介護事故で骨折した責任を施設側に問える?慰謝料相場と対応方法を解説
介護施設側の不注意によって利用者が骨折したと認められれば、利用者は介護施設に骨折の責任を問うことができます。責任追及には介護施設に過失があることと過失と骨折の因果関係が必要だからです。
責任追及ができるとは、具体的には慰謝料をはじめとする損害賠償請求が可能ということです。
今回の記事では、介護事故で骨折した場合、責任を施設側に問うために必要なことや慰謝料相場、適切な対応方法などについて解説します。
目次
介護事故で骨折が生じる原因とは
公益財団法人介護労働安定センターによる調査においては、介護事故における30日以上の入院が必要となる重大事故の内、約70%が骨折となっています。
そのため、介護事故で骨折をしてしまう(以下「介護骨折」といいます)リスクは非常に高く、介護施設側は常に頭に入れておかなければなりません。
まずは、介護骨折の原因について十分に理解をしておきましょう。
高齢者が骨折をしやすい理由
介護骨折にかかわらず、高齢者の方は、若年成人の方と比較して骨折をしやすい傾向にあります。
これは、骨粗しょう症などにより骨密度が低下している事に加えて、筋力やバランス感覚が低下していることから転倒などをしやすくなっていることに原因があると考えられております。
そのため、介護骨折を若年成人の骨折と同じように考えることには注意が必要となるでしょう。
介護事故による骨折はどういった場合におこるのか
介護骨折は、日常の介護をしているときの些細な行動により生じます。
歩行時や車椅子に乗せようとする際(移乗介助中)の転倒事故、転倒防止措置が不十分なことで生じたベッドからの転落事故による骨折などが典型的なケースです。
その他にも、ベッドから介護者の身体を動かす際に腕を力強く動かすことにより、伸張反射が発生し、結果として骨折をする可能性があります。
寝たきり患者の場合、寝返りを打ったり、介護者がおむつを変える際に利用者の足を持ったりするだけで大腿骨骨折をしてしまうこともあります。
介護事故による骨折の予防について
介護骨折を含む介護事故について予防をするためには、組織レベルでリスク管理や事故防止についての仕組みや改革が必要となるでしょう。仮に介護事故が生じた際、個々の介護職員の問題だけにしているのであれば、介護施設として十分な予防を取っていなかった可能性があります。
また、介護者は個人によって身体的な特徴や筋肉の減少具合が変わってきます。そのような個人の特徴を捉えようとせずに漫然と介護を行っているような場合は、介護事故について十分な予防とはいえないでしょう。
介護事故で骨折した責任を施設側に問うには?
介護施設側が問われ得る2つの法的責任
介護事故が発生した場合、施設側は以下の2つの法的責任(賠償責任)を問われる可能性があります。
- 不法行為責任
- 債務不履行責任
介護事故を発生させた介護職員個人が不法行為責任(民法709条)を負う場合、介護事業者(事業所)も使用者責任に基づく損害賠償責任(民法715条)を負うことになります。
また、介護施設はサービス利用者との介護契約上、介護サービス提供にあたり、利用者が介護施設内で安全に過ごすことができるよう適切な転倒防止措置を講じるなどの安全配慮義務を負っています。
そのため、介護事故発生の原因が施設側の安全配慮義務違反によるものといえる場合には、介護施設は債務不履行に基づく損害賠償責任を負う(民法415条)ことになります。
責任を施設側に問うために必要な「過失」
上記2つの法的責任いずれにおいても、施設側の責任の有無を判断するにあたっては、施設側に「過失」が認められるかどうかを検討する必要があります。
施設側に過失があったといえるのは、施設側に介護事故の予見可能性があり、事故の結果回避可能性があったにもかかわらず、その結果回避義務に違反したといえる場合です。
たとえば、利用者の筋力が低下していることや過去に転倒歴があることなどの情報を施設側が把握していたようなケースでは、施設側に介護事故発生の危険性について予見可能性があったと認められやすいでしょう。
そして、上記のような利用者を1人でトイレに行かせた際に転倒して骨折したようなケースでは、施設側に(結果回避可能性を前提とした)結果回避義務違反が認められやすいでしょう。
