事故後の後遺症に関する示談交渉の流れは?あとから示談をやり直せる?
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事故後に後遺症が残ると、日常生活や仕事に大きな支障が生じる可能性があります。後遺症の被害については後遺障害の等級に応じて損害を算定し、損害賠償金を受け取ることになります。
もしあとから後遺症が出ても基本的に示談のやり直しは難しいと言わざるを得ません。
よって示談は適切なタイミングでおこない、後遺症についてもしっかりと話し合って賠償を受けるべきなのです。
この記事では、後遺症が残った場合の示談交渉の流れや、後遺障害等級の認定方法、さらに示談成立後に後遺障害が発覚した場合の追加請求ついてわかりやすく解説します。
正しい法的知識と適切な対応で、納得のいく結果を目指しましょう。
後遺症が残った場合の示談交渉の流れと進め方
後遺症が残る事故の場合、示談の基本的な流れは以下のとおりです。
示談の基本的な流れ
- 事故発生から入通院治療
- 症状固定(怪我の治療を続けても症状の改善が見込まれない状態)
- 後遺障害申請・認定結果の通知
- 示談交渉開始
- 示談成立/示談不成立なら調停・訴訟へ
これらの段階についてくわしく説明します。
治療開始から症状固定|後遺症が残ったと判断されるタイミング
ケガをした後は、主治医の指示をよく聞いて治療に集中しましょう。
ケガによって働けず収入が得られない場合には、休業損害や休業補償として損害賠償請求できたり、保険給付を受けられる可能性があります。
具体的には、労災事故であれば労災保険から休業補償が支払われますし、相手のある事故であれば相手の加入する保険から補償を受けられる可能性があるでしょう。
症状固定をむかえるまで治療をする
主治医の指示を守って治療をしていても、これ以上は良くも悪くもならないという状態を迎えることがあります。このように判断される時期を症状固定といい、治療の終了を意味する時期です。
症状固定を迎えるまでは示談を開始してはいけません。症状固定を待たずに勝手に治療をやめたり、示談をしてしまったりすると、後遺症部分に関する賠償を受けられない可能性が高まります。
症状固定になったら、その時点で治療は終了となり、後遺症の内容について判断することになります。
後遺障害申請・認定結果の通知|後遺症を損害算定する
後遺症について賠償を受けるときには、その後遺症の程度や部位について客観的に判断して、その損害を金銭で評価することが必要です。
評価するときの基準としては「後遺障害等級」が用いられています。
後遺障害等級は、最も重篤な後遺症を後遺障害1級、最も軽微な後遺症を後遺障害14級として14段階に分け、損害賠償請求に用いるのです。
後遺障害等級を認定する機関がある場合はその機関へ申請し、ない場合は自分たちで何級に相当する後遺症であると立証して交渉材料とします。
以下の表には、事故の種類によって後遺障害認定機関の有無をまとめています。
認定機関 | |
---|---|
交通事故、労災事故、学校での事故 | あり |
介護事故、医療事故、日常でのスポーツ事故 | なし |
くわしい認定については、本記事内「後遺障害等級の認定方法」をあわせてお読みください。
示談交渉開始|後遺症部分も含めて示談をする
示談交渉を開始するときは、後遺症を含めて自身の損害をすべて算定します。
損害賠償請求内容は事故により様々ですが、おおむね次のような費目の金額や、支払い方、支払いの期限、お互いの過失の程度について話し合うことになるでしょう。
慰謝料の種類 | 概要 |
---|---|
治療関係費 | 事故のケガの治療費、入院の費用、手術費用など |
通院交通費 | 事故のケガの治療のために通院した交通費 |
休業損害 | ケガで働けないことへの給与補償 |
入通院慰謝料 | 治療中に受けた精神的な苦痛に対する補償 |
後遺障害慰謝料 | 回復が難しい障害で日常生活や仕事に支障が出ることへの補償 |
死亡慰謝料 | 亡くなった本人や遺族が受けた精神的な苦痛への補償 |
後遺障害逸失利益 | 労働能力が下がって失われた本来得られたはずの収入 |
死亡逸失利益 | 亡くなった本人が生きていれば得られたはずの将来の収入 |
示談交渉を進める上でのポイントは以下の関連記事でくわしく解説しています。示談不成立でも裁判を起こす方法はありますが、示談をうまくまとめるメリットは非常に大きいです。
