学校事故の訴訟事例|裁判で損害賠償請求する流れやその他の解決方法
学校で子どもが事故に遭ったような場合、学校側に損害賠償請求したいと思っている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、学校事故について学校側に法的責任追及をするには、事故が発生した原因として教師に故意(体罰など)や過失(安全配慮義務違反など)があることを立証する必要があります。
この記事では、学校側に事故の責任を認めた具体的な裁判例を3つご紹介します。
さらに、裁判で損害賠償請求をする際の具体的な流れや裁判以外の解決方法、弁護士に手続きを任せるメリットについても解説していきます。
学校側に事故の責任があることを認めた3つの裁判例
水泳の授業で教諭の指導に従ってプールに飛び込み後遺症が残った事故
概要と争点
本件は、都立高校で体育(水泳)の授業中、当時高校3年生の原告の生徒が教師の指導に従って飛び込みの練習を行った際、プールの底に頭部を打ち付けて首のけい髄を損傷する大けがを負い、後遺障害等級1級相当の後遺障害が残ったため、当該生徒とその保護者が、教師の不適切な指導が事故の原因であると主張して、東京都に国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償請求訴訟を提起した事案です(東京地判令和6年3月26日)。
この事案では、被告側も教師に事故の発生を防止するために十分な安全措置を講ずるべき安全配慮義務違反(過失)があることは認めていました。
この事案での主な争点は以下のとおりです。
- 事故により原告に生じた損害の有無及びその金額
- 損益相殺として控除されるべき金員の有無及びその金額
判決
裁判所は、前途有望な高校生が事故で重い障害を負い、将来にわたり介助が必要な状態になったとして都に3億8000万円余りの損害賠償金の支払いを命じました。
裁判所による判断
裁判所は、障害の状態が改善する見込みがないことも踏まえ、慰謝料だけでなく、将来にわたって必要となる車いすの購入費用や介護の費用なども賠償額として認めました。
また、日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度に基づき原告が給付決定を受けていた障害見舞金は、損益相殺の対象とすることは相当でないと判断しました。
裁判所が認定した賠償金額
裁判所が認定した損害賠償の内訳と賠償金額は、以下のとおりです。
損害の内訳 | 賠償金額 |
---|---|
治療費 | 15万7814円 |
入院付添費 | 432万2500円 |
入院雑費 | 136万2000円 |
付添人通院交通費 | 107万5126円 |
文書作成費等 | 24万7280円 |
装具・器具等購入費 | 3341万921円 |
家屋改造費 | 1815万2772円 |
将来治療費 | 171万1244円 |
将来介護費 | 1億4973万1176円 |
将来雑費 | 168万7709円 |
将来通院交通費等 | 386万479円 |
休業損害 | 345万7750円 |
入通院慰謝料 | 394万円 |
後遺傷害慰謝料 | 2800万円 |
近親者慰謝料 | 400万円 |
後遺障害逸失利益 | 1億41万4894円 |
損益相殺 | ▼530万6689円 |
弁護士費用 | 3500万円 |
合計 | 3億8522万4976円 |
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コラム:教師の責任
上記の事案で損害賠償責任(民事責任)を負ったのは東京都でしたが、教員個人は上記の事案で業務上過失傷害罪に問われて、罰金100万円の判決を言い渡されました(刑事責任)。
また、6か月の停職処分という懲戒処分も受けています(行政責任)。
体育の授業中に倒れたゴールポストの下敷きになり死亡した事故
概要と争点
本件は、市立小学校で、体育の授業中にサッカーのゴールキーパーをしていた小学4年生の男児がゴールの上部から垂れ下がったネットの一部にぶら下がった際、ゴールが倒れて下敷きとなり男児が死亡したため、遺族が、事故原因はゴールポストを適切に固定しなかったなどの教師の安全配慮義務違反にあるとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償請求訴訟を提起した事案です(福岡地裁久留米支部令和4年6月24日判決)。
この事案での主な争点は以下のとおりです。
- 事故に関する被告の責任の有無
- 事故による損害の発生及び額
- 過失相殺の要否
