電気柵による事故の損害賠償に関する法的論点|事例と賠償請求方法も紹介 | アトム法律事務所弁護士法人

電気柵による事故の損害賠償に関する法的論点|事例と賠償請求方法も紹介

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電気柵による事故の損害賠償に関する法的論点|事例と賠償請求方法も紹介

農家が田畑を守るためや、ゴルフ場が侵入者を防ぐために電気柵を設置する場合があります。電気柵には電気が通っているので、接触したら痛いどころでは済みません。

電気柵に接触したことが原因の事故も発生しています。被害者は電気柵の設置者に対して、損害賠償の請求は可能なのでしょうか。結論からいうと、設置者の管理に問題がある場合、損害賠償請求が認められる可能性が高いです。

今回は電気柵の損害賠償に関わる法的論点、事故事例、損害賠償の請求方法を解説します。

電気柵の損害賠償にかかる法的論点

損害賠償請求の主張が裁判所に認められるためには、相手方の違法性を証明しなくてはなりません。電気柵事故において相手方に追及できる法的責任には、次の事項が考えられます。

  • 土地工作物責任
  • 安全確保措置
  • 安全配慮義務

それぞれの法的責任について、具体的な内容を解説します。

土地工作物責任

電気柵との接触によって発生した事故では、柵の設置者に対して民法717条の土地工作物責任を追及できる余地があります。

土地工作物責任とは、土地の工作物について設置または保存に問題があるために他人が損害を被った時、その工作物の占有者に対して課される賠償責任です。

設置または保存に問題があるとは、工作物として通常有する安全性が欠けている状態を差します。占有者とは工作物を事実上、支配する人を差し、必ずしも所有者と一致しません。

土地工作物責任の場合、基本的には工作物の占有者に賠償責任を追及することができます。しかし、占有者が事故の発生を防止するために必要な措置を講じていた時は、所有者に賠償責任を追及することになります。

所有者には免責事項が存在せず、管理上、落ち度がなくても責任から逃れられません。事故の被害者は占有者の免責が認められても、所有者から賠償金を得られるので安心です。

安全確保措置

電気柵の設置に当たっては、電気事業法に基づく電気設備の技術的事項に関する省令に定められた、感電防止のための適切な措置を講じる必要があります。

具体的には、設置者は次のような義務を守らなければなりません。

  • 電気柵の設置場所には、人の見やすさを意識した適度な間隔で危険である旨の表示をすること
  • 電気柵は、電気柵用の電源装置から電気の供給を受けること
  • 使用電圧30ボルト以上の電源を用いて電気の供給を受ける場合、人が簡単に立ち入れる場所に電気柵を設置する時は、電気を供給する電路に漏電遮断器を設置すること
  • 電気柵へと電路を供給する電路には、簡単に開閉可能な場所に専用開閉器を設置すること

危険である旨の表示とは、「危険」「触るな」など注意喚起の看板を設置することを差します。

また、感電の発生リスクを減らすために、流れる電流に制限が課された電気柵用の電源装置を用いる必要があります。電気柵用の電源装置とは、パルス発生装置とも呼ばれ、PSEマーク(電気用品安全法において、義務付けられているマーク)が付されたものです。

漏電遮断器は漏電による被害の発生を防ぐため、電路の遮断を担う機器です。人は身体に2~3mAの電流が流れるとピリピリとした感覚を受けますが、この段階では命に影響を与えるレベルではありません。

十数mAだと運動神経が麻痺して身体を動かせなくなり、数十mAに達すると心機能に異常をきたし、命に関わる事態となるでしょう。

漏電遮断器は15mA~30mAの段階で異常を感知し、0.1秒以内に高速で電路を遮断するため、事故の発生を防げます。専用開閉器とは、電気の流れをオン・オフに切り替えられるスイッチのことです。

上記の規定に違反した場合、電気事業法120条を根拠に30万円以下の罰金が課される可能性があります。

安全配慮義務違反

安全配慮義務は、契約の一方が相手に対して負うべき義務で、民法415条の債務不履行の一種です。たとえば、ゴルフ場はゴルファーとの利用契約において、安全にプレーさせる義務を当然ながら負っています。

ゴルフ場の安全への配慮が足りず、ゴルファーが電気柵に接触して負傷した場合、安全配慮義務違反に該当する可能性があります。具体的には、電気柵の設置に関する安全確保措置を怠っていた場合、損害賠償責任が生じる可能性は高いでしょう。

安全配慮義務はあくまでも契約に基づき発生するものなので、契約の当事者ではない第三者との間では問題になりません。

一方、土地工作物責任は契約の当事者に限定されず、たまたまゴルフ場に立ち入った第三者との間でも適用の余地があります。

電気柵事故の事例

電気の力は非常に強く、電気柵との接触によって大きな怪我を負ったり、死亡したりする事故が発生しています。

ここでは事故当時、多くのメディアに取り上げられた、静岡県西伊豆町で発生した電気柵事故を紹介します。

動物避け用の電気柵に接触し死亡者が出た事例

2015年7月、静岡県西伊豆町において動物避けの電気柵に近づいた7人が感電し、そのうち2人が死亡したという痛ましい事故が起きました。電気柵は設置者が自作したものであり、必要な安全対策が講じられていなかったために事故が起きたと見られています。

この電気柵は、近くの農機具小屋内の家庭用コンセントから電源を取っていました。電気柵を設置する場合は、電気柵専用の電源装置から電気の供給を受けなくてはなりません。

また、事故当時は柵が壊れ漏電を起こしており、さらに漏電遮断器も設置されていない状況でした。保存や管理上に問題があると考えられ、土地工作物責任が認められる可能性は極めて高いといえるでしょう。

静岡県警は業務上過失致死傷の容疑で捜査を進めていましたが、設置者の男性は自殺してしまったため、裁判には発展しませんでした。

損害賠償の請求方法

相手方に対して法的責任を追及できる余地があるなら、損害賠償請求が認められる可能性があります。ここでは手続きの流れや弁護士に依頼するメリットを解説します。

損害賠償請求手続きの流れ

一般的な損害賠償請求の流れは次の通りです。

  1. 損害賠償額を算定する
  2. 示談交渉を行う
  3. 調停を行う
  4. 裁判を行う

損害賠償額は裁判例をはじめ、過去の資料に基づき、根拠のある金額を提示する必要があります。一般の方が相場を踏まえた金額を算出するのは、かなり労力を要するといえるでしょう。

賠償額が算定できたら、示談交渉に移ります。はじめから調停や裁判を行うのではなく、任意交渉で落としどころを見つけられるか探るのです。

示談交渉がこじれる場合は、裁判所の力を借りる必要があるでしょう。調停は双方の話合いでの解決を探るのに対し、裁判では裁判官がどちらに非があるか決します。

電気柵事故で損害賠償を請求する際は弁護士への相談を

電気柵事故に関する損害賠償金の算定は、電気設備の技術的事項を考慮する場合もあるため、一般の方ではむずかしい作業になるかもしれません。

判例の知識や裁判の経験が豊富な弁護士に依頼することで、より高額の賠償金を提示できる可能性が高いです。

また、弁護士は賠償金の算定のみならず、示談交渉も代わりに対応しています。事故のショックで相手方との交渉がむずかしい場合は、弁護士に依頼すれば、手続きをスムーズに進められるでしょう。

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電気柵事故で重い障害が残ったり、ご家族を亡くされたりした場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了