責任を施設側に問うために必要な「因果関係」
介護事故の責任を施設側に問うためには、施設側に過失が認められるだけでは足りず、その過失により事故が発生したといえる「因果関係」まで必要となります。
介護事故と骨折の因果関係が問題となりやすい
介護事故では骨折との間に因果関係があるかは特に問題になりやすいといえます。
介護事故においては介護者は高齢でしょうから、何らかの持病があることが多いでしょう。そのため、その持病が骨折との間にいかなる影響を与えたのかを考慮に入れなければなりません。
介護事故と骨折の因果関係が認められない場合は、介護施設側に責任追及をすることはできません。
また、因果関係が認められた場合でも、一部の範囲にとどまる可能性や介護者の持病などを考慮し損害額を減額させるという素因減額が行われる可能性があります。
ただ、素因減額については、判例の中でも争いのあるところです。介護者側としては、介護施設を利用している以上、介護者に持病はあることは元々考慮されているはずと主張して素因減額を否定して請求を行いましょう。
介護事故における裁判でどのような主張を行うべきかについては『介護事故裁判の争点は?訴訟準備から裁判進行の流れ!裁判事例も解説』の記事をご覧ください。
因果関係が問題になった裁判例
東京高裁平成28年3月23日の裁判例を紹介します。
介護老人保健施設に入所していたAが施設から帰宅しようして、夜に施錠されていない2階食堂の窓から身を乗り出したところ地面に落下し、骨盤骨折を原因とする出血性ショックにより死亡した事案です。本件事故では、因果関係が問題になりました。
Aには認知症があったのですが、裁判所は認知症患者の介護施設において、帰宅願望を有し徘徊する利用者の存在を前提とした安全対策が必要であると判示し、窓のストッパーによる解放制限措置が不適切であったとして、施設側の過失と因果関係を肯定しております。
また、この事案では、Aが要介護状態2であったことや84歳であったという事情を考慮しても、慰謝料を減額する必要は無いと判断されました。
介護事故で骨折した場合に請求できる慰謝料の種類・相場
介護事故で骨折した責任を施設側に問える場合、慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。
ここでは、請求できる慰謝料・損害賠償金の種類や慰謝料相場について解説をします。
請求できる慰謝料の種類
慰謝料とは、介護事故により生じた精神的苦痛に対する金銭的な賠償です。
慰謝料には3つの種類があり、具体的には以下のとおりです。
- 入通院慰謝料
介護者が骨折の治療を行うために入院や通院を行うことになったという精神的苦痛に対する慰謝料 - 後遺障害慰謝料
介護者が骨折により後遺障害を負った場合に生じる精神的苦痛に対する慰謝料 - 死亡慰謝料
介護者が骨折により死亡した場合に生じる精神的苦痛に対する慰謝料
具体的な慰謝料相場
介護事故で骨折した場合の慰謝料相場は、交通事故の相場額を参考にするのが一般的です。
各種類ごとの具体的な慰謝料相場は以下のとおりです。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料は、入通院の期間に応じた相場の金額が定められています。具体的な金額は下記のとおりです。
0月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
0月 | 0 | 53 | 101 | 145 |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 |
※表の横軸は入院月数・縦軸は通院月数
※慰謝料の単位は万円
たとえば、骨折で2ヶ月入院して、3ヶ月の通院治療を行った場合の入通院慰謝料相場は154万円です。
ただし、既往症の関係で入通院期間が長期化していると判断されたりすると、相場の金額よりも低額になる可能性は十分あるので注意が必要です。
後遺傷害慰謝料の相場
後遺傷害慰謝料は、症状の程度に応じて定められた後遺障害等級ごとに相場の金額があります。具体的な金額は以下のとおりです。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料の相場 |
