介護事故の損害賠償とは?賠償項目や適正相場と請求に必要な手続き | アトム法律事務所弁護士法人

介護事故の損害賠償とは?賠償項目や適正相場と請求に必要な手続き

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介護事故の損害賠償はいくら?請求に必要な手続き

家族が介護事故の被害者になると、重い障害が残ってしまったり、最悪の場合は死亡してしまうケースも考えられます。遺族は悲しむ間もなく葬儀の手配や遺品の整理などに迫られ、精神的・肉体的に辛い状況に陥ります。

介護事故が生じた原因に施設側の過失があるなら、遺族は損害賠償を請求可能です。

今回は、損害賠償に関する基本的な情報を整理してから、介護事故における損害賠償額の相場や損害賠償請求に必要な手続きなどを見ていきましょう。

介護事故における損害賠償とは?

損害に対する補償

損害賠償とは「何らかの損害を受けた被害者に対して、その損害を与えた加害者が補償をおこなうこと」をいいます。

民法415条に損害賠償の権利が記されています。条文を確認しておきましょう。

(債務不履行による損害賠償)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

民法第四百十五条

損害を受けた被害者には損害賠償を請求する権利があり、損害を与えた加害者には損害賠償を負う義務があるのです。

介護事故で損害賠償請求できるケース

では、介護施設などで介護事故が起きた場合、どんなケースでも損害賠償請求ができるかといえば、そうではありません。
介護事故では、介護施設側に「安全配慮義務違反」が認められるようなケースで損害賠償請求が可能になるのです。

  • 転倒しやすい利用者であると把握していながら転倒防止の対策をとらず、転倒事故が起きた
  • 入浴を一人ですると溺れる可能性があったと把握していながら安全確認を怠り、入浴事故が起きた
  • 食べ物を飲み込みにくいと知っていたが、食べ物を適切なサイズにするなどの工夫を行わず、激しくむせたり、食事がのどに詰まる事故が起きた

以上のようなケースでは、安全配慮義務違反があったと認められて、介護施設に対して慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります。

安全配慮義務違反とは

まず、介護施設側は介護サービスを提供するうえで、利用者の安全を確保するよう努める安全配慮義務を負っています。利用者の安全を確保するために、介護施設側は最善の注意を払わねばなりませんが、この義務を怠った場合、安全配慮義務違反となるのです。

安全配慮義務違反であるかどうかは、介護事故の発生に「予見可能性」と「結果回避可能性」があったかどうかで判断されることになります。

もう少しわかりやすくいうと、介護施設側が事故の発生を予見でき、事故の発生という結果を回避するための措置を適切に行わなかった場合、安全配慮義務違反に該当することになるのです。

介護事故で損害賠償請求できる人

介護事故によって被害者が怪我を負ったり、障害が残ったり、死亡したりした場合に損害賠償を請求できる人は以下の通りです。

  • 被害者
    被害を受けた本人
  • 相続人(配偶者は常に相続人)
    被害者が死亡した場合に以下の順で権利を引き継ぐ
    • 子、孫などの直系卑属
    • 父母、祖父母などの直系尊属
    • 兄弟姉妹または兄弟姉妹の子
  • 配偶者・子・父母
    被害者が死亡した場合に権利を引き継ぐと同時に、自身に対する慰謝料の請求権を持つ

被害者が死亡した事故で複数の請求権者がいる場合は、代表者を一人決めて委任します。

介護事故の損害賠償項目と相場

介護事故で獲得できる損害賠償の項目や金額は、被害者の様態、損害の程度といった事情によって大きく変わってきます。

ここでは死亡事故と非死亡事故に分けて、それぞれの場合における損害賠償項目の内訳や金額の相場を紹介します。

死亡事故

介護施設では誤飲事故など、命を奪う事故が発生する危険もあります。

介護施設における死亡事故ではおおむね1,500万円以上の賠償金が支払われています。

交通事故による死亡のケースではさらに賠償金が高額になる傾向があり、2,000万円を超えるケースも珍しくありません。しかし、介護事故の場合、元々体調が悪化しており、かつ高齢であることも考慮され賠償金が減額される傾向にあります。