判決
裁判所は、学校の安全配慮義務違反を認め、市に約3660万円の損害賠償金の支払いを命じました。
裁判所による判断
裁判所は、国が学校の設備について点検や事故防止措置に留意するよう通知していたことを当時の校長は認識しており、事故の発生は容易に予見できたにもかかわらず、ゴールは地面に固定されておらず、毎月の実施が定められていた安全点検を行っていなかった学校の安全配慮義務違反を認定しました。
そして、被告側のぶら下がった男児の過失も考慮すべきとの主張については、教員ですらゴールポストが危険だという認識を持っておらず、(危険性の)指導を受けていない小学4年生の児童が認識していたとは到底考えられないと判断し、被告側の主張を退けました。
裁判所が認定した賠償金額
裁判所は、死亡慰謝料・逸失利益・葬儀費用・弁護士費用を認めています。裁判所が認定した損害賠償の内訳と賠償金額は、以下のとおりです。
損害の内訳 | 賠償金額 |
---|---|
死亡慰謝料 | 2600万円 |
逸失利益 | 3378万1703円 |
葬儀費用 | 150万円 |
損益相殺 | ▼2800万円 |
弁護士費用 | 332万円 |
合計 | 3660万1703円 |
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体育の授業で柔道をした際に教師の指導上の過失により負傷した事故
概要と争点
本件は、県立高校で、体育(水泳)の授業中、当時高校1年生であった原告が、体育の授業において他の生徒と柔道の試合をした際に、教師の指導上の過失によって意識を消失し、その結果腰部を負傷したと主張して、県に対し、国家賠償法1条1項に基づいて、損害賠償請求訴訟を提起した事案です(神戸地判令和2年5月29日)。
この事案での主な争点は以下のとおりです。
- 事故にかかる教師の安全配慮義務違反の有無
- 教師の安全配慮義務違反と原告の傷害との間の因果関係の有無
- 損害及びその金額
判決
裁判所は、教師の安全配慮義務違反を認め、県に約180万円の損害賠償金の支払いを命じました。
裁判所による判断
裁判所は、本件事故は、教師が原告と試合相手との技能や体格差を把握して、これに対する配慮をすることなく試合を行わせ、時間の経過により事故の危険が高まった後も漫然と試合を継続し、原告と試合相手による無理な体勢での攻防を漫然と見過ごしたことによって発生したとして、教師の安全配慮義務違反を認定しました。
そして、教師の安全配慮義務違反と原告の脊髄損傷との間の因果関係を認める一方、心因性両下肢麻痺との間の因果関係については否定しました。
裁判所が認定した賠償金額
裁判所は、入院雑費・入院慰謝料・弁護士費用を認めています。裁判所が認定した損害賠償の内訳と賠償金額は、以下のとおりです。
損害の内訳 | 賠償金額 |
---|---|
入院雑費 | 14万4000円 |
入院慰謝料 | 150万円 |
弁護士費用 | 16万4400円 |
合計 | 180万8400円 |
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学校での怪我に関する法的責任と裁判の関係
一つの学校事故についても、見方を変えると法的にはさまざまな責任が発生していることがわかります。
学校事故には3つの法的責任がある
学校事故とは、「学校内・学校外において児童や生徒らが巻き込まれる事故のうち、学校管理下にあるもの」と説明することができるでしょう。
このように定義される学校事故には、授業中に起こった事故や休憩時間中、通学中の事故のみならず、放課後に行われる部活動の練習中や授業の一環として実施される遠足や修学旅行など学校外での活動中のもの(課外活動)も含まれることになります。
そして、学校で事故が起きた場合、「民事責任」・「刑事責任」・「行政上の責任」の3つの法的責任が考えられます。
学校に対して裁判をする場合にはこの3つの性質は手続に関して重要な違いとなるのです。
学校事故における「民事責任」
民事上の責任とは、わかりやすく説明すると学校事故の被害者側(被害児童や両親)に対して加害者側が損害賠償義務を負う責任のことです。
学校事故では、加害児童(加害生徒)が存在するケースでも、学校側に民事責任が認められるケースも多いのが特徴です。
子どもらを指導・監督する立場になる教師の「故意」または「過失」(注意義務違反)により、違法に子どもらに損害が加えられたときは、これによって生じた損害を賠償する義務が発生します。
事故が私立学校で発生した場合には、民法709条に基づき教員個人に、民法715条に基づき学校設置者に損害賠償請求することができます。
