学校事故の訴訟|学校相手に裁判する時の流れ、裁判以外の解決方法 | アトム法律事務所弁護士法人

学校事故の訴訟|学校相手に裁判する時の流れ、裁判以外の解決方法

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学校相手に裁判

お子さんが学校事故で怪我を負ったような場合、学校相手に裁判を起こしたいと思っている方もいらっしゃるでしょう。

裁判はご自身で行うこともできますが、裁判を起こす手続きやその準備などにおいては、さまざまな専門知識が必要です。
裁判を検討されている場合、弁護士に一度ご相談することをおすすめしますが、そもそも裁判とはどのようなものなのかについて、確認していただきたいと思います。

今回は、学校相手に裁判する意味や、裁判を起こす前に知っておくべき内容を解説していきます。

学校での怪我に関する法的責任と裁判の関係

一つの学校事故についても、見方を変えると法的にはさまざまな責任が発生していることがわかります。

学校事故には3つの法的責任

学校事故とは、「学校内・学校外において児童や生徒らが巻き込まれる事故のうち、学校の管理下にあるもの」と説明することができるでしょう。

このように定義される学校事故には、授業中に起こった事故のみならず、放課後に行われる部活動や授業の一環として実施される遠足や修学旅行などの学校外での活動中のものも含まれることになります。

そして、学校で事故が起きた場合、「民事責任」・「刑事責任」・「行政上の責任」の3つの法的責任が考えられます。

学校に対して裁判をする場合にはこの3つの性質は手続に関して重要な違いとなるのです。

学校事故における「民事責任」

民事上の責任とは、わかりやすく説明すると、学校事故の被害生徒に対して加害者側が損害賠償しなければならない責任のことです。

子どもらを指導・監督する立場になる教員の「故意」または「過失」によって、違法に子どもらに損害が加えられたときは、これによって生じた損害を賠償する義務が発生します。

これは不法行為責任といわれます。(民法第709条)

国公立学校の場合には、国または公共団体がこれを賠償することになっていますので、公務員である教員個人は損害賠償義務を負わない点には注意が必要です。

通常、教員に学校事故に対する「故意」があることは想定できませんので、多くの学校事故ケースでは教員に「過失」があったか否かという点が争点となります。

この点に関しては、後ほど教師の安全配慮義務違反について解説していますので、引き続きご覧ください。

民事責任に関してどのような請求が可能であるのかについては『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』の記事をご覧ください。

学校事故における「刑事責任」

刑事責任とは、学校事故の結果、生徒児童が死亡・負傷した場合に事故の原因を作ったものに対して刑事罰を科すことを指します。

たとえば、事故の結果として生徒が死亡したようなケースで教職員に刑法上の過失が認められると、当該教員は業務上過失致死罪に問われます。
具体的な業務上過失致死の刑罰は、「5年以下の懲役もしくは禁固」または「100万円以下の罰金」です。

このような法的責任が刑事責任です。

学校事故における「行政上の責任」

国公立学校の学校事故の場合には、教員である公務員が非違行為を行うと懲戒処分という行政組織内部での責任を問われます。

このような法的責任が「行政上の責任」です。

当該公務員が一定の配慮に基づき職務を行っているといえる場合に、行政上の責任が問われる可能性は小さいといえるでしょう。

民事責任を問う方法のひとつが裁判

学校事故には法的責任が3つあるとわかりましたが、このうち被害者の損害に対して補償を求めることができるのは「民事責任」にもとづくものです。補償を求めることを損害賠償請求といいます。

民事責任にもとづく損害賠償請求を行う方法のひとつとして、「民事裁判(民事訴訟)」があげられます。

被害生徒が学校を訴えたい場合には民事裁判を提起します。これは、被告が原告に対して負う金銭の支払い責任を果たすよう裁判所に訴えを起こす行為です。

国家が被告人に対して刑事処罰を求める「刑事責任」とは異なり、権利の主体となって民事裁判を行うのは被害者やその家族です。

次章では、学校を相手にした裁判のやり方や流れについてみていきましょう。

損害賠償請求は、裁判以外にも示談や調停などの方法がありますが、この点に関しては、後ほど解説していますので最後までご覧ください。

学校相手の裁判のやり方・流れを解説

学校事故を解決するためにとれる方法のひとつである「民事裁判(民事訴訟)」のやり方を一般的な流れに沿って説明します。

(1)裁判所に訴状提出

まず、民事裁判では「訴状」という書面を裁判所に提出することで訴えを提起します。訴状とあわせて事故に関する証拠書類も提出します。裁判は、証拠に依って事実の認定が行われるので、証拠書類の準備は非常に重要です。