死亡事故で請求できる賠償項目としては以下のようなものが考えられます。

  • 本人に対する死亡慰謝料
    本人の家庭名における立場を基礎に金額が決まる。
  • 遺族に対する慰謝料
    法律上、配偶者、両親、子どもが本人とは個別に請求可能。
    ただし、家族関係によっては兄弟や孫なども請求できる可能性がある。
  • 年金の逸失利益
    死亡したことで、事故がなければ得られていたはずの年金による利益が得られなくなったという損害。
    年金の金額や死亡時点の年齢などから金額が決まる。
  • 葬儀費用
    葬儀代、四十九日といった法要代、墓石建立費用など。

おおよその相場としては、本人の慰謝料だけでも1,000万円を超える場合が多いです。本人の慰謝料といっても、当然のことながら判決時点で本人はこの世にはいないので遺族が受け取る形になります。

非死亡事故

非死亡事故の場合、治療費などさまざまな項目の賠償を受けられます。

非死亡事故で請求できる賠償項目としては以下のようなものが考えられます。

  • 治療費
    治療のために必要となった費用全般(投薬費、手術代、入院代等)。
  • 通院交通費
    通院を行うための交通費。基本的に公共交通機関の利用費用となる。
  • 入院雑費
    入院中の日用品や生活雑貨等の費用。
    入院日数に応じて金額が決められる。
  • 休業損害
    被害者が仕事をしていた場合に、治療のために仕事を休んだことで生じる給料を得らえないといった損害。
    事故前の収入や休業期間にもとづいて金額が決まる。
  • 後遺障害逸失利益
    被害者に生じた後遺障害により労働能力が低下したため、将来仕事によって得られたはずの利益が得られなくなったという損害。
    事故前の収入、事故当時の年齢、後遺障害の程度により金額が決まる。
  • 入通院慰謝料
    治療のために入院や通院を行わなうことになったという精神的苦痛に対する慰謝料。
    入通院の期間に応じて金額が異なる。
  • 後遺障害慰謝料
    後遺障害が生じたことで生じる精神的苦痛に対する慰謝料。
    後遺障害の程度に応じて金額が異なる。
  • 将来の介護費用
    など

この中でも特徴的な項目が将来の介護費用です。介護事故の場合では元々、介護費用がかかっていたことになるので、事故前の容態・介護費用と事故後の容態・介護費用を比較し、その差額分が賠償対象となります。

ただし、当該事故が無かったとしても、介護費用の増額が見込まれるケースではすべての賠償金を得られないケースもあるので注意してください。

また、後遺障害が残った場合、損害賠償の金額を大きく左右する要因となります。後遺障害とは治療が完了したにもかかわらず、身体に残ってしまった障害のことです。

後遺障害の程度によって後遺障害等級の認定を受けますが、障害の程度が重い程、多額の賠償金を獲得できる傾向があります。

介護事故における後遺障害等級の扱い

交通事故や労災事故の場合、後遺障害等級を認定してくれる機関が存在しますが、介護事故や医療事故ではこのような認定機関が存在しません。このため、自ら後遺障害等級を判断する必要があるのです。

しかし、素人が後遺障害等級を判断するのは非常に難しい部分なので、適切な水準の賠償額を得たい方は弁護士に算定を依頼することをおすすめします。

入通院後に死亡した場合

入通院後に死亡した場合の扱いですが、死亡と事故の間に因果関係が認められるのであれば、他界までに生じた通院費や治療費も賠償額に含むことができます。

介護事故の損害賠償額は事案によって変動する

前章では死亡事故と非死亡事故に分けて損害賠償の項目と金額相場を紹介しましたが、金額を変える要素は他にもいくつかあります。それらも合わせて解説するので、正確な賠償額を知りたい方はぜひチェックしてみてください。

事故の種類による変動

介護事故の原因No.1とNo.2にあげられるのは、それぞれ誤嚥事故と転倒・転落事故です。死亡事故が起こりやすい分、誤嚥事故の方が損害賠償額が高い傾向にあります。誤嚥事故では3,000万円を超える賠償命令が出ているケースも珍しくありません。

誤嚥事故の慰謝料や介護施設側の責任については、関連記事で詳しく解説しています。

転倒・転落事故では1,000万円程度の賠償額にとどまるケースが多いです。たとえば転倒して頭を負傷し、脳の病気を発症して植物状態に陥った事例では約1,300万円の賠償命令が出ています。また、同じ死亡事故でも事故の具体的な状況によって得られる損害賠償額は大きく変動します。

