咬傷事故で飼い主に慰謝料を請求できる?ドッグランで犬に襲われた判例も紹介
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近年のペットブームによって、犬だけでなく猫やカメなどさまざまなペットが飼われています。そんななか、ペットに手を出したり、配達や通行中に襲われたりと、飼い主以外が事故に遭うケースも多いです。
環境省の統計資料によると、平成28年度に起きた犬による咬傷事故の件数は4,341件と講評しています。年々、咬傷事故の件数は減ってきているとはいえ、多くの方が犬に噛まれて負傷しているようです。
他人が飼育する犬に噛まれたり、ペットに襲われたりして被害を受けた場合、被害者は慰謝料をはじめとした損害賠償金を獲得できる可能性があります。
今回は、咬傷事故の裁判事例や適正な金額の慰謝料相場、事故に遭った時に取るべき対応について解説します。
目次
咬傷事故で飼い主に慰謝料を請求できる?
結論からいうと、咬傷事故の被害者は飼い主に慰謝料を請求することが可能です。
飼い主はペットを飼うことについて法的義務を負っています。ペットが他人に損害を与えた時は、飼い主が監督義務や注意義務を怠ったことが原因の場合が多いです。
具体的に飼い主はどのような義務を負うのか、裁判事例も合わせて解説します。
咬傷事故では民法の占有責任を問える余地がある
咬傷事故で慰謝料を請求するには、ペットの飼い主による違法行為があったことを証明しなくてはいけません。
咬傷事故の場合、民法718条の「占有責任」が問題になります。条文を確認してみましょう。
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。
民法718条
ここでいう「占有者」は、所有者とは意味が異なるので注意が必要です。飼い主以外にも、頼まれて散歩していた友人や知人に対して責任を問える可能性があります。
民法718条を根拠に、飼い主や占有者に対して民事責任や刑事責任を問うことが可能です。
民事責任とは一言でいえば、損害賠償責任を差しています。治療費や慰謝料の他、仕事ができなくなったことで生じた休業損害、将来的に減収が見込まれる収入なども請求可能です。重症で身体に障害が残ってしまった時は、後遺障害慰謝料を請求できる余地もあるでしょう。
また、過失傷害罪や傷害罪、殺人未遂罪などの刑事責任を問える可能性もあります。占有者がリードをつけずに散歩していたり、檻の扉を開けっ放しにしていたりするなどの状況なら、過失傷害罪が適用される場合があります。
飼い主が訪問者を攻撃する意思を持ち、犬やカメなどをけしかけた時は、たとえいたずらのつもりでも傷害罪や殺人未遂罪に該当する可能性もあるのです。
もっとも、咬傷事故の被害者が主体的に問えるのは民事責任となります。
飼い主が相当な注意をもち管理していた時は責任を問えない
民法718条の但し書きには、「動物の種類や性質に応じて、相当な注意をもって管理していたならば、義務を免れる」といった内容が書かれています。つまり、飼っていた動物が他人に損害を与えたとしても、飼い主が相当な注意をもって管理していたと認められれば、被害者は損害賠償金を請求できないのです。
「相当な注意」とは、異常事態に対処すべき程度の義務ではなく、通常有すべき義務と解釈されています。抽象的な表現なので、この説明だけではわかりづらいと感じる方は多いでしょう。
ドッグランで起きたある事故では飼い主の損害賠償責任を否定
実際の裁判では飼い主の占有責任を認めるケースが大半で、損害賠償請求が却下されることは稀です。損害賠償請求を否定した珍しい裁判事例の1つとして、2007年3月30日東京地裁判決を紹介します。
リードをつける必要がないドッグランにおいて、中央広場を横切って小走りで反対側へ向かっていた人が、日本犬と衝突して骨折してしまった事案です。裁判所は「犬が走り回る広場に人が出入りすることは通常考えにくく、異常な事態に該当する」と判断し、飼い主の損害賠償責任を否定しています。
本事例は被害者の過失が大きかったため飼い主は免責されましたが、基本的に裁判所は飼い主に重度な責任を認める傾向があります。
咬傷事故で請求できる慰謝料相場は?
