整体で怪我を負ったら訴訟すべき?判例から損害賠償請求の可能性を検証
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手技による医療類似行為のなかで法的な資格制度がない「整体」や「カイロプラクティック」などによる健康被害が相次いで起きています。
「肩こりを改善したくて整体に行ったのに、痛みが悪化した」
「腰痛でマッサージを受けたら骨折した」
整体などを受けて、症状が悪化した・骨折などの傷害が発生した・後遺障害が残った・死亡したような場合、整体院や整体師に対して損害賠償請求が可能なケースがあります。では、どういったケースで損害賠償請求できるのか判断されるのでしょうか。
本記事では、実際に起きた整体事故の訴訟事例を紹介し、整体院や整体師にどのような責任を問うことができるのか解説しています。また、訴訟するにあたって必要な知識や、訴訟までの流れも簡単に解説しています。
整体で起きた事故の訴訟事例
整体やカイロプラクティックなど、医業類似行為に関連した事故の判例を紹介します。
整体の施術で頚椎椎間板ヘルニアなどの傷害を負った事例
フィットネスサロンに付属するメディカルクラブで、背から首にかけて整体アジャストメント・頸椎整体術様手技という施術を受けた被害者は、頸椎椎間板ヘルニア・不全頸椎損傷の傷害を受けたとして、メディカルクラブの経営会社に対する損害賠償を求めた事例を紹介します。(東京地方裁判所 平成13年(ワ)第5363号 損害賠償請求事件 平成15年3月20日)
この事故で被害者は、裁判所に後遺障害等級第9級の障害が残ったと認められ、治療費をはじめ、後遺障害による逸失利益や慰謝料などの損害が認められています。
ただし、被害者は事故後、医師から治療の必要があると説明されていたにもかかわらず、出勤や海外出張を行い、仕事を優先して治療を先延ばしにしていました。そのため、傷害が拡大したと推察されることから、裁判所は3割程度の減額事由があったとも判断しています。
金額 | |
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治療関係費 | 約46万円 |
休業損害 | 約107万円 |
入通院慰謝料 | 70万円 |
後遺障害逸失利益 | 約3,801万円 |
後遺障害慰謝料 | 900万円 |
小計 | 約4,924万円 |
減額事由、弁護士費用など最終合計 | 約3,797万円 |
カイロプラクティックで神経症状の後遺症が残った事例
カイロプラクティックの施術を受けた被害者が、頸椎を損傷したことで後遺障害が残ったとして、施設に対する損害賠償を求めた事例を紹介します。(東京地方裁判所 平成25年(ワ)第30852号 損害賠償請求事件 平成28年11月9日)
この事故で被害者は後遺障害等級第8級相当の障害が残ったと主張していましたが、裁判所は後遺障害第12級の神経症状を認め、後遺障害による逸失利益と慰謝料などの損害を認めました。
施設側は被害者がそもそも施術を受けた事実はない、強い力を身体に加えるような手技をしたことはないなどと主張していましたが、被害者が施術を受けて損害を被ったという主張が一部認められた形となります。
金額 | |
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後遺障害慰謝料 | 350万円 |
後遺障害逸失利益 | 約860万円 |
弁護士費用 | 約121万円 |
合計 | 約1,331万円 |
整体事故の責任を訴訟で追及するには?
整体で何らかの健康被害を受けたことに関する訴訟をする場合、誰にどんな責任があったのかを明らかにしなければなりません。整体事故では、実際に施術した整体師やその運営会社などに対して責任を追及できるか整理しておく必要があります。
どのような場合であれば責任を追及できるのかみていきましょう。
整体師などに対する責任の追及
施術を行った整体師やマッサージ師に対しては、「不法行為責任」や「債務不履行」にもとづいて責任を追及できる可能性があります。
不法行為責任とは、故意または過失によって権利や法律上の利益を侵害された場合に損害賠償責任を追及できるというものです。
また、整体などは施術料をもらうことで、サービスを提供しています。施術では人の身体を触ったり動かしたりするので、事故が起きないように安全に配慮する義務があります。このような安全に配慮した施術を提供する義務があるにもかかわらず、権利や法律上の利益を侵害された場合には債務不履行にもとづく損害賠償請求が可能となります。
たとえば、もともと首に痛みを抱えていた患者に強いマッサージやストレッチをすると、傷害を負わせる危険性があることを整体師が認識していたとしましょう。整体師は、患者の状態に見合う施術を行う義務があります。それにもかかわらず、無理に強い力で施術をつづけて傷害を負わせたのであれば、整体師に法的責任を問える可能性があるのです。
整体の運営会社に対する責任の追及
整体を運営する会社に対しては、「使用者責任」にもとづいて責任を追及できる可能性があります。
使用者責任とは、業務中に会社が使用する従業員が不法行為を行ったことで、第三者に損害を与えてしまった場合、会社も損害賠償責任を負う必要があるというものです。会社は雇用する従業員の労働によって利益を得ているので、従業員が業務に絡んで起こした事故による損害は会社が賠償する義務があります。
整体での健康被害発生から訴訟による解決までの流れ
整体で健康被害を受けたら、まずは適切な治療を受けましょう。適切な治療を受けているかどうかは、補償を請求する際にも影響してきます。
