海難事故の示談・裁判の流れと海難審判の概要|船舶事故は弁護士に相談
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「プレジャーボート同士がぶつかって骨折したが、歩きづらい障害が残った」
「ジェットスキーに乗っていて船との衝突で海に投げ出され、家族が亡くなってしまった…」
こうした海での事故や船舶の事故は「海難事故」ともいわれ、海に囲まれた日本では全国各地でおこり、レジャー中の事故のみならず、漁船や釣り船による事故なども目立っています。
海難事故では、事故の責任割合を示す過失割合が一般の人にはイメージしづらかったり、損害賠償請求の妥当額がわからなかったりと、被害者や家族だけでの解決が難しい可能性が高いです。
今回は、海難事故の定義といった基本的なことから、海難事故で行われる裁判や示談の流れ、弁護士に依頼すべき理由などについて解説していきます。弁護士相談も検討していきましょう。
目次
海難事故の定義と法的責任
海難事故が起こった場合、どのような法的責任が発生するのでしょうか。法的責任について解説する前に、海難事故の定義を確認しておきたいと思います。
海難事故の定義|海難とは?
海の上で発生する船に関する事故のことを「海難」といいます。海難事故の例として、次のような事故が考えられるでしょう。
海難事故の例
- 旅行でフェリーや観覧船に乗った乗客が怪我をした
- 船同士が衝突して負傷者が出た
- ヨットが転覆して怪我を負った
海難事故の発生状況
令和5年の海難発生状況について、海上保安庁は以下のようなデータを公表しています。
- 船舶事故など
船舶の運航に関連した損害や具体的な危険が生じた船舶事故は1,799隻(死者・不明者:59人)、
そのうちプレジャーボートの事故は888隻でした。 - 人身事故
マリンレジャー活動に伴う人身事故者数は851人(死者・不明者:218人)、
遊泳中は247人でした。
船舶事故・人身事故の被害にあった船数や人数は昨年より減っているものの、多くの方が海難事故の被害にあっています。
たとえば、水上バイクでの事故については、関連記事『水上バイク事故の損害賠償|誰に賠償請求する?慰謝料の適正相場を解説』にて解説していますので、事例や損害賠償請求額の目安もあわせてお読みください。
海難事故による法的責任
海難事故においては、民事責任・刑事責任・行政責任という3つの法的責任が発生することになります。法的責任について、ひとつずつみていきましょう。
民事責任
海難事故が発生したことにより引き起こされる結果としては以下のものが考えられます。
- 死亡事故や傷害事故などの人的損害
- 船体の損傷や荷物の流出、施設の損壊などの物的損害
- 燃料や輸送物の流出・散乱による海洋汚染などの自然損害
ここで、船員の過失によって第三者に損害が生じた場合には、損害を賠償する責任が発生します。これは不法行為責任といわれ、民法上の責任(民事責任)です。
たとえば、旅行先で遊覧船に乗っていて事故に巻き込まれたとき、その事故が船員の過失によるものであれば、乗客やその遺族は慰謝料や治療費といった賠償金を請求できる可能性があります。
船舶同士は商法も関係
商法には船舶所有者間の責任の分担について特則が定められていますので、説明しましょう。
船舶同士の衝突事故の場合、船舶の所有者または船員に過失があったとき裁判所はこれらの過失の軽重を考慮して、各船舶所有者について損害賠償の責任・額を決定することになります。ここで過失の軽重がわからない場合には各船舶所有者が等しい割合で負担することになっています。(商法第788条参照)
刑事責任
民事責任のほか、以下のような場合には刑事責任に問われる可能もあるでしょう。
過失により「船舶の往来の危険を生じさせ」または「船舶を転覆され、沈没させ、若しくは破壊した」場合には業務上過失往来危険罪が成立する可能性があります。(刑法第129条参照)
また、海難事故によって人を死亡させたり傷害を負わせた場合には、業務上過失致死傷罪に問われる可能性もあります。(刑法第211条参照)
行政責任
さらに、海難審判庁による行政処分を受ける可能性もあります。
海難事故の将来的な発生を未然に防止するなど行政目的のために、海難事故を起こした当事者は以下のような行政上の責任(行政責任)を負う可能性があるのです。
