移乗介助で発生する介護事故の事例や介護施設側が負うべき責任を解説 | アトム法律事務所弁護士法人

移乗介助で発生する介護事故の事例や介護施設側が負うべき責任を解説

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移乗介助の介護事故 施設の責任

ベッドから車椅子に、車椅子からベッドへ利用者を輸送する介護サービスを移乗介助といいます。移乗介助では老人とはいえ全身の重みを支え運ぶ必要があるので、危険な作業です。事故が起きるリスクも高いシーンだといえるでしょう。

本記事では移乗介助時に起こりやすい事故や事例、介護事故における責任について解説します。本記事を読めば、移乗介助事故の種類や被害にあった際の対応法がわかります。

移乗介助時に起こりやすい事故

移乗介助の際は転倒や転落、皮膚損傷といった事故が起こりやすいです。これらの事故が起きる状況や原因を見ていきましょう。

転倒・転落

移乗介助時には、転倒・転落事故が起こりやすいです。車椅子から立ち上がる際や方向転換時のふらつき、ベッドや車椅子から滑り落ちるシーンが想定されます。

高齢者は骨が弱っている場合も多く、転倒や転落によって骨折してしまうケースも少なくありません。転倒・転落事故は移乗介助時に限らず、介護事故では最も多い事故パターンだといえます。

ベッドや車椅子から立ち上がる際の転倒を防ぐには、座っている利用者を上に引っ張るのではなく、おじぎの姿勢を作り、前に持ち上げるようにすると事故防止に効果的です。
また、方向転換時は車椅子とベッドの距離を小さくした方が安全です。

皮膚損傷

移乗介助特有の事故パターンには、皮膚損傷があげられます。車いすの手前にあるフットサポートにかかとが引っかかったり、奥側のフットサポートにひざがぶつかったりする可能性があります。フットレストは固く先が尖った形状なので、皮膚と接触して傷を負う可能性は低くありません。

また、フットレストは見えづらい位置にあるので、思わぬところで接触してしまい、皮膚が損傷する可能性もあります。裂傷を放置すると膿が出たり腫れたりする場合があるので注意が必要です。

関節が固まっていて膝を十分に伸ばせられない人は、立ち上がる際に足が後ろに引け、フットサポートに接触する可能性が高くなります。ベッドへ下ろす際にフットサポートを外しておくといいでしょう。

移乗介助事故の事例

一口に移乗介助事故といっても、その状況はさまざまです。移乗事故はいくつもの事故事例があるので、代表的なケースを紹介します。

どのような状況で事故が起きるのか知っておきましょう。

事例(1)トイレでの事故

排泄介助のためにトイレで便座へ移動させる際、筋肉の硬直がみられる右足に体重がかかってしまい、骨折した事案です。

便座に座らせようとしたところ、尿が出てしまったので急いで移動させようとしたのが事故の原因です。衣服の汚染よりも安全を最優先に介助を行う必要があったといえるでしょう。

このように、移乗介助事故はトイレで発生する可能性もあります。

事例(2)車椅子からベッドに移動させる際の事故

車椅子からベッドに移動させる際に骨折してしまった事案を2件紹介します。

1件目は原因不明ですが、右足を骨折した事案です。傷の状況から推察し、移乗介助の際にどこかにぶつけてしまった可能性が高いです。
本事例では再発防止の取り組みとして「移乗介助は複数名で実施すること」「周りの状況を確認し本人への声かけも忘れないこと」などが定められました。

もっとも、複数名で介助していても、事故が起きるケースも存在します。

2件目の事例ではベッドが少し高めに設定されていたために、肩がベッドに接触し、左腕を骨折してしまったものです。本事例では今後の防止策として「移乗用シートの使用」「ベッドの高さを事前に確認すること」があげられています。移乗用シートとは移動時の安全確保に用いられる布や板状のものです。

事例(3)カテーテルが抜ける事故

移乗介助時にカテーテルが抜けてしまう事故も起きています。

胃ろう患者へ栄養剤の投与が完了した後に、車椅子からベッドへ体を移そうとしたところ、カテーテルが抜けてしまった事案です。胃ろうとは直接食事がとれない方向けに、胃に直接食材を流し込む方法です。

本ケースではカテーテルの位置をよく確認しなかったために、事故が起きてしまいました。カテーテルの収納や位置確認の徹底が再発防止策としてあげられています。

移乗介助の介護事故における責任

移乗介助事故の被害を受け、介護施設側に損害賠償を請求するには、法的義務に違反があったことの立証が必要です。損害賠償請求は弁護士を通じて行うので、自分は法的な議論をわからないままでもいいと感じる方もいるかもしれません。

しかし、証拠集めや介護施設との交渉のことを考えると、介護事故における法的な権利・義務の話は把握しておくべきだといえます。

移乗介助事故が発生した場合、介護施設側が負うべき責任の内容を紹介します。

介護施設が責任を負う要件

介護事故が起きたからといって、ただちに介護施設側に法的責任が認められるわけではありません。介護施設側の故意や過失にもとづいて事故が起きた場合に、介護施設側に損害賠償責任が発生します。

