介護中に転倒事故に遭った場合の対応方法と責任の所在を解説
介護中に転倒事故に遭い怪我を負った場合、事業者や職員に対するその後の対応をどのようにすれば良いかわからないという人は多いと思います。
介護を受けている人にとって、転倒事故は命取りにもなりうる重大な事故です。
だからこそ転倒事故に遭った場合は冷静になって適切に対応することが重要になってきます。
今回の記事では、介護中に転倒事故に遭った場合の対応方法について解説します。
目次
介護中に起きた転倒事故の責任の所在は?
高齢者が自宅で転倒して骨折してしまったというニュースを見たことはありませんか。若者でも転倒することはありますが、転倒が原因で骨折をしてしまうということはさほど多くはないでしょう。
ですが、高齢者になると転倒が原因で骨折をしたり、さらに寝たきりになることも少なくないのです。
このように、ただごとではない事態に発展するおそれのある転倒事故ですが、介護サービスの施設内や職員が訪問した利用者の自宅などで、利用者が転倒事故を起こした場合、その責任は誰にあるのでしょうか。
転倒事故につき必ずしも事業者が責任を負うとは限らない
介護サービスを利用する高齢者は、身体的に不自由であったり認知機能が低下したりしていることから、思うように自らをコントロールすることが困難な状態にあることが多いです。
一方で、介護サービスが目的としていることの一つに「心身の機能の維持」があります。
そのため、介護サービスにおいては、職員がすべてのことを介助することはせずに、利用者は自分でできることは自分で対応することになります。
このように、介護サービスは、常に職員が近くで介助するというわけではないため、避けられない事故が発生することは大いにありえるのです。
以上から、利用者が職員による介助が不要な行為を行っている最中であったり、利用者が通常では予想できない行動を行ったために転倒事故が発生した場合は、事業者に責任が生じないことがあります。
一定の場合には事業者とその職員が責任を負う
一般的に、介護サービスを利用する場合、事業者と利用者との間で介護サービスの提供を内容とする契約を交わします。
また、介護保険を利用した介護サービスを提供するためには、都道府県や市町村から「指定」を受けることが必要です(介護保険法70条1項)。
そのため、事業者が利用者との契約に違反した結果、利用者が転倒事故により怪我を負った場合、事業者は民事上の責任に加え行政上の責任を負う可能性があります。
また、職員の過失により利用者が怪我を負った場合、職員は刑事上の責任を負う可能性があるのです。
転倒事故に遭った場合の対応
介護サービスを受けている最中に転倒事故に遭い大怪我を負ってしまうと、多くの場合本人はパニック状態になります。
ですが、このような場合、冷静に対応することが大切です。
転倒事故が発生した原因の聴き取り
転倒事故の原因はさまざまです。身体の不自由が転倒事故を招くこともある一方で、施設設備の欠陥や職員の不注意が転倒事故を招くこともあります。
まず、本人に求められることは、転倒事故がどのようにして発生したのか、事業者と話をすることです。この際、できれば家族にも同席してもらったうえで、事業者による説明を録音しておくことをおすすめします。
中には、責任を逃れるために虚偽の説明をしたり、事実を隠ぺいしたりする事業者もいるため、証拠を残しておくことは極めて重要です。
転倒事故が起きるまでの流れや、事故が起きた原因の調査の結果などについて、書面で報告してもらいましょう。
聴き取るべき内容とは
介護施設の職員や事業者に対する責任の追及が必要となってくる可能性から、以下のような情報を聴き取るべきです。
- 転倒事故が起きた場所は、転倒事故が起きやすい場所であったのかどうか
- 転倒事故が起きやすい場所なら、事故防止の対策が適切であったのか
- 事故当時における職員の介助方法は適切なものであったのか
- 事故の原因が、利用者による予想外の行動であったのかどうか
- 利用者の行動に対して、職員が事故を起こさないように対処できなかったのか
以上のような情報に関して、なるべく正確に聴き取りを行いましょう。
治療費等の支払いについて事業者と協議する
