修学旅行中の事故における損害賠償請求|学校に責任は問える?
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修学旅行中に事故に遭ってしまった場合、誰に損害賠償請求できるのか知りたいのではないでしょうか?
修学旅行中の事故は、主に移動中、旅行先、生徒同士で発生します。加害者側に過失があれば損害賠償の請求が可能ですし、学校側に安全配慮義務違反があれば学校に対しても損害賠償請求できます。
加害者側や学校に過失がない場合でも、学校の管理下で発生した事故であれば災害共済給付制度が利用可能です。
この記事では、修学旅行中に発生した事故の事例、修学旅行中の事故における損害賠償請求、災害共済給付制度について解説します。
目次
修学旅行中に発生した事故の事例
修学旅行中に発生する事故は、主に以下の3つのようなパターンが考えられます。
- 移動中に発生した事故
- 修学旅行先で発生した事故
- 生徒同士による事故
それぞれどのような事故が発生したのか、実例も交えて紹介します。
移動中に発生した事故の事例
修学旅行中に発生した事故には、目的地までの移動中に発生したものがあります。船や列車、バスで移動している途中に発生した事故です。
1955年に発生した「紫雲丸事故」は、船同士が衝突し生徒や教員、引率の保護者など186名が死亡した国鉄戦後五大事故のひとつといわれています。霧による視界不良にもかかわらず、速度を落とさず運航したことが主な原因のようです。
2020年11月の坂出市立川津小学校の修学旅行では、坂出市沖を運航していた旅客船が岩に乗り上げ沈没するという事故が発生しています。生徒は救命胴衣を身に付け海に飛び込むなどして避難した後、すぐに救助され全員無事でした。
修学旅行先で発生した事故の事例
修学旅行先で行われる活動や宿泊先などでさまざまな事故が起こっています。ここでは、林間学校中の宿泊先で起こった事故事例と、スキー活動中の転倒事故事例をみていきましょう。
宿泊先の窓から転落した事故
小学校の林間学校の宿泊先で鬼ごっこをしていた生徒が、窓から転落してしまいました。経緯としては、出窓のカウンター部分に上がって後方にもたれかかったところ、ガラス窓が開いていた状態だったのです。
頭部を負傷したものの、懸命の処置の甲斐があり、後遺症が残ることなく完治しました。ご家族は引率教員の過失を問う損害賠償請求を起こしたのです。大阪地方裁判所の判決によると、一部の損害賠償請求は認められたものの、被害にあった生徒側にも過失があったものとされました。(大阪地方裁判所 平成23年(ワ)第251号 損害賠償請求事件 平成24年11月7日)
修学旅行中のスキー活動中の転倒事故
修学旅行先で発生した事故としては、スキー場で転倒する事故が発生しています。
事故の被害者は、インストラクターの指示で滑り始めた後に転倒、その後に滑ってきた別の生徒と衝突して怪我をしました。
この事故の争点は、被害者が転倒したことが事故の原因であること、後から滑ってきた生徒の注意義務違反、インストラクターの安全配慮義務違反です。福岡地方裁判所は、被害者には過失がなく、加害者生徒とインストラクターに過失があると判断しています。
生徒同士による事故の事例
修学旅行中に事故には、生徒同士による事故もあります。修学旅行の旅館の部屋でふざけている時に、怪我をしたり死亡したりする場合の事故です。判例を示します。
修学旅行の宿舎内でボクシング遊戯をしていて死亡した
ある高校の修学旅行で、宿舎内で生徒同士がボクシング遊戯をしていました。その後、一人の生徒が嘔吐し、救急車で運ばれたものの急性硬膜下血腫および脳挫傷により死亡する事故が起こったのです。
亡くなった生徒の家族は、ボクシング相手の生徒および学校側に損害賠償請求を起こしました。裁判所側は学校側と生徒に対して慰謝料、逸失利益などを含む損害賠償責任の一部を認めました。その一方でボクシングという競技の危険性については被害生徒も知っていたものとして、過失相殺がなされたのです。(津地方裁判所 昭和51年(ワ)第33号 損害賠償請求事件 昭和54年10月25日)
修学旅行中の事故における損害賠償請求
そもそも、損害賠償請求とは、損害を加えてきた者に対して被害者が損害に対する補償を求めることをいいます。
つまり、修学旅行中に事故に巻き込まれた場合、損害賠償を請求できるかどうかは「何らかの者による故意や過失が原因で事故が生じた場合」に限られているのです。
修学旅行中の事故で学校の責任を問えるかは、まず事故の原因として誰にどんな責任があったのか検証していくことからはじまります。
修学旅行中の事故で学校の責任は問えるか
結論としては、修学旅行中に発生した事故については、学校に責任を問えるケースと問えないケースがあります。
