転倒事故で損害賠償金を獲得するには?訴訟事例から判断のポイントを読み解く | 事故慰謝料解決ナビ

転倒事故で損害賠償金を獲得するには?訴訟事例から判断のポイントを読み解く

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この記事でわかること

  • 転倒事故で慰謝料を得るには施設側の不法行為を立証する必要がある
  • 被害者にも事故の原因がある場合、過失相殺で賠償金が減額されることがある
  • 請求認容か棄却の判断ポイントは「過失の所在」

雨に濡れている施設の床、道路のくぼみや段差など、日常生活では転倒のリスクが多くあります。特に、足腰が弱っている高齢者は、自宅や介護施設の中にいても、転倒の危険がつきまといます。

転倒事故は重い障害が残るほか、最悪の場合だと死亡するケースもあり、大きな被害につながりやすいことが特徴です。事故が原因で今までの生活を取り戻せなくなったときのために、損害賠償金を獲得することが大切です。

今回は、転倒事故における損害賠償請求訴訟の認容・棄却事例を紹介します。裁判所がどのような基準で判決を下しているか把握できるので、ぜひご一読ください。

転倒事故で損害賠償請求が認容された訴訟事例

厚労省の人口動態調査によると、2019年における転倒・転落・墜落による死者数は9,580人でした。同年の交通事故における死者数は4,279人なので、転倒に関する事故は交通事故の2倍を超す死者を出しているのです。

死亡とまではいかなくても、転倒事故は重症化するケースが多く、骨折や後遺障害が残る場合もあります。賠償を求めて、被害者が施設を相手に訴訟を提起するケースも少なくありません。

ここでは、転倒事故で損害賠償請求が容認された事例を紹介します。

ケース(1)スーパーでレタスに滑り転倒した事例

神奈川県に住む60代の男性がスーパーで買い物をしていて、野菜売り場で転倒し、腕を骨折した事案です。転倒の直接的な原因となったのが、サニーレタスの水です。

男性は濡れていた床を放置した店側の過失だと主張し、約1億円の損害賠償を請求します。一方、店側は床が濡れていたとは思えないと反論し、争いが生じます。

裁判所は男性の主張を認め、店側に対し約2,100万円という高額の賠償命令を発出しました。判決の理由はサニーレタスの販売方法と事故防止対策の欠如にあります。

この店ではサニーレタスを水に入れたまま店頭に並べており、客が購入のため取り出す際に、床が水に垂れてしまう状況でした。1回では微々たる水量でも繰り返されるうちに、滑りやすい状況は生じていたと考えられます。

また、開店から事故の発生までの間、周辺を水拭きした形跡はなく、危険な状態を放置したと判断されました。男性は事業を営んでおり、事故の影響で将来得られるはずだった収入も減少したため、高額賠償にを獲得しました。

ケース(2)道路のくぼみでバイクが転倒した事例

ロードバイクが、道路上の長さ95cm、最大深度が6.4cmのくぼみにはまり、転倒した事案です。裁判所は通常有すべき安全性を欠いていたとして、道路管理者の管理瑕疵を認定しました。

国家賠償法2条では、道路や河川の設置や管理の瑕疵が原因で他人に損害が生じた場合、国や地方公共団体が賠償の責を負うとあります。管理の瑕疵とは通常有すべき安全性を欠いた状態を差し、瑕疵があるかどうかは個別具体的に判断されます。

本ケースでは道路管理の瑕疵を認め、管理者の兵庫県に対し、賠償命令が発出されました。同時に事故の原因は前方不注意を怠った被害者側にもあるとされ、過失相殺が適用されました。バイクの運転者側に対して50%の過失が認められ、賠償額は認容額の半分となっています。

