スキー・スノーボード事故の損害賠償や慰謝料請求は弁護士に相談
スキーやスノーボードはウィンタースポーツの代名詞でもあり、年齢を問わず楽しまれています。その一方で怪我はつきもので、とつぜん事故に巻き込まれてしまうこともあるのです。
しかし、スキーヤーやスノーボーダーに事故の全責任があるとは限りません。事故の原因を検討していくと、損害賠償請求すべき事案も存在します。
スキーやスノーボードの事故について、いったいどんなときに損害賠償請求できるのでしょうか。
損害賠償請求相手は誰なのか、慰謝料の相場はいくらか、損害賠償請求すべき内容にはどんなものがあるのか、事故の事例を交えてみていきましょう。
目次
スキー・スノーボード事故の裁判事例
まず、スキーやスノーボード中の事故事例を紹介します。事例を読むと、事故は単なる偶然ではなく、何らかの原因があって起こることがわかります。
裁判事例(1)スキー場の囲いや警告表示設置の瑕疵
スノーボードをしていた被害者は、モーグルコースのコブ斜面に着地して転倒し、第1腰椎破裂骨折などの傷害を負ってしまいました。その結果、膀胱直腸障害など後遺障害併合7級に相当する障害が残ったのです。
裁判所は、モーグルコースが十分に視認できなかったことやゲレンデマップに記載がなかったことを認めました。そして、事故当時のモーグルコースの状態が滑走者の生命・身体に重大な危険が及ぶ可能性を指摘し、囲いや警告表示の設置がなかったことについて、スキー場を管理する会社の責任を認めたのです。
ただし、スポーツには一定の危険性がつきものであり、自己の判断や技術によって回避する原則があるとも言及しました。スキー場の死角を確認していたこと、曇天でゲレンデの凹凸が確認しにくいと感じていたこと、滑走進路や滑走速度の制御管理が十分でなかったことなどを理由として、被害者側に7割の過失があると判断されたのです。(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第20640号 損害賠償請求事件 平成30年3月1日)
金額 | |
---|---|
休業損害 | 約78万円 |
入通院慰謝料 | 142万円 |
後遺障害慰謝料 | 1,000万円 |
後遺障害逸失利益 | 約6019万円 |
小計 | 約7,200万円 |
過失相殺、既払い金控除、弁護士費用など最終合計 | 約2,424万円 |
裁判事例(2)スキー教室の引率者の安全配慮義務違反
スキー教室に参加した兄弟が、夜間のそり滑りでゲレンデ外に飛び出し、1名が死亡、もう1名も重傷を負う事故が起こりました。両親はスキー教室を主宰した会社に対する安全配慮義務違反を問い、損害賠償請求を起こしたのです。
裁判所は、夜間のゲレンデがアイスバーンのような状態になって滑りやすくなっていたこと、ゲレンデの最下段が崖になっており転落の恐れがあったことなどを指摘しました。そして、スキー教室の参加者は5歳から中学生までの児童であるから、監視する人員の配置、滑走範囲の明確な指示などの措置を行うべきところ、これらの注意義務を怠ったものと認めたのです。
スキー教室を主宰する会社は、兄弟にも一定の落ち度があると主張しましたが、裁判所はスキー教室側の注意義務違反を前提とし、被害兄弟には過失がないものと判断しました。(東京地方裁判所 平成11年(ワ)第5542号 損害賠償請求事件 平成12年7月4日)
金額 | |
---|---|
死亡逸失利益 | 約3,660万円 |
死亡慰謝料 | 2,000万円 |
後遺障害逸失利益 | なし |
後遺障害慰謝料 | 80万円 |
入通院慰謝料 | 90万円 |
小計 | 5,830万円 |
既払い金控除、弁護士費用など最終合計 | 約6,500万円 |
スキー・スノーボード事故|誰に損害賠償請求できるのか
スキーやスノーボード中に事故にあった場合には、事故発生の責任を負うものに対して損害賠償請求が可能です。
では、いったい誰に損害賠償請求をするべきでしょうか。請求相手を検討するうえで重要なのが、安全配慮義務違反の有無です。
安全配慮義務違反の有無を判断するときには「予見可能性」と「結果可否可能性」の2つの基準が設けられています。事故の発生をあらかじめ予見できたのか、そして、適切に対応すれば回避できたのかということです。
ここからはスキー場、指導者、スキーでぶつかってきた相手の3者に分けて損害賠償請求の可否を考えていきます。
スキー・スノーボード事故でスキー場に責任を問える?
