陥没事故の賠償責任は誰にあるのか?請求先と責任追及の条件
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自動車やバイクで走行中に、道路にできた穴や亀裂が原因でハンドルを取られ事故を起こしてしまったら、道路が危険な状態であったことが事故の原因となったといえないでしょうか。
安全性を欠いた道路状態であったために事故が起きた場合、道路の管理者に損害賠償請求できる可能性があります。
事故の原因となった道路の問題について、被害者はどのような法的主張ができるかみていきましょう。
目次
陥没事故では誰に賠償請求をするのか
道路の設置に問題があり事故が発生した場合には、その道路を管理している者の責任を追及できる可能性があります。
国・公共団体が管理者の場合
陥没事故が起こった道路が、国・公共団体の管理する物だった場合には国家賠償法の適用となります。
国家賠償法という法律には、以下のように規定されています。
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
国家賠償法第2条1項
国家賠償法では道路の瑕疵について規定されていますが、「瑕疵」とはどのような状態を指すのでしょうか。
道路の瑕疵とは、「当該道路が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます。また、国家賠償法にもとづく国・公共団体の賠償責任について、その過失の存在が必要とはされていません(最高裁昭和45年8月20日判決)。
どのような状態が瑕疵にあたるのか否かについては、当該営造物の構造・用法・場所的環境および利用状況等諸般の事情を総合考慮して、具体的個別的に判断すべきであると判例で判示されています。
したがって、道路に穴が開いていたとしても、そのことだけで直ちに道路管理の瑕疵とはいえない可能性もあるのです。道路の構造やその用法や位置や利用状況などの各考慮要素を検討したうえで、瑕疵か否かが判断されることになります。
道路管理者についての規定
道路の管理者について規定している道路法を確認しましょう。
国道の新設または改築、維持や修繕その他の管理について、原則として国土交通大臣が行うと規定されています(道路法第12条、13条参照)。
また、都道府県道の管理についてはその路線が存在する都道府県が行い(同法第15条)、市町村道の管理はその路線が存在する市町村が行います(同法第16条)。
私人が管理者の場合
道路の陥没や亀裂によって事故が発生した際、その道路が私道である場合には私道の所有者が損害賠償責任を負う場合があります。
民法には不法行為責任の類型として工作物責任というものが規定されています。
民法には、工作物責任について以下のように規定されています。
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
民法第717条1項
私道の所有者は、第三者に損害を与えないように私有地を維持管理する責任があり、道路が陥没した場合には自己の負担で修補する必要があります。
特に、私道のなかでも一般の交通の用に供されているものについては陥没事故で生じた損害について、道路の占有者や所有者が賠償責任を負う可能性が高いでしょう。
道路陥没事故の責任追及の条件
道路管理の瑕疵によって、国や公共団体に賠償請求する場合の法的な要件について解説していきます。
国家賠償責任の要件
前述のように国家賠償法第2条第1項により、国や公共団体に損害賠償請求をするためには以下の要件を満たす必要があります。
国家賠償責任の要件
- 公の営造物であること
- 公の営造物の設置および管理に瑕疵があること
- 損害が発生していること
- 設置および管理の瑕疵と損害との間に因果関係がある
前述のとおり、道路管理の瑕疵とは道路が「通常有すべき安全性を欠いている」状態です。安全性を欠いているといえる代表的な事例としては、以下のようなものとなります。
- 舗装路面の破損や橋の高欄の破損などを放置していること
- 路面上に障害物が存在しているのにそれを放置していること
- 工事等の際に標識や防護柵、警戒灯を設置せず安全措置を取っていないこと
さらに、損害賠償が認められるためには瑕疵と損害の間に相当因果関係がなければなりません。
仮に、道路が陥没していたり穴が開いていたりしたとしても、損害と瑕疵の間に因果関係がないと判断される可能性もあるでしょう。たとえば、陥没や穴が開いている程度が通常予想される範囲であったり、通常の技能を有して自動車で通行していれば容易に通行が可能であったりした場合などがあげられます。
通常予測できない事故の場合には瑕疵が否定される
ここで道路の陥没などの事故が通常予測できない場合には、設置・管理に瑕疵があったとは認められません。
なぜなら、瑕疵は通常の用法にしたがって行動した結果生じたものに限定して認められるものです。通常の用法に即しない行動によって発生した事故については、設置管理者に責任がないと考えられています(最高裁昭和53年7月4日判決)。
判例上も、公の営造物について通常予測できない行動によって発生した安全上の問題については、瑕疵を認めないケースが複数存在します。
事故を回避できない場合にも瑕疵が否定される
道路標識やバリケードが道路上に倒れて放置されていたことで生じた事故の事案を紹介します。
この事案で、最高裁は道路の安全上の欠如があったことは認めつつも、時間的に遅滞なく道路の上に倒れて放置された障害物を排除して原状回復して道路を安全な状態に保つことは不可能であったと認定しています(最高裁昭和50年6月2日判決)。
つまり、道路管理に瑕疵はなかったと判断しているのです。
したがって、予見可能性や回避可能性がない場合にも道路管理の瑕疵が否定されます。
陥没事故で問題になりやすい法的論点も整理しておこう
道路管理の瑕疵について損害賠償請求をする際には、以下のような法的な論点も問題となります。
被害者側の落ち度も問題となる
道路管理の瑕疵により被害者に損害が生じた場合にも、被害者側に落ち度があった場合にはその過失に応じて賠償額が減少することがあるのです。
自動車での事故である場合、被害者にも一定の義務が課されています。道路交通法70条には安全運転の義務が規定されているのです。たとえば、前方を注視して自動車を運転していれば道路の陥没や危険に気づくことができ、事故の発生が回避できたと判断される可能性もあります。
損害が発生したことに対して双方の過失がある場合には、その過失割合に応じて損害額を分担することになります。これが過失相殺といわれるものです。
道路管理の瑕疵に関する損害については、被害者の注意義務違反も同時に認定される事例も多くあります。過失相殺の判断についてはケースバイケースにはなります。もっとも、警戒標識が掲げられていた、日常的に利用する道路であり状態を知り得た、速度超過だったなどの事情があれば過失相殺の考慮要素となるでしょう。
事故の場合は証拠の保全が重要
道路の陥没事故で損害が発生した場合には、事故現場について事故当時の正確な資料が必要となります。
事故が発生した後に警戒標識が設置されたり、原因となった道路の陥没や亀裂が補修されたりしてしまっては、事故当時の被害者にとって有利な証拠も失われてしまうリスクがあります。そのため、できるだけ早く証拠の保全のために動く必要があるのです。
しかし、一般的に証拠保全といってもどこにどのような証拠がありどのように保存すればよいかは法律のプロでなければわからないでしょう。
そこで、道路管理の瑕疵で事故にあった場合には、事故や損害賠償・国家賠償請求に精通している弁護士にすぐに相談してください。
陥没事故で人的被害を受けたら弁護士に相談
弁護士に相談してベストな選択肢を見極めよう
「道路が陥没していたために事故にあった」とご自身が思っても、道路の管理者に対する損害賠償請求が必ずできるとは限りません。一口に陥没事故といっても、被害者や道路の管理者の状況、事故当時の環境など、さまざまな要素を総合的に判断することで、ベストな選択肢は変わってきます。
場合によっては、ご自身が加入されている自動車の任意保険特約や日常事故に関する保険などを利用できることもあるでしょう。お困りの案件ではどのような対応をとっていくのがベストなのか、弁護士への相談をおすすめします。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了