誤嚥事故で慰謝料は介護施設に請求できる?食事介助の責任はどこにある?
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食事介助は誤嚥などの重大な事故につながる可能性があり、慎重な介護が求められます。多くの介護施設では、この点をしっかりと意識して、事故が無いように配慮をされております。
しかしながら、食事介助の際の事故件数は少なくありません。
事故が起きた原因として、介護施設や介護職員に責任がある場合、損害賠償の請求が可能です。
本記事では、食事介助の際に起こりうる誤嚥事故の慰謝料の計算方法とあわせて、介護施設や介護職員の責任、裁判の流れなどについて解説を行います。この記事がお役に立てば幸いです。
目次
食事介助で起こりうる事故
食事介助で起こりやすい事故の中に誤嚥や誤飲といったものがあります。こういった事故がどうして起こりやすいのか、起こった場合どのような症状が生じるのかについて解説します。
食事介助での誤嚥事故とは?
誤嚥とは、食べ物や唾液を飲み込む際に、誤って気管に入ってしまうことをいいます。この誤嚥によって、窒息や肺炎を引き起こす可能性があります。
高齢者は嚥下能力が低下していることに加え、認知症によって食べ物を認識出来ずに喉に詰まらせるケースなどもあり、さまざまな可能性について考慮しなければなりません。
誤嚥事故が起こる原因
誤嚥の可能性があるとわかっていても、事故は起こってしまうことがあります。誤嚥事故ではどのような原因が考えられるのでしょうか。
飲み込みにくい食材や提供方法に問題があった
普段何気なく口にしている食べ物の中には、それ自体が飲み込みにくいようなものも多いです。
お正月に高齢者がお餅を詰まらせるニュースはよく耳にすると思いますが、お餅以外にも飲み込みにくい食材はたくさんあります。たとえば、弾力のあるタコ・イカ・こんにゃく・もち、パサパサして水分の少ないパン・イモ類・ゆで卵などがあげられます。
嚥下能力にあわせて、このような食材を使わない献立を立てたり、飲み込みやすい工夫をとるなどの提供方法が介護施設側には求められています。
見守りや介助が不十分であった
食べ物をたくさん詰め込み過ぎていないか、口の中に食べ物が残っていないか、飲み込めているか一口ずつ確認するなどの配慮が求められます。
誤嚥が起きた後の対応に問題があった
誤嚥が起きたら、口の中の食べ物を取り出す、背中をたたいて食べ物を吐き出させる、救急車を呼ぶなどの対応が求められます。
誤嚥事故の慰謝料はいくらになるのか
誤嚥事故は窒息死や低酸素脳症、植物状態などにつながる恐れがあり、慰謝料は高額になる傾向があります。慰謝料の相場と、損害賠償請求内容について検討していきましょう。
誤嚥事故による慰謝料の計算方法
慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があり、損害に応じて請求可能です。
入通院慰謝料の決まり方
入通院慰謝料は、誤嚥事故によって入院・通院をよぎなくされたことへの慰謝料であり、治療期間が長期化するほど高額になります。
たとえば、誤嚥事故により1ヶ月入院して治療を受けたとき、入院慰謝料の相場は53万円です。
また、慰謝料は精神的苦痛を緩和するために支払われる金銭なので、その苦痛が大きいほど金額は上がるものです。たとえば、何度も手術を繰り返す必要があったり、生死が危ぶまれる状態が継続した場合や、入院後に通院の必要があった場合などにも増額される可能性があります。
後遺障害慰謝料の決まり方
後遺障害慰謝料は、誤嚥事故による後遺症の症状や部位に応じて請求すべき金銭です。具体的な金額は、労働者災害補償保険法施行規則で定められている「障害等級表」を参考に算定します。
たとえば、誤嚥事故によって植物状態になってしまった場合は第1級にあたり、後遺障害慰謝料の相場は2,800万円です。また、これほど重い後遺障害が残った場合は、ご家族に対しても個別の慰謝料が認められる可能性があります。
もっとも、持病や誤嚥事故以前から心身の不調がある場合には減額される可能性があるので、留意しましょう。
死亡慰謝料の決まり方
死亡慰謝料は、誤嚥事故によって亡くなられたご本人の苦痛に対して支払われる金銭になります。誤嚥事故による死亡慰謝料の相場は1,000万円~2,000万円です。遺族に対する慰謝料も加味して最終的な金額が決まります。
関連記事では、死亡事故での損害賠償請求に関する法的根拠や慰謝料相場をもっと詳しく解説していますので、併せてお役立てください。
損害賠償請求の算定は弁護士に任せよう
損害賠償請求をするときには、誤嚥事故によって被ったすべての損害を丁寧に算定する必要があります。また、将来的に失われてしまったものも損害として計算し、請求しなくてはなりません。
とくに、重い後遺障害が残って植物状態になってしまった場合、生命維持に介護が必要になります。
誤嚥事故によって生じた損害であると認められれば、介護費用についても認定される可能性があるでしょう。
これらの損害算定を家族だけで行うと、請求すべき損害を見落としてしまったり、適切な金額算定ができない可能性があります。弁護士に損害算定を依頼することで、適正な損害賠償請求が可能です。
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誤嚥事故で施設側に責任を問える?