咬傷事故で飼い主に請求できるお金は、治療費・入通院交通費・休業損害・逸失利益・慰謝料など多岐にわたります。その中でも、慰謝料は「精神的苦痛に対して支払われる補償」なので、具体的な金額をイメージし辛いのではないでしょうか。
慰謝料には適正額といえる相場がありますので、確認していきましょう。
慰謝料の種類別に相場を解説
慰謝料の相場について解説する前に、慰謝料には3つの種類があることをお伝えしておきます。
- 入通院慰謝料
治療で感じた精神的苦痛に対する補償 - 後遺障害慰謝料
後遺障害が残ったことで感じた精神的苦痛に対する補償 - 死亡慰謝料
死亡したことで感じた精神的苦痛に対する補償
それでは、慰謝料の相場をそれぞれ確認していきましょう。
入通院慰謝料の相場
入通院慰謝料の相場は、入院や通院にかかった治療期間に応じて決まります。治療期間を指標とし、下記の相場表から具体的な金額がわかります。
入院なし | 入院1月 | 入院3月 | |
---|---|---|---|
通院なし | 0万円 | 53万円 | 145万円 |
通院1月 | 28万円 | 77万円 | 162万円 |
通院3月 | 73万円 | 115万円 | 188万円 |
※ 横軸は入院期間、縦軸は通院期間を表す
※ 30日単位で1月となる
※ 本相場表は他覚的所見のないむち打ち症・軽い打撲・軽い挫創の場合を含まない
相場表の見方は、横軸の入院期間と縦軸の通院期間が交わる箇所を確認することで入通院慰謝料の金額がわかります。たとえば、入院1月で通院3月の治療期間を要した場合、115万円が入通院慰謝料の適正な相場であるといえるのです。
ただし、怪我の症状が軽傷の場合は、相場表の金額よりも低額になる点には注意してください。反対に、繰り返し手術を受ける必要があったり、生死が危ぶまれる状況が続いていたりした場合には、相場表の金額より高額になる可能性もあるでしょう。
後遺障害慰謝料の相場
後遺障害慰謝料の相場は、後遺症が残った部位や症状で分類した後遺障害等級に応じて決まります。後遺障害等級を指標とし、下記の相場表から具体的な金額がわかります。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
後遺障害等級は14段階に分類されており、障害の程度が最も重いのが第1級で、最も軽いのが第14級となっています。
たとえば、後遺障害等級が第13級なら後遺障害慰謝料は180万円ですが、第14級なら110万円です。等級が1つ違うだけでも金額に違いがでることがわかります。
後遺障害等級ごとに慰謝料の金額が変わってくるので、ご自身が負われた障害の状況を適切に反映した等級となっていることを主張していく必要があるでしょう。どの等級に該当する可能性があるのかは、弁護士に相談してアドバイスをもらうことをおすすめします。
死亡慰謝料の相場
死亡慰謝料の相場は、亡くなった方の家庭内での立場に応じて決まります。家庭内での立場を指標とし、下記の相場表から具体的な金額がわかります。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他※ | 2,000万円~2,500万円 |
※ 独身の男女、子ども、幼児など
本相場表の金額は、亡くなった方ご本人に対する慰謝料と近親者に対する慰謝料を合計したものと解されています。
慰謝料の計算は弁護士に依頼しよう
先述した慰謝料相場を参考にすれば、概ね適正な金額の慰謝料が計算できます。もっとも、慰謝料に一定の適正相場が決まってるとはいえ、事故個別の状況を丁寧に考慮して金額を決めていく必要があるでしょう。
事故個別の状況を考慮すれば、慰謝料が増額される可能性があります。
慰謝料増額のために、事故個別の状況を単純に主張として用いても、簡単に増額されるとは限りません。法的根拠に基づいた主張を行っていく必要があるでしょう。
弁護士であれば、法的根拠に基づいて慰謝料の計算を行い、さらに慰謝料増額の主張が行えるでしょう。
事故個別の状況を考慮した慰謝料を請求していきたいなら、まずは弁護士に相談してみましょう。
慰謝料など損害賠償が認められた実際の裁判事例
咬傷事故で獲得できる賠償額は事例によってまちまちで、数万円程度~1千万円を超えるものまで幅があります。実際の裁判事例を2つ紹介するので、参考にしてください。
ドッグランで大型犬に衝突されて転倒した
ドッグラン内で走り回っていた大型犬が突進して衝突してきたため、被害者が転倒して負傷した事案では、飼い主に約104万円の支払いが命じられています。被害者は転倒した時に頭を打ち、頸椎捻挫・頭部打撲などを負いました。
裁判所は、「飼い主が飼い犬の動向を十分に監視していたとは認めがたい」と指摘しています。さらに、飼い犬に声をかけたり、制止するなど一切しなかったことから、飼い主の過失は大きいと判断しました。
