スポーツ事故の賠償責任は誰にある?賠償金請求の流れと金額相場
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スポーツは一定の怪我のリスクがあります。そのためすべての怪我について、損害賠償請求が認められるわけではありません。その一方で、賠償請求すべき事故も存在するので「スポーツ中の怪我は自己責任」と泣き寝入りするのは早計です。
この記事では、スポーツ事故の賠償責任の根拠と責任の所在、賠償金請求の流れや賠償金の内訳と算定方法も解説します。賠償金請求の具体的な検討にお役立てください。
目次
スポーツ事故で賠償請求できる?
スポーツ事故の賠償請求は事故発生の原因次第で認められます。具体的には、第三者からの不当な行為によって事故が起きた場合、本来なされるべき安全面への配慮が不十分だったために事故が起きた場合などに賠償請求が認められる可能性があるでしょう。
スポーツ事故の賠償で重要な安全配慮義務と法的根拠
スポーツ事故の賠償責任を問えるのかどうかは、安全配慮義務違反の有無が重要です。
安全配慮義務とは、相手の安全と健康に配慮する義務のことです。安全配慮義務違反があったかどうかは、予見可能性と結果回避可能性の2つが基準とされます。
予見できた事故や、適正な対応で避けられた事故ならば、安全配慮義務違反があったといえるでしょう。いいかえれば、予見できない事故や対応しても発生を防げなかった事故については安全配慮義務違反には問えません。
スポーツに関していえば、指導者は指導を受ける者に対して、先生は生徒に対して、施設は施設の利用者に対して安全配慮義務を負います。安全配慮義務に違反しているとき、賠償請求の法的根拠として次のようなものが考えられます。
不法行為責任
不法行為責任とは、ある人が他人の権利や利益を違法に侵害したときに賠償責任を負うことをいいます。
たとえば、テニスはラケットを使ってボールを相手のコートに打ち返す競技です。バウンドしたボールが相手にあたって怪我をしても、通常のプレーの一環であれば不法行為とはいえません。
しかし、ラケットで相手プレーヤーに殴りかかったり、プレー外で至近距離からボールを打ち付けるといった行為は通常のプレー範囲を超えており、不法行為にあたる可能性があります。
また、スポーツ指導の範囲を超えた体罰も不法行為のひとつです。
使用者責任
使用者責任とは、従業員の不法行為によって他人に損害を負わせた場合、雇用主として会社が責任を負うことをいいます。会社は従業員の働きによって経済的利益を得ているので、逆に、従業員が生じさせた損害についての責任も負うべきという考えに基づくものです。
たとえばスポーツジムのインストラクターが安全面の注意を怠ったことで利用者が怪我をした場合、インストラクターだけでなく、ジムの運営会社も損害賠償請求の対象となります。
土地工作物責任または営造物責任
土地工作物責任とは、土地の工作物の設置や保存に瑕疵があることで他人が損害を負ったとき、その工作物の所有者が賠償責任を負うことをいいます。
たとえばサッカーゴールが倒れてきて下敷きになってしまった人がいた場合、そのサッカーゴールが適切に管理され、設置されていたかが問われます。安全性を欠いていた場合、サッカーゴールの所有者が賠償責任を負うのです。
なお道路や河川などの公のものの設置や保存に瑕疵があるときに、国や地方公共団体が賠償責任を負うことは営造物責任といいます。
賠償請求先はひとつとは限らない?
賠償先は事故の原因によって変わります。そして事故の原因が複数あるときには、損害賠償請求相手も複数にわたる可能性があります。
法律の専門家である弁護士に相談すれば、損害賠償請求の相手は誰で、どんな法的責任を問えるのかを整理してくれます。相手との交渉を任せたり、一緒に証拠を集めてくれるなど、被害者の心強い味方となるでしょう。
同意書があっても賠償請求できる?
「施設は一切責任を負わない」「主催者は一切の責任を負わない」といった文言があっても、同意できる可能性があります。
ただしどんな場合でも請求できるのではなく、その損害が重大な過失によるものだったり、法律に違反する行為によって生じた損害であったりなど個別に検討が必要です。
関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』でくわしく解説しているので、参考にしてみてください。
加害者にスポーツ事故の賠償責任は問える?