事故に関する損害賠償請求は誰にどんな責任があったのかという点で考えられるものなので、事故の責任を問う相手は学校だけに留まりません。
修学旅行中の事故の事故で考えられる損害賠償請求の相手は大まかに以下の通りです。
- 加害者
バスの運転手やその運営会社、宿泊先の施設、加害生徒、加害生徒の親など - 学校
教師個人、学校、国や地方公共団体
修学旅行中の事故だからといって、特定の誰かに損害賠償請求できると決まっているのではなく、事故の状況に応じて誰にどんな責任があって事故が発生したのかを見極めましょう。
修学旅行のように学校の管理下で起きた事故の場合、誰にどんな責任があったのか判断していくのは非常に複雑です。考えられる修学旅行中の事故のケースから、誰に対して損害賠償請求できるのか確認していきましょう。
移動中に発生した事故の請求相手
修学旅行の移動で利用した船や列車、バスで事故が発生した場合は、船や列車、バスの運転手や運営会社に責任があり、過失があれば損害賠償の請求が可能です。
修学旅行先で発生した事故の請求相手
修学旅行の移動先の施設で事故が発生した場合は、施設に対して損害賠償の請求ができます。宿泊先施設の老朽化が事故原因となった場合のように、施設・設備の安全性に問題があるケースでは、施設側に過失があると判断され、損害賠償請求が認められやすいでしょう。
生徒同士による事故の請求相手
事故の加害者が生徒の場合は、加害者である生徒に対して損害賠償請求できます。いじめなど加害者側の意図的な行為によって怪我をした場合や、不注意による怪我の場合は損害賠償請求が認められやすいですが、事故の予測が困難な状況の場合は、請求が認められない可能性があります。
加害者の生徒がおおむね12歳未満の場合は、加害生徒ではなく監督責任のある保護者が損害賠償請求相手です。(民法712条、民法714条)
また、生徒が12歳以上で責任能力がある場合でも、保護者の監督義務違反と生徒の行為に因果関係があると判断されれば、保護者に対しても損害賠償請求できる可能性があります。
なお、学校の管理下にある責任能力のない生徒が事故を起こした場合は、学校だけでなく、生徒の保護者にも損害賠償責任が生じます。(民法714条2項)
もっとも学校の管理下における事故においては、加害生徒の保護者は直接指導監督できる範囲に限界があるため、損害賠償責任を免れる場合があります。修学旅行における事故では、どの程度まで保護者の責任が認められるかも重要でしょう。
学校側の安全配慮義務違反に対する損害賠償請求
学校に対する損害賠償請求では、学校側に安全配慮義務違反があったかどうかが争点となります。
修学旅行中に発生した事故では、学校側の安全配慮義務があります。学校側の安全配慮義務違反により事故が防げなかった場合は、学校に対する損害賠償請求が可能です。
学校側で事故が発生しないように、引率教員が何度も注意するように呼びかけを行っていた場合や、注意していても避けられないような事故の場合は、学校側の過失が認められない可能性があります。
安全配慮義務違反の有無は、学校側への損害賠償請求が認められるかどうかを大きく左右するポイントです。安全配慮義務の有無を判断する重要な点は、「予見可能性」と「結果回避可能性」といわれています。要は、教諭が事故発生を予見できたか、教諭が適切な回避行動をとっていれば事故の発生は防げたのかということです。
安全配慮義務についてもっと詳しく知りたい方は、関連記事もあわせてお読みください。
関連記事
損害賠償請求できるもの
修学旅行中に起こった事故について、損害賠償請求の主な項目について整理しておきます。
- 治療関係費
治療費、通院交通費、入院雑費 - 逸失利益
後遺障害逸失利益、死亡逸失利益 - 慰謝料
入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料 - その他
介護費用、葬儀費用
など
損害賠償請求できるものは事案によってさまざまですが、以上のようなものが主な項目といえるでしょう。とくに、慰謝料や逸失利益は相場のイメージが付きづらい項目です。それぞれの相場を知りたい方は、関連記事にてご確認ください。
被害者にも過失がある場合は注意が必要
被害者である生徒に過失がある場合は、損害賠償の請求が認められなかったり、過失割合に応じて損害賠償額が減額される可能性があります。被害生徒が負った損害の全てについて認められるとは限りません。
学校の管理下なら災害共済給付制度が利用できる
災害共済給付制度とは、独立行政法人日本スポーツ振興センターが行う保険給付事業です。
学校の管理下で事故が発生した場合は、災害共済給付制度を利用することで給付が受けられることになります。
災害共済給付制度の給付の対象となる災害の範囲と給付額について解説します。
修学旅行中の事故も災害共済給付の対象