示談成立または示談不成立なら調停・訴訟へ
示談が成立したら、双方で納得した内容を示談書にまとめて保管するようにしましょう。
なお、示談が不成立の場合は調停や裁判手続きに移ることになります。
調停
調停は裁判のように勝敗を決めるのではなく、お互いに納得して合意できるように第三者を交えて話し合う方法です。第三者には調停委員が参加してくれます。
ただし調停はあくまでお互いの合意を目指す話し合いであるため、争いが激化した状態であれば調停を申し立てても難しい可能性があるでしょう。
裁判
裁判は申立人が原告となり、相手を被告としてお互いの主張を裁判官に聞いてもらい、法的な立場で勝敗を決めてもらう手続きです。敗訴した側の合意は不要なので、もし裁判に負けた場合には不満が残るものとなるでしょう。
被害者だからといって必ず勝訴できるとは限りません。
示談成立後に後遺症が発覚した場合の対処法は?
示談成立後に後遺症がわかったら追加請求はできる?
示談成立後に後遺症が発覚したとしても、追加請求はできないのが原則です。
示談成立後には、示談書を作成するのが一般的といえます。
示談書の最後には、示談成立後はお互いに一切の金銭的請求をしないことを約束する「清算条項」があるため、示談後にあとから追加請求することは難しいでしょう。
例外的に請求できた事例もある
なかには示談成立後の後遺症に対する追加請求が認められた裁判例があります。
判例は、示談当時予想しなかった後遺症が発生した事案で「全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に小額の賠償金をもって満足する旨の示談がされた場合においては・・・その当時予想できなかつた不測の再手術や後遺症がその後発生した場合その損害についてまで、賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致するものとはいえない」として、示談成立後の追加請求を認めています(最高裁判所昭和43年3月15日判決)。
本事案では、交通事故で左前腕骨折の傷害を負った被害者が、医師から全治15週間の診断を受け、被害者自身も、比較的軽い怪我だと考えていたため、事故から9日後に示談金10万円で保険会社との間で示談が成立したものでした。
しかし事故から一か月後に予想外に重傷だと判明して再手術を余儀なくされ、左前腕関節が機能しなくなるほどの後遺症が残ったという事情がありました。
この判例によれば、示談成立後であっても、後遺症が示談成立時点で予測不能であったことを証明すれば、追加請求は可能ということになります。
ワンポイント
後遺症が発生しそうなケースでは、示談書の中で、最初から後遺症が発生した場合の追加請求の可能性を明記しておくと後のトラブルを防ぎやすい。
示談成立後の追加請求を成功させるポイント
示談成立後の追加請求が認められるには、医師の新たな診断書や、後遺症が生活に与える影響を示す証拠をそろえて、示談時点で後遺症が予測不能であった理由を具体的に説明しなければなりません。
よって、示談成立後の追加請求については相当難易度が高いといえます。専門的な判断が要求されるため、弁護士へ相談してみて、対応可能かを聞いてみましょう。
後遺障害等級の認定方法
事故で後遺症が残れば、どのような場合でも賠償金を請求できるわけではありません。後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益を請求する場合、前提として、後遺障害等級を決める必要があります。
後遺障害等級が上がるほど、後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の金額は上がります。
たとえば交通事故の場合、被害者は相手の加入する自賠責保険会社または任意保険会社に後遺障害等級認定を申請します。最終的に、損害保険料率算出機構という審査機関が障害等級を認定し、等級に応じた補償を受けるのです。
交通事故以外の事故では、どのように障害等級が認定されるのでしょうか。以下では、労災事故、学校事故、介護事故、医療事故、スポーツ事故の場合に分けて解説します。
労災事故
労災事故の場合、後遺障害等級の認定機関は労働基準監督署です。
障害補償給付の申請をする際に、後遺障害診断書や検査資料などをあわせて提出すると審査を受けることになります。
