学校の老朽化による事故で生じる法的責任は?損害賠償請求はできる? | アトム法律事務所弁護士法人

学校の老朽化による事故で生じる法的責任は?損害賠償請求はできる?

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学校の老朽化での事故の法的責任は?損害賠償請求はできる?

学校にはさまざまな施設や設備がありますが、これらの老朽化によって思わぬ事故が発生して生徒が怪我に見舞われるケースがあります。

「窓から生徒が転落して怪我をした」
「生徒がゴールポストの下敷きになって大怪我をした」

このような学校事故のニュースを一度は見たことがあるのではないでしょうか。

学校の施設や設備の老朽化が進むと、このような事故が起きやすくなります。学校の老朽化が原因となって生徒が受傷した場合、学校側に対して責任を追及できるのでしょうか。

学校の老朽化による事故の事例と、学校側にどのような事故の責任が生じるのかをわかりやすく解説します。

学校の老朽化による事故の事例

学校にあるさまざまな設備や施設が老朽化すると、大事故につながる可能性があります。

実際に、学校の老朽化に起因して以下のような事象が発生しているのです。

小中学校における天井落下

2021年5月、大阪市内の小中学校で天井が落下するという事故が発生しました。

事故が発生したのは始業前であり、十数人の生徒が登校しているなかで、教室前方の天井ボード(サイズ:45cm×90cm、重さ:約2.6kg)が落下したのです。

怪我をした生徒はいませんでしたが、大惨事になっていてもおかしくはありませんでした。

教室では以前から雨漏りが続いており、天井内の漏水でボードが水を含んで重くなっており、天井ボードの落下に繋がったものとみられています。

また、同時期に同じ大阪市内にある高等学校において、約2kgの重さがある天井ボードが落下するという事故が発生しました。こちらも幸い怪我をした生徒はおらず、上記小学校のケースと同様の原因とみられています。

小学校における外壁の崩落

2001年10月、大阪市内にある小学校で校舎の外壁が崩落するという事故が発生しています。

鉄筋コンクリートの面に塗られたセメントモルタル部分が、高さ8m、幅6mの楕円状に突然崩落し、セメントモルタル部分の総重量は6トンを超えていました。

崩落した部分の前方が、生徒の通用門になっていたため、崩落のタイミングが悪ければ大惨事になっていた可能性があります。

この事例では、崩落した部分に、雨水が浸透浸食していたことを伺わせる跡が残っていたようです。

学校の老朽化による事故の法的責任

「学校事故」とは学校の管理下で発生した事故のことをいい、学校の設備・施設の老朽化によって発生した事故も学校事故に含まれます。

学校事故により生徒が負傷した場合、学校側はどのような責任を負うことになるのでしょうか。学校事故における責任の所在は、公立学校である場合と私立学校である場合とで異なる点もおさえておきましょう。

公立学校が負う法的責任|営造物責任

公立学校で学校事故が発生した場合、解決を図るために適用される法律は「国家賠償法」です。

公立学校の施設・設備に瑕疵(通常有すべき安全性を欠いていること)があり、それが原因となって学校事故が発生した場合も、国・地方公共団体が損害賠償責任を負うこととされているのです。この際は「営造物責任」を問うことになります。

公立学校にある設備・施設の老朽化が原因となって学校事故が発生した場合には、国・地方公共団体に営造物責任が認められるかどうかが主な焦点になると考えられます。

教職員の故意・過失によって生徒が怪我をさせられた場合には、国家賠償法に基づいて損害賠償請求が可能です。過失の有無は、教職員の安全配慮義務違反が認められるかどうかで判断されます。

もっとも、学校や教職員個人が賠償責任を負うわけではありません。公立学校を設置する国・地方公共団体(都道府県、市区町村など)が損害賠償責任を負うこととされています。

私立学校が負う法的責任|工作物責任

私立学校で学校事故が発生した場合、解決を図るために適用される法律は「民法」です。

私立学校に認められる可能性のある法的責任が「工作物責任」です。

「工作物責任」とは、土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることに起因して他人に損害が生じた場合、その工作物の占有者または所有者が負う損害賠償責任のことをいいます。

また、学校は生徒に対して安全配慮義務を負っているため、これに違反したことが原因となって学校事故が発生し、生徒が怪我を負った場合には、学校や教職員は生徒に対して直接損害賠償責任を負うことになります。

学校事故が発生した場合は、学校側に工作物責任を問えるのか、安全配慮義務違反があったかどうかが争点となるでしょう。

まとめ

  • 公立学校での事故は、国家賠償法に基づいて、国や地方公共団体に損害賠償請求する
  • 私立学校での事故は、民法に基づいて、学校や教職員個人に直接損害賠償請求する
  • 学校の施設や設備が原因となって怪我をした場合、公立学校には営造物責任の違反、私立学校には工作物責任の違反を問える可能性がある

安全配慮義務違反については関連記事『学校事故における安全配慮義務とは?』で詳しく解説しています。安全配慮義務違反に問えるかどうかを検討する際には、関連記事もお役立てください。

学校や学校設置者への損害賠償請求

学校の設備・施設の老朽化に起因した事故については、学校や、学校を設置している国や地方公共団体に損害賠償請求できる可能性があります。

損害賠償請求の主な内容は次の通りです。

(1)治療費・入通院交通費

学校の施設や設備の老朽化により怪我をして、治療や入通院が必要となった場合には治療にかかった費用を請求できます。

治療費や入通院交通費は、学校事故が発生していなければ支出する必要のなかった費用です。そのため損害として請求することが認められています。

(2)逸失利益・休業損害

逸失利益とは、将来働いて得られるはずであろう利益が得られなくなった損害をいいます。一方の休業損害は、怪我により働くことができなくなったことで得られなくなった収入です。