民事裁判は、訴える相手となる被告住所を管轄する裁判所で提起するのが原則です。さらに、訴額140万円を境にして、簡易裁判所か地方裁判所のどちらを利用するかが決まります。

訴額裁判所の種類
140万円以下簡易裁判所
140万円超地方裁判所

また、民事裁判を提起するためには申立手数料を裁判所に納付する必要があり、提出する訴状に収入印紙を貼付して納付するのが基本です。その他、郵便料の納付も必要です。

(2)裁判所から被告への訴状送付

提出した訴状を受け付けた裁判所は審査を行った後、被告に訴状を送達します。

(3)口頭弁論期日の指定、呼び出し

裁判所が口頭弁論期日を決定し、原告と被告に通知します。

(4)被告による裁判所への答弁書提出

被告は、裁判所に対して「答弁書」を提出します。答弁書とは、訴状の内容を事実として認めるどうか、反論するかどうか、その他に言い分がある場合はその旨を記したものです。

裁判所は答弁書を原告へと送付します。

(5)審理

その後、裁判所の法廷で、原則として当事者双方が出席して行う口頭弁論が開かれることになるのが一連の流れです。口頭弁論では双方の主張・反論が展開され、事案によっては複数回、開かれることがあります。

必要に応じて証拠調べが行われ、和解の可能性を探ります。和解でも解決ができなければ、裁判所による判決が下されます。

判決に不服がある場合には上級審に対して不服申立を行うことになるでしょう。

安全配慮義務違反で学校側に責任が認められた判例

争点になりやすい教員の「過失」についての考え方と、過失が認められた裁判例を紹介しましょう。

教師の安全配慮義務とは?

学校の教員は生徒・児童に対して「安全配慮義務」を負っています。

この安全配慮義務とは、「生徒・児童の生命および健康などを危険から保護するように配慮すべき義務」です。

法律上、教師の安全配慮義務について直接的に規定するものはありません。
しかし、学校教育の本質から教師は安全配慮義務を負っていると考えられています。

判例でも、以下の通り判示しています。(最高裁 昭和62年2月6日判決)

「学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負っており、危険を伴う技術を指導するには、事故の発生を防止するために十分な措置を講ずるべき注意義務がある」

それでは、教師の安全配慮義務違反が問われた学校事故の裁判例をいくつか紹介しましょう。

判例(1)川原で校外活動中に生徒が溺死した事故

この事案は、校外活動の一環として川原での活動中の事故です。

当時13歳の中学2年生の生徒が水辺に近づき、岩場でバランスを崩して水流に滑り落ちた結果、溺死してしまいました。

この事案で、引率教員は水に近いところには近寄ることや水に入ることはしないように注意を与えていた事案です。

この事案で、裁判所は以下の通りの旨を示しました。(浦和地裁 昭和61年12月25日判決)

「引率教師としては生徒の動静に注意し、生徒が川原より離れて行動するというような具体的状況が生じた場合には、当然それに気づき生徒が危険に近づくことを防止し、生徒を危険から引き離し事故の発生を防止するため具体的状況に応じた適切な処置を講ずべき義務がある」

本件では川原を離れて岩場に近づく生徒が20名近くに及んでいたにもかかわらず、引率教師ら7名は一か所に固まって昼食をとっていたことから、誰一人生徒らの動向に気づかず事故発生を防止する措置をとらなかったため注意義務違反があったと認められました。