- 免許の取り消し
- 業務の停止
- 戒告
重大な事故では海難審判がおこなわれます。海難審判については本記事内「海難審判について」にてくわしく解説しているのであわせてお読みください。
海難事故の示談や民事裁判について
海難事故の損害賠償請求は示談や民事裁判といった方法がとられます。示談交渉の注意点や民事裁判の流れをみていきましょう。
海難事故の示談交渉
衝突などの海難事故を起こした船舶が日本籍船である場合には、日本の保険に加入している可能性が高いため、保険会社同士の話し合いにより示談交渉が進むことが多いです。
そこで、事故の態様や被害の程度が軽微な場合は、保険会社同士の話し合いでスムーズに解決する場合が多いでしょう。
示談交渉は双方の当事者の損害賠償額と過失割合について話し合いで取り決めを行い、相手方の損害額について自己の過失割合に対応する賠償金を支払うことになります。
双方の損害賠償請求額について相殺を行い、差額分を支払うということが一般的でしょう。示談交渉がまとまらない場合には裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することになります。
損害賠償請求額に関する注意
保険会社は、基本的に保険会社独自の算定ルールで金額を提示してきます。その金額が常に正しいとは限りません。
とくに死亡事故や重大な後遺障害が残るような事故では損害賠償金額が高額になりやすいぶん、保険会社は少しでも支出を抑えたいと考え、低い金額提示をしてくる可能性もあるのです。
たとえば、死亡事故であれば2,000万円から2,800万円が慰謝料相場とされています。あるいは後遺症が残った場合も、部位や程度によって110万円から2,800万円の慰謝料相場とされているものです。
このほか海難事故によって治療を受けた期間に応じて入通院慰謝料が認められるなど、損害の内容に応じた適切な請求が認められます。
こうした慰謝料の算定は、海難事故にくわしい弁護士のみならず、交通事故の損害賠償請求にくわしい弁護士に相談することで、ある程度見積もりを取ることも可能です。
海難事故についても対応可能かどうか、まずは法律事務所に確認を取ってみてください。
海難事故の民事裁判
示談交渉での解決が難しい場合、民事裁判によって損害賠償請求することもありえます。
とくに相手方と過失で争いがあったり、請求額が高額であったりすると、示談交渉での解決が難しい傾向にあるのです。
民事裁判の大まかな流れを示します。
民事裁判の大まかな流れ
- 証拠収集
- 弁護士の選任
- 訴状の提出
- 裁判
証拠収集
まず、事故に関する証拠を集める必要があります。以下のようなものが該当します。
- 事故現場の写真や動画
- ご家族の死亡診断書
- 船会社の運航記録
- 目撃者の証言
- 専門家による鑑定書など
なお、弁護士の選任によって証拠集めのサポートを受けることも可能です。そのためすべての資料を本人や家族だけでそろえようとする必要はありません。
弁護士の選任
民事訴訟は専門的な知識と経験が必要となるため、弁護士の選任が重要です。
- 事故の損害賠償請求経験が豊富な弁護士であること
- 費用について明確に説明してくれる弁護士であること
- 信頼できる弁護士であること
実際に法律相談で弁護士と話をしてみることのほか、ホームページで弁護士の得意とする分野を確認したり、解決実績をチェックしてみたりすることも有効な対策といえます。
法律相談は一か所に絞る必要はありませんので、いろいろな弁護士から意見を聞いてみることもおすすめです。
訴状の提出
弁護士を選任したら、訴状を裁判所に提出します。訴状には、原告(被害者本人または遺族)、被告(船長、船会社等)、請求内容(慰謝料、逸失利益、治療費などの損害賠償請求額)などを記載します。
同時に、損害賠償請求額の根拠がわかる算定資料などの資料も併せて裁判所へ提出しましょう。
裁判
訴状が受理されると、裁判所の日程で裁判が行われます。裁判では、原告と被告それぞれが証拠を提出して主張を行います。裁判官は、双方の主張と証拠に基づいて判決を言い渡す流れです。
和解成立で裁判が終了することもある
なお、審理が進んでくると、裁判官から和解を促されることもあります。