国公立学校の場合、国家賠償法に基づき、国または公共団体に損害賠償請求できますが、公務員である教員個人には損害賠償請求できないことは注意が必要なポイントです。
教師に学校事故に対する「故意」があるケースは体罰などに限られるので、多くの学校事故ケースでは教師に「過失」(注意義務違反)があったか否かという点が争点となります。
学校事故で問題となることが多い「過失」である安全配慮義務は、このまま本記事で解説を続けますので、引き続きご覧ください。
民事責任に関してどのような請求が可能であるのかについては『学校事故の損害賠償|請求相手と請求内容は?示談についても解説』の記事をご覧ください。
学校事故における「刑事責任」
刑事責任とは、学校事故の結果、生徒児童が死亡・負傷した場合に事故の原因を作ったものに対して刑事罰を科すことを指します。
たとえば、事故の結果として生徒が死亡したようなケースで教職員に刑法上の過失が認められると、当該教員は業務上過失致死罪に問われます。
具体的な業務上過失致死の刑罰は、「5年以下の懲役もしくは禁固」または「100万円以下の罰金」です。
このような法的責任が刑事責任です。
学校事故における「行政上の責任」
国公立学校の学校事故の場合には、教員である公務員が非違行為を行うと懲戒処分という行政組織内部での責任を問われます。
このような法的責任が「行政上の責任」です。
当該公務員が一定の配慮に基づき職務を行っているといえる場合に、行政上の責任が問われる可能性は小さいといえるでしょう。
学校事故で問題となる安全配慮義務とは?
学校の教師は生徒・児童に対して「安全配慮義務」を負っています。
この安全配慮義務とは「生徒・児童の生命および健康などを危険から保護するように配慮すべき義務」です。
法律上、教師の安全配慮義務について直接的に規定するものはありません。
しかし、学校教育の本質から教師は安全配慮義務を負っていると考えられています。
判例でも以下のとおり判示しています(最高裁昭和62年2月6日判決)。
「学校の教師は、学校における教育活動により生ずるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負っており、危険を伴う技術を指導するには、事故の発生を防止するために十分な措置を講ずるべき注意義務がある」
学校事故における安全配慮義務違反についての理解をさらに深めたい方は、関連記事『学校事故における安全配慮義務とは?教師が負う2つの責任を解説!』もあわせてお読みください。
民事責任を問う方法のひとつが裁判
学校事故には法的責任が3つあるとわかりましたが、このうち被害者の損害に対して補償を求めることができるのは「民事責任」にもとづくものです。補償を求めることを損害賠償請求といいます。
民事責任にもとづく損害賠償請求を行う方法のひとつに、「民事裁判(民事訴訟)」があげられます。
被害生徒が学校を訴えたい場合には民事裁判を提起します。これは、被告が原告に対して負う金銭の支払い責任を果たすよう裁判所に訴えを起こす行為です。
国家が被告人に対して刑事処罰を求める「刑事責任」とは異なり、権利の主体となって民事裁判を行うのは被害者やその家族です。
次章では、学校を相手にした裁判のやり方や流れについてみていきましょう。
損害賠償請求は、裁判以外にも示談や調停などの方法がありますが、この点に関しては、後ほど解説していますので最後までご覧ください。
学校相手の裁判のやり方・流れを解説
学校事故で損害賠償請求をする方法のひとつである「民事裁判(民事訴訟)」の具体的なやり方を流れに沿って説明します。
(1)裁判所に訴状提出
まず、民事裁判では「訴状」という書面を裁判所に提出することで訴えを提起します。訴状とあわせて事故に関する証拠書類も提出します。裁判は、証拠に依って事実の認定が行われるので、証拠書類の準備は非常に重要です。
学校事故では被害者が未成年のケースが多いですが、被害者が未成年のケースにおける注意点として、法定代理人である保護者(親権者)が原告となって訴訟を提起する必要があります。
民事裁判は、訴える相手となる被告住所を管轄する裁判所で提起するのが原則です。さらに、訴額140万円を境にして、簡易裁判所か地方裁判所のどちらを利用するかが決まります。
訴額 | 裁判所の種類 |
---|---|
140万円以下 | 簡易裁判所 |
140万円超 | 地方裁判所 |
また、民事裁判を提起するためには申立手数料を裁判所に納付する必要があり、提出する訴状に収入印紙を貼付して納付するのが基本です。その他、郵便料の納付も必要です。