介護サービスを提供する事業者は、転倒事故を含む介護事故に備えて任意保険に加入していることが一般的です。
すべての転倒事故について、任意保険が適用されるわけではありませんが、職員の過失によって転倒事故が起きたような場合は、任意保険を通じて治療費等の賠償金が支払われることになります。
転倒事故が発生した場合、事業者から治療費等の支払いについて説明があることが通常ですが、万一説明がなかった場合には、事業者に説明を求めるようにしましょう。
過大な要求をしない
特に、職員の不注意が原因となって転倒事故が起きた場合、その職員や事業者に怒りを覚えることもあると思います。
感情的になって、法的に義務のないことを事業者に要求したり、大声で職員を罵倒するようなことは控えるようにしましょう。
あまりに過大な要求をしてしまうと、話がこじれてしまうというリスクがあります。
また、場合によっては、恐喝や脅迫といった犯罪が成立する可能性もあるのです。
転倒事故で法的責任を追及する場合の対応
事業者や職員の不注意などが原因となって、転倒事故が起きて怪我をした場合、事業者や職員を相手に法的責任を追及することが可能です。
ここでいう法的責任は、大別して、「民事上の責任」と「行政上の責任」、そして、「刑事上の責任」の3つに分かれます。
このなかでも特に問題となるのが「民事上の責任」です。
民事責任の追及|損害賠償請求
事業者は、施設内や外出時に利用者が転倒しないように注意を払う義務を負っています。
事業者が負うこのような義務を「安全配慮義務」といい、安全配慮義務の違反が原因となって利用者が転倒して怪我をした場合、事業者は利用者に対して損害賠償責任を負うことになるのです(民法415条1項)。
また、職員の不注意が原因となって、利用者が転倒して怪我をした場合、事業者は使用者責任(民法715条)、職員は不法行為責任(民法709条)を負うことになり、利用者に対して損害を賠償しなければなりません。
事業者や職員に不注意があったことを認める趣旨の説明があった場合には、民事責任の追及を検討する必要があるでしょう。
転倒事故に関する実際の裁判例
最後に、転倒事故に関する実際の裁判例をご紹介します。
介護施設に入所していたAさんは、職員が付き添った状態で、歩行補助者を押してトイレに向かう途中、突然に後方に仰向けの状態で転倒し、頭部に傷害を負いました。Aさんは、それまでにも尻もちをついたり、つまずいて膝をつくようなことはあったものの、急に後方に転倒するようなことはありませんでした。
この事例において、裁判所は、事業者がAさんに対して安全配慮義務を負っていることを述べたうえで、本件転倒事故当時のAさんの歩行能力やそれまでにも後方に仰向けの状態で転倒することがなかったことなどを理由に、事業者に安全配慮義務違反はなかったと判示しました。
同判決で特に注目すべき点は、事業者が安全配慮義務を負うのは、「転倒の危険を具体的に予見することが可能な範囲」に限られると判断した点にあります。
このように、事例によっては事業者に安全配慮義務違反がなかったと判断されることもあるのです。
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責任を追及するなら弁護士に相談しよう
事業者や職員に対し、民事責任を追及しようとする場合には、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
特に、事業者に安全配慮義務違反があったかどうかについては法律上の明確な判断基準がありません。
そのため、転倒事故当時の状況や事故以前の状況など、さまざまな要素を考慮しなければならず、一個人で対応することは極めて難しいといっていいでしょう。
弁護士に相談し、適切な対応方法を確認するべきといえます。
また、弁護士に依頼すれば、証拠の収集や介護施設との交渉などを代わりに行ってくれるため、自身の負担が軽くなります。
介護事故に関して弁護士に相談や依頼を行うメリットについては『介護事故の相談先は?窓口一覧と弁護士の法律相談がおすすめな理由』の記事で詳しく知ることが可能です。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了