誤嚥事故で重大な損害を被ってしまった場合、その責任はすべて介護施設側にあるのでしょうか。
誤嚥事故の責任の所在を検討していきましょう。
誤嚥事故が起こってしまった場合の責任は?
介護施設には介護契約を結ぶ上で、利用者の安全に配慮するという安全配慮義務を負うと考えられております。そのため、安全配慮義務に反した場合には、施設の過失が認められ、責任を問うことができます。
他方で、事故が起こってしまっても、十分に予防や対策を行っており、過失が無いような事案では、介護施設に対して責任を追及することはできません。
この安全配慮義務を施設が果たしていたのかという問題は、判断がむずかしいところもあり、施設利用者側と施設側で対立する可能性があります。
なお、施設に求められる安全配慮義務の程度は、一般人が介護を行う際の義務よりも高度な義務を果たさなければならないと考えられております。より高度な義務とは具体的にいうと、介護施設が介護サービスを提供する技術水準に照らして必要な義務のことです。
事故と結果の因果関係がポイント|裁判例を紹介
食事介助によって生じた事故について、2つの裁判例を紹介します。これらの裁判事例をみると、介護施設側に過失があったことと、誤嚥による窒息と死亡の因果関係の重要性がよくわかります。
老人ホームでの誤嚥事故による死亡事故
老人ホームに入居していた利用者が、間食のスイートポテトを盗食したところ誤嚥して窒息し、植物状態となって死亡してしまいました。ご遺族は、利用者の監視・盗食発見時やけいれんを起こしたときの対処などに注意義務違反があったとして、老人ホームに対する損害賠償請求を起こしたのです。
裁判所は、老人ホームの注意義務違反を認めたうえで、事故と死亡には因果関係があるものとして、損害賠償請求の一部を認めました。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第14268号 損害賠償請求事件 平成30年1月31日)
誤嚥による窒息死と死因に因果関係がないとされた死亡事故
仮に施設側に安全配慮義務違反があり、過失が認定されたとしても、その過失と損害との間に因果関係があるかが問われます。
岐阜地裁判決令和2年12月21日では、施設内で亡くなったAの相続人が、その原因は介護施設の不当な介護により誤嚥が生じて死亡したと主張しました。
しかし、裁判所は、その原因が誤嚥により窒息死したとは断定できず、心筋梗塞など他の死因の可能性も否定できないとして、因果関係を否定する判断を行っております。
この判例では、Aの食事中や完食後の誤嚥の可能性について具体的に検討した上で、誤嚥の可能性が低いと判断をして、心臓マッサージ中に胃の内容物が逆流してAの気道内や気管内に混入した可能性も否定することが出来ないとされました。
このように、その原因と結果の間に因果関係があるということを医療記録や医師の証言などから被害者は明らかにしなければなりません。
誤嚥事故で介護職員個人に責任は問える?