(2)裁判所から被告への訴状送付
提出した訴状を受け付けた裁判所は審査を行った後、被告に訴状を送達します。
(3)口頭弁論期日の指定、呼び出し
裁判所が口頭弁論期日を決定し、原告と被告に通知します。
(4)被告による裁判所への答弁書提出
被告は、裁判所に対して「答弁書」を提出します。答弁書とは、訴状の内容を事実として認めるか否かや反論するかどうか、その他に言い分がある場合はその旨を記したものです。
裁判所は答弁書を原告へと送付します。
(5)口頭弁論・和解・判決
その後、裁判所の法廷で、原則として当事者双方が出席して行う口頭弁論が開かれることになるのが一連の流れです。口頭弁論では双方の主張・反論が展開され、通常複数回、口頭弁論が実施されます。
必要に応じて証拠調べが行われ、主な証拠調べが終わると裁判所から和解案が出され、和解による解決の可能性を探るケースが多いです。
和解でも解決ができなければ、裁判所による判決が下されます。
判決に不服がある場合には上級審に対して不服申立を行うことになるでしょう。
裁判以外の解決方法も検討しよう
ここまで裁判を中心に解説してきましたが、紛争の解決にあたってとられる手段として裁判は最終手段となる場合が一般的です。
裁判を利用する前に、裁判以外にも解決を目指す方法があることについて確認しておきましょう。
学校との示談交渉
まずは、学校側との話し合いからはじめることが多いでしょう。事故の当事者双方が話し合って紛争の解決を目指すことを「示談交渉」といいます。
示談交渉では、事故が起こった経緯や原因などの説明を学校から受けた上で、損害額に関する話し合いが行われるでしょう。
学校側との話し合いによる解決が難しい場合、調停や裁判に進むケースが多いです。
紛争処理センターのあっせんの利用
被害者家族と学校側の直接の話し合いによる解決が難航する場合に、紛争処理センターのあっせん人を介在させて和解を目指す方法があります(学校問題ADR)。
知見のある弁護士や学校問題に関する専門的な研修を受けた弁護士が「あっせん人」として手続に参加するため、第三者を間に通して冷静な話し合いで解決を図ることができるでしょう。
裁判所を利用した調停
被害者家族と学校側の話し合いによる解決が難航する場合、裁判所を利用した調停で和解を目指す方法があります(民事調停)。
調停は、裁判所が第三者として話し合いに介入するのが特徴です。裁判官と調停委員で組織された調停委員会が事故の当事者双方から事情を聴き、調停案を作成します。調停委員会が作成した調停案に双方が納得すれば調停が成立します。
学校事故で裁判等を検討するなら弁護士に相談
学校事故に関する紛争について裁判等で解決を目指したい方は、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。
学校事故を弁護士に相談するメリット
民事裁判は、訴えを起こす原告本人だけで行うこともできます。もっとも、裁判手続きは訴状の作成や必要書類の準備など煩雑ですし、専門的な知識がないと自分だけで対応するのは限界があるでしょう。
さらに、学校側が弁護士を立てた場合は法律の専門家を相手にしなければならず、専門知識の差は当然のことながら、裁判そのものの経験値の違いは結果に大きな影響を与えるでしょう。
弁護士に依頼すれば、民事裁判の準備段階からすべて一任してしまうことができて安心です。
民事裁判は、解決までに多くの時間と費用が必要になります。お悩みのケースでは、そもそも裁判より学校側との示談交渉で解決すべきかどうかを弁護士であれば検討できるでしょう。最も最適な解決手段は何なのか、弁護士に相談してみることをおすすめします。
関連記事『学校事故は弁護士に相談・依頼!メリットと無料法律相談の窓口を紹介』では、弁護士に相談するメリットについて詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
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アトム法律事務所 岡野武志弁護士
高校卒業後、日米でのフリーター生活を経て、旧司法試験(旧61期)に合格し、アトム法律事務所を創業。弁護士法人を全国展開、法人グループとしてIT企業を創業・経営を行う。
現在は「刑事事件」「交通事故」「事故慰謝料」などの弁護活動を行う傍ら、社会派YouTuberとしてニュースやトピックを弁護士視点で配信している。
保有資格
士業:弁護士(第二東京弁護士会所属:登録番号37890)、税理士
学位:Master of Law(LL.M. Programs)修了