スポーツ中の事故について、加害者に賠償責任を問えるケースがあります。その決め手となるのが不法行為の有無です。
加害者の不法行為が事故の原因なのか
スポーツは一定のルールのもとにおこなわれます。そのルールを悪質に守らなかったり、通常のプレーの範囲を超えた行為によって怪我をさせられた場合には、相手の不法行為責任による賠償を求めることが可能です。
加害者の不法行為が認められた判例として、スキー事故の判例を紹介します。この事故では、被害者には過失がないものと判断されました。
スキー中に後方から衝突された判例
スキー場のゲレンデにおいて、上方(後方)からスキーで滑降してきた他スキーヤーに衝突されました。被害者は膝を負傷して後遺症が残り、裁判所は後遺障害14級9号に相当するものと判断したのです。この裁判では、上方から滑降したスキーヤーの不法行為が認定されました。
裁判所は被告に対して入通院慰謝料142万円、後遺障害慰謝料200万円、逸失利益約354万円など合計約1,030万円の支払いを命じました。被害者の過失の有無が争点となりましたが、事故現場は初心者用のコースであり当時の状況から他人と接触することはあまり想定されないこと、基本的に下方(前方)を滑走するものは後方を注意する義務はないことなどから、被害者には過失がないと認定したのです。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第6439号 損害賠償請求事件 平成29年5月29日)
加害者の親に責任を問えるケースもある
加害者に責任能力がない場合には保護者が賠償を負うことになります。
具体的には、中学生未満の子どもは自身の行動がどんな法的責任を伴うことになるのかを理解していないと判断され、保護者が賠償責任を負うのです。
賠償請求相手が中学生以上のときは基本的に判断能力があると考えられますが、子に対する監督責任にもとづいて、保護者に対して賠償請求する流れになります。
コーチやジムにスポーツ事故の賠償責任は問える?
スポーツ教室やスポーツジムで怪我をした場合にも、事故の原因しだいでは、損害賠償請求が認められる場合があります。
教える立場として安全面に配慮していたのか
スポーツ教室のコーチは、生徒が安全にスポーツに取り組めるように配慮する義務を負います。コーチ(教える側)と生徒(教えられる側)では、危険を予測する能力や事故発生時の対応力に違いがあるのは当然です。
コーチならば予測できたはずの事故や、事故発生時の対応が不適切であった場合には、コーチの安全配慮義務に過失があるものとして損害賠償請求できます。
コーチの過失は雇用主も賠償責任を負う
コーチの不法行為については、使用者責任にもとづき、コーチを雇用している会社も賠償責任を負います。
損害額次第ではコーチ個人に賠償請求するよりも、会社に対して請求するほうが賢明なケースもあります。
損害賠償請求の交渉時には、きちんと賠償を果たしてもらえる方針を立てるべきです。交渉の方針や進め方については弁護士にアドバイスをもらうことをおすすめします。
道具や設備に問題はなかったか
スポーツ教室やスポーツジムで使う設備の安全面に問題があったとき、土地工作物責任にもとづいて、スポーツ教室やジムの運営会社に対して賠償請求が可能です。
たとえば、サッカー教室でプレーしているときに老朽化したサッカーゴールが倒れてきて怪我をしてしまった場合、そのサッカーゴールの管理者に賠償責任を求めることができます。
学校や顧問にスポーツ事故の賠償責任は問える?