災害共済給付制度の給付対象となる事故は、「学校の管理下」である必要があります。
修学旅行は、学校が編成した教育課程に基づく授業を受けている場合の特別活動に当たるので、修学旅行中の事故であれば災害共済給付が受けられます。
災害共済給付はすみやかな救済を目的としているので、事故の責任の所在を問わず給付を受けることができるのが特徴です。
修学旅行中の事故でも学校の管理下に含まれないケース
修学旅行中の事故でも、学校の指揮下を著しく離れたような場合は学校の管理下に含まれないと判断されることもあるので注意が必要です。
たとえば、修学旅行の解散が行われた駅から家までの帰宅途中に、生徒がカラオケボックスなどに長時間立ち寄るなど寄り道している間に事故に巻き込まれたようなケースを考えてみましょう。
学校の管理下に含まれるためには、合理的な経路や方法によって帰宅が行われている必要があります。そのため、このような寄り道は合理的な経路や方法ではないと判断されることが考えらます。
修学旅行中の事故だったから学校の管理下だと単純に判断できるものではありません。事故の状況に応じて、学校の管理下であったかどうかの判断が要されることになるのです。
給付対象となる災害の範囲
災害共済給付制度の給付の対象となる災害の種類は、以下の4つです。
- 負傷
- 疾病
- 障害
- 死亡
学校の管理下で発生した負傷で、治療に必要な費用が5,000円以上の場合は、災害共済給付制度の給付の対象となります。
また、以下のような文部科学省令で定めた疾病のうち、学校の管理下で発生した疾病で治療に必要な費用が5,000円以上の場合も、災害共済給付制度の給付の対象です。
- 学校給食等による中毒
- ガス等による中毒
- 熱中症
- 溺水
- 異物の嚥下又は迷入による疾病
- 漆等による皮膚炎
- 外部衝撃等による疾病
- 負傷による疾病
学校の管理下で発生した負傷や上記のような疾病の治療後に障害が残った場合は、障害の程度に応じて災害共済給付制度の給付の対象となります。
学校の管理下で発生した事故による死亡、あるいは上記のような疾病による死亡の場合は、災害共済給付制度の給付の対象です。
災害共済給付制度による給付額
修学旅行中の怪我が学校の管理下で起こったものと認められた場合、負傷あるいは疾病について治療費の40%が給付されます。
また、修学旅行中の怪我によって後遺障害が残った場合には、障害の程度に応じて88万円から4,000万円の障害見舞金の給付が受けられます。
学校の管理下で行われた修学旅行中の事故で死亡した場合には、死亡見舞金3,000万円が給付されます。
給付額 | |
---|---|
治療費 | 治療費の40% |
障害見舞金 | 88万円~4,000万円 |
死亡見舞金 | 3,000万円 |
修学旅行中の事故は弁護士に相談
損害賠償請求可能な事案か弁護士に相談しよう
修学旅行中の事故は基本的に災害共済給付を受けられますが、給付だけでは十分な補償が得られないことも考えられます。たとえば、重い後遺障害が残ってしまったり、死亡してしまった場合に請求すべき「逸失利益」という損害を算定すると、災害共済給付だけでは足りない可能性があるのです。
災害共済給付制度を利用した場合でも、給付を超える損害がある場合には損害賠償請求を検討しましょう。
とはいえ、修学旅行中の事故はさまざまなケースがあります。そのため、請求できる相手が誰になるのか、請求のためにどのような証拠が必要となるのかということが非常にわかりにくいことがあるのです。
法律の知識がないととるべき対応がわからないと思いますので、法律の専門家である弁護士に一度、相談することをおすすめします。
弁護士に相談し、誰にどのような請求が可能となるのか、請求のためにどのような証拠が必要となるのかということを確認しましょう。
また、弁護士に依頼すると、請求相手との交渉を弁護士に任せることが可能です。しっかりと証拠を揃えて請求を行えても、交渉を失敗すれば希望する損害賠償金を得られないおそれがあります。
そのため、弁護士に任せることで安心して交渉を行うことが可能となるのです。
学校事故を弁護士に相談することで得られるメリットなどについては、こちらの関連記事『学校事故は弁護士に相談・依頼!メリットと無料法律相談の窓口を紹介』でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
無料法律相談を活用しよう
修学旅行中の事故で、お子さまに重い後遺障害が残ったり亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の無料相談をご活用ください。相談料が気になるという方でも、無料相談ならご利用いただきやすいと思います。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了