スキー場には、利用者が安全に楽しめるように配慮した運営・管理が求められます。こうした注意義務や安全配慮義務を怠ったことで事故が起こった場合には、スキー場の運営会社に対して損害賠償請求が可能です。
ここで一例を紹介します。
スキーヤーがゲレンデに設置されたコンクリート製の照明支柱に激突して頭部を強く打ち付け、死亡した事故がありました。本来支柱にはマットが備え付けられているところ、調節不足によりコンクリートがむき出しになっていたのです。スキー場のゲレンデが土地の工作物にあたるものと判断され、スキー場を経営する会社に対して工作物責任が認められました。(旭川地方裁判所 昭和60年(ワ)第196号 損害賠償請求事件 昭和62年6月16日)
工作物責任とは民法717条で次のように定められています。
工作物責任
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
イメージしやすいように、スキー場の責任を問える例を示します。
- コース分けが不十分で、初心者が上級者向けコースに迷い込み怪我をした
- 立ち入り禁止エリアに誰もが入れる状態になっており、崖から転落した
- 夜間に利用できるゲレンデの照明が壊れていたため視界が悪く、樹木に激突した
スキー場の設備に不備があって事故が起こってしまった場合には、スキー場に対して損害賠償請求が可能です。スキー場の安全性が保たれていたのかがポイントになります。
スキー・スノーボード事故で体験教室側に責任を問える?
スキーやスノーボード体験教室で事故が起こった場合には、指導者や教室運営会社に対して責任を問うことができます。指導者は参加者の習熟度に合わせた指導や安全面に配慮して運営しなくてはなりません。
このような注意義務や安全配慮義務に違反しているとき、指導者の不法行為が原因となって事故が起こったとして、損害賠償請求が可能です。
たとえば以下のような場合、指導者の責任を問える可能性があります。
- 指導者の人数が少なく、注意を払えなかったために事故を防げなかった
- 悪天候のゲレンデで練習を強行した結果、参加者が骨折した
- 初心者を無理に上級コースへ連れていき、怪我をさせた
スキーヤーやスノーボーダーに全責任があるとは言い切れません。指導者が予測しえた事故や、適切に対応していれば避けられたはずの事故については損害賠償請求が可能です。
指導者を雇用する会社も損害賠償責任を負う
従業員が不法行為をおこなった場合には、使用者責任にもとづいて、従業員を雇用する会社にも損害賠償責任を問える可能性があります。
使用者責任とは民法715条で次のように定められています。
使用者責任
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
スキー教室やスノーボード教室、スクールを運営する会社も損害賠償請求相手となりえるのです。
仮に免責同意書にサインしていても、施設側がすべての賠償責任を免れるわけではありません。関連記事『「責任を負わない」免責同意書は無効?手術ミスやスポーツ事故での効力』では同意書の効力について解説しています。
スキー・スノーボード事故でぶつかってきた相手に責任を問える?
他の人が後ろから突っ込んできて怪我をさせられたり、他の人と衝突してしまったとき、相手に対して損害賠償請求可能です。
なお、ぶつかってきた相手が未成年の場合、本人に責任能力や損害賠償能力がないとされ、保護者に対して損害賠償請求するケースもあります。
学校行事や部活動での事故は先生や学校に責任が問える
学校行事や部活動の一環でスキーやスノーボードをしていて事故にあった場合、部活の顧問や引率を務める先生にも責任を問える可能性があります。そして先生に過失がある場合には、学校の設置者や運営者にも責任を問えるのです。
学校管理下で起こった場合の対応については、関連記事をお役立てください。先生本人に損害賠償請求できる場合と、学校を設置する地方公共団体相手の請求になるケースに分かれます。
学校事故の関連記事
スキー・スノーボード事故で慰謝料は請求可能?
