水上バイク事故の損害賠償|誰に賠償請求する?慰謝料の適正相場を解説
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海上を走り回ることができる水上バイクは、免許があれば気軽に運転を楽しめる乗り物です。複数人乗りのタイプが主流であることから、水上バイクの免許が無くても運転者の後ろに同乗して楽しむこともできます。
夏のイメージが強い水上バイクですが、春や秋など気候が落ち着いている時期にも楽しめるマリンスポーツの一種です。そんな年間を通して楽しまれる水上バイクにも、事故はつきものです。
水上バイクに搭乗中、事故に巻き込まれ、怪我を負ったら適切な補償を手にすることはできるのでしょうか。事故の原因を検討すると、損害賠償請求すべき事案が多く存在します。
水上バイクの事故に関して、どういう場合であれば損害賠償請求できるのでしょうか。
損害賠償請求先となる相手は誰なのか、慰謝料の相場はどのくらいなら適正なのか、治療費の他に請求できる損害賠償の項目にはどんなものがあるのか、などについて解説していきます。
水上バイク事故の裁判事例
水上バイクの事故の事例を紹介します。
概要|二人乗り水上バイク同士が衝突して海に投げ出されて負傷した
2人乗り水上バイク同士が衝突し、水上バイクに同乗していた被害者が海に投げ出されて骨盤骨折・左足関節内顆骨折・頭部外傷などの傷害を負いました。水上バイクを運転していた運転者はいずれも無免許で水上バイクを運転していたとのことです。
この事故によって、被害者は第8級の後遺障害が残ったとして、ぶつかった相手方のバイクを運転していた加害者に対して損害賠償を求める訴訟を起こしました。(大阪地方裁判所 平成19年(ワ)第8029号 損害賠償請求事件 平成22年1月27日)
裁判所の判断|加害者に8割の過失があると認められる
加害者は水上バイクの運転免許を持っていないにもかかわらず運転を行い、周囲の状況も留意せずに衝突した過失があると裁判所は判断しています。一方、被害者の方も水上バイクを運転するには運転免許の資格が必要であることを認識していながら、運転免許の有無を確認せずバイクに同乗した点に過失があるとも裁判所は判断しました。
以上の状況を照らした時、被害者の過失を2割、加害者の過失を8割とするのが相当であると裁判所は判断したのです。
また、被害者の障害の程度については、後遺障害等級併合第11級相当であると認定しています。
金額 | |
---|---|
治療費 | 約137万円 |
入院雑費 | 約20万円 |
付添看護費 | 約7万円 |
入通院慰謝料 | 250万円 |
休業損害 | 約199万円 |
逸失利益 | 約386万円 |
後遺障害慰謝料 | 400万円 |
将来の治療費 | 約132万円 |
小計 | 約1,531万円 |
過失相殺、損害のてん補、弁護士費用など最終合計 | 約795万円 |
この水上バイク事故に関する裁判で、最終的に認められた賠償額は約795万円でした。
水上バイク事故では誰に損害賠償請求できる?
水上バイクに乗っていて事故にあった場合、事故発生の責任を負うものに対する損害賠償請求が可能です。では、具体的には誰に損害賠償請求できるのでしょうか。
ここからは、ぶつかってきた相手方/同乗していた場合/体験教室/レンタル業者に場合分けして、損害賠償請求の可否を考えていきます。
(1)ぶつかってきた相手方に対する請求
水上バイクを運転中に他の水上バイクが衝突してきて怪我をした、プレジャーボートや小型船舶に巻き込まれて負傷したような場合、ぶつかってきた相手方に対して損害賠償請求できます。
道路上の交通ルールと同じように、水上の運行に関しても交通ルールが法律で定められています。海上の交通ルールを守らず無理な運転をしたことによって怪我を負わされたような場合、不法行為にもとづく損害賠償請求が可能となるのです。
水上バイクを乗る多くの方は、対人賠償責任保険に加入しています。ぶつかってきた相手方がどのような保険に加入しているか確認しましょう。
なお、海での船舶事故は海難事故ともいわれることがあります。重大な事故では海難審判の対象となる可能性もあり、他と違う部分もありますので、関連記事『海難事故の示談・裁判の流れと海難審判の概要|船舶事故は弁護士に相談』も参考にしてみてください。
(2)同乗中の事故なら相手方か同乗の運転者、または両方に対する請求
水上バイクを運転するには運転免許が必要ですが、水上バイクの後ろに乗る分には免許は不要です。水上バイクは2~3人乗りが主流であることから、運転席の後ろに乗って楽しむ場合も多いでしょう。