道路の設置や管理に瑕疵が認められたとしても、事故の原因が被害者にある場合、賠償金は減額されることもあります。

ケース(3)介護施設内で昼寝から目覚めた直後に転倒した事例

デイサービスの静養室で昼寝から目が覚めて起き上がる際に転倒した事例です。段差から転落しただけであり、よくあるベッドからの転落と比べて珍しいケースです。

施設側は複数人体制を取り、見守りには十分な配慮を心がけていたのですが、一瞬目を離した隙に事故が起きてしまいました。

裁判では施設側の過失が認められ、後遺障害慰謝料350万円および障害慰謝料120万円の支払い命令が発出されました。施設側に高度な配慮義務を求める厳しい裁判事例だといえます。

転倒事故で損害賠償請求が棄却された訴訟事例

被害者が事故の原因を作っている場合、または施設側の対応に問題がないと認められるケースでは、損害賠償請求が棄却されます。

事例を紹介するので、裁判所がどのような判断を下しているか確認しましょう。

ケース(1)レジ前に落ちていたカボチャの天ぷらで転倒した事例

先ほどは店内のサニーレタスが原因の転倒事故でしたが、こちらはカボチャの天ぷらが要因です。この店では売り場に並んだ天ぷらを客がトングで掴み、パックに入れて買い物するという形態が採用されていました。

被害者の男性はレジ前に落ちていたカボチャの天ぷらで足を滑らせ、骨折してしまいます。一見するとサニーレタスの事案と似ていますが、なぜ裁判所は請求を棄却したのでしょうか。

本件の天ぷらは、縦13cm・横10cmと比較的大きく避けることはむずかしくなく、他の客からクレームがなく、床に落ちたときから時間は経っていなかったと推察されます。また、通常、レジ前にカボチャの天ぷらが落ちているという事態は推測がむずかしく、店側に対応義務があったとは考えにくいです。

以上の理由で被害者の主張は却下され、請求棄却となりました。

ケース(2)病院の患者がトイレのスロープ付近で転倒した事例

病院の患者がトイレ出入り口のスロープ部分が濡れていたために、転倒してしまった事案です。被害者は当時、自力での歩行が困難であったにもかかわらず、夜間に独立歩行させたことに対する善管注意義務違反と、睡眠薬投与下の観察看護義務違反を主張しました。

裁判所が本請求を棄却した理由は3つあります。

まずは、水で濡れていたスロープ付近で転倒したとは認められない点です。また、1人で動き回らないことやトイレに付き添いが必要だという指示を出してはおらず、特段、病院の取扱いに不備はないと判断されました。3つめの理由は睡眠薬を投与されている患者に対し、通常の患者よりも重度の善管注意義務を強いる必要はないとのことです。

ケース(3)雨で滑りやすくなっていたコンビニの店内で転倒した事例

コンビニの床が雨や泥で滑りやすい状態だったにもかかわらず、店側が防止措置や注意喚起を怠ったと主張した事案です。

床に使用されるタイルや床材には不備がなく、また出入り口にはマットを敷き水滴を除去する対策を行っていたことから、店側の対応に問題はないと判断されました。

転倒事故で慰謝料が認められるには?

転倒事故で慰謝料を獲得するには、施設側の不法行為を立証する必要があります。民法709条では「故意または過失によって他人の権利、または法律上保護される利益を侵害した者は、賠償の責任を負う」とあります。

言い換えると、賠償金を獲得するには事故における施設側の故意や過失を証明しなくてはいけません。ここでは、どのような場合に店側の過失が認められるのか解説します。

過失の所在が施設側と被害者側のどちらにあるかが判断のポイント

事故を故意で起こすことは通常考えにくいため、過失の所在が重要視されます。事故が起きる可能性を認識し、十分な対策を取っていれば、施設側の過失は認められにくいです。

ケースバイケースの部分もありますが、たとえばカボチャの天ぷら裁判では、レジ近くに天ぷらが落ちるという状況を予測することがむずしいと判断されたため、請求が棄却されました。

また、コンビニの床で滑ったケースの場合、雨や泥で床が滑りやすくなることを認識した上で滑りにくい素材を採用し、マットを置くという対策も施しており、十分な対策を施したと判断されました。

転倒事故では原因が被害者にあるケースも少なくないので、裁判では過失の所在について吟味されます。

岡野武志

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」「ネット削除依頼」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了

英語:TOEIC925点