これらは、学校事故が発生していなければ得られるはずであった利益であるため、損害として請求が認められます。

もっとも、逸失利益は後遺障害等級認定を受けた場合に請求が認められます。原則として、怪我が後遺症もなく完治した場合は請求できません。ただし、事故当時の収入の有無は関係ありませんので、後遺障害が残った場合には基本的に請求できる損害が逸失利益です。

逸失利益請求の可否と後遺障害認定(原則)

損害項目後遺障害あり後遺障害なし
逸失利益請求できる請求できない

一方の休業損害は、事故当時に被害生徒がアルバイトなどにより収入を得ているなどの一定条件を満たしている場合に損害として請求できます。将来ではなく事故当時に収入があるかどうかがポイントです。

休業損害請求の可否と収入の有無(原則)

損害項目事故時に収入あり事故時に収入なし
休業損害請求できる場合あり請求できない

(3)慰謝料

学校の老朽化が事故の原因と認められた場合、学校などへの損害賠償請求の一部に慰謝料も含まれます。慰謝料は治療費や休業損害とは別で、被害者が負った精神的苦痛を補償する金銭です。

慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料、そして死亡慰謝料の3種類があり、被害生徒の損害によって請求できる慰謝料が異なっているのです。

入通院の必要が生じた場合には入通院慰謝料、怪我の程度が重く後遺障害が残ってしまった場合には後遺障害慰謝料、死亡という結果に至った場合には死亡慰謝料を請求できます。

慰謝料

慰謝料請求の条件
入通院慰謝料入院・通院治療をしている
後遺障害慰謝料後遺障害認定を受けた
死亡慰謝料死亡してしまった

慰謝料は原則として精神的苦痛を与えられた被害者本人に対して支払われる金銭的補償です。しかし、被害にあった生徒が介護を必要とする状態になった場合や死亡時には、生徒本人だけでなく家族への慰謝料も認められる可能性があるでしょう。

入通院慰謝料は、入院を伴う場合や治療期間が長くなるほど、金額は増大する傾向にあります。後遺障害慰謝料は、後遺障害が重いほど金額は高くなるでしょう。死亡慰謝料については、およそ2,000万円から2,500万円程度が見込まれます。慰謝料の相場については、関連記事も参考にしてみてください。

損害賠償請求で知っておきたいポイント

学校の施設や設備が安全性を欠いており、学校側に何らかの過失があって事故が起こった場合には、損害賠償請求が認められる可能性があります。

そこで、学校側に損害賠償請求をしたいと考えている方は、以下の注意点も押さえておくようにしましょう。

  • 災害共済給付との二重取りはできない
  • 損害賠償請求は話し合いからスタートする
  • 損害請求額の見積もりは弁護士に依頼するべき

これらの注意点について、一つずつ解説します。

災害共済給付との二重取りはできない

学校事故を補償する共済制度に「災害共済給付」があります。この共済制度は、学校の管理下で起こった事故について、医療費、障害見舞金、死亡見舞金といった3項目で補償をしてくれるものです。

災害共済給付の給付金と、学校側への損害賠償金の二重取りは認められていません。そのため、事故によって被った損害が災害共済給付を受けてもなお不足している金額について、損害賠償請求をして受けとれるものと考えておきましょう。

災害共済給付について詳しく知りたい方は、関連記事『学校で起きた事故で怪我をした場合に利用できる保険は?』をご覧ください。

損害賠償請求は話し合いから開始する

損害賠償請求というと、裁判でのやり取りを想像する人は多いでしょう。しかし、原則としてはまず話し合いによる示談交渉からのスタートが基本です。

学校側との話し合いでも折り合いがつかないときには、裁判所の第三者に介入してもらう調停や、民事裁判の提起へと進行していきます。

話し合いを有利に進めるためには、学校の施設や設備が老朽化していることや事故発生当時の証拠資料を集める必要があります。もし弁護士に話し合いを一任した場合には、証拠資料の収集まで任せることができ、ご家族の負担軽減につながるでしょう。

請求額の見積もりは専門家に依頼するべき

損害賠償請求をスムーズに進めるには、適正な金額請求が欠かせません。なぜなら、請求額が不当に低いものになってもいけませんし、法外な金額を請求しても相手との話し合いはまとまらないからです。

  • 現在どんな損害が生じているのかをすべて算定する
  • 将来的に生じうる損害までも十分検討する
  • 過去の判例や請求事例から相場も承知しておく

こういったことを踏まえると、法律の専門家である弁護士に依頼をして、損害賠償請求額を見積もってもらうことをおすすめします。

弁護士への無料相談窓口はここから

学校の施設や設備の老朽化によって事故が発生し、お子さまに重い障害が残ったり亡くなられたりしても、損害賠償請求できるかどうかは学校側に事故の責任があるかを見極めなくてはなりません。損害賠償請求を検討している方は、法律の専門家である弁護士の見解をたずねてみることをおすすめします。

しかし、多くの方は弁護士への相談と聞くと身構えてしまったり、弁護士費用が心配でしょう。

学校事故でお子さまに重い障害が残ったり、亡くなられてしまった場合は、アトム法律事務所の弁護士による無料の法律相談をご活用ください。法律相談のご利用には、まずご予約をお取りください。24時間・365日体制で法律相談の予約を受付中ですので、下記フォームよりお問い合わせください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了