爆発事故による賠償はどうなる?問題となる責任の内容や所在を解説
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2020年7月に福島県郡山市で起きた飲食店の爆発事故は記憶に新しいところです。また、2022年になってからは、宮崎県延岡市の工場でも死者をともなう爆発事故が発生しています。
爆発事故に巻き込まれると大怪我を負う可能性が高く、最悪の場合だと死に至るケースもあります。このような場合、被害者としては自己の被害を回復するために、然るべき相手に対して損害賠償請求をしたいと考えるのが自然でしょう。
そのためには、爆発事故の原因に応じて損害賠償請求できる相手を見極めるとともに、適切な損害額などについて知っておくことが大切です。
今回は、爆発事故による損害賠償についてわかりやすく解説します。
目次
爆発事故の事例と賠償金の額
爆発事故は人の生命をも奪う凄惨な事故の一つだといえるでしょう。これまでにも、多数の死傷者を出した爆発事故が実際に起きています。
実際に起きた爆発事故の内容とともに、推測される賠償金についても確認していきましょう。
福知山花火大会で起きた露店爆発事故
2013年8月、京都府福知山市で行われた花火大会の会場で露店が爆発するという事故が発生しました。この事故により、花火見物客3名が死亡し、その他59名が重軽傷を負いました。
この爆発事故は、ガソリン携行缶の内圧が上昇していたことが原因となって発生したものと見られています。
露店爆発事故の賠償金は?
事故が発生したのは2013年8月ですが、そこから約5年後の2018年3月、花火大会の実行委員会が事故の死傷者57名すべてと示談交渉が成立したと発表しています。
賠償金の具体的な金額は明らかにされていませんが、被害の大きさからして、数十億円に及んだと考えても何ら不思議ではありません。
不動産業者で起きた爆発事故
2018年12月、不動産業者の店舗(札幌市内)が入居するビルで爆発事故が発生しました。幸い死者は出なかったものの、50名以上の人が重軽傷を負いました。
この爆発事故は、同店舗の従業員による除菌消臭スプレーの廃棄処理が原因となって発生したものとみられています。
不動産業者の爆発事故の賠償金は?
不動産業者で起きた爆発事故では、約50名の重傷者、物的被害が建物41棟、車両32台に及びました。
この事故で不動産業者が負担した賠償金は、被害者への賠償金と建物の復旧費用などを合わせて10億円を超える金額となっています。
郡山市にある飲食店で起きた爆発事故
2020年7月、郡山の市街地内に所在する飲食店において大きな爆発事故が発生しました。この事故により、男性1名が死亡し、その他約20名が重軽傷を負いました。
この事故は、配管の腐食部分からガス漏れを起こして店内に充満したことが爆発を引き起こした原因だと見られています。もっとも、未だはっきりとした原因はわからず、その究明が続けられています。
郡山飲食店の爆発事故の賠償金は?