学校管理下では、体育の授業や部活動などでスポーツに親しむことも多いでしょう。スポーツ中に怪我をした場合、学校や先生に賠償責任を問うことが可能です。ただし学校側に安全配慮義務違反や不法行為があるケースに限られます。
部活や授業が安全に行われていたのか
先生は、生徒が怪我をすることなく、学生生活を安全に遅れるように配慮する安全配慮義務を負っているのです。安全配慮義務に過失があり、生徒が怪我をしてしまったときには賠償責任を問うことができます。
先生の責任は学校の責任にもなる
先生による安全配慮義務違反や不法行為によって損害が発生したとき、先生を監督する立場として学校も賠償責任を負います。
ただし国公立学校のときには国家賠償法が適用されるため、学校や先生に直接賠償請求はできません。このように学校が国公立か私立かで若干異なる点もあります。関連記事『学校事故による慰謝料の相場・請求先は?』を読むと、学校で起こった事故の慰謝料の相場や請求の流れがよくわかります。
指導範囲を超えた体罰も不法行為のひとつ
学校は教育機関ですが、行き過ぎた指導の結果として体罰が問題視されています。体罰は不法行為であり、損害に応じて賠償請求を検討すべきでしょう。関連記事『体罰を受けたら弁護士に相談すべき』では、体罰の問題を弁護士に相談すべき理由を解説しています。
施設や設備は十分な安全性を持っていたか
スポーツを安全に行うためには、施設や設備の安全性も重要です。設備が本来もつべき安全性を欠いている状態を瑕疵(かし)といい、瑕疵が怪我の原因であるときには、営造物責任や工作物責任に問える可能性があります。
以下に施設・設備の瑕疵による事故の一例を示します。
- 体育館の手すりが錆びていて階段から転落した
- プールの飛び込み台の高さが規定より低く、プール底面で頭を打ち付けた
- 古いバスケットゴールが落下して身体が挟まった
施設や設備の瑕疵によって事故が起こった可能性があるときには、すみやかな現場確認が必要です。
関連記事
スポーツ事故の損害賠償請求の進め方と賠償金
スポーツ事故の賠償請求方法は、示談交渉、調停、裁判(民事訴訟)の3つがあります。各方法の違いも押さえながら、賠償金額の相場や内訳についても解説します。
スポーツ事故の損害賠償請求の流れ
スポーツ事故の損害賠償請求方法には示談交渉、調停、裁判(民事訴訟)の3つがあります。まず示談交渉から始めて、示談交渉がうまくいかないときに調停や裁判へ進む流れです。
スポーツ事故の賠償請求
- 示談交渉
- 調停
- 裁判(民事訴訟)
示談交渉には、調停や裁判と比べると次のようなメリットがあります。
示談交渉のメリット
- 裁判外の手続きなので、解決までにかかる時間が短い
- 合意を元にしているので納得感を持ちやすい
示談交渉とは、裁判外で当事者が話し合って、お互いに一定の譲歩をしながら解決を目指すことをいいます。示談で合意した内容は示談書としてまとめ、今後一切の賠償請求は行わないとして締めくくることが基本です。
早期解決が見込めること、一定の納得感をもって争いを終了させられることから、まずは示談交渉で解決を目指すことが多いのです。
ただし、お互いの主張が大きく異なるときや、相手方の条件がどうしても受け入れられないときには、示談交渉での解決は困難です。そこで次に検討される方法として、調停や裁判があります。
調停や裁判での解決を目指すこともある
調停は、調停委員を交えて話し合うことをいいます。裁判は裁判官が勝敗を決めるものですが、調停はあくまで話し合い、合意に基づく解決を目指す段階です。
裁判では、裁判官が賠償請求の可否や金額を決めて判決を言い渡します。当事者間での合意は不要であり、裁判官の判断が全てです。そのため事故相手が根拠なく決めた提示額に納得がいかない場合にも、裁判所の判断をあおぐことができます。
その一方で被害者側が全面敗訴も有り得て、その際には一切の賠償金が認められません。
また被害者の賠償請求が認められても、相手が控訴すると判決は確定とならず争いは長引きます。控訴審で判決が覆ることも有り得るので、一度は認められた賠償金が減額されることもあるでしょう。
裁判の起こし方や流れについては、関連記事『スポーツ事故の裁判例|損害賠償請求が認められるかどうかのポイント』にて詳しく解説しています。必要な手続きや流れと併せて、弁護士への依頼も検討してみましょう。
スポーツ事故の賠償金内訳|算定方法や相場はある?
