エスカレーター事故の裁判|事例や損害賠償請求の相手と根拠を解説
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商業施設や駅などで、エスカレーターを日常的に利用する機会も多いと思います。
もっとも、エスカレーターの利用方法を誤ったり、エスカレーターそのものに欠陥などがあったりすると、大きな事故に発展する可能性があるでしょう。
実際に、過去には裁判にまで発展したエスカレーター事故が起きており、大怪我を負った被害者もいれば、命を落としてしまった方もいらっしゃいます。
エスカレーターで発生する事故には、さまざまな原因が考えられますが、事故の被害者やその遺族は、誰を相手にしてどのような責任を追及できるのでしょうか。
今回は、エスカレーターで事故に遭った被害者やその遺族が加害者に対して請求できる責任の内容について、実際の事例にも触れながら解説していきます。
目次
エスカレーターで発生した事故の事例
エスカレーターで発生する事故にはさまざまな原因があり、被害の程度も事故態様により異なります。
以下では、これまでに実際に起きたエスカレーターでの事故について、簡単に見ていきましょう。
3歳の女児が右手小指を挟まれた事例
店舗内に設置されているエスカレーターにおいて、母親が目を離した隙に3歳女児の右手小指が手すり入り込み口に挟まれるという事故が発生しました。
安全装置が作動しエスカレーターは緊急停止しましたが、女児は右手小指の第2関節から先を切断するという重傷を負ったという事例です。
男女11名が負傷した事例
駅構内に設置されているエスカレーターが突然停止した後に、数メートル逆走するという事故が発生しました。
これにより、男女11名が負傷し病院に搬送されたという事例です。
転倒に巻き込まれた事例
店舗内に設置されている上がりエスカレーターにおいて、前方に乗っていた女性が立ち眩みにより転倒、後方にいた女性も支えきれずに転倒するという事故が発生しました。
これにより、2名ともに打撲等の軽傷を負ったという事例です。
エスカレーターでの事故に関する裁判の流れ
自分に落ち度がないところでエスカレーター事故が発生して被害を受けた場合、被害者はその事故原因に応じて加害者となる者に損害賠償を請求できます。
この場合、被害者は加害者と示談交渉を行うことが必要になりますが、必ずしも交渉により解決できるとは限りません。
過失割合や損害額などをめぐって、双方の言い分に食い違いがあり、示談交渉では埒があかない場合もあるでしょう。
そのような場合には、示談交渉による解決を諦めて裁判で解決を図るほかありません。
裁判を起こせば、何らかの形で紛争は解決しますが、解決に至るまでには一定の時間がかかることが一般的です。
一般的な裁判の流れは以下のようになっています。
(1)訴状の提出
「訴状」とは、加害者に対してどのようなことを請求するのか、それがどのような原因によるものなのか、といったことを記載した書面のことをいいます。
裁判を起こすためには、訴状を作成して、裁判所に提出しなければなりません。
また、必要に応じて証拠となる資料を収集し、訴状とあわせて提出します。
裁判所に訴状を提出すると、裁判所は訴状に記載されている内容や提出された資料を審査し、問題がなければ相手方(加害者)に訴状を郵送します。
(2)口頭弁論・証拠調べ
裁判所により訴状が受理され、相手方に訴状が送達されると第1回目の口頭弁論期日が指定されます。
ここでいう「口頭弁論」とは、被害者と加害者が裁判官の面前で、それぞれの主張をぶつけあうことです。
裁判手続きを適切に進めていくためには、一定の法的知識や経験が必要となるため、弁護士などの専門家に依頼することが多いといえますが、本人で対応することも可能です。
本人で対応する場合には、口頭弁論期日に出廷し、自身の主張を行うことが必要になります。もっとも、弁護士などの専門家に依頼すれば、原則として本人は裁判所に出廷する必要はありません。
口頭弁論期日が開かれる回数は事案によって異なりますが、口頭弁論期日により双方の主張や争点が明確になります。
双方の主張や争点が明確になると、その主張が事実であるかどうかを確認するために証拠調べが行われます。
(3)和解・判決による解決
裁判は、和解もしくは判決という形で終結することが一般的です。
和解をするタイミングに制限はなく、当事者双方が和解条件に合意すれば、いつでも和解することができます。和解できれば、そこで裁判は終結します。
和解がむずかしい場合には、裁判所による判決という形で裁判は終結することになります。
ここでいう「判決」とは、裁判所が示す判断のことです。
裁判所は、それまでに行われた口頭弁論および証拠調べなどから心証を形成し、その心証に基づき、判決書を作成し、当事者双方に言い渡します。
エスカレーターの事故で損害賠償を請求する場合
先に見たように、自分に落ち度がないところでエスカレーター事故に遭い、被害を受けた場合は、加害者に対して損害賠償を請求することが可能です。
以下では、誰を相手にして、どのようなことを根拠に損害賠償を請求できるかについて見ていきたいと思います。
誰を相手に損害賠償請求すべきか
誰を相手に損害賠償を請求すべきかは、事故に至った経緯や事故態様などにより異なります。
通常は、エスカレーターを設置していた施設・建物の所有者が損害賠償責任を負うことになります。しかし、エスカレーターの欠陥が原因となったような場合には、エスカレーターを製造したメーカーに対して損害賠償責任を請求することも可能です。
このほかにも、エスカレーターの保守点検が十分に実施されていなかったために事故が発生した場合には、点検業者に対して損害賠償責任を請求できる可能性もあります。
さらに、エスカレーターに乗っている際に、他の第三者から押されたことにより怪我を負った場合には、その第三者に対して損害賠償を請求することが可能です。
請求できる可能性のある相手
- 施設・建物の所有者
- 製造メーカー
- 保守点検した点検業者
- 第三者
このように、誰を相手に損害賠償を請求すべきかは、エスカレーター事故がどのような原因により発生したかということをきちんと確認したうえで、確定する必要があります。
責任追及の法的根拠
エスカレーター事故で被害を受け、加害者に責任追及をする場合の法的根拠は「民法」です。
民法では、「工作物責任」という規定が設けられています。条文を確認しておきましょう。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
民法第七百十七条
工作物の設置や保存によって損害を受けた場合、一次的には占有者に対して法的な責任を追及することになります。ただし、占有者に過失が認められなければ、所有者に対して法的な責任を追及することになるでしょう。
この点、エスカレーターは工作物にあたるため、エスカレーターで起きた事故では工作物責任の有無が問題となるのです。
ここにいう工作物責任は無過失責任と考えられており、仮に占有者に過失が認められなくとも、最終的には工作物の所有者に法的な責任を追及することが可能といえます。
その意味では、エスカレーター事故の被害者が損害賠償を受けられる可能性は高いといえるでしょう。
エスカレーター事故の被害は弁護士にご相談ください
エスカレーター事故で重い後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりした場合、さまざまな悩みを抱えられていることでしょう。
- 事故で重い障害が残ったが、慰謝料を誰に請求していいかわからない
- 施設から示談金の提示を受けたが妥当な金額か知りたい
- 第三者との示談交渉を弁護士に任せたい
以上のような不安や悩みをお持ちの方は、弁護士への法律相談をおすすめします。
エスカレーター事故で重い後遺障害が残ったり、ご家族を亡くされたりした場合は、アトム法律事務所の無料の法律相談をご利用ください。事故後にとっていくべき適切な対応について、弁護士から法的な視点でアドバイスがもらえます。
相談のご予約は24時間365日受付中です。下記フォームよりお問い合わせください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了