これは「裁判上の和解」のことで、裁判所が示す和解案に対して、原告・被告両方が合意すると成立します。裁判上の和解には判決と同じ効力があるとされており、和解が成立すればその時点で裁判は終了となるのです。
和解案は裁判官の所感によるため、原告(被害者)の主張が大筋認められる内容もあれば、そうでないときがあります。
また双方の一定の譲歩のうえで成立しうるものなので、必ずしも和解に至るとは限りません。
判決・控訴
審理の結果、裁判官が判決を言い渡します。これは原告の請求を満額認める場合もあれば、被告側に過失がないとして訴えが退けられることもあるものです。
判決に納得できない場合は、原告・被告いずれも控訴することができます。控訴とは、高等裁判所に上訴し、地裁判の判決の誤りを正してもらう手続きです。
こうして判決は一度出ても決まるわけでなく、控訴があればやりなおしになりますので、長期にわたる可能性があります。
このように裁判には時間も費用もかかります。民事訴訟を起こすかどうかは、依頼した弁護士とともに慎重な検討が必要です。
判例|漁港内での漁船同士の衝突事故
漁港内において、未明に無灯火で操船していた漁船に対し、航行中の漁船が後方から衝突した事故でした。これにより1名の死者が出たということで、損害賠償請求の訴訟を起こしたのです。
原告の船は、事故当時の法定灯火であるマスト灯、船尾灯およびマスト灯にかわる白色全周灯を備えていませんでした。
当事者間では、原告の機関室に備え付けられた作業灯の明かりが外部に漏れていたかという点に争いがありました。
裁判所は原告船の船尾方向約100メートルの地点において、被告側が原告船の作業の明かりや薄い船影を認識していたこと、漁港内を危険な速度で被告が走行していたことを、事故後の救護義務を怠ったことなどを指摘したのです。
死亡慰謝料2,400万円、逸失利益約937万円(所得分)、約334万円(年金分)などの損害賠償を認めたのです。もっとも、原告にも一定の過失はあるとして過失割合を原告7:被告3としました。
この判例は、和歌山地方裁判所平成26年4月11日判決の損害賠償請求事件より抜粋しています。
ポイント
この裁判では、被告側の前方注視義務、レーダーによる探索義務、サーチライトによる探索義務、救護義務など様々な義務の違反が争点となりました。
裁判での争点は一つとは限りません。損害賠償請求にくわしい弁護士であれば、どういった義務を相手に問えるのか、一つずつ検討して示談交渉・裁判に向けた準備をおこなえます。
判例|モーターボートのスクリューとの接触事故
この事故は、ウェイクボードを終え、被告のモーターボートに乗るために船尾のはしごを登り始めたところで船舶が急発進し、バランスを崩した被害者の右足が海中でスクリューに接触した事故でした。
被害者は右足挫滅創、足根骨骨折、屈筋腱・神経損傷のケガを負い、右足関節機能障害で12級7号、右足母趾中足指節関節の機能障害で12級12号、神経症状で14級9号の後遺障害が残ったのです。
相手方とは入院費や入通院慰謝料、後遺障害慰謝料や逸失利益など多くの争点がありました。
裁判所は一部の後遺障害については原告の主張を認め、入通院慰謝料170万円(ただし請求は340万円)、後遺障害慰謝料280万円、後遺障害逸失利益約1,376万円などの支払いを被告に命じました。
この判例は、大阪地方裁判所平成30年2月21日判決の損害賠償請求事件より抜粋しています。
ポイント
損害賠償請求額は、裁判を起こしたからといって満額請求が認められるわけではありません。しかし、相手方との争点が多い場合には示談交渉での解決は難しいので、裁判での解決を目指すことになるでしょう。
海難審判について
海難事故による損害額が高額にのぼる場合には簡単に示談交渉ができない場合もあるでしょう。
そのような場合には、以下で説明する海難審判による判断を待って話し合いを行うことも考えられます。
海難審判とはどんなものか
海難審判とは国土交通省が管轄する海難審判所による審判のことをいいます。
海難審判の対象となる海難は、「船舶の運用に関連した船舶または船舶以外の施設の損傷」、「船舶の構造・施設または運用に関連した人の死傷」、「船舶の安全または運航の阻害」です。
海難審判は重大な海難について、海技士・小型船舶操縦士・水先人に対する懲戒を行うために調査・審判を行います。ここでいう重大な海難とは以下のものがあてはまります。
重大な海難とは?