スポーツ事故の賠償金内訳
スポーツ事故の賠償金は、主に次のような内訳になります。
費目 | 概要 |
---|---|
治療費※ | 治療にかかった費用 |
交通費 | 通院にかかった費用 |
付添費 | 家族が治療に付き添った費用 |
休業損害 | 怪我のために働けないことの損害 |
逸失利益 | 将来の経済的利益が得られなくなったという損害 |
葬儀費用 | 葬儀にかかった費用 |
慰謝料 | 事故で被った精神的苦痛に対する補てん |
※入院費・手術代などを含む
内訳はあくまで一例にすぎません。
たとえば、重大な後遺症が残ってしまい寝たきりになってしまったときには介護費用も賠償金に含まれます。おむつ代や居宅のリフォーム費用、車椅子の購入・買い替え費用などを算定して請求すべきです。
スポーツ事故の賠償金請求においては、まず請求すべき事柄を見落とさないことが重要になります。
スポーツ事故の賠償金算定方法や相場
スポーツ事故の賠償金は様々な損害の合計金額なので、一律に決まった相場はありません。しかし、相手が提示してくる金額が妥当なのかを判断したり、損害賠償請求額を決めるときにはおおよその目安をつけたいものです。
そこで、損害項目ごとの相場と算定方法をまとめた下表を活用してください。
費目 | 算定方法や相場 |
---|---|
治療費 | 実費(保険診療が原則) |
交通費 | 実費(公共交通機関が原則) |
付添費 | 日額6,500円程度 |
休業損害 | 事故前3ヶ月の給与を就労日数で割る |
逸失利益※ | 事故前年の年収・後遺障害等級・年齢などで算定 |
葬儀費 | 実費(上限150万円) |
慰謝料 | 慰謝料の種類により異なる |
※給与所得者の後遺障害逸失利益/その他職業や死亡逸失利益は計算式が異なる
スポーツ事故の慰謝料相場
慰謝料は入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料といった3種類に大別でき、事故の損害によって請求するものが変わります。スポーツ事故の慰謝料相場は次の通りです。
- 入通院慰謝料:治療期間により異なる
- 後遺障害慰謝料:110万円~2,800万円
- 死亡慰謝料:2,000万円~2,800万円
慰謝料は精神的苦痛を金銭に置き換えたものですが、実際には個々人の辛さや苦しみを比較することはできません。そのため上記のような相場が設けられています。
たとえば、骨折で入院1ヶ月・通院3ヶ月を要した場合の入通院慰謝料相場は115万円です。そして後遺症が残ったときには別途後遺障害慰謝料を請求できます。
スポーツ事故の死亡慰謝料は、家庭での役割に応じて相場があります。具体的には、家計を支えていた方の死亡慰謝料は2,800万円程度が相場で、独身の男女や子どもは2,000万円~2,500万円が相場です。
スポーツ事故で請求すべき賠償金はケースバイケースです。相場よりも高額請求すべきケースもあれば、相場と比べて低額になりうるケースもあります。スポーツ事故の賠償金については弁護士に算定を依頼しましょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
スポーツ事故の賠償請求は弁護士に任せよう
スポーツ事故の中にはスポーツ保険などの保険給付で十分だったり、軽傷で大ごとにならずに済むものもあるでしょう。しかし、相手方との意見が食い違って話し合いが難航したり、死亡・重篤な後遺障害を負ったようなケースで損害額が大きいときには弁護士を入れることも必要なのです。
スポーツ事故の賠償請求|弁護士に任せるとこう変わる
(1)交渉・対応のストレスが大幅に減る
弁護士に依頼すれば、示談交渉から裁判対応まで一任できます。また、相手方との連絡窓口を弁護士に一本化することで、被害者が直接対応しなくてはならない機会を大幅に減らせるのです。
リハビリや仕事への復帰など、被害者は日常を取り戻すための活動に専念できます。
(2)適正な賠償金獲得に向けて粘り強く交渉する
事故相手が提示してくる金額がいつも妥当とは限りません。たとえば、相手が加入しているスポーツ保険の範囲内に抑えるために不当に低い金額を提示してくる可能性があります。
全損害を保険でカバーできるとは限りません。相手のペースにのまれることなく、適正な賠償金の獲得に向けて交渉します。
(3)証拠資料の収集や書類の作成をサポートします
賠償責任を明らかにすることや金額の算定にあたっては根拠が必要です。法律の専門家である弁護士を味方につけることで、どんな資料を用意するべきか、どうやって書類を作成するべきかなどのサポートが受けられます。
被害者やそのご家族が独力でやるよりも、弁護士と共に行うほうがスムーズに進むでしょう。
弁護士への依頼を検討している方は、以下の関連記事もあわせてご覧ください。弁護士に相談・依頼するメリットについて、より詳しく解説しています。
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- コーチや先生は適切な指導を行ってくれていたのか
- 施設や設備の安全面が不十分だったために重い障害が残るような怪我をしたのではないか
- 弁護士に依頼したら、賠償金額の見込みはいくらなのか
弁護士相談によって、こういった疑問も解決につながる可能性があります。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了