スキーやスノーボードの事故で怪我をした場合、慰謝料の請求が可能です。
スキー・スノーボード事故の慰謝料相場
慰謝料とは事故の精神的苦痛を緩和するための金銭であり、一定の計算方法があります。入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つにわけてみていきましょう。
入通院慰謝料
スキーやスノーボード事故で負傷し、治療を受けた場合には入通院慰謝料の請求が可能です。
入通院慰謝料の金額は治療期間の長さを元に算定します。以下の入通院慰謝料の相場表をご覧ください。
※横軸は入院期間・縦軸は通院期間の長さ/1月は30日単位とする
相場表を元に算定すると、怪我をして2ヶ月入院・1ヶ月通院した場合、入通院慰謝料の相場は122万円となります。
ただし、何度も手術が必要だったり、緊急性が高く麻酔なしで手術を受けたなどの事情があれば、慰謝料は増額される可能性があります。
一方で、打撲や創傷など比較的軽傷のときには、相場表よりも低額になる見込みです。
弁護士に入通院慰謝料の算定を依頼して、実際にどれくらいの金額が見込めるのかを確かめてみましょう。
怪我の慰謝料計算や増額・減額の要素、ギプスや抜釘といった骨折特有の事情の扱いについて解説した以下の関連記事もお役立てください。
後遺障害慰謝料
後遺症が残った場合には、後遺障害慰謝料の請求が可能です。スキーやスノーボード事故に関する後遺障害慰謝料の相場は110万円~2,800万円になります。
後遺障害等級とは、後遺症の部位や内容に応じて1級から14級までの等級に分けたものです。下表の通り後遺障害等級ごとに一定の相場があります。
後遺障害等級 | 相場 |
---|---|
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
何級に該当するのかは厚生労働省の障害等級表を参考にしてください。
あるいは、ご自身の後遺症が何級に該当しうるのか、弁護士にアドバイスをもらうこともできます。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
死亡慰謝料
スキーやスノーボードの事故で死亡してしまった場合、死亡慰謝料の相場は2,000万円~2,800万円とされています。この慰謝料は、命を落としたご本人とご遺族の精神的苦痛を反映したものです。
死亡者の属性 | 相場 |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
その他 | 2,000万円~2,500万円 |
※その他とは独身の男女、子ども、幼児などをいう
死亡事故の慰謝料については、事案に応じて増額されることもあります。関連記事『死亡事故の慰謝料相場はいくら?賠償請求の方法や増額理由を解説』では、死亡慰謝料相場のほか、誰がどのように請求・相続するのかを解説しているので、参考にしてみてください。
スキー・スノーボード事故で請求すべき損害項目
スキーやスノーボードの事故で請求すべき損害項目は下表の通りです。
項目 | 概要 |
---|---|
治療費用 | 治療費、入院費や手術代など治療のためにかかる費用 |
交通費 | 通院にかかる交通費(公共交通機関が原則) |
付添費 | 家族などが治療に付き添った場合の費用 |
休業損害 | 治療のために働けなくなったという損害 |
逸失利益 | 後遺障害や死亡により将来の経済的利益が得られなくなったという損害 |
葬儀費用 | 葬儀に関する費用 |
慰謝料 | 事故で負った精神的苦痛を金銭に置き換えたもの |
損害項目のなかには治療費や通院交通費のように実費が認められるものと、慰謝料のように一定の算定方法をもとに金額が決まるものがあるので、損害に応じた適切な算定が必要です。
逸失利益の算定に注意
一定程度の後遺症(後遺障害)が残ったときや死亡してしまったときには、後遺障害逸失利益あるいは死亡逸失利益の請求が認められます。
被害者の事故前の収入のほか、年齢や障害の程度などを考慮して決まりますが、その算定式は複雑な一方、損傷賠償費目のなかでは高額になりやすい費目です。