過失相殺による変動

介護事故では事業者側の注意義務違反が原因で事故が生じたケースにおいて損害賠償を請求可能です。安全配慮義務違反があったといえるためには、介護事故が起きることを想定でき、事故発生の回避措置を取ることができる状態であったにもかかわらず、適切な対策を講じなかった状況が求められます。

安全配慮義務違反があったことを証明できれば損害賠償を請求できますが、場合によっては損害賠償が減額される可能性もあります。これを過失相殺と呼び、被害者側の不注意や落ち度が認められる場合、その程度に応じて過失相殺が行われるのです。

過失相殺において、どの程度の減額を行うのかについては法律により定められていません。
そのため、過失相殺によりどの程度の減額を行うのかが問題となることがあります。認知機能に問題ない利用者が職員の注意を聞き入れず転倒してしまった場合は、過失相殺が考慮される可能性が高いです。

一方、認知症患者が誤って誤飲してしまったケースでは被害者側の落ち度を問うことが難しいため、過失相殺の対象とならない可能性が高いでしょう。

介護事故の損害賠償請求方法

介護事故における損害賠償請求はこれまで数多く行われており、実際に賠償命令が下りたケースも少なくありません。これまでお世話になったとの想いから請求をためらってしまう人もいるかもしれませんが、事故で被った損害について正当な補償を受けることは立派な権利なので、躊躇せずに行動を起こしてほしいところです。

介護事故における損害賠償手続きの流れや賠償の請求先について説明するので、訴えを起こす際の参考にして頂ければ幸いです。

損害賠償の請求先

介護施設の利用契約は施設との間で結んでいることもあり、損害賠償の請求先は介護施設になります。

とはいえ、実際のところ利用者に対して介護サービスを提供するのは介護施設の職員です。介護事故の原因を作ったのは、職員の怠慢や利用者への暴力が原因だったのかもしれません。

明らかに職員の故意や過失により事故が生じたといえる場合、この職員個人に対して賠償義務が発生する可能性もあります。

この場合、個人だけでなく施設側も使用者責任を問われます。職員を使用して利益を得ている介護施設にも同様の責任を負うべきといえるためです。職員は損害賠償金を支払える資力を有していないことも多いため、介護施設に請求が可能であれば、介護施設への請求を行うべきでしょう。

手続の流れ

本人や遺族が施設側に損害賠償を請求した場合、通常、いきなり裁判が行われることはありません。まずは示談交渉によって解決できないか話し合います。施設側に過失があったのか、事故の原因は何だったのかなどが争点になるでしょう。

示談交渉で話が進展しない場合、調停を申し立てる場合があります。調停では裁判所の調停委員が間に入ってくれるので、話の落としどころを見つけやすいです。

示談交渉や調停により解決しない場合は裁判所に訴訟提起を行うことになります。事故の原因や施設側に過失があるのかなどを法廷で議論を交わし、最終的に事業者側に過失があったと裁判所がジャッジした場合、損害賠償命令が発出されます。

介護事故に関する悩みは弁護士に相談してみよう

介護事故で損害賠償を検討するなら

介護事故を原因とした損害賠償請求を行うのであれば、弁護士に相談するべきでしょう。
損害賠償請求を行うとして、どのような請求が可能であり、請求のためにどのような証拠を集めればいいのかについては、法的知識が欠かせません。

法律の専門家である弁護士に相談することで、損害賠償請求できる事故なのかどうかや、適正な金額の賠償金がどのくらいなのかなどを知ることができるでしょう。

介護施設から事故の説明を受けたが納得いかない、このまま話を進めていいのか不安があるという方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。

また、弁護士に依頼すると、介護施設との交渉や裁判手続きを代わりに行ってくれるというメリットがあります。弁護士に相談する際は、相談の上で依頼まで行うかどうかについても考慮すべきでしょう。

アトムの弁護士による無料相談

介護事故によって、ご家族を亡くされたり重い後遺障害が残ってしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。
介護事故に関する不安点や疑問点を解消したうえで、弁護士に依頼するかどうかについても判断することが可能です。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了