、自宅から病院に通院する必要があったため、在宅介護サービスなどを提供する事業者と訪問介護契約を締結して介護サービスを受けていました。

事故当日、病院に向かうために介護士は自宅玄関の上がりかまちのうえに立っている被害者に靴を履かせた後、立たせたままの状態で待つよう指示し、その場を離れた隙に被害者は転倒して玄関土間に転落してしまったのです。被害者は、左大腿骨頸部内側骨折の傷害を負ってしまいました。

裁判所は、上がりかまちに立っている被害者から目を離す際には、被害者をいったん座らせたり、被害者の家族に介助をお願いしたりするなど、被害者の転倒を防ぐ義務を負っていたと判断しています。そのため、被害者を立たせたまま目を離し、転倒防止の措置を講じなかったことに安全配慮義務違反を認めたのです。

裁判所は、入通院慰謝料328万円、後遺障害慰謝料1180万円などの損害賠償を認めました。もっとも、近親者固有の慰謝料については否定されています。(東京地方裁判所 平成24年(ワ)第14177号 損害賠償請求事件 平成25年10月25日)

介護施設を相手取った訴訟を検討するなら弁護士に依頼しよう

裁判を検討するなら弁護士は欠かせない

裁判を行う場合には、裁判手続きを適切に行わなければ、希望する判決を得られないでしょう。

そのため、専門家である弁護士への依頼は欠かせません。
弁護士に依頼を行い、裁判手続きを代わりに行ってもらいましょう。

もっとも、利用者の家族でなければ利用者の元々の状態などわからないこともあり、弁護士にすべてを委ねておけば大丈夫というのではなく、弁護士と一緒に戦うという気持ちが大切です。
証拠の収集や主張内容の確認については、弁護士との間でしっかりと連絡を取り、協力することが欠かせません。

弁護士に依頼を行うのであれば、まずは弁護士に相談を行い、依頼により生じる費用の確認や、裁判手続きを任せてよいかについての判断を行いましょう。

アトム法律事務所の無料相談窓口

介護事故でご家族を亡くされた、重い後遺障害が残ってしまったという場合は、アトム法律事務所の無料相談をご利用ください。相談費用の負担を気にせず、依頼の必要性について確認を行うことが可能です。

訴訟だけでなく、示談交渉などによって解決に導ける可能性があるかなどについて弁護士からアドバイスがもらえるでしょう。

法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、一度気軽にご連絡ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了