労働基準監督署による書面や面談の審査を経て、後遺障害の基準を満たすと判断された場合には、後遺障害等級が認定される流れです。
労災事故の後遺障害認定
- 認定機関:労働基準監督署
- 認定方法:症状固定後、医師に後遺障害診断書を記載してもらいます。その後、労働基準監督署に労災認定申請を行うと、後遺障害等級が決定されます。
労災事故の後遺障害認定については、関連記事『労災の後遺障害認定基準と等級別の金額早見表!認定の流れと申請の要点』でも解説していますので、あわせてお読みください。
学校事故
労災事故の場合、後遺障害等級の認定機関は日本スポーツ振興センターです。
学校での事故によって怪我を負い、災害共済給付制度を利用する場合は、症状固定後に医師に後遺障害診断書を記載してもらいます。
日本スポーツ振興センターに診断書を提出して障害見舞金の請求を行うことで、後遺障害等級の審査も行われる流れです。
学校事故の後遺障害認定
- 認定機関:日本スポーツ振興センター
- 認定方法:日本スポーツ振興センターに診断書を提出し、障害見舞金の請求を行うと、後遺障害等級が決定されます。
介護事故
介護事故で後遺症が残った場合、後遺障害等級を認定してくれる特別な機関はありません。
この場合、交通事故の場合に用いられる障害等級表をもとに、自分の後遺症が何級に該当するのか自ら主張立証する必要があります。
介護事故の慰謝料請求については、関連記事『介護事故のケガや死亡の慰謝料相場は?損害賠償の内訳や判例も紹介』もあわせてお読みください。
医療事故
医療事故で後遺症が残った場合、後遺障害等級を認定してくれる特別な機関はありません。
この場合、交通事故の場合に用いられる障害等級表をもとに、自分の後遺症が何級に該当するのか自ら主張立証する必要があります。
医療事故については、『医療事故の示談金相場はいくら?内訳と示談交渉の流れや賠償金との関係を解説』の記事でくわしく慰謝料について解説しているので、あわせてお読みください。
スポーツ事故
休日のスポーツ事故で後遺症が残った場合、原則、交通事故の場合に用いられる障害等級表をもとに、自分の後遺症が何級に該当するのか自ら主張立証する必要があります。
関連記事『スポーツ事故の解決を弁護士に依頼するメリットと無料相談のご案内』も参考にして、立証の際には弁護士への相談もご検討ください。
後遺症が残った場合の示談成功のコツ
後遺症が残った場合の損害を厳密に算定する
事故で後遺症の残る怪我を負った場合、治療費や休業損害以外にも、加害者個人や会社などに対して後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
さらに後遺症の程度によっては、将来介護費が認められるケースもあります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ったことで生じる精神的苦痛に対する賠償金です。後遺障害等級に応じて、14級なら110万円、1級なら2,800万円が相場になります。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
ただし上表はあくまで相場であり、後遺障害の内容によっては増減される可能性もあります。しかし、14級認定を受けている人が、一つ重い13級の慰謝料相場を超えてまで増額することは難しいでしょう。
関連記事では後遺障害慰謝料の相場を増額させる要素についても解説していますので、慰謝料請求を検討している方はお役立てください。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が生じたことで、将来仕事をすることで得られたはずの収入を失ったという損害を意味します。
後遺障害逸失利益は事故発生前の年収を基本として、後遺障害等級、被災者の症状固定時の年齢などの複数の要素を用いて計算します。
逸失利益の計算方法については関連記事を参照してください。
関連記事
将来介護費
将来介護費は、被害者に介護を要する後遺症が残った場合に請求できる介護費用です。
主に後遺障害1級や2級のように、生命の維持や生活の主要な部分において介護が必要になったような方に対して支払われます。
介護スタッフの利用費だけでなく、紙おむつ、介護ベッドや車いすの買い替え費用など、因果関係があれば比較的幅広く認められるものです。