食事介助の際の事故において介護職員に過失があった場合は、介護施設だけでは無く、介護職員も責任を負う可能性があります。ここでは、介護職員の責任について解説を行います。
介護職員個人に賠償責任が課されるケースは少ない
介護職員は、施設利用者の日々の介護サービスを提供するものであり、介護事故により利用者に損害が生じた場合、関係していた介護職員に対しても請求をしたいと考えるでしょう。
しかし、あくまでも介護契約を締結するのは利用者と介護施設であるため、介護職員とは直接の契約関係にはありません。そのため、介護事故が起こった場合、債務不履行の有無が問われるのは、介護施設になります。
一方で、当該介護職員が一般的な介護職員としての義務をまったく果たしておらず、そのことによって事故が生じてしまった場合はどうでしょうか。
たとえば、虐待に近い形で事故が起こってしまった場合や最低限度のことも行わなかった場合です。このような場合は、あきらかに「故意または過失」があるということになりますので、介護職員個人も「不法行為」によって賠償責任を負う可能性があります。
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悪質な場合は刑事責任を負う可能性もある
介護事故が悪質な場合は、民事上の賠償責任だけで無く、刑事上の責任を負う可能性もあります。
特別養護老人ホームにおいて准看護師として勤務していたAさんが誤ってドーナツを配膳したことにより、施設利用者を窒息死させた事案で、Aさんの業務上過失致死が問われました。
一審では、配膳する際にAさんが窒息事故防止に反して誤ってドーナツを配膳したと判断したのです。ただし、Aは、食配膳業務に手伝いで入っていたものであり、その形態を容易に確認できる職場体制になっていなかったことなども考慮され、罰金20万円が言い渡されました。(長野地方裁判所松本支部 平成26年(わ)第260号 業務上過失致死被告事件 平成31年3月25日)
その後の東京高裁では、Aさんに注意義務違反はないものと認め、一審を破棄したうえで無罪となりました。(東京高等裁判所 平成31年(う)第791号 業務上過失致死被告事件 令和2年7月28日)
介護施設を訴えるポイントについて解説
介護施設や介護職員に安全配慮義務違反があるという場合、どのようにして訴えるのでしょうか。訴えることが出来るケースやそのポイントについて解説します。
証拠の収集が必要
裁判を考えた場合、証拠の存在がとても大切になります。そして、証拠を集めるのは損害賠償請求をする側、つまり、施設を利用していた被害者になります。
収集すべき証拠には、介護記録や診療録の他、介護保険主治医意見書などが役に立つでしょう。これらの証拠は、施設側で改ざんされる危険性もあるため、すみやかに保全手続きを行うなど工夫が必要となります。
訴訟提起までの流れ
介護事故が発生した後、介護施設から十分な説明を受けても事故に納得が出来ない、もしくはその説明さえ不十分なものであるといったこともあるかもしれません。そういった場合は、話し合いで解決をすることは困難ですので訴訟を提起するということになります。
施設と直接交渉をしている際に気をつけるべき点としては、介護施設から提示された示談書などに安易にサインをしてしまうという点です。一度でも認めてしまった内容を後から覆すのは困難になります。
訴訟提起を考えていなかったとしても、早期に弁護士に相談をするなどして、適切な指示をもらうことが必要となります。
訴訟提起後、解決まで
訴訟提起を行うと、少なくとも半年から数年かかります。訴訟手続きでは、お互いの主張を整理し、その主張を裏付ける証拠の吟味を行います。
また、介護職員や医師の尋問が行われることもあるでしょう。そういった手続きの中で、当該事故の原因や施設の過失などを明らかにしていきます。裁判所からは、和解を勧奨されることもあり、判決までいかずに途中で和解によって終了するケースもあるでしょう。
最後まで当事者間で話が折り合わない場合は、判決により、介護利用者側が起こした損害賠償請求が認められるかどうかを裁判所が判断します。
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食事介助中の事故でお困りの方は弁護士相談
誤嚥事故が起きたのに介護施設からの説明に納得できない、賠償金を提示されたけど受け入れてもいいのかわからない、といったお悩みをお持ちではないでしょうか。
介護事故に関するお悩みは弁護士に一度ご相談ください。
弁護士であれば、法律の専門家としての見地からアドバイスすることができます。たとえば、介護施設側の対応に安全配慮義務違反があったのかどうか見極めたり、賠償金の提示額が損害に対して本当に正しい金額なのか確認してもらえたりなどできるでしょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了