- 旅客のうち死亡者もしくは行方不明者または2人以上の重傷者が発生
- 5人以上の死亡者または行方不明者が発生
- 火災または爆発による運航不能となった など
海難審判の流れ
海難審判や、それに続く裁判の流れは以下のとおりです。
- 理事官による調査
理事官は海難を認知すると直ちに調査を行い、故意・過失があると認める関係者について審判開始の申立てを行う。 - 審判開始の申立て
理事官が海難審判所に審判開始の申立てを行う。 - 審判
海難審判は公開され、審判官と書記官が列席し、理事官立ち会いで執り行われる。当事者とそれを補佐する補佐人が出廷して口頭弁論で行われる。 - 裁決
受審人に故意または過失があると認められた場合には裁決により懲戒処分が判断される。 - 執行
審判の執行としては「免許の取り消し」「業務の停止」「戒告」がなされる。
なお、海難審判所の裁決に不服がある場合には、東京高等裁判所に対して裁決取消訴訟を提起することになります。この取消訴訟は裁決の言渡しの翌日から30日以内に提起しなければなりません。
海難事故に遭った場合には弁護士に依頼すべき
海難事故が発生した場合には、すぐに弁護士に相談すべきである点を説明します。
示談交渉・賠償請求を代理してくれる
弁護士であれば、常日頃から多くの損害賠償請求事件にかかわり、依頼者の利益を最大化できるように交渉することを専門的に行っています。
保険会社は自社が取り決めた基準にもとづいて示談額を提示してくることがありますが、裁判所が認める基準よりも低い額での示談となることも多いです。
そして、海難事故は責任の内容や過失割合についても通常の交通事故などとは異なり、専門的な知識を有していなければ適切な主張・反論ができないことがあります。
そこで、海難事故に精通している弁護士に示談交渉を任せることで適時に適切な主張・反論、証拠の作成・提出を行ってくれますので依頼者の納得できる和解内容となることが期待できるでしょう。
海難審判においても代理人となれる
海難審判において当事者を代理することができるのは「海事補佐人」か「弁護士」です。
海事補佐人は弁護士と異なり登録資格制度ではありません。そのため、海難審判に精通し、法的能力が保障されている法律の専門家である弁護士に依頼することがおすすめです。
弁護士は日々裁判・審判に対応していますので手続当事者の法的利益を実現することが期待できるでしょう。
また、海難事故が起こると海上保安庁や運輸安全委員会によって調査が行われます。これらの調査で作成された報告書は後の海難審判においても重要な資料となります。
そこで誤った事実認定がなされないためにも、海難事故が発生した当所から弁護士に依頼して手続に関する法的なサポートを受けるべきでしょう。
裁判でも訴訟代理人として活動できる
弁護士であれば、損害賠償請求訴訟や、海難審判に不服がある場合にそれに引き続く裁決取消訴訟のみならず、刑事事件においても訴訟代理人として訴訟活動を行うことができます。
すなわち、弁護士であれば手続の当初から最後まで一貫して当事者の代理人として活動することができるので、適切な証拠の提出や有利な事実の認定のために動くことができるのです。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了