訪問入浴中の事故は頻発|事例や責任の所在、賠償額について解説
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看護師を含めた複数名が自宅に訪問し、専用の浴槽で入浴介助を行うことを「訪問入浴」と呼びます。訪問入浴は、本人や家族の力だけでお風呂に入れることがむずかしい時に重宝する介護サービスです。
しかし、入浴は体温の変動が大きい行為なので入浴後に体調を崩してしまったり、入浴時に転倒してしまったりする事故が起きる可能性も考えられます。
介護を受けるご本人も、介護をするご家族も負担が軽減される訪問入浴サービスですが、もし事故が起きて何らかの損害を受けた時、誰にどのような責任を問うことができるのでしょうか。
今回は、訪問入浴の事故事例や事故における責任の所在、損害賠償額について説明します。訪問入浴事故に関するさまざまな知識を得られるので、ぜひご一読ください。
目次
訪問入浴の事故事例
入浴中は長時間湯船につかるので、事故が起きやすいシチュエーションといえます。ましてや体が不自由な高齢者や障害者の場合、なおさら事故が起きやすいでしょう。実際に、高齢者が入浴中に事故に見舞われるケースは多々あります。
ここでは入浴事故の事例を紹介します。
入浴事故は増加中
高齢者の入浴事故は多発しており、特に死亡事故件数は年々増えています。
消費者庁が2018年に公表した資料によると、2016年における高齢者の「不慮の溺死及び溺水」は6,759件です。2007年時点では4,527件だったので、約10年で2,000件以上も増加しています。「転倒・転落」「誤嚥」に続き、死亡事故要因のトップ3に入っています。
この6,759件のうち、家や居住施設の浴槽で起きた事故が4,821件を占めています。(参考:消費者庁「高齢者の事故の状況について」)
介護施設や自宅で入浴中の事故だけでなく、訪問入浴中の事故も一定数あると想定されるので、訪問入浴中の死亡事故は十分起こりえると心得ておきましょう。
入浴事故に関する事例紹介
それでは、入浴時にどのような事故が起きることがあるのか、具体的な事例をみていきたいと思います。
事例(1)浴室内で転倒した
利用者が浴室で入浴介助を受けていたところ、椅子ごと後方へひっくり返り、後頭部を打撲した事案です。利用者は体調不良から回復したばかりで、久しぶりの入浴だったことが事故の要因だと考えられています。
また、見守りは職員1人だけという管理体制の甘さも事故の一因です。今回の被害を受けた利用者は、身の回りの動作や移動すら単独で行うのがむずかしい状況でした。利用者の状況を考慮すると見守りは複数人で行う必要があったといえるでしょう。
事例(2)脱衣所で転倒した
利用者が入浴後、脱衣所のバスマットで足踏みをしていたところ、バランスを崩して転倒してしまった事案です。高齢者は足腰が弱っている場合が多く、ちょっとした刺激でもバランスを崩しやすいです。
また、バスマットが水分を多く含んでいたことも、事故の発生を助長したといえるでしょう。介助者は入浴中のみならず、脱衣所でも事故が発生するリスクを考慮し、安全確保に努める必要があります。
事例(3)入浴後に意識不明となった
入浴後、体を拭かれている利用者が意識不明になってしまった事案です。体を横にして水分補給やタオルによる冷却処置を受けたところ、意識が無事に回復し、事なきを得ています。
意識混濁の原因は、風呂に入る前までの水分摂取量が不足していたこと、浴室や脱衣所が高温だったことなどがあげられるでしょう。このように、入浴前の状況が事故を引き起こす要因になっている場合もあります。
訪問入浴事故で介護施設に対する責任追及は可能か?