---|---|
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,370万円 |
3級 | 1,990万円 |
4級 | 1,670万円 |
5級 | 1,400万円 |
6級 | 1,180万円 |
7級 | 1,000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
ただし、交通事故などと異なり、介護事故では後遺障害等級を認定する機関がありません。
そのため、被害者は介護事故によりどのような後遺障害が残っているのかを具体的に自ら立証する必要があります。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料は、介護者の家庭における立場により相場の金額が決まります。介護者の家族(遺族)も、個別に慰謝料を請求することが可能です。
具体的な死亡慰謝料の相場は1,000万円~2,000万円です。
また、遺族は固有の慰謝料として100万円程度の損害請求が認められる可能性があります。
介護事故における慰謝料相場をより詳しく知りたい方は『介護事故のケガや死亡の慰謝料相場は?損害賠償の内訳や判例も紹介』の記事をご覧ください。
介護事故で請求できる慰謝料以外の損害賠償金
介護事故で骨折した責任を施設側に問える場合、介護施設に対しては慰謝料以外にも以下のような損害について賠償請求することができます。
- 治療費
骨折の治療を行うために必要となった費用 - 通院交通費
骨折の治療を行うために通院することで生じた費用 - 入院雑費
入院中に必要となる日用雑貨や通信費などの雑費全般 - 付添看護費
入院や通院に付添が必要な場合に生じた付き添いに関する費用 - 休業損害
骨折の治療を行うために仕事ができなくなったことで生じる損害 - 後遺障害逸失利益
骨折により後遺障害が発生したことが原因で、将来得られたはずの収入が得られなくなったという損害 - 死亡逸失利益
骨折が原因で死亡したために、将来得られたはずの収入が得られなくなったという損害
まずは、これらの損害について漏れなく正確に計算をすることが大切なポイントです。計算の上、介護施設に請求を行いましょう。
過失相殺による減額に注意
損害賠償額を決める際に問題となりやすいのが、利用者側(原告)に何らかの過失があった場合です。
具体的には、介護が必要な状況であったにもかかわらず介護者が介護を拒否したために転倒して骨折したり、介護中に介護者が暴れるなど自発的な動作により骨折したりしたようなケースでは、事業者側(被告)は過失相殺による損害賠償金の減額を主張してくる可能性が高いです。
介護者にも過失が認められる場合には、介護者の過失の程度に応じて損害賠償額が減額となる過失相殺が行われるのです。
しかし、どの程度減額するのかについては明確な基準がないため、トラブルになりやすい点に注意してください。
過失相殺に関してもめる場合には、専門家である弁護士に相談しましょう。
過去の事例や判決内容をもとに適切な金額を計算してくれます。
介護事故の適切な対応①説明を求める
介護事故が発生した場合、介護施設から家族に連絡が入るのが一般的です。この時介護施設側から謝罪の場面があったとしても、あくまで道義的責任から誠意を見せるためである可能性も十分にあり、法的責任を問えるかは別問題であることに注意が必要です。
事故の詳しい状況についても説明されますが、現場にいなかった家族だけでなく、事故の当事者本人も事故原因を認識できていないことが通常のため、曖昧な点があったり説明に納得がいかない場合は以下の方法や調査を検討しましょう。
介護施設から書面での報告を求める
介護施設からの説明が曖昧であったり、納得がいかない場合は、事故の状況や原因について書面で報告を求めるのも1つの手段です。書面で報告してもらうことには、次のメリットがあります。
- 文章での提出を求めることで、いい加減な回答がしにくくなる
- 損害賠償を求める訴訟にまで発展したときに文章記録が証拠となる