整体でどのような被害を受けたのか損害を洗い出し、示談交渉による話し合いや訴訟を提起して損害賠償請求する流れとなるのが一般的です。
(1)整形外科など医療機関で治療を受ける
整体の施術を受けた後に痛みを感じるなどした場合は、すみやかに整形外科などの医療機関を受診して、治療を受けるようにしましょう。
痛みが出てから時間が経って病院にいくと、施術と痛みに関係がないと判断されて、治療費や慰謝料等適切な補償を受けとれなくなる可能性が高まるのです。
また、自然に治癒が進むことでレントゲンなどの画像所見で怪我を確認しにくくなります。治癒すること自体は喜ばしいことですが、痛みと施術の因果関係が証明しにくくなってしまうので、すみやかに検査をうけるようにしてください。
何よりも、治療を受ける機会が遅れて治りが遅くなったり、悪化したりする可能性があります。まずは、怪我の治療に専念することが大切です。
(2)整体と被害の因果関係を示す証拠を集める
怪我が生じた原因として、整体の施術によるものであることを示す客観的証拠が必要になります。
- 整体の予約メール
- 整体院のカルテ
- 整体の施術費用を支払ったレシート
- 整体後に治療を受けた医師の診断書
など
客観的証拠が揃うことで、整体と被害との因果関係を適切に証明することができます。
(3)事故で生じた損害を計算する
整体事故で生じた損害は多岐にわたります。事案によって生じる損害は異なるので、ここでは主に請求されることが多い損害項目について紹介します。
主な損害賠償項目
- 治療関係費用(治療費・通院交通費・入通院付添費・入院雑費)
- 休業損害
- 逸失利益
- 慰謝料(入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料)
など
損害に見合った補償をうけとるためには、どのような損害が発生したのか漏れなく把握できているか、その損害を適切に算定できているかという点が大切です。
(4)示談による話し合いで損害賠償を請求する
通常、訴訟を行う前には、施術した整体師や整体院と話し合いによる解決を図るケースが多いです。話し合いによる解決を図る方法のことを「示談」といいます。
示談では、事故に関する損害がどのくらい発生したのか、その損害を回復するにはどのくらいの賠償金が必要なのか、どのような責任が誰にどのくらいあったのかなどが話し合われます。
話し合いの内容に双方が納得したら、そこで示談は成立します。示談は双方が合意したら成立するものなので、訴訟と比べるとスムーズに解決に至る方法だといえます。
仮に、示談で話がまとまらなかった場合、「調停」などの手続きによって解決を図ることもあるでしょう。
(5)示談が決裂したら訴訟を検討する
示談や調停などをつづけても決裂する場合、訴訟に進むことになるでしょう。
訴訟は、裁判所が第三者的な立場で争いごとに介入して決着を図る方法です。裁判官が双方の主張を聞いたり、証拠を調べたりすることで、判決を言い渡します。示談と違って、判決は双方の合意は不要です。
ただし、多くのケースでは判決が出される前に、裁判所から和解案が提示され、双方が和解案に納得すればそこで訴訟が終了することもあるでしょう。
整体事故の訴訟で必要な事前知識
訴訟を検討する前に、訴訟の流れと注意点をおさえておきましょう。
訴訟の流れを知ろう
実際に訴訟を行うことになった場合、どのような流れで進むのかわからないと不安だと思います。簡単に訴訟の流れをおさえておきましょう。
- 訴状を裁判所に提出する
- 裁判所から被告に訴状が送られる
- 口頭弁論期日が指定されて、裁判所に呼び出される
- 被告の答弁書が裁判所から届く
- 裁判所で審理が行われ判決がでる
最終的な着地点としては判決だけでなく、和解による解決で終了することも多くなっています。
過失の判断がむずかしいことを認識する
施術と傷害の因果関係を証明する際、施術前に痛みがなかったが施術後に骨折などが生じたようなケースでは、その証明が比較的簡単だと考えられます。
一方、施術前から痛みがあり、施術後に痛みが悪化したり、改善されなかったというケースでは、施術との因果関係を証明することがむずかしいと言わざるを得ません。
訴訟では、訴える側(原告)が訴えられる側(被告)に責任があったことを証明しなければなりません。どのような証拠や資料があれば、被告の責任を証明できるのかについては、法律の専門知識をもつ弁護士に相談してみることをおすすめします。
整体トラブルで訴訟等を検討するなら弁護士に相談しよう
整体事故で訴訟等を検討している方は、まず弁護士相談からはじめてみましょう。
損害賠償請求の問題は弁護士に相談
訴訟等による損害賠償請求を検討するなら弁護士に一度、相談してみることをおすすめします。
弁護士であれば、どのような可能性が今後見込まれるのかお話しできます。
- 慰謝料など賠償金がどのくらい見込めるのか分かる
- 訴訟可能なケースか判断できる
- 訴訟の手続きを一任できる
訴訟は訴えれば必ず勝てる訳ではありません。訴訟をすべき案件なのか、示談で調整すべき案件なのか、そもそも損害賠償を請求できる案件なのか、法律家である弁護士の観点から見解を得ましょう。
無料法律相談のご案内
整体を受けたことで重い後遺障害が残ったり、ご家族が亡くなられた場合は、アトム法律事務所の弁護士による無料法律相談をご活用ください。
今後どのような対応をとっていくべきなのか弁護士に相談することができます。特に、因果関係が明白な場合は損害賠償請求が可能なケースもありますので、まずは対応可能なケースが確認してみてください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了