転倒事故で損害賠償請求できる?訴訟事例から介護施設や店内転倒の慰謝料を知る
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雨に濡れている施設の床、道路のくぼみや段差など、日常生活では転倒のリスクが多くあります。特に、足腰が弱っている高齢者は、自宅や介護施設の中にいても、転倒の危険がつきまといます。
転倒事故は重い障害が残るほか、最悪の場合だと死亡するケースもあり、大きな被害につながりやすいことが特徴です。事故が原因で今までの生活を取り戻せなくなったときのために、損害賠償金を獲得することが大切です。
今回は、転倒事故における損害賠償請求訴訟の認容・棄却事例を紹介しますので、裁判所がどのような基準で判決を出したのか確認していきましょう。
転倒事故で慰謝料などの賠償金を適切に受け取るためには、誰にどのような責任があるのか見極める必要があります。最後までご一読ください。
転倒事故で損害賠償請求が認容された訴訟事例
厚労省の人口動態調査によると、2022年における転倒・転落・墜落による死者数は11,569人でした。同年の交通事故における死者数は3,541人なので、転倒に関する事故は交通事故の3倍を超える死者を出しているのです。
死亡とまではいかなくても、転倒事故は重症化するケースが多く、打ちどころが悪ければ重大な障害が残る場合もあります。賠償を求めて、被害者が施設を相手に訴訟を提起するケースも少なくありません。
ここでは、転倒事故で損害賠償請求が容認された事例を紹介します。
訴訟事例(1)スーパーでレタスに滑り転倒した
神奈川県に住む60代の男性がスーパーで買い物をしていて、野菜売り場で転倒し、腕を骨折した事案です。転倒の直接的な原因となったのが、サニーレタスの水です。
男性は濡れていた床を放置した店側の過失だと主張し、約1億円の損害賠償を請求します。一方、店側は床が濡れていたとは思えないと反論し、争いが生じました。
裁判所は男性の主張を認め、店側に対し約2,100万円という高額の賠償命令を発出しました。判決の理由はサニーレタスの販売方法と事故防止対策の欠如にあります。
この店ではサニーレタスを水に入れたまま店頭に並べており、客が購入のため取り出す際に、床が水に垂れてしまう状況でした。1回では微々たる水量でも繰り返されるうちに、滑りやすい状況は生じていたと考えられます。
また、開店から事故の発生までの間、周辺を水拭きした形跡はなく、危険な状態を放置したと判断されました。男性は事業を営んでおり、事故の影響で将来得られるはずだった収入も減少したため、高額賠償を獲得しました。
訴訟事例(2)道路のくぼみでバイクが転倒した
ロードバイクが、道路上の長さ95cm、最大深度が6.4cmのくぼみにはまり、転倒した事案です。裁判所は通常有すべき安全性を欠いていたとして、道路管理者の管理瑕疵を認定しました。
国家賠償法2条では、道路や河川の設置や管理の瑕疵が原因で他人に損害が生じた場合、国や地方公共団体が賠償の責を負うとあります。管理の瑕疵とは通常有すべき安全性を欠いた状態を差し、瑕疵があるかどうかは個別具体的に判断されます。
本ケースでは道路管理の瑕疵を認め、管理者の兵庫県に対し、賠償命令が発出されました。同時に事故の原因は前方不注意を怠った被害者側にもあるとされ、過失相殺が適用されました。バイクの運転者側に対して50%の過失が認められ、賠償額は認容額の半分となっています。
道路の設置や管理に瑕疵が認められたとしても、事故の原因が被害者にある場合、賠償金は減額されることもあります。
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訴訟事例(3)介護施設内で昼寝から目覚めた直後に転倒した
デイサービスの静養室で昼寝から目が覚めて起き上がる際に転倒した事例です。段差から転落しただけであり、よくあるベッドからの転落と比べて珍しいケースです。
施設側は複数人体制を取り、見守りには十分な配慮を心がけていたのですが、一瞬目を離した隙に事故が起きてしまいました。
裁判では施設側の過失が認められ、後遺障害慰謝料350万円および障害慰謝料120万円の支払い命令が発出されました。施設側に高度な配慮義務を求める厳しい裁判事例だといえます。
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転倒事故で損害賠償請求が棄却された訴訟事例
被害者が事故の原因を作っている場合、または施設側の対応に問題がないと認められるケースでは、損害賠償請求が棄却されます。
事例を紹介するので、裁判所がどのような判断を下しているか確認しましょう。
訴訟事例(1)レジ前に落ちていたカボチャの天ぷらで転倒した
先ほどは店内のサニーレタスが原因の転倒事故でしたが、こちらはカボチャの天ぷらが要因です。この店では売り場に並んだ天ぷらを客がトングで掴み、パックに入れて買い物するという形態が採用されていました。
被害者の男性はレジ前に落ちていたカボチャの天ぷらで足を滑らせ、骨折してしまいます。一見するとサニーレタスの事案と似ていますが、なぜ裁判所は請求を棄却したのでしょうか。
本件の天ぷらは、縦13cm・横10cmと比較的大きく避けることはむずかしくなく、他の客からクレームがなく、床に落ちたときから時間は経っていなかったと推察されます。
また、通常、レジ前にカボチャの天ぷらが落ちているという事態は推測がむずかしく、店側に対応義務があったとは考えにくいです。
以上の理由で被害者の主張は却下され、請求棄却となりました。
訴訟事例(2)病院の患者がトイレのスロープ付近で転倒した
病院の患者がトイレ出入り口のスロープ部分が濡れていたために、転倒してしまった事案です。被害者は当時、自力での歩行が困難であったにもかかわらず、夜間に独立歩行させたことに対する善管注意義務違反と、睡眠薬投与下の観察看護義務違反を主張しました。
裁判所が本請求を棄却した理由は3つあります。
まずは、水で濡れていたスロープ付近で転倒したとは認められない点です。
また、1人で動き回らないことやトイレに付き添いが必要だという指示を出してはおらず、特段、病院の取扱いに不備はないと判断されました。
3つめの理由は睡眠薬を投与されている患者に対し、通常の患者よりも重度の観察看護義務を強いる必要はないとのことです。
訴訟事例(3)雨で滑りやすくなっていたコンビニの店内で転倒した
コンビニの床が雨や泥で滑りやすい状態だったにもかかわらず、店側が防止措置や注意喚起を怠ったと主張した事案です。
床に使用されるタイルや床材には不備がなく、また出入り口にはマットを敷き水滴を除去する対策を行っていたことから、店側の対応に問題はないと判断されました。
転倒事故で慰謝料が認められるには?
転倒事故で損害賠償請求が認容された訴訟事例と棄却された訴訟事例を確認してきました。損害賠償請求が認容されるかは、「過失などの不法行為があって事故が発生したのか」「不法行為によって損害が生じているのか」といったことを法的な根拠にもとづいて主張していく必要があります。
ここからは、慰謝料などを得るために必要な法的な根拠について解説していきます。
慰謝料を得るには不法行為を立証する必要がある
転倒事故で慰謝料を獲得するには、施設側の不法行為を立証する必要があります。民法709条では「故意または過失によって他人の権利、または法律上保護される利益を侵害した者は、賠償の責任を負う」とあります。
言い換えると、賠償金を獲得するには事故における施設側の故意や過失といった不法行為を証明しなくてはいけません。
不法行為 | 意味 |
---|---|
故意 | どのような結果になるのか理解しているにもかかわらず、わざと行うこと |
過失 | どのような結果になるのか予想しておらず、不注意で生じたミスのこと |
通常、事故を故意で起こすことは考えにくいため、過失の所在が重要視されます。
ここからは、どのような場合に過失が認められるのか解説します。
訴訟の結果を分ける施設側の過失とは何かを知る
施設側との転倒事故の訴訟においては、予見可能性と結果回避可能性が争点になりやすいです。つまり、転倒事故が起きる可能性を認識し、十分な対策を取っていれば施設側の過失は認められにくいといえます。
予見可能性
先述した、損害賠償請求が棄却されたカボチャの天ぷら裁判で考えてみましょう。このケースでは、レジ近くに天ぷらが落ちるという状況を予測することがむずかしいと判断されたため、請求が棄却されました。
結果回避可能性
結果回避可能性とは、施設側の十分な注意によって転倒事故が発生しないようにできたという可能性のことです。
「雨で滑りやすくなっていたコンビニの店内で転倒した」という訴訟においては、施設側は雨や泥で床が滑りやすくなることを認識した上で滑りにくい素材を採用し、マットを置くという対策もおこなっていました。裁判所は転倒のリスクを知ってしっかりと対策を施していたと判断されたために請求棄却となっています。
転倒事故の訴訟をするなら知っておきたいこと
転倒事故で施設に対して損害賠償請求したい場合、施設側の過失を十分に検討すべきです。
施設側が転倒事故が起きる可能性を認識していたにもかかわらず、十分な対策をとっていなかったことを証明せねばなりません。
たとえば、これまでに同様の転倒事故は起こっていなかったか、他の利用者から転倒事故の危険性が指摘されていなかったか、事故現場はどういった転倒対策がされていたのかなどを一つずつ検証する必要があります。
誰に対して慰謝料を請求できるか整理する
転倒事故と一口にいっても、どこで転倒したのかによって、誰に損害賠償請求できるかが変わってきます。
やみくもに請求したところで、損害賠償が認められる訳ではありません。誰に慰謝料を請求できるのか、事故のケースごとに整理しておきましょう。
基本的には、転倒事故が起きた場所を所有したり、管理していた者に対して請求できる可能性があります。
転倒場所 | 請求相手 |
---|---|
店内 | 施設や建物の所有者、店のオーナー |
道路 | 管理者 |
病院内 | 病院や医療従事者 |
介護施設内 | 介護施設や介護スタッフ |
事故の状況に応じて損害賠償請求できる相手は異なります。誰にどのような不法行為があったために損害賠償請求できる可能性があるのかについては、弁護士に相談してみるのがおすすめです。
被害者でも過失があれば過失相殺で減額されるので注意
転倒事故では、事故が発生した原因に被害者の過失があるケースも多いです。たとえ被害者でも、転倒した原因として被害者側の過失が認められると、請求できる賠償金の金額が過失相殺によって減額されてしまいます。
先述した、道路のくぼみでバイクが転倒した事例でも、バイクの運転者に過失が認められて過失相殺によって賠償金が減額される結果となりました。
過失は事故の状況に応じて個別に判断されるものです。法律などであらかじめ決まっている訳ではありません。施設側との話し合いの場で被害者側の過失を主張されたら、その過失が本当に事故の状況を正しく反映したものなのか検討する必要があります。
転倒事故で施設側から過失相殺されそうだという場合は、弁護士に一度相談してみてはいかがでしょうか。
転倒事故で怪我をした場合の慰謝料相場は、関連記事でくわしく解説しています。不当に低い金額で示談しないよう、適正な金額を知っておくことは大切です。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了