訪問入浴の介護を行った介護施設側に落ち度や過失があったために事故が起きたのであれば、被害者側は介護施設に対して責任を追及できます。
訪問入浴事故において介護施設が負う責任を見てみましょう。
介護施設に安全配慮義務違反があるのかが問題
介護施設は利用者に対して、安全配慮義務を負っています。安全配慮義務とは、事故の危険を予測できる状況であれば、事故回避の措置を取らなければならないことです。
介護施設が安全配慮義務を怠った結果として事故が生じたのであれば、安全配慮義務義務違反という過失が介護施設に認められます。つまり、介護施設側に安全配慮義務違反があるのであれば、責任を追及することが可能となるのです。
事故の危険を予測できる状況であったにもかかわらず、介護施設が事故を防止するために必要な対策を講じなかった場合は安全配慮義務違反となります。
介護施設が事故の危険を予測できたといえるのか、対策が十分だったといえるのかについては、事例によって異なるでしょう。
安全配慮義務違反が認められる状況とは?
直前に事故につながりそうな事態が生じていたならば、事故を予見できる状況だったと判断できる可能性は高いです。
たとえば、利用者が以前も転倒したことがある場合、浴室や脱衣所での転倒リスクも高いといえます。他にも、浴槽から出られなかったことが以前にもあったり、浴槽につかりながらウトウト寝てしまったりすることがあった場合、事故のリスクに気付くことはできたといえるでしょう。
したがって、介助者を複数人つけたり、防護マットを引いたりといった事故の予防措置を取る必要があります。
また、入浴中は利用者が溺れる恐れがあるため、頻繁に声をかけて意識状態を確認する体制が取られていたのかといった点も重要になってきます。
以上のような予防措置を職員が怠っていた場合、介護施設側の安全配慮義務違反を問える可能性が高いです。
介護事故の責任追及を検討している方は、以下の関連記事もお役立てください。
安全配慮義務違反が認められない状況とは?
一方で、事故の予見が不可能な状況や、事故を予見できても回避できないシチュエーションの場合、介護施設側に安全配慮義務違反はないと考えられます。
このような場合、介護施設側に対する損害賠償請求はむずかしいでしょう。
こちらの関連記事『訪問介護の裁判事例|在宅サービス利用中の事故とヘルパーの賠償責任』では、民事裁判で損害賠償請求が認められた判例と認められなかった判例を紹介しています。あわせてご確認ください。
利用者側に過失があれば賠償金が減額
訪問入浴の事故について介護施設側に安全配慮義務違反が認められる場合、介護施設や職員個人に対する損害賠償請求が可能です。
しかし、事故の発生原因が100%介護施設側にあるとはいえない場合もあるでしょう。利用者にも落ち度や過失が認められる時は「過失責任」が問われ、損害賠償額が減額される可能性もあります。
たとえば、利用者の認知機能に問題がなく、自分の好みで長時間入浴している時に事故が起きてしまったのであれば、すべての責任が介護施設側にあるとはいえません。
利用者側にも過失がある場合、裁判所が認めた損害賠償額から、利用者側の責任の割合分だけ減額される可能性があります。このような、責任の割合分に応じた減額を「過失相殺」といいます。
では、どの程度の行為があれば、利用者側の過失が認められるのでしょうか。
たとえば、利用者が自分の意思で長湯をしていたのが事故の原因ならば、過失相殺がなされる可能性はあります。
とはいえ、介護施設側も事故が起きないように監督する義務を備えています。入浴時間が長くなるのなら、そのことを把握して、安全確認が積極的に行われている必要があるでしょう。利用者側に落ち度があったとしても、介護施設側の責任がすべて免除されるとは限りません。
訪問入浴事故の損害賠償金について
施設側に安全配慮義務違反が認められれば、損害賠償金を請求できます。ここでは、入浴事故における損害賠償金の内訳や合計額を見ていきましょう。
介護事故で請求できる項目
介護事故で請求できる主な損害賠償項目は「治療にかかる費用」「逸失利益」「慰謝料」の3つです。
治療にかかる費用
治療にかかる費用とは、具体的には以下のようなものをいいます。
- 治療費
治療のために必要となった投薬代、手術代、入院代など - 通院交通費