郡山市は2021年12月27日に、飲食店の運営会社など6社に対して損害賠償を求める訴訟を起こしたと発表しています。この訴訟で請求している金額は約600万円となっています。
なぜ、これほど低額かというと、この訴訟で郡山市が賠償を求めているのは、被害者に対する災害見舞金や避難所の運営費用、周辺の清掃費用だからです。
事故発生から約1年半が経った現在でも、原因究明が続いているため、責任の所在を確定できずにいます。
なお、郡山消防本部によれば、人的被害のほか物的被害が周辺の建物232棟、車両57台とされており、これらを含めた損害額は約12億円に上るようです。
爆発事故により発生する責任の内容
爆発事故は甚大な被害をもたらす可能性が高いです。
そのため、事故に遭遇して被害を受けた者は、事故を発生させる原因となった相手に対して責任追及をしていくのが一般的になっています。
爆発事故では、具体的に誰がどのような責任を負うことになるのでしょうか。
債務不履行にもとづく損害賠償責任
大学内で行われた実験に起因して爆発事故が発生した場合や、工場内で爆発事故が発生したような場合に問題となるのが、債務不履行にもとづく損害賠償責任です。
大学や企業は、学生や従業員に対して、「安全配慮義務」という義務を負っています。学生や従業員が安全・健康に学生生活や作業を行うことができるよう、大学や企業は配慮しなければなりません。
そのため、爆発事故の発生が予見できたような場合に、未然に事故を防止する措置を講じていなかったような場合は、大学や企業側に安全配慮義務違反があったと判断される可能性があります。
また、実験で扱う化学薬品の危険性やその実験手順を知らない学生に対して、何ら注意や説明を与えることなく実験させた結果、爆発事故が発生した場合には大学に安全配慮義務違反があったと認められる可能性が高いです。
この点は、工場で作業する作業員についても同じことが言えます。
安全配慮義務違反が認められれば、被害を受けた学生や作業員は、大学や企業に対して損害賠償責任を追及することが可能になるのです。
不法行為にもとづく損害賠償責任
福知山花火大会や郡山の飲食店で起きた事故のように、事故の原因を作出した者が被害者から見て第三者である場合には、不法行為にもとづく損害賠償責任が問題となります。
不法行為責任が成立するといえるためには、加害者に「故意または過失」が認められることが必要です。
この点、福知山花火大会を例にとって見てみると、野外で行われる花火大会には、主催者をはじめ露店出店者など多くの関係者が存在します。
各関係者は、それぞれの立場にもとづいて、花火大会が安全に行われるよう一定の注意義務を負っています。そのため、このような注意義務に違反すると「過失」があったと判断され、損害賠償責任を負う可能性があるのです。
また、郡山の飲食店を例にとってみると、飲食店では花火大会とは異なり、飲食店内で利用者が安全に飲食できるように、飲食店の施設や設備などの安全性を確保しなければなりません。
典型例としてあげられる、点検業者による定期点検を例に考えてみましょう。たとえば、定期点検を怠っていることが判明した場合には、飲食店や点検業者に「過失」もしくは「重過失」が認められる可能性が高く、その場合、飲食店や点検業者は損害賠償責任を負うことになります。
2021年12月、郡山市が飲食店をチェーン展開する本部のフランチャイザーやその加盟店であるフランチャイジーの店舗経営者、店舗改修工事の請負業者、建物所有者、ガス供給者、ガス管点検業者に対して提訴したことを公表しました。このことからわかるように、責任を負うことになる者は複数になることが一般的なのです。
爆発事故の賠償金項目と算定方法
爆発事故による被害の程度はさまざまです。そのため、支払われる賠償金は被害の程度によって異なってくるので、爆発事故だからいくらになると明言できるものではありません。
ただし、どのような事故でも、人的被害を被った場合に想定される賠償金の項目は存在します。賠償金の項目と算定方法をみていきましょう。
賠償金(1)治療関係費
治療関係費は、事故で負った怪我の治療に要した治療費・入院費用・入院雑費・付添費・通院交通費などのことです。
治療関係費は、実際に支払うことになった実費が対象となっています。
注意点としては、事故が発生してから完治あるいは症状固定するまでの期間に必要となった治療関係費しか請求できないことです。完治あるいは症状固定以降にかかった治療関係費は、賠償金として請求できません。
賠償金(2)慰謝料
慰謝料とは、事故によって被った精神的苦痛を慰めるために支払われる賠償金です。
事故によって被った精神的苦痛といっても、怪我を負ったものの完治したケースや障害が残ったケース、死亡してしまったケースなど幅が広いです。
そのため、慰謝料は「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3つの種類に分けられています。
それぞれ算定方法が異なりますので注意しましょう。
入通院慰謝料
事故によって負傷すると、医療機関に入院したり通院したりして治療を受ける必要があります。入通院慰謝料は、このような治療を受けることで感じた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
入通院慰謝料は、怪我の治療期間の長さを用いて算定します。
入通院慰謝料のおおよその金額がわかる相場表を用意しました。下表をご覧ください。
入院0月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