このように他の人が運転する水上バイクに同乗させてもらっていて事故に巻き込まれた場合、「事故の相手方」と「同乗の運転者」のうち、過失がある方に対して損害賠償請求を行います。事故の相手方と同乗の運転者どちらにも過失がある場合、両方に損害賠償請求することも可能です。
過失割合 | 請求相手 |
---|---|
相手方のみに過失あり | 相手方 |
同乗の運転者のみに過失あり | 同乗の運転者 |
相手方、同乗車の運転者どちらにも過失あり | 相手方と同乗の運転者 |
(3)水上バイクの体験教室側に対する請求
水上バイクの体験教室でスタッフが運転する水上バイクに同乗中に事故が起こった場合、スタッフや教室運営会社に対して責任を問うことができます。
スタッフの無理な運転で海に投げ飛ばされて怪我したなど、スタッフの不法行為が原因となって事故が起こった場合、スタッフに対する損害賠償請求が可能です。(スタッフが運転する水上バイクに同乗中、他の水上バイクに衝突されたようなケースでは、先述した同乗中の事故と同じ考え方となります。過失があるかないかで、同乗者が損害賠償請求できる相手が変わってきます。)
なお体験教室の参加に際して免責同意書にサインしていたとしても、すべての賠償責任を放棄できるわけではありません。同意書を書いたことを理由に賠償請求をためらっている方は、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』もあわせて参考にお読みください。
スタッフを雇用する会社も損害賠償責任を負う
従業員であるスタッフが不法行為をおこなった場合、使用者責任にもとづいて、従業員を雇用する会社にも損害賠償責任を問える可能性があります。
民法715条にて、使用者責任は次のように定められています。
使用者責任
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
水上バイクの体験教室を運営する会社も損害賠償請求相手となりえます。
(4)水上バイクのレンタル業者に対する請求
水上バイクの運転免許を有しているものの、水上バイクそのものを所有していないために、レンタルして楽しむという方も多いです。
レンタルした水上バイクに何らかの不備があって事故が起こった場合、レンタル業者に対して損害賠償請求が可能な場合もあります。レンタル業者には、利用者が安全に水上バイクを利用できるように配慮した運営・管理が求められます。
水上バイク事故をはじめ、スポーツ事故では状況によってさまざまな損害賠償請求の相手が考えられます。こちらの関連記事『スポーツ事故の賠償責任は誰にある?賠償金請求の流れと金額相場』では、状況に応じた損害賠償の請求相手について解説していますので、あわせてご覧いただくことで理解がより深まると思います。
水上バイク事故では慰謝料を請求できる
水上バイクの事故で怪我をした場合、慰謝料の請求が可能です。
水上バイク事故の慰謝料相場
そもそも、事故で被った精神的苦痛を和らげるための金銭のことを慰謝料というのですが、慰謝料には一定の計算方法があります。慰謝料の種類は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つです。計算方法をそれぞれ見てきましょう。
入通院慰謝料
水上バイク事故で怪我を負い、治療を受けたら入通院慰謝料の請求が可能です。
入通院慰謝料は治療期間の長さに応じて金額を算定します。
以下の入通院慰謝料の相場表をご覧ください。
※横軸は入院期間、縦軸は通院期間の長さ
※30日単位で1月とする
入院期間と通院期間が交わるところが入通院慰謝料の相場になっています。
たとえば、入院1ヶ月・通院1ヶ月した場合、入通院慰謝料の相場は77万円となるのです。
もっとも、痛みを伴う治療を何度も受ける必要があるような場合は慰謝料が増額される可能性がありますし、反対に打撲など軽傷の場合は相場表より低い金額の慰謝料となることもあります。
治療状況を丁寧に加味した算定が適切な金額獲得につながりますので、弁護士に入通院慰謝料の算定を依頼して、どれくらいの金額が見込めるのかを確かめてみましょう。
怪我の慰謝料算定については、関連記事の解説もあわせてお読みください。
後遺障害慰謝料
水上バイク事故で怪我を負い、治療を適切に受けても後遺症が残ったら後遺障害慰謝料の請求が可能です。水上バイク事故で後遺症が残ってしまった場合、後遺障害慰謝料は後遺障害等級に応じて110万円~2,800万円が相場とされています。
障害の部位や内容に応じて1級から14級までの等級に分けたものを後遺障害等級といいます。何級に該当するのかは厚生労働省の障害等級表を参考に確認してください。