通院のために必要となった交通費
原則として公共交通機関の利用費用 - 入院雑費
入院中に必要となった日用雑貨や通信費などの雑費全般
治療と異なりますが、被害者が死亡した場合には葬儀費用に関しても請求を行うことが可能です。
逸失利益
逸失利益は事故に遭わなければ得られたはずの金額を差します。介護事故における逸失利益の代表例は年金で、老齢年金や障害年金などが対象です。
そのため、介護事故により被害者が死亡した場合には、事故がなければ得られたはずの年金が逸失利益として請求できることになります。
慰謝料
慰謝料は被害者が受けた精神的苦痛に対して支給される費用です。
慰謝料については、以下の3種類が事故のケースに応じて請求できます。
- 入通院慰謝料
治療のために入院や通院を行った場合に請求可能 - 後遺障害慰謝料
事故が原因で後遺症が残り、後遺症の症状が後遺障害に該当する場合に請求可能 - 死亡慰謝料
事故が原因で被害者が死亡した場合に請求可能
慰謝料とは、事故で受けた精神的苦痛に対して支払われる金銭のことをいいます。
関連記事『介護事故のケガや死亡の慰謝料相場は?損害賠償の内訳や判例も紹介』では、介護事故で支払われる可能性のある慰謝料相場などについて解説していますのであわせてご確認ください。
損害賠償請求の進め方
こうした損害賠償費目は、まず示談交渉(介護施設との話し合い)で決めていくことになる見込みです。示談交渉で解決できれば、裁判費用も不要になりますし、判決を待つより早期の解決も期待できます。
介護事故における示談の流れや弁護士の役割について解説している以下の記事もあわせてお読みください。
裁判事例
実際にどれほどの賠償金が受け取れるのか、事例を参考に見てみましょう。本件は認知症の利用者が施設内で行方不明になり、浴槽内で死亡していたのを発見された事案です。
裁判所が認定した賠償金は平均余命までの老齢年金・慰謝料・葬儀費用を含み、446万円でした。
しかし、本件は利用者が自ら浴室内に侵入し、水道を回してお湯をためています。利用者に落ち度や過失が認められるため、過失相殺がなされています。
施設側の負担割合は3割とみなされ、133万円の賠償命令が発出されました。過失相殺によって、賠償額に大きな差が生じることがわかります。
そのほか裁判事例については、『介護事故裁判の争点は?訴訟準備から裁判進行の流れ!裁判事例も解説』の記事でも紹介しています。損害賠償請求の判例を知りたい方は、あわせてお読みください。
訪問入浴事故の損害賠償請求トラブルは弁護士に相談しよう
訪問入浴事故の損害賠償請求に関して、ご自身だけで介護施設側とやり取りするのは不安だと思います。ここからは、弁護士がトラブルに介入することで得られるメリットや、無料法律相談についてみていきましょう。
弁護士に相談や依頼を行うメリット
介護施設側が掲示する賠償金の額は、相場より低めに設定されている危険性がある以上、自力で相場の金額を計算する必要があります。
しかし、損害額の具体的な金額を計算することは簡単ではありません。
相場通りの賠償金を受け取りたければ、豊富な知見と経験をもつ弁護士に相談するといいでしょう。過去の事例と比較し、妥当な金額を割り出してくれます。
また、弁護士に依頼すれば介護施設側との交渉や裁判手続きを代わりに行ってくれるため、請求手続きによる負担を減らすことが可能です。交渉がうまくいかない場合は介護施設側が弁護士を立ててくる可能性が高いため、こちらも弁護士に交渉を任せるべきでしょう。
無料法律相談のご案内
入浴事故によって、ご家族がお亡くなりになったり、大きな後遺障害を負ってしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご利用ください。訪問入浴事故において適切な損害賠償請求を行いたい方は、一度ご相談いただくことをおすすめします。
弁護士に相談や依頼を行うことで生じるメリットを受けるためにも、まずは弁護士への相談を行いましょう。
無料の法律相談を受けるのであれば、費用を気にせずに弁護士に相談することが可能です。
法律相談の予約受付は24時間体制で行っているので、いつでもご連絡可能です。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了