くわしい計算方法は関連記事で解説していますので、あわせてお読みください。
スキー・スノーボード事故の損害賠償を請求する方法
スキーやスノーボードの事故について損害賠償請求する方法は、示談交渉、調停、裁判(民事訴訟)の3つがあります。一般的には示談交渉から始めて、調停や裁判へと移行する流れになるでしょう。
(1)示談交渉|当事者同士の話し合い
示談交渉とは、裁判外での話し合いを通して、お互いに一定の譲歩をして納得できる解決内容を決めることです。示談内容に従って争いをやめることになるので、示談内容を「示談書」として書面に残しましょう。
もっとも、お互いの意見が真っ向から食い違っている場合や、金額面での折り合いがつかないときには、示談交渉で損害賠償を確定させることは難しく、調停や裁判といった方法を検討することになります。
(2)調停|裁判所を通した話し合い
調停とは、裁判所という第三者を間に入れて話し合い、損害賠償内容を決めることです。
第三者の意見を交えることで、示談交渉が難航していた場合でも話し合いが前に進む可能性があります。
その一方で当事者間の合意を前提としているため、調停でも話がまとまらない場合もあるのです。
(3)裁判・民事訴訟|判決で賠償を確定
裁判所に損害賠償を決めてもらうために裁判・民事訴訟で解決を図ることもあります。
裁判では第三者(裁判官)による判断がすべてです。これまでの事例を元に金額を算定して支払いを命じてくれるので、相手が根拠のない金額を提示してきた場合でも、適正な金額を受けとることができます。
一方で、裁判の判決は当事者の合意には基づいていません。主張が認められないときにはわだかまりが残ることもあります。
また被害者の主張が通っても、相手が控訴した場合は確定となりません。日本は三審制を採っているので、裁判での解決は長期化するというデメリットがあります。
スポーツ事故の裁判については、関連記事で詳しく解説しています。裁判を起こす際に必要な手続きや裁判の流れも説明していますので、併せてお役立てください。
より詳しい関連記事
スキー・スノーボード事故は弁護士に相談
スキーやスノーボードで事故にあったら、弁護士への相談・依頼を検討しましょう。
弁護士に依頼するべき理由と、事故の被害者に向けた無料相談窓口を案内します。
弁護士に相談するべき理由
適正な損害賠償額の算定
損害内容の確認から算定までのすべてをご自身でやると、損害賠償請求すべき項目を見落としてしまう可能性もあります。
依頼を受けた弁護士は、まず損害項目の確認をします。そして、その損害項目を適正に算定可能することで、本来請求すべき損害賠償金を明らかにしていくのです。
最終的な損害賠償額は話し合いや裁判で決定しますが、請求段階で不当に低い金額とならないよう、弁護士に依頼をして交渉をスタートしましょう。
資料や証拠収集のサポート
スキーやスノーボード事故では、ゲレンデの状況から目撃者の証言まで広範囲にわたる情報収集が欠かせません。ときには現地調査が必要になることもあるでしょう。事故の衝撃でご本人の記憶もあいまいだったり、家族が事故現場に居合わせていないことも多く、客観的な立証は極めて重要です。
弁護士であれば、損害賠償請求に必要な資料・証拠の収集を一緒におこなえます。どんな資料を集めるべきかといったアドバイスも受けられるので、ご本人やご家族の負担も大きく軽減されるでしょう。
示談交渉から裁判対応までお任せ
ご本人やご家族はとつぜんの事故の当事者になってしまい、損害賠償の請求という難しい対応をとることになります。弁護士に依頼すればこれらの対応を一任できるのです。
また、相手との交渉窓口を弁護士に一本化できます。「そちらにも問題があった」など非情な言葉をかけられる可能性もあるので、直接かかわる機会を減らせることもポイントです。
このように、弁護士に相談・依頼するメリットは多く、被害者にとってはどれも見逃せません。関連記事『スポーツ事故の解決を弁護士に依頼するメリット』も参考にして、弁護士への依頼を検討してみませんか。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了