介護施設は利用者に対して介護サービスを提供する場合に利用者の心身の安全に配慮するという安全配慮義務を負っています。

介護施設の職員が安全配慮義務に違反した場合、過失が認められるため、利用者に損害を与えたのであれば介護施設の設置者が損害賠償責任を負います。
安全配慮義務は「予見可能性」と「回避可能性」の2要素にわかれます。

予見可能性とは事故が起きる可能性を事前に把握できていたかという点です。結果回避性とは、事故の可能性が予測できる場合において、防止の措置を取っていたかが問われます。

すなわち、移乗介助を行う際に予見できた事故であり、事故による損害を回避するために必要な措置をとっていない場合には、安全配慮義務違反が認めらるのです。

また、介護職員に故意や過失が無かったとしても、ベッドや車椅子など物的設備に瑕疵が見受けられる場合、工作物の設置に関して損害賠償責任を負うと判断されることもあります。

安全配慮義務違反があるのかどうかについては、職員の証言や、事故状況の報告書などから得られる情報が重要な証拠となるでしょう。

職員個人が責任を負うこともある

担当職員の故意・過失が原因で事故が発生した場合、職員個人が損害賠償責任を負う可能性もあります。
この場合、職員の使用者である介護施設の設置者も使用者責任にもとづいて損害賠償責任を負うことになります。

移乗介助事故における具体的な要件判断

安全配慮義務に違反した場合には介護施設側は事故の責任を負うとお伝えしましたが、利用者を直接的に介護する移乗介助の場合、介護施設側は事故の責任がないと主張するのはむずかしいでしょう。

移乗介助において利用者は身体のすべてを介助者に預けており、高い注意義務を求められているからです。

移乗介助時の事故で介護施設側に過失がないと主張するには、安全配慮義務を全うしたにも関わらず、事故を防ぐのが困難であった合理的な理由を主張しなければなりません。

たとえば、移乗介助時に利用者が暴れて、腕が職員の顔にぶつかってしまったために、転倒事故が起きたとします。介護施設側が本件は不可抗力だったと述べたとしたら、この主張は認められるでしょうか。

被害者の家族は顔面の傷を直接見てはいません。病院で診断も受けていなければ、介助サービスが滞るほどのダメージがあったと主張するのはむずかしいはずです。

介護施設側に過失がないとが認められるためには、傷の存在を主張するだけでなく、介助サービスの手法に問題がないと訴えかける必要があります。

たとえば、職員が適切な介助を行っていたにもかかわらず利用者が急に暴力をふるったと証明できるのであれば、安全配慮義務義務を尽くしていたといえるでしょう。
このような主張を行うのであれば、車いすやベッドなどの利用器具に欠陥がなく、適切に扱っていたことも明らかにする必要があるといえます。

移乗介助事故の損害賠償請求で知っておくべこと

移乗介助事故において請求できる内容

移乗介助事故において損害賠償請求が可能な場合は、以下のような損害について請求を行うことが可能です。

  • 慰謝料
    被害者の精神的苦痛を金銭化したもの
  • 治療費
    治療のために必要となった費用
  • 入通院交通費
    入院や通院のために必要となった交通費
  • 入通院付添費
    入院や通院に付添が必要である場合の付添にかかる費用
  • 入院雑費
    入院中の日用雑貨や通信費などの雑費全般

請求可能な損害について計算を行い、合計額を請求してください。

慰謝料の相場額を知りたい方は『介護事故での慰謝料相場とは?請求をする際に必要な法的知識を解説』の記事をご覧ください。

移乗介助事故が起きたのなら弁護士に相談

移乗介助事故が起きた場合には、介護施設や職員に対して損害賠償請求を行うことになりますが、請求を行う際には弁護士に相談するべきでしょう。

損害賠償請求を行うには、法律の要件に該当することを証拠により証明する必要があります。
介護施設側の言い分が異なる場合には、適切な証拠に基づく主張が重要となり、法律知識が欠かせません。
また、請求できる金額を計算するのであれば、弁護士に確認してもらう必要があるでしょう。

加えて、弁護士に依頼を行えば、介護施設に対する交渉を代わりに行ってもらえます。交渉がうまくいかず裁判による解決が必要となった場合も安心して手続きを任せることができるでしょう。

弁護士相談するメリットについては『介護事故で弁護士に相談・依頼する代表的なメリット』の記事をご覧ください。

上述のように、介護施設への損害賠償請求を行う前に、弁護士への相談や依頼を行うべきです。
無料の法律相談であれば、費用を気にせず損害賠償請求を行うためにすべきことについてアドバイスを受けることができます。

アトム法律事務所の無料相談

移乗介助時の介護事故で、ご家族を亡くされたり重い障害を負ってしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了