口頭で納得いくまで説明してもらう方法もありますが、日頃からお世話になっている介護施設の人に対し、遠慮して聞きたいことが聞けないケースもあるでしょう。
市区町村等への報告書を確認する
次の介護事故が発生した場合、介護施設は事故状況などを市区町村に報告しなければなりません。
- 介護サービスの提供による利用者の怪我、または死亡事故の発生
- 食中毒、感染症、結核の発生
- 職員(従業者)の法令違反・不祥事等の発生
- 誤薬(与薬漏れ、落薬含む)
- 離設・行方不明
具体的な事故報告の方法や事故報告書の作成方法・書式などについては、市区町村ごとに「介護保険事業者における事故発生時の報告取扱要領」などを設けて詳細を定めています。報告期限は「事故発生後速やかに、遅くとも5日以内」が目安です。
(参考:横浜市「介護保険事業者からの事故報告について」)
事故報告書については、要介護者やその家族が介護施設に請求すれば入手することができます。市区町村に対する報告書なので、記載内容は信頼性の高い重要な資料となります。
利用者やその家族へ事故報告の内容を積極的に開示し、求めに応じて交付してください。 |
介護事故の適切な対応②示談交渉
介護施設からの説明や事前調査により、介護施設側に事故の責任が問えると判断できれば、介護施設側との話し合いで損害賠償請求をする流れになります。
この話し合いのことを示談交渉といいます。
介護施設は、介護事故に備えて任意保険に加入していることが一般的です。
すべての介護事故について任意保険が適用されるわけではありませんが、介護職員の過失によって骨折事故が起きたような場合は、任意保険会社を通じて治療費や慰謝料などの賠償金が支払われます。
示談交渉の流れをイメージしたい方は、介護事故における基本的な示談の流れを解説している関連記事をあわせてお読みください。
介護事故の適切な対応③調停・訴訟
示談交渉で合意に至らない場合には、調停を起こすという方法が考えられます。調停とは、裁判所内で調停委員という中立的な方を交えての話し合いのことです。調停委員の介入により、スムーズに話し合いが出来るケースもあるでしょう。
話し合いや調停でも解決できない場合は、訴訟を起こすことになります。
ただし、訴訟を提起してからも、判決ではなく和解により解決するケースも多いです。
なお、訴訟は話し合いを行う前であってもいきなり提起することも可能です。
話し合いの際に介護施設側が質問に答えてくれず、希望する情報を提供してくれないような場合には、訴訟対応に切り替えた方がよいこともあります。
また、証拠の保全が必要なケースや重大事故の場合も、即訴訟提起の方がよいことがあるでしょう。裁判を起こすまでの流れや訴訟事例については、関連記事『介護事故裁判の争点は?訴訟準備から裁判進行の流れ!裁判事例も解説』で詳しく解説しています。
どのような流れで損害賠償請求を行うのが望ましいかについては、専門家との話し合いによって決めるのが望ましいでしょう。
介護事故で骨折したら弁護士に相談しよう
介護事故では、因果関係や施設側の過失、請求額の計算などを一般人が判断するのは困難です。時間の経過に伴い、証拠も破棄される可能性があります。
そのため、介護事故が起きてからなるべく早い段階で専門家に相談して、客観的なアドバイスを受けることが大切になります。
弁護士に相談することで、請求できる内容と金額、請求のために必要な証拠の収集方法など詳しく知ることが可能です。
また、裁判を行う場合には、裁判手続きを弁護士に行ってもらうことができます。
介護事故において弁護士に相談や依頼を行うメリットをより詳しく知りたい方は『介護事故を弁護士に相談・依頼するメリット!介護トラブルに強い弁護士とは?』の記事をご覧ください。
初回無料相談を行っている法律事務所等などもありますので、相談や依頼によるメリットを受けるためにも、なるべく早期に弁護士へ相談すべきです。
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訴訟となると、時間や費用などの面が負担になることが予想されます。お困りのケースでは、示談交渉でまとまる可能性のある案件なのか弁護士に相談してみましょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了