もっとも、被害者としても「動物である以上は不測の事態が生じ得ることがあるにもかかわらず、避難するなどの対策をとらなかった」とし、裁判所は被害者に2割の過失があったとも判断しています。そのため、2割分の過失相殺が行われ、損害額が減額されています。(神戸地方裁判所 平成27年(ワ)第1105号 損害賠償請求事件 平成28年12月26日)
リード無しの大型犬が女性にとびかかった
大阪府茨木市でリードをつけていない大型犬が、飼い犬を散歩中の女性にとびかかった事案では、飼い主に200万円の支払いが命じられています。被害者は腕や背中、お尻など2週間にわたり治療が必要な傷を負いました。11箇所もの傷跡が残り、事故の3日後に予定されていた就職面接にも辞退せざるを余儀なくされました。
裁判所は「飼い主はリードをつけるという基本的な義務を怠った」と指摘し、「被害者が抱いた強い恐怖心に対する補償のみならず、傷跡の除去も必要」と述べ、慰謝料や治療費などの支払いを命じています。(大阪地方裁判所 平成28年(ワ)第9463号 損害賠償請求事件 平成30年3月28日)
咬傷事故に遭った時に取るべき適切な手順
突然、犬に噛まれたら誰しもパニックに陥ると想定されます。しかし、初動対応を誤ってしまうと、損害賠償金を獲得できなくなる可能性もあります。
事故に遭った際に取るべき適切な手順は次の通りです。
(1)相手方の連絡先を確認する
痛みや恐怖で動揺していたとしても、飼い主の連絡先確認は忘れずに行いましょう。示談や慰謝料などの交渉で必要になるためです。
責任から逃れるため、ウソの連絡先を教えられるかもしれません。教えられた電話番号にはその場で連絡を取り、きちんと通じるか確かめることをおすすめします。
飼い主に対しては、飼い犬に狂犬病のワクチンを打たせているか確認を取ることも重要です。
(2)病院で治療を受ける
見た目上はたいした傷でなくても、感染症の恐れがあるため、病院には行きましょう。病院では治療の他、破傷風の予防接種などを実施します。後に治療費の請求に必要となるため、診断書や領収書の保存を忘れずに行いましょう。
また、治療費を支払う際は、保険が適用される余地があります。仕事中に起きたのなら労災保険が、それ以外なら健康保険が適用されます。ペット保険や損害賠償保険に加入しているなら、そちらの保険が使えるかもしれません。
どの保険を利用できるか、保険会社や健康保険組合に連絡を取り、指示を仰げると好ましいです。
(3)示談交渉を開始する
治療が済んだら、相手方に損害賠償金を請求する段階に移行します。領収書や診断書などの証拠書類を提示し、利用した保険も告げ、具体的な希望金額を伝えます。
示談交渉で相手と和解できたら、必ず書面で合意内容を残しておきましょう。書面にきちんと記載されていれば、後のトラブルを防げます。
咬傷事故で弁護士に慰謝料請求を依頼するメリット
咬傷事故で飼い主と示談を行う際は、弁護士に依頼するとメリットが大きいです。手続の負担が楽になるだけでなく、個別具体的なケースに即した適切な賠償額を提示してもらえます。
ここでは咬傷事故で慰謝料を弁護士に依頼するメリットを詳しく紹介します。
事故後の手続きにおける負担が楽になる
ケガの痛みや精神的ショックもある中で、自ら飼い主と交渉するのは大変です。弁護士に依頼すれば、その後の飼い主とのやり取りをすべて任せられるので、被害者は治療に専念できます。
適切な慰謝料額を算定してもらえる
自分で賠償額を算出すると、本来もらえる金額より低めに見積もってしまう可能性もあります。法律に関する知識が不足しており、請求可能な項目に漏れがある場合があるためです。
弁護士は今までの経験から、賠償できる項目をすべて洗い出してくれます。
過失割合の判定で有利になる可能性が高まる
被害者側にも事故の原因があると、過失相殺によって賠償金が減額されることもあります。減額される金額の割合を示したものが、過失割合です。
たとえば、事故の原因の50%が被害者にもあると認定されると、実際に受け取れる賠償金は認容額の半分になってしまいます。弁護士は事故の状況を正確に見極め、適切な過失割合を提示してくれます。想定していたよりも、少ない割合で済むかもしれません。
咬傷事故の慰謝料請求は弁護士に相談
他人の犬に噛まれて重い後遺障害が残ったり、他人のペットに襲われて頭を打って亡くなられてしまったような場合は、アトム法律事務所の弁護士相談をご活用ください。
適切な金額の慰謝料といった補償を得たくても、何からはじめたらいいかわからないという方も多いでしょう。弁護士に相談すれば、これからどういった対応をすべきかのアドバイスが受けられます。
無料法律相談ご希望される方はこちら
アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了