以下の後遺障害慰謝料の相場表をご覧ください。等級ごとに一定の相場があることがわかります。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
事故で残った後遺症がどのくらいの等級に相当するのか、弁護士にアドバイスをもらうこともできます。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
死亡慰謝料
水上バイク事故で死亡してしまった場合、死亡慰謝料は2,000万円~2,800万円が相場とされています。この相場は、死亡したご本人とご遺族の精神的苦痛を反映したものです。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他※ | 2,000万円~2,500万円 |
※独身の男女、子ども、幼児など
死亡事故の精神的苦痛の程度によっては、相場よりも増額される可能性もあります。くわしく解説した関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説』もお役立てください。
水上バイク事故で請求すべき損害項目
水上バイク事故で請求すべき主な損害項目は下表の通りです。
項目 | 概要 |
---|---|
治療費用 | 治療費、入院費など治療に必要な費用 |
交通費 | 通院に必要な交通費(原則は公共交通機関) |
付添費 | 治療に家族などが付き添ったときの費用 |
休業損害 | 怪我で働けなくなった損害 |
逸失利益 | 後遺障害または死亡により将来の経済的利益が得られなくなった損害 |
葬儀費用 | 葬儀に必要な費用 |
慰謝料 | 精神的苦痛に対する金銭的な補償 |
損害項目のなかには治療費や通院交通費といった実費が認められるものと、慰謝料のように一定の算定方法をもとに金額が決まるものがあります。
いずれにせよ、損害に応じた適切な算定がなされていることが重要です。
なお、逸失利益は損害賠償費目の中でも高額になる傾向があります。
逸失利益の算定には、被害者の事故前の収入や年齢、後遺障害が残ったときにはその等級などを考慮して算定します。
複雑な計算式になるので、下記の関連記事を参考にしてください。
水上バイク事故における損害賠償の請求方法
水上バイク事故において損害賠償請求する方法は、示談・調停・裁判(民事訴訟)の3つがあります。一般的には示談からはじめるケースが多く、示談で解決しない場合に調停や裁判へと移行する流れになるでしょう。
(1)示談|話し合いによる解決方法
示談とは、民事上の争いごとに関する当事者同士が話し合いを行い、お互いに一定の譲歩をして解決を図る方法です。
示談で話し合った内容にお互いが合意すれば、その合意内容に従って争いをやめることになります。後々のトラブルを避けるためにも、示談内容は「示談書」として書面に残すようにしましょう。
示談による解決はお互いの合意が必須です。意見がまったく異なる場合や、賠償額の折り合いがつかないときには、示談でまとめることはむずかしく、調停や裁判といった方法を検討することになるでしょう。
なお、後遺症が後から発覚しても示談をやり直すということは原則難しいです。関連記事では後遺症が残ったときの示談の流れや注意点を説明していますので、あわせてお読みください。
(2)調停|第三者を介す話し合いによる解決方法
調停とは、民事上の争いごとに関する当事者同士が裁判所などの第三者を介して話し合い、解決を図る方法です。
第三者を介することで、示談でまとまらなかった話し合いが解決に向かう可能性があります。
もっとも、調停は当事者間の合意が必要なので、話がまとまらなければ調停でも解決できない可能性も十分にあるのです。
(3)裁判|判決による解決方法
裁判とは、民事上の争いごとについて裁判所が判決を出すことで解決を図る方法です。
裁判官は、当事者双方の主張を聞いたり、事故に関する資料を調べたりして判決を出します。裁判では、これまでの判例を参考に金額を算定して支払いを命じてくれるので、適正な金額の賠償金を受けとることができます。
もっとも、裁判の判決は当事者の合意にもとづいて出されるものではありません。主張が判決に反映されていないと、納得できない結果になることもあると認識しておきましょう。
また、判決が出る前に裁判所から和解を促され、双方が納得すれば裁判が和解で終了することもあります。
水上バイク時の損害賠償請求について、裁判を検討している方もいるでしょう。関連記事では、裁判を起こす場合の手続き、裁判の流れを説明しています。裁判について具体的に知りたい方は、関連記事も参考にしてください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了