判例(2)柔道部の練習中に重症を負った事案

この事案では、柔道部の部員であった被害生徒が足を痛めて休んでいたところ、サボっていると思った部長がいきなり被害生徒の柔道着をつかみ複数回投げ飛ばしました。

投げ飛ばされた被害生徒は受け身がとれず頭部を打撲し急性硬膜下血腫の重症を負ってしまいました。

本件は、他の生徒の行動により被害生徒が重症を負ったため、学校の責任がどの程度あるのか問題になります。裁判所は本件のような学校の支配領域内で発生した事故については、学校側にこそ「第一次的な事故発生の注意義務」があると述べています。

担当教員の過失についても、以下のように述べています。

  • 日ごろから必ずしも十分に練習に立ち会っておらず、部員個々の技量に応じた安全対策も講じていない
  • 被害生徒の病状を具体的に確認することを一切せず、安全に特に配慮を払わないまま、漫然と通常の練習に復帰させ試合にも出場させている
  • 当日の練習にもほとんど立ち会わなかった

これらの過失を総合すればその程度は極めて重大なものである、と判断しています。

裁判以外の解決方法も検討しよう

ここまで、裁判を中心に解説してきましたが、紛争の解決にあたってとられる手段として裁判は最終手段となる場合が一般的です。
裁判を利用する前に、裁判以外にも解決を目指す方法があることについて確認しておきましょう。

学校との示談交渉

まずは、学校側との話し合いからはじめることが多いでしょう。事故の当事者双方が話し合って紛争の解決を目指すことを「示談交渉」といいます。

示談交渉では、事故が起こった経緯や原因などの説明を学校から受け、損害額に関する話し合いが行われるでしょう。

学校側との話し合いによる解決が難しい場合、調停や裁判に進むケースが多いです。

紛争処理センターのあっせんの利用

被害者家族と学校側の話し合いによる解決が難航する場合に、紛争処理センターのあっせん人を介在させて和解を目指す方法があります。(学校問題ADR)

知見のある弁護士や学校問題に関する専門的な研修を受けた弁護士が「あっせん人」として手続に参加するため、第三者を間に通して冷静な話し合いで解決を図ることができるでしょう。

裁判所を利用した調停

被害者家族と学校側の話し合いによる解決が難航する場合に、裁判所を利用した調停で和解を目指す方法があります。(民事調停)

調停は、裁判所が第三者として話し合いに介入するのが特徴です。裁判官と調停委員で組織された調停委員会が事故の当事者双方から事情を聴き、調停案を作成します。調停委員会が作成した調停案に、当事者双方が納得すれば調停が成立します。

学校事故で裁判等を検討するなら弁護士に相談

学校事故に関する紛争について裁判等で解決を目指したい方は、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。

学校事故を弁護士に相談するメリット

民事裁判は、訴えを起こす原告本人だけで行うこともできます。もっとも、裁判手続きは訴状の準備など煩雑ですし、専門的な知識がないと自分だけで対応するのには限界があるでしょう。

さらに、学校側が弁護士を立てた場合は法律の専門家を相手にしなければならず、専門知識の差は当然のことながら、裁判そのものの経験値の違いは結果に大きな影響を与えるでしょう。

弁護士に依頼すれば、民事裁判の準備段階からすべて一任してしまうことができて安心です。

民事裁判は、解決までに多くの時間と費用が必要になります。お悩みのケースでは、そもそも裁判よりも学校側との示談交渉で解決が図れないか等を弁護士であれば検討できるでしょう。最も最適な解決手段は何なのか、弁護士に相談してみることをおすすめします。

関連記事『学校事故に遭ったら弁護士に相談しよう』では、弁護士に相談するメリット等について詳しく解説しています。あわせてご確認ください。

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学校事故でお子さまを亡くされたり、お子さまが大きな障害を負われた場合は、アトム法律事務所の弁護士による無料法律相談をご活用ください。

学校事故で被害を受けるとすぐに裁判を思い浮かべる方も多いと思いますが、弁護士に相談すると裁判以外にも示談などで解決につながる方法があることが分かるでしょう。どのような方法をとるべきなのか、弁護士に相談してみてください。

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アトム法律事務所 岡野武志弁護士

岡野武志弁護士

監修者


アトム法律事務所

代表弁護士岡野武志

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高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。

保有資格

士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士

学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了