---|---|---|---|---|
通院0月 | 0 | 53 | 101 | 145 |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 |
3月 | 72 | 115 | 154 | 188 |
※ 単位:万円
※ 横軸は入院月数、縦軸は通院月数を示す
※ ひと月は30日
入通院慰謝料の相場は入院月数と通院月数に応じた金額があらかじめ決められているので、入院月数と通院月数が交わる箇所を確認すれば金額がわかります。
たとえば、入院1ヶ月、通院2ヶ月の治療を要した場合、入通院慰謝料の相場は98万円です。
もっとも、すべてのケースで相場表どおりの慰謝料になるとは限りません。状況に応じて、相場表の金額から増額されたり減額されたりする可能性があります。
増額されるケースとしては、生命に危険が及ぶ状況が長く続いたり、手術を複数回受ける必要があったなどが考えられるでしょう。減額されるケースとしては、怪我の程度が軽い場合などが考えられます。
また、入通院慰謝料は、事故が発生してから完治あるいは症状固定した日までの期間が対象です。
障害が残ることになり、症状固定日以降に感じた精神的苦痛については後述する後遺障害慰謝料として請求していくことになります。
後遺障害慰謝料
事故によって負傷し、治療を適切に受けたとしても何らかの障害が残る可能性があります。後遺障害慰謝料は、このような障害が残ったことで感じた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
ただし、後遺障害慰謝料は単に障害が残ったことだけで請求できるものではありません。残った障害が後遺障害等級に該当すると認められる場合に請求できる慰謝料なのです。
後遺障害慰謝料は、残存した障害の部位や程度に応じて分類された後遺障害等級から算定します。もっと簡単にいうと、後遺障害等級ごとに慰謝料の金額が決まっているのです。下表をご覧ください。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
※ 後遺障害等級は厚生労働省の「障害等級表」による
後遺障害等級は症状の部位や程度に応じて14段階に分けられており、数字が小さい等級ほど障害の程度は重く、数字が大きい等級ほど障害の程度は軽いとされています。
等級ごとに慰謝料の金額は変わるので、残った障害に見合った等級に該当するかが大切です。
死亡慰謝料
事故にあうと死亡する可能性があります。死亡慰謝料は、死亡したことで感じた精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
死亡慰謝料は、亡くなった方が家庭内でどのような立場をとっていたのかで算定されます。
家庭内の立場 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他※ | 2000~2500万円 |
※ 独身の男女、子ども、幼児など
死亡慰謝料の相場は、亡くなった本人に対する慰謝料と遺族に対する慰謝料を合計した金額として考えられているので注意してください。
賠償金(3)休業損害
休業損害とは、事故によって休業を余儀なくされて減収した分を補償するために支払われる賠償金です。
休業損害を算定するためには、「(事故前3ヶ月分の給与額÷出勤日数) × 休業日数」の計算式を用います。
また、休業損害は、事故が発生してから完治あるいは症状固定した日までの間に休業した日数が対象です。
障害が残ることになり、症状固定日以降にも仕事に影響が出る場合は、後述する後遺障害逸失利益として請求していくことになります。
賠償金(4)逸失利益
逸失利益とは、事故によって将来的に得られなくなることが予想される収入の減額分を補償するために支払われる賠償金です。
事故によって将来的に得られなくなる場合には、障害が残ったケースと死亡したケースに分けられます。
そのため、逸失利益は「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」に分類されています。
それぞれ算定方法が少し変わってくるので注意してください。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益を算定するためには、「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」の計算式を用います。
後遺障害逸失利益の計算式に登場する項目や、さらに詳しい計算方法については、関連記事『【後遺症の逸失利益】計算式と早見表で相場がわかる!具体的な計算シミュレーション』で解説しています。
死亡逸失利益
死亡逸失利益を算定するためには、「基礎収入 × (1 – 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数」の計算式を用います。
死亡逸失利益の計算式に登場する項目や、さらに詳しい計算方法については、関連記事『死亡事故の逸失利益|計算方法と職業ごとの具体例』で解説しています。
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また、慰謝料をはじめとした賠償金がどのくらいであれば適切な金額になっているのかなどについても話を聞くことができるでしょう。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了