基本的には平均寿命までの分が認められますが、交渉の段階では、相手方から「その人の寿命はそこまで長くない」などと心無い言葉をかけられることもあり、非常に厳しい交渉になることもあります。
将来介護費の請求の可否や交渉については弁護士への相談がおすすめです。
後遺障害等級でしっかり争う
労災事故や学校事故、スポーツ事故の場合、後遺障害等級の審査機関の判断が示談交渉にも大きく影響します。
そのため、審査機関の判断に納得がいかない場合は、弁護士に相談して、不服審査請求を行うのが一つの方法です。
たとえば
仕事中に機械の安全装置が外れていたことで右手を負傷したAさんは、後遺症が残ったため、労働基準監督署に後遺障害の申請を行ったとします。
当初の判断では12級の後遺障害等級が認定されました。
しかし、納得いかないAさんは弁護士に依頼の上、不服審査請求を請求を行いました。その結果、後遺障害等級認定は10級へ変更されました。
その結果をもって会社に労災発生の落ち度があったとして損害賠償請求をおこなったのです。
後遺障害慰謝料の相場は、12級の場合290万円、10級の場合は550万円です。
示談交渉は、審査機関が認定した後遺障害等級をベースに行われるため、後遺障害慰謝料が260万円も増額する可能性があるのです。
上記の例のように、後遺障害等級でしっかり争うかどうかで、最終的な慰謝料額に大きな差が生じる可能性があります。
介護事故など、後遺障害等級の審査機関がない場合でも、相手方と主張が食い違う場合は、具体的な根拠を示しながらこちらの主張する後遺障害等級の正当性をしっかりと主張することが大切です。
加害者の過失・因果関係を十分主張立証する
後遺症を理由に慰謝料や逸失利益を請求する場合、後遺障害等級認定を獲得するだけでは不十分です。
これらの賠償金が認められるには、加害者の過失や、加害行為と結果との間の因果関係も認められなければなりません。
一言で「過失」と言ってもその内容は事故の種類や、具体的事情によって様々です。
安全配慮義務違反が問題になるケースもあれば、説明義務違反が問題になるケースもあります。
事案に即した過失を主張するには、交通事故など損害賠償請求事件を数多く取り扱ってきた実務経験が不可欠です。
また、医療事故などの事案では、因果関係の主張立証が非常に難しいケースも少なくありません。
そのようなケースでは、過去の判例の知識や最新の実務の動向などを総動員して主張を組み立てる必要があります。
以上のように、後遺症を理由に賠償金を請求する場合、豊富な実務経験と法的知識が欠かせません。
後遺症が残った場合の示談交渉を始める前に、ぜひ一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。
過失割合でしっかり争う
後遺症を理由に慰謝料を請求する場合、相手方から過失相殺の主張がされるケースも少なくありません。
過失相殺とは、簡単に言うと「被害者側にも落ち度がある」として慰謝料額が減額がされることを言います。
被害者側の不注意の他、被害者の持病や年齢など様々な事情を根拠に過失相殺の主張がされることがあります。
ご本人で示談交渉を進めている中で相手方から過失相殺の主張をされると、感情的対立が激しくなり、示談成立が難しくなります。
場合によっては、早期の示談成立のために不本意ながら相手方の主張をのむというケースもあります。
しかし、弁護士が示談交渉に関与していれば、客観的事実に基づいて冷静に交渉を続けることができます。
相手の主張が不合理だと感じるならば、泣く泣く相手の言い分に合わせる必要はありません。
弁護士に相談して相手の過失割合が大きいことを基礎づける証拠を一つずつ検証し、納得のいく示談交渉を行いましょう。
事故の後遺症は弁護士に相談
示談をしたあとから後遺症がわかっても、後遺症の部分を含めて示談をやり直すということは原則できません。
後遺症が残ったときには症状固定まで治療に集中し、症状固定となってから後遺障害申請や損害算定の手続きに入りましょう。
損害賠償請求を検討している方は、弁護士への相談・依頼も考えてみましょう。
アトム法律事務所では重大な後遺障害が残った方への法律相談を無料でおこなっています。法律相談のご